ayanaのリメイク


                          フィールドライン理論をもとにしてリメイクプランを考える


はじまり

 ジオラマや人形などの作品作りはだいたい3つぐらい並行してすすめている。乾くのを待っていたり、作業が行き詰まったりすることも多いので、トータルで
考えたら、その方が効率的です。つい先日、作品が1つできあがったので次の制作に取りかかる。最近は小さいスケールのジオラマばかりになっていたので、
久しぶりに1/3スケールの球体関節人形のリメイクを始めることにしました。


 

 こちらは11年前に制作した粘土製のオリジナル球体関節人形 ayana です。
 今回久しぶりに手にした ayana だけど、自分がいちばん熱心に制作を進めていた頃の作品で、今見てもよくできている。制作にもかなり手慣れてきて、全体の
プロポーションについても問題はない。このあとヤフオクやイベントに出るようになるのだけど、悲しいかなドールのブームは去りつつあり、自分の腕が上達する
のに反比例して売れなくなってきたって感じです。この ayana はある意味、自分がまだ夢を見ていた頃の作品です。
 以前はこのドールを外に持ち出して撮影などしていたけれど、最近は遊んであげていないな。



現在のスタンダードな形式にあらためる
 その理由の一つは美白すぎたことです。どういうことかというと、普通に撮影するとすぐに肌の部分が白トビしちゃう。逆に肌に露出を合わせると周囲が暗く
なりすぎる。この頃は美しい人形の条件の一つが美白肌だと思い込んでいていたんだと思う。
 今回のリメイクのポイントはまず第一に肌の色です。
 次は全身のあちこちにネオジムやビスなどを埋め込んでマグネット仕様に置き換えること、これは最近の自分の作る球体関節人形のスタンダードな仕様です。
あとは手足をレジンに置き換え、関節部分を調整する。

   1 まずは以前につくったシリコンの型から肘と手足のパーツをレジンキャストして成形します。
   

 自分にとってのDOLLはただ飾るだけのものでなくて、写真を撮ったり、ジオラマの中に置いたり、着せ替えたりして、いろいろなシーンで遊ぶ実用品です。そして遊ぶので
あれば、簡単に汚れが落とせたり、壊れにくかったりするのはとっても大切なこと。
 DOLLを扱っていて一番破損の多いのは指先と関節です。だからここは粘土よりずっと強度の高いレジンパーツを、数年前から使うことにしています。


   2 全体を磨き上げ気泡は瞬間接着パテで埋める。そのあとに穴をあけてフックを引っかける軸を埋め込みます。
   

 自分は直径2.5㎜のアルミ線を軸にしています。ある程度太い方が糸が切れないので安心。頑丈なナイロン紐と、こちらも自作のCカンを取り付けます。これが
パーツをつなぐゴムの受けになります。手足が白くなっているのは、そのあとサーフェーサーを吹き付けたからです。
 レジンだとサフレスという仕上げ方もあるんだけど、
黄変があって、後で悲しいことになる。だからしっかりと下地はつくります。



   4 レジンパーツに合わせて関節を調整します。このとき他の関節も再調整しました。
    

 昔は強度が不安で関節もやや大きめでした。今は工作精度も上がってきているