eye4工房番外編
誰もいなくなった
<きっかけ>
話は前作のジオラマ「森の神社」に始まります。
個展のためにつくった92cm×61cmとかなり大きなジオラマなのですが、完成度が今一だったのと、実際に個展会場に持ち込んでみたら、会場自体が広いことも
あってか、それほど目を引くような作品になっていないことに気づいた。
そこでリメイク開始、森の神社と言いながら、森林を再現するなんてことはできないので、いっそのこと公園の風景にしてはどうかと考えた。
100均で見つけたスタンドライトをベースにして、まずはソーラー式の街灯をつくった。1cm径のアルミパイプ、プラ棒、5mm厚のスチレンボードなどを組み合わせ、
エポキシパテと粘着剤のついたアルミシートで固定して作りあげた。よくできているのですが、それだけだと見栄えがしないので時計塔に仕立てようと考えた。
制作途中で撮影し、完成画像をCGでシミュレーションをしてみた。ベースのお花畑と照明、時計、これまたジャンクパーツの柵、これらを別々に撮影し、
GIMPで合成、これが上の画像です。
ちょっと微妙。修正を加えようと試みたけど、やっぱり何かしっくりとこないので計画は中断。結局、別なコンセプトで「森の神社」は完成することになりました。
<流用>
このまま時計塔をジャンクパーツ置き場に直行させるのももったいないので、何か作品に仕立てられないか考えた。やっぱり時計塔っていうとヨーロッパの
公園あるいは広場に置かれているイメージがある。
そこでさらさらっとスケッチしてみたのがこちらです。これならドールの置き方によっては何かドラマが生まれそうな感じです。
早速、100均に行ってお買い物。まずは100均に行くというのはジオラマづくりの基本です。
1 手持ちの角材と100均で買ったスチレンボードを組み合わせてベースを組み上げます。
黄色いスチレンボードを使っていますが、これは100均に置いてあったのがカラフルなものだけだったからで、やっぱり白やグレーのものがいちばんイメージが
つかみやすくて使いやすいです。それでも850mm×450mmで110円というのはありがたいです。
次にこの歩道に敷き詰められることになる石畳をつくります。
2 2mm厚のスチレンボードにモデリングペーストと
粘土で凹凸をつけてゆきます。
3 その上に水で薄めたジェッソにペット用の砂を混ぜ
たものを塗ってゆきます、
4 全体にグレーを塗り、そのあと彩度を落とした赤や
緑などをまばらにおいてゆきます。
今回のジオラマのポイントになりそうなのは歩道の石畳、これがリアルに作れるかどうかがまずは最大の課題です。
自分が常に考えているのは
形状、質感、色合い
の3つを基本として、最後に
汚しと時間経過
といったところかな。上の作業はその最初の3段階をまずは仕上げている
ということになります。
あとは問題なのは、同時に大きなジオラマをつくり始めたので、自室の4.5畳にもはやスペースがない。chico ちゃんを立たせておくわけにもゆかないし、
どうしましょ?
5 完成した石の表面部分をおおむね2cmm角にカット
してゆきます。
6 あとはネット上の画像を参考にして、その石片を
接着責してゆきます。
石畳をつくるうえで参考にしたのは、イタリアの古い歩道に敷き詰められた石畳です。
石畳って一言で言っているけど、いろんなパターンがあるみたいです。アーチ形の組み合わせが一番きれいなんだけど、これがなかなか難しい。いろいろ
シミュレーションしてから、実際の貼り付けを行いました。
こちらのデザインは自己流です。
こうなるまでに様々な石畳を見てみたのだけど、イタリヤの石職人の腕は大したものだと思いました。大きさや色の違う石から最適なものを、たくさんのなかから
一つ一つ選んでゆくのって、延々と続くパズルみたいなものです。
7 時計塔にも1cm×2cmの大きさの石片を張り付ける。こちらはブロック積みのイメージです。
今回はおそらくこのあたりが、最も単調でつまらない作業、でもやらないことには次にすすめない。
この張り付け作業だけで1週間ぐらいかかりました。(1日2時間ぐらいかけて)
8 粘土や砂でブロックや石畳の隙間に詰める充填剤
をつくります。
9 充填剤をボンドの容器に入れ、これを隙間に流し
こんでゆく。
石畳はコンクリートのようなものでその隙間を埋め、固定しているようなので、今度はそれを再現します。
充填剤の材料はドール制作につかう粘土、ここに小動物用の細かな砂を1/5ぐらい混ぜてざらつきを出し、黒のアクリル絵の具を混ぜてコンクリートらしい
グレーに調色する。あとは隙間に注入しやすい程度に水で柔らかくしてゆく。
充填の方法は、いろいろ試したけれど、空になった木工ボンドの容器にこれを入れ、石の間に流し込んでゆく方法がいちばん効率が良かった。
10 充填剤が乾いたところで、再びレンガの着色を行います。
この充填剤の流し込みがなかなか難しく、きれいに仕上がらない。だから結局のところ作業後に再び色塗りしました。(右上)
ということで、実際にこんな歩道があるかどうかは知らないけれど、それなりに形ができてきた。
ただ細かなところをみるとまだまだなので、ここから更に一工夫するつもりです。
11 全体に汚しと塗装とドライブラシ掛けを行います。
かなりできあがったと言っても、質感のようなものはまだまだなので手を加えます。 リキテックスのダークグレーを水で薄く溶き、これを筆でブロックにいたものを
まばらに塗り付け、雨だれやシミのようなものを表現します。(上の画像)
このあとMr.カラーのタンに艶消し剤を多めに加えて、エアブラシで斜め上方から吹き付けて、風化している感じを表現します。この段階は前に触れた
汚しと時間経過
の表現に当たる部分です。
12 石畳の隙間に砂が入り込んでいるような表現を加えます。
隙間に居れたのは小動物用の砂と鉄道模型で使われる枯草色のターフを混ぜたもの、固定には水で薄めた木工ボンドをダークグレーで着色したものを使いました。
これで砂や細かなゴミのようなものが隙間に入り込んだような感じになって、ぐっとリアルになる。とてもつまらない作業、これだけでまた3日ぐらいかかった。
あとベンチを2つほどつくります。Aliexpressを利用して1つ262円で購入、2週間ほどで届きました。物にもよりますが、こういった木工製品はAliexpressを利用して
個人輸入するのが一番安い。
シンプルなデザインでピンク一色、でもさすがにこのままじゃ使えない。
13 説明書は入ってなかったので、そこは構造から
察して組み立てます。
14 赤茶色に調整したリキテックスを薄く塗り、余分な
塗料を落とす。
15 汚し塗装を行った後、つや消しクリアーを吹き付け
てつやを落ち着かせる。
赤茶色のリキテックスを落とすためには、乾いたところで水性アクリルの溶剤を染み込ませたティッシュペーパーで塗料を拭きとればOKです。
これだけでちょっと年季の入ったベンチが出来上がります。
16 とりあえず出来上がった3つを組み合わせてみました。
実際にこういうところがあるかどうかは知らないけれど、組み合わせに不自然さはない。問題はここにどういうドラマを付け加えるか・・・だな。
(けっこう行き当たりばったり)
この状態で4日ほど放置、時々眺めて空想するみたいな時間が過ぎてゆく。
そしてベンチに新聞、歩道に薔薇一輪を置いてみたときに閃いた、この作品はあえてドールなしで完成させる方が良いかもしれない。
17 そこであちこちから、こまごまとしたアイテムを引っ張り出してきた。
左側はいつどこで購入したか忘れましたが、ちょっと出来の良い1/6スケールの自転車です。ペダルをこぐとちゃんと後輪が回ります。部分的に
リペイントして軽く汚し塗装をしました。
右側はストックしてあった1/6スケールのアイテムです。葉っぱ風がふいた後の雰囲気を出すには必須です。
このビラや新聞が陰の主役というか、このジオラマのポイントなるものです。すべてネット上から取り出してきた。
画像左上はミュンヘン大学の構内にある『白バラ』のビラのモチーフです。重なっているものを撮影しているので、プリンターで何枚か印刷して、
その重なりを表現しました。
とりあえず仮配置してみた。
今この瞬間何が起こったのか? ちょっとした緊張感と小さな恐怖みたいなものが感じられたらOKだろうなって思ってました。ただ全体からすると、
自転車の存在感が大きくて、どうしてもそちらに目が行ってしまう。
このジオラマのポイントは「何だろう」っていう全体から感じられる緊迫感と、個々のアイテムの存在感のバランスなので、ひとつだけが目立つのは
良くない、そう思って最後は自転車を取り除きシンプルにまとめてみることにした。
時計塔のある広場の風景をつくりはじめて2ヶ月、当初の予定とはかなり違うものになってしまいましたが、いちおう完成のレベルに達しました。
(完成とは言い切れないようなところもあるので、むしろ一区切りといった方が良いかもしない)
ベースのサイズは85cm×45cm、スケール1/6。時は1940年代、第二次世界大戦中のヨーロッパのとある小都市の広場をイメージしています。
ベースの石畳はスチレンボードを砂などでその質感を出した後に着色したもの。時計塔は市販の時計をベースに自作、ベンチはドール用のものを
購入して着色しています。
散乱するビラ、放置された買い物かご。
ついさっきまで誰かいたはずなのに、慌てて姿を消してしまった。そういう緊迫感とちょっとした恐怖のようなものが感じられたらいいなと思って配置
しました。想定としては敵機の飛来を察知した市民が慌てて姿を隠し、その直後にその航空機からは大量のビラがまかれたというものです。
このシーンどこかで見たことがあるかもしれないなって思いながらアイテムを配置していたのですが、完成後に大昔のテレビドラマ「ミステリーゾーン」
にこんなシーンがあったかもしれない、なんてことを撮影していて急に思い出した。
実は撒かれたビラなどには統一性が全くない。
ベンチに取り残された新聞は1941年12月、日本がパールハーバー空爆し、太平洋戦争が始まった時のもの。
その下に落ちているのは『白バラ』のモチーフをネット上から取り込んでビラとして再現したもの。『白バラ』って何かというと、ミュンヘン大学の学生
たちによる反ナチス抵抗運動のことで、彼らは1942年から43年にかけて6枚のビラ作成し、戦争を終結させようと国民に呼び掛けたというもの。
もちろん当時はナチスの存在は絶対的なものだったので、彼らは7枚目のビラを印刷する前にゲシュタポに捕えられ、国家反逆罪でギロチンにかけ
られてしまう。
ちなみにこの『白バラ』のビラのモチーフは今も彼らの通っていたミュンヘン大学の構内にあるそうです。
手前のヒトラーが写っているビラはスターリングラード攻防戦のとき、ソ連軍がまいたとされるドイツ軍兵士に投降を呼びかけるビラ。
スターリングラードは過去最大規模の市街戦でヨーロッパでの戦いの転機になった。ドイツおよび枢軸軍の死傷者85万人、捕虜30万人。
ソ連軍の死傷者120万人。この惨状が『白バラ』運動につながるきっかけともされている。
こちらは1940年にドイツ軍がダンケルクで撒いたとされるビラ。第二次世界大戦初期、連合国側はダンケルクに追い詰められたが、
多くの兵士はイギリス国内への撤退に成功し、再びノルマンディー上陸作戦に参加することになる。
こんな感じで画像にあるビラなどは、その時期も内容もバラバラなのですが、ここはあえて象徴的なもので良いと考え、特に印象深い
ものだけを使うことにしました。
だからこれはリアルなジオラマじゃない、ある意味メッセージそのものです。
正直なところ、つくった後で思った、難しいものをつくっちゃったなと。
そもそもこういうふうに、いっぱい説明しなきゃ分かってもらえないものって、見ている側としては作品として入り込みにくいから、個展などでぽんとそこに
置いただけでは素通りされてしまうことも多い。
このあともしかしたら作品の構成を考え直すこともあるかもしれない。だからとりあえずの一区切りです。
そして何でこんなものつくっちゃったのかというと、昨今の状況と無関係じゃない。
ミャンマーとか香港、そして世界中に扇動的な政治家や人々の声に耳を傾けない政治家が増えてきている現実、隔絶と差別のひろがり、
戦争と過去の平和運動、子供のときに見たミステリーゾーンのイメージ、そういったものが急に結びついて、そこからは一気にできあがっ
ちゃったって感じです。
あと最後に1つ迷いがあった。この白いバラを踏み潰された感じにするかどうかです。
でもここはそのままにしておいた。これだけは未来を見ている部分にしておきたいと思った。
2021.03
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10
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