先日完成した chie はオリジナルドールとしては32体目 となります。最初の頃は試行錯誤でつくっていて、最後に アイとウイッグをつけてはじめて可愛いかどうかが分かる みたいな感じだったけど、最近になってようやく「先の見え るような」人形作りができるようになってきたと思います。 今回は chie の微修正を行いながら、可愛い人形に近 づけてゆくとはどういうことなのかをお伝えしてゆきたいと 思っています。もちろんこれはあくまでも自分の考えなの で、異なった考えをお餅の方もおられるかとは思います が、そこはご容赦下さい。 さて右が先日誕生した chie ちゃんです。制服姿で1週 間ほど過ごしましたが、遊んだり撮影したりしているうち に、こうした方が良かったな、と思う点がいくつか出てきま した。 「眉毛が細すぎたな。」「もう少しメイクにメリハリがあって も良いかな。」「全体としてボディに対してヘッドが大きく見 えてしまうな。」 といったところです。 時間をおく、というのはとても大切なことです。だいたい 完成した時って、ちょっとした興奮状態にあるから、自分 自身が良いものと信じ込んで欠点に気づかないことが多 いです。 では実際に修正を始めてみましょう。 |
世の中には様々な種類のお人形が存在しています。 でも市販されているDOLLの場合には、どれもその体型 やボディとヘッドのバランスが異なっているのにもかかわら ず、魅力的な製品に仕上がっています。 人が可愛いと感じるのはどういう場合なのか、頭の大きな ブライスも小顔で8等身のPhicenも魅力的なのはなぜなの か、そういったことを考えているうちに一つの結論が自分な りに見いだせたのでお話ししたいと思います。 |
まずDOLLはヒトガタなわけで、美しくバランスのとれた人の顔について考えてみます。
整った顔立ちというのであれば、基本的な関係は良く知られているところで、美術書なんかにも
出ています。
まず目の位置は顔の長さの半分、下の図で言うとCはABの中点。鼻の下端はCBの中点もしく
は若干CDの方が小さめ、口はDBを2:3に内分する位置、目の幅は目の間隔とほぼ同じ、図で
言うとFGとGHは等しい。こんなところでしょうか。自分の場合もこの関係は意識して制作していま
す。
ちなみに面白い話があって、過去に犯罪者の顔写真から統計を取り、最も悪人らしい人間の顔を
合成したら、ごく普通の顔、いやむしろどちらかと言えば整った顔立ちになってしまったんだそうです。
福笑いでも同じ、美形といわれる人間のパーツの位置がちょっと変わっただけでおかしな顔になる。
つまり「カワイイ」の絶対的な条件はバランスがとれていること、突出したものがないことと考えられま
す。
おそらくこれは人間の本能的なもので、整っている顔かたちが健康的に見えて、それを自分たちが
望んでいるからだと思います。
彫刻や工芸の世界ではおそらくこのあたりが基本ですが、これをDOLLにそのままあてはめることは
できません。ではどういった理論的な補足が必要なのかを考えてみました。
このあたりはボディとの関連で説明してゆきます。
自分のつくるDOLLはファッション誌に出てくるような整った体型を理想としています。リアル系と呼ん
で下さる方も多いです。そのうえで市販のOFを着せることができるようにしたいと思ったので、結果と
して8等身でSDボディをやや細身にしたようなボディラインをもっています。
下の画像は左が aimi の素体完成時の画像です。特別な造形はせずに美しいヒトの体型を時間を
かけて表現したつもりです。ただDOLLの世界では圧倒的にヘッドは大きめにつくるのが主流なので、
SDあたりから比較すると、ヘッドが一回りから二回り小さいです。
そこで画像編集ソフト(GIMP)で頭部だけ10%ほど拡大し、画像的にボディにとりつけてみたのが右側
です。
aimi 頭部を10%拡大
黄色い線は拡大したイメージを表す線で、これは首から上の空間をちょっと大きくしたよという意味です。
頭部を10%拡大すると割合としてSDの小顔ヘッドサイズになるのですが、ちょっと上が重すぎる感じで、
バランスはむしろ悪くなります。
なぜかな?
