eye4工房番外編

腐海の尽きるところ



 今回は宮崎アニメ「風の谷のナウシカ」をテーマにしてジオラマをつくってみようと思います。主役になるフィギュアは市販されて
いるプラモを完成させたものが、いくつか押入に眠っているので、これを利用するつもりです。
(こちらは上映から30年過ぎた現在でも、4種類ほどのプラモがバンダイから発売されています。)

 

 そもそも風の谷のナウシカは劇場版長編アニメとして発表されたものではなく、もともとアニメージュという月刊誌に連載されていた
宮崎駿氏によるマンガでした。こちらもまた全7巻の単行本として現在でも販売されています。
 そしてその第6巻あたりに腐海の尽きるところのシーンが少しだけ表現されていて、そのシーンが目に留まりました。そこには何もない
といえば何もない、ただひたすら静かで平和な世界がひろがる。水と光と空気、そして緑、ごくごく自然な世界が再現されていました。



 イメージとぴったりあうのは上の作品。この組み合わせを主役にして、腐海によって再生された清浄なる地を作品化してみようと思います。



1 ベースの製作

 おおまかなイメージをスケッチして図面化しました。それがざっと30数cm四方だったので、余裕を見てベースは
40cm四方としたいと思います。

  1 図面に基づき、ヒノキ材と発泡スチロールを組み合わせて40cm×40cmの
   ベースボードをつくります。
   

 図面は何枚かコピーをとっておきます。発泡スチロールで地表の起伏を再現するのに必要だからです。


2 設計図から凸部分を切り出し、これに合わせて
 スチロールカッターで発泡スチロールを切ります。
3 これを2回ほど繰り返してベースボードに貼り付け
 起伏をつくります。

4 このままだとまだ凹凸が不自然なので、ヒートガン
 で表面を荒らします。

 不自然さがなくなって良い感じです。左側の窪みは小川と池です。大地に降り注いだ雨が地表を流れ、
柔らかな場所が少しずつ浸食されて最初の川となった、そういうイメージです。


5 ティッシュペーパーを1枚にはがし、これをボードに
 おいて、薄めたボンドを上から染み込ませます。

 これで表面の光沢が一様にマットに仕上がります。また表面をティッシュペーパーで覆うことで、水性の絵具が
乗りやすくなり、更には薄めたボンドで後述のパウダーやターフや小物類を固定しやすくなるというメリットがあります。

   6 発泡スチロールで朽ち果てて風化した腐海の樹々をつくります。
    こちらもティッシュペーパーで処理を施します。
   

 アニメをご覧になった方はご存知かと思いますが、 「腐海の樹々は世界にばらまかれた毒を自ら取り込み、浄化したうえで
朽ち果てる」 そういう生物が今後進化の過程で誕生するかどうかはともかくとして、自然界には珪化木という化石化した古代の
樹が存在します。この話を聞いて最初にイメージしたものがこれです。
 珪化木とは古代の樹々に含まれる炭素Cが長い時間をかけてケイ素Siに置き換わったものです(主成分は二酸化ケイ素)。
作品中、結晶化した腐海の樹々が風化し真っ白な砂になるという話が出てきますが、不純物を含まない二酸化ケイ素の砂(石英砂)
も白く、つじつまが合います。


7 ベージュ系のアクリルカラーを薄く塗って凹凸を
 強調します。

 これだけだとイメージがつかめないので、最小限の緑を配置することにしました。


8 型紙を使って100均で買った芝のシートを切り抜き
 (裏側なので黒い)、これを貼り付けます。

 これでぐっとイメージしやすくなった。
 でも最近の100均はすごいね、ジオラマに使えるようなものがたくさんある。制作物によって違いますが、この作品の場合
には素材の8割ぐらいは100均で購入したものになっちゃうかもしれません。


9 絵具を混ぜてダークグレーをつくり、これを縁や
 裏側に塗ります。(このガッシュも100均)

10 風化して崩れた腐海の樹々のまわりに石英の
 小石を木工ボンドで固定します。
11 さらに石英砂ともっと細かなベージュ系の砂を
 周辺に固定してゆきます。

 一般に砂やパウダー類の固定は次のように行います。
  1  砂やパウダーを固定したいところにまく。
  2 その上から霧吹きで水をスプレーし全体を湿らせる。
  3 水で薄めたボンドをスポイトで砂やパウダーに吸い込ませる。
 風化した腐海の樹々はもろくなって、少しずつ砕けて小石や砂になってゆくはずです。ここではそれを再現しました。また植物
の生えるような場所であれば、生育に必要な金属成分や不純物も存在するはずなので、特に低い場所や小川、池にはベージュ
の砂を多めにブレンドしてゆくのが自然かと思います。



 基本、土のないところでは降り注ぐ雨は大地を洗うように表面を流れます。その流水の痕跡がまだらな緑の模様となります。





2 コケ類や小さな草の表現

 やせた土地や岩石の上に最初に根付く植物は背の低いコケ類です。まずはこれを鉄道模型で使われるパウダーやターフで
表現します。これらは単色でなく、2から3色ぐらいブレンドすると良い感じに仕上がります。

19 明緑色のパウダーとグリーンのターフをブレンド
 して大地にへばりつく地衣類を表現。
20 グリーン系2色のコースターフをブレンドしてやや
 大きめのコケを表現。

 コケ類は次に再生するはずのシダ植物や種子植物の苗床となり土を生み出します・・・。こうやってある意味、原始の大地が緑に
覆われるまでを再現するみたいな作業をしてゆくことになると思います。


   21 乾燥した白い枝を適宜切断し、ベースボードに固定してゆきます。
   

 白く長い枝は手芸屋さんで購入したものです。大地に含まれる毒素が少なくなってゆくと、腐海の樹々は栄養を失い、
次第に細くなっていったはず。だからいちばん最後に朽ちた樹々はこんな感じで形をとどめているのではないかと考えました。


22 白い樹の風化した破片をベースに追加。さらに
 バランスを見て砂も補充します。
23 ノッホ社製の雑草をいくつかベースボードに貼り
 つけます。


   24 バランスを見ながら適宜パウダー類やターフを追加してゆきます。
   

 何もなかった南洋の島に植物が生え始めましたみたいな感じになってきたね。これでフィギュアをもう一度配置して
レイアウトの細部を詰めてみることにします。





 差し込んだ光がちょうど良い感じ・・・。



「風の谷のナウシカ」ってアニメの歴史を変える名作だと思いますが、その理由の一つは全く新しい生態系を構築してしまって、
それがまたきちんとお話として破綻なく成立しているところにあると思います。
 非現実であるのにもかかわらず、とてもリアル。それが故にこれをきっかけとして環境問題を考えるようになった人たちも多かった
のではないでしょうか。
 次回は更にここに植物を配置し、水の表現を加えて完成させてゆきたいと思います。





3 植物の表現

 少しずつではありますが、この1/20スケールのジオラマも完成に近づきつつあります。
 自分の場合、確かに制作スピードはそれほど早くないです。でも乾燥を待ちながらじっくりと観察することはとっても大切だと思って
います。
 腐海の植物と新世界の植物をどのように制作して配置してゆくか、いろいろとイメージしてみました。さすがに繁茂する植物のすべてを
手作りするのはかなり難しそうです。



 ということで今回もお世話になるのは100均の商品です。クリーム色の植物群は着色前の造花で雰囲気に合うものを選んでみました。
ここに手芸屋さんなどで売っている白い枝を加えます。これらを腐海の植物に見立てて配置することにします。


25 統一感を出すためにクリーム色から薄緑までの
 やや淡い色調に再塗装し、ベースに接着します。

 本当はマンガやアニメを参考にして腐海の植物を手作りしたほうが良いのかもしれませんが、資料をもとにしてちゃんとつくるとけっこう派手な
感じになってしまいそうです。作品としてはこちらがポイントではなく新たな世界の方なので、腐海の果てで勢いを失いつつある腐海の植物群に
ついては想像力を働かせてこういった淡色の表現にさせていただきました。

 次は作品の左半分に配置する新世界の植物です。腐海の植物が勢いを失い、旧世界の植物たちが復活しつつある風景を再現します。
 ここも100均の商品にお世話になりますが、こちらは一般的な緑色植物なので、よりリアルなものをいくつか自作する必要があります。

26 左は100均で買った植物、右は細い木の枝から
 トクサに似たものを自作したものです。
27 これらで小さな川の流れ込む水辺の風景を表現
 します。
28 水の表現はクリアーレジンで行います。色をつけ、
 調合しているところです。

29 最初は青緑で着色したレジンを深さのある部分に
 流し込みます。
30 次に薄い青に着色したものを全体に必要量流し
 込みます。
31 固まったところで、KATOの「さざ波」を用いて、
 表面に凹凸をつけてゆきます。

 今回透明レジンは初めて使ったのですが、硬化後の収縮がほとんどないのはありがたいね。 ただ浸透力がものすごく大きいので、
一回軽く全体に流し込んで固めてから、再度必要量を流し込む方が良いことに後で気づきました。

   32 白波の立っているところはモデリングペーストで変化をつけてみました。

   



 水辺の雰囲気は出てきたけど、まだまだ植物たちが生き生きと芽吹き始めている感じではありません。そこでもう少し
見慣れた植物たちを追加してみることにします。



 こちらは和巧のペーパークラフト、少々お高いですがをきちんと完成させればとてもリアルな植物になります。
 (今回使ったのは1:35のジャングル)

33 葉を着色した後に台紙から切り離し、軸に接着し
 ます。このあたりは説明書どおり。
34 これをベースに接着。接着剤が完全に乾いた
 ところで、葉の傾きなどを調整しますの

   35 まだちょっと寂しいのでガーベラも追加しました。(これもペーパークラフト)
   

  そして最終的にこの水辺の植物や白い岩の表面にクリアーをのせてつやを出すことにしました。ジオラマというのは空間の
その一瞬を切り出す作業なわけですが、今回は朝露のまだ乾かぬ早朝の風景を再現したいと考えたからです。




 イメージしたシーンに合わないのでフィギュアのポーズも少し変えることにしました。



 こちらがオリジナルの状態なのです。今つくろうとしているジオラマは、いったんは腐海に取り込まれた世界が新しく再生されつつある場面です。
争いの日々は終わり、これから平和な世界が実現しようというときに、緊張の面もちで銃を手にする必要もないでしょう。

36 このフィギュアをいったんばらばらの状態に戻し
 ます。
37 右手は手綱をぐっと手前に引いた状態に変更、
 銃は鞍の方に取り付けることにしました。
38 ベースに取り付けられるよう、馬(クイ)の足に
 1mmのピアノ線を取り付けました。


   39 2つのフィギュアを接続し、手綱の長さを調整すれば主人公の完成です。
   

 実は少しだけナウシカのフェイスもいじっています。やや口を開き気味にして、少しはっとした表情にしようと思いました。
(5mmほどの大きさのフェイスなので、自分ではこのあたりが限界)
 全体としては何かに驚いて馬を止めようとしている感じに仕上げたつもりです。
 これをベースにとりつければ「風の谷のナウシカ」のジオラマは完成です。





 旧世界は様々な毒によって大地が侵されていた。
 腐海の樹々はその毒を取り込み、そして自らはきれいな結晶となって、やがては大地の新たな土となる。
 腐海の最深部ではその浄化がすすみ、再び生命のあふれる世界が再現されつつあるという。



 少しずつ空が明らむ夜明け前、腐海の最深部を目指してすすみ始めた。
 そしてほどなくその腐海の尽きるところにたどり着いた。








  夜が明け、朝露に濡れる大地は輝き始めた。









 単行本では腐海によって清浄なる地が再現されつつあるという記述がありました。(第6巻)
 今回はこれを参考に、平和が訪れたであろう最終第7巻の少し先の時代をイメージして制作してみました。



 自分の部屋は4.5帖の南西向きの部屋、ちょうど午後3時ぐらいになると都合よく夕日が入るので、それを待って撮影しました。
 あ とで気づいたのですが、ナウシカの肩にいるはずのテト(キツネリス)が消えてしまいました。探さないと・・・。

 風の谷のナウシカって、その原作がアニメージュで連載され始めてからもう40年も経つんだよね。子ども向けのマンガ・アニメばかり
だったころに、こういった作品が発表され、そして現在でもその価値は失われることはない。やっぱりすごい作品です。





                   サイトのトップページにとびます