小さな訪問者



 また夏の個展に向けて新しい1/3スケールのジオラマというか、お人形の展示用背景をつくり始めました。今回のテーマは
窓のあるリビングの風景です。ごくありふれた日常の1シーンを再現したいと思います。イメージとしては春から初夏、大きな
窓から外を眺めているって感じです。


   1 まずは角材と7mm厚のスチレンボードを組み合わせて壁とフロアをつくりました。
   

 空間のひろがりを持たせるため、今回もフロアの形状は不等辺の四角形です。但し1つだけ直角になる角があります。(左上)
こうすることで軸のようなものが意識できて、安定感が出てくる。
 角材は強度の関係でフロア部分は9mm角、壁部分は12mm×30mmのものを使っています。
 画像に写っている足は chico ちゃんです。(いわゆる小さなラブドール) 壁を押さえるお手伝いしてもらってます。



   2 壁の厚みを表現するため、裏側にスチレンボードを取り付けます。更に窓枠を別途つくります。
   

 あえて壁と窓枠を分割しているのは全体の厚みを小さくして、コンパクトに収納できるようにするためです。移動のことを
考えるとここは大切。

 次にこの窓枠に可動式の窓を取り付けます。

3 窓はバルサ材の間に塩ビ板を挟み込むようにして
 つくります。
4 窓と窓枠に穴を開け、ここにつまようじを通して軸
 をつくります。(窓は可動式)
 



   5 床は少し強度不足だったので、周囲と裏側に角材を
    貼って補強しました。
   

   6 窓の向こう側に置く白樺の樹をつくります。手芸店で買った木の枝を
    適当な大きさに切り、スタイロフォームのベースに固定します。
   

 この白い樹は大きな手芸店などで入手できると思います。
 とりあえず主要なパーツが出来上がったので感じを見るために並べてみます。








 息は情景としてはとてもシンプルなものなので、全体としてフロア、壁、窓、樹という並びをつくって、
遠近感を出そうという作戦です。




 ちなみにすべてのパーツはこの壁の裏側に収納できるよう計算しています。会場まで運び込むということを考えると、
これはとっても大切なことです。

 とりあえずとても良い感じ。真っ白のままでも良いかもしれませんが、ここから更に雰囲気を高めるような表面仕上げや
塗装を行ってゆきます。
 作業はフロア部分からです。


7 各パーツの縁や裏側などで、視界に入ってしまう
 部分をグレーで塗ります。
8 100均で売っている装飾シートを一片10cmの正方形
 に切り取って上面に貼り付けます。
9 シートには折り目が残っているので、上から極低温
 のアイロンをあてて密着させます。

 アイロンがけについては説明書には書いてないです。温度を上げすぎるととんでもないことになるので要注意です。ここは
完全に事故責任の部分です。
 床の仕上げはたったこれだけ。汚しやエージングをしないと、とっても楽ちん。
 次は壁の部分です。


   10 まずはモデリングペーストをヘラで塗り付けます。凹凸をあえて残すと手仕事の感じが出てリアルです。
   



   11 ざらっとした質感を出すためにまずは砂入りの塗料で下塗りします。
    

 下地をつくる塗料はモデリングペースト1に対して小動物用の砂2の割合で混合し、そこにオレンジ系の塗料を少量混ぜます。
凹部にこの下塗り塗料がたまってムラになりますが、その方がかえってリアルに仕上がります。
 下地づくりに使う素材とか塗料って、市販されている模型用のものをそのまま使えることは少ないです。だからその場その場で
工夫・調合する必要がある。ここが1/35とか1/48あたりのジオラマとは違うところです。


   12 リキテックスのライトポートレイトピンクに黄色を少々混ぜ込んで少し暖かい感じのピンク色に仕上げます。
     


    13 乾いたら艶消し剤を添加したホワイトでドライブラシをかけてコントラストを上げます。
      (ドライブラシ:濃いめの塗料を少量筆につけて凸部に塗る作業)
   

 この壁、何もしないでピンクに塗り上げると軽い平坦な感じの壁になっちゃいます。モデリングペースト、下地塗料の効果で
リアルさと質量感を出しているのですが、お分かりいただけますかね。
 全体としてシンプルなジオラマなので、こういう工夫をしないと、仕上がりは多分ものすごく平坦な感じになっちゃうと思います。

 ここから窓の細部をつくります。

14 窓の開閉をするハンドル部分と鍵穴をプラ棒や
 ポリパテから造形します。
15 着色して窓に組み込む。ロックはしないけど、ハン
 ドル部分は可動式になってます。

 全体がシンプルであればこそ、ハンドルや鍵穴などは目につきやすいところになるので、工作はきちんと行います。



   16 窓のいちばん奥に立てる予定の背景をつくります。といっても
    2mmのスチレンボードをグレーで塗るだけですが。
   





 ということで、塗装作業はこれで完了です。
 今回はもうこれ以上汚しやエージングといった作業を加えません。シ ンプルだと作品が平坦に見えてしまうことが多いのですが、
壁部分の下地をきっちりとつくって、質感をそれなりに出していることが効果として大きいなって思います。

 窓の外は白樺だけじゃなく、もっと向こう側までつくれよって言われちゃいそうですが、たとえばそこに高原の風景を撮影した
写真など置いてみると、かえって嘘っぽくなるし、全体ががちゃがちゃした感じになってします。青空にするって考えもあったけど、
晴天の空は室内よりずっと明るい空間なので、ライトボックスなどを置いて表現しないとリアルな空にならない。
 そして結局、ここはグレーに着色したスチレンボードを置くことで落ち着いた。
 グレーってのは「ここから先は再現してませんので、想像して下さいね。」って意味です。基本ジオラマっていうのはイメージした
空間を切り取る作業なのだけど、その断面部分は黒やグレーにすることが多い、いわばそれと同様のお約束です。今回はここが
いちばん判断の難しかったところかもしれない。

 次は白樺に葉っぱをつけましょう。

17 白樺の樹皮をブラウン系の塗料で表現します。
 少しずつ重ね塗りするのが失敗しないコツです。
18 100均で買った造花を白樺の葉っぱの形に切り
 出し、0.5mm径の洋銀線に取り付けます。
19 洋銀線はプライマーを塗ってから黄緑に着色、
 できた葉っぱは2~3枚ずつまとめて固定します。

   20 幹に穴を開けてボンドを塗り込み、葉っぱを固定してゆきます。
   

 今回は葉の色は明るく、その数は少なめにして、春から初夏の高原の雰囲気を出したつもりです。
こういうところで季節感を出すのは大切。

 シンプルってことはアイキャッチャーがその意味を持ちやすいってことなので、蝶をつくってみることにしました。
やっぱり白樺に合わせるんならオオムラサキかな。

21 コニカミノルタのHPにペーパークラフトのオオムラ
 サキがあったので、それを1/3に縮小印刷します。
22 プリントアウトした触角と足は細くなりすぎて使え
 なので、ここは洋銀を組み合わせで再現します。
23 胴体はパテで成形して着色、最後に紙に強度を
 出すためにつや消しクリアーを吹き付けて完成です。

 正直言うと洋銀線でつくったボディは少々スケールオーバー、特に触覚は太すぎました。
 とりあえずオオムラサキまで含めて、つくれるものはすべてつくり終えた。この間、休み休みの作業でおおむね3週間、
ジオラマとしては短期間で出来上がった。



 早速、手持ちのオリジナルドールのなかから、akane を選んでここに置いてみました。
 イメージしていたシーンをあらためてここに再現してみます。お人形のポーズとしてはまずは3種類。













 窓を開けて自分の部屋でくつろいでいたら、一匹の蝶が舞い込んできた。
 そんなどこでもあるようなシーンをジオラマで再現してみました。








akane 仕様:身長56cm(1/3スケール)テンションゴムを用いたオリジナル球体関節人形(2018年制作)
素材:ラドール、ラドールプレミックス、プルミエなど粘土を混合、モデリングペーストによる表面仕上げ グラスアイ、ウイッグは既製品
 リキテックスとMr.カラーによる着色 ウレタンとアクリルのコーティング
ちなみにお洋服は jetrunnner;D のみけ様に以前制作していただいたものです。







 これでまた8月の個展に向けて準備が一歩進んだって感じです。(もちろん予定通りやれるかどうかは見通しはきかないのだけど)
 これで一区切りついたので、また次のテーマを探します。物事は前向きに考えます。



2020.04
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 &Panasonic GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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