今度は頭部を基準として足下に向けて10%連続的に縮小してみました。
aimi 足下に向けて10%縮小
足が短くなって安定し、頭の重い感じはなくなりました。一方で足が短くなって子供っぽく、カワイイかわいい
感じが出てきます。このボディバランスはありだと思います。ピュアニーモあたりはこれに近いように思います。
これもヒトの本能的なものかと思いますが、成長するにつれヒトの等身は3から6~8まで変化してゆくわけで、
等身を下げることで幼さ、可愛さをヒトが感じるようになるものと思います。
この修正は足が短くなって全体に幼くなってしまうのですが、フェイスだけあどけない感じにするにはどうす
るか、それが下の画像です。
拡大縮小のフィールドをバストラインから上に向けて徐々に拡大し、頭頂部で10%拡大しています。
aimi バストラインから頭頂部に向けてゆるやかに10%拡大
(ヘッド部分を拡大)
頭頂部に向かって拡大しているので、いわゆるヒトの基本形は外れてしまいました。目の位置はヘッドの中心
になく、口も目とほとんど同じ大きさ、でもちゃんとバランスが取れています。
目が大きく口が小さいという、一般的なキャスト製ドールの基本はここにあると思います。実際、こうやってみる
と、小顔のSDに近づいたように思います。もしかしたらこういうヘッドをつくったらSDボディにもつけられるかもしれ
ません。
ここで黄色い線を、拡大縮小する空間を表現する線ということでフィールドラインと名付けることにしました。
ヘッドのラインはボディに続くラインを予想させます。ほおがぽっちゃりしている人はその延長線上にあるボディ
を想像させ、たとえ痩せていても太めに思われがちです。一方で、小顔の人は細めのボディを予想させますが、
実際は全く逆だったりすることがあります。
さて話は戻って chie の修正点の3番目、
「全体としてボディに対してヘッドが大きく見えてしまう。」
これはどうやって改善したのかを解説します。
このような違和感はフィールドラインがつながっていないことが問題だと考えました。ですから上の画像と同様に
ヘッドの上部を大きく見せることでボディとつながるようにしました。眉を太く、下睫毛の追加、アイラインの拡張など、
修正点のほとんどが目から上の部分の強調だったのはそのためです。
相対的に頬はやせて見えるようになり、フィールドラインは下に向かって収縮しボディに滑らかにつながるようにな
りました。
以前だったら、顔が大きい→とりあえず頬を削る→目が大きすぎるのでアイを小さなサイズに変更→アイが合わ
ないのでアイホールを縮小・・・、と泥沼にはまっていたかも。フィールドラインを意識することで正しい修正の方向
を見つけやすくしてくれるのでは、と思います。
それから、完成度の高いドールもしくはヒトそのもののフィールドラインを実際に操ることで、様々な新しいDOLLの
アイディアが生まれるのではないかとも思います。
たとえばあどけない表情を残しつつも、足が長く洗練された雰囲気の美しいDOLL。オリジナルフィギュアの世界で
よく見かける作品の雰囲気はこんな感じかな。
aimi 足を長くしてウエストを絞る、頭部は上に向かって解放
今現在では、バランスのとれたDOLLを作り上げてゆくルールの一つとして、美しいフィールドラインを連続
させることが極めて大切であると確信するようになりました。
前々からこのようなことは感じていたし、そのようなニュアンスのことを話される方もいたのですが、具体的
なフィールドラインという考えを導入することで、とても明確に説明できるようになったと思います。今現在、
横方向のフィールドラインやフィールドラインそのものの形状についても整理しようと考えています。
いまだ理論的には未完成の部分もあるので、できればどなたかのご意見を伺いたい気もします。お気づき
の点やアイディアなどございましたら、ぜひご連絡下さい。
オリジナルドールを試行錯誤で作り始めてもう10年、自分のやり方に間違いはないと確信したのは2回目
です。1つは吉田先生の解説本2冊を拝見したとき、もう一つは aimi .と chie の制作からこのアイディアを
得た今回です。
かわいい・・・。
(親ばか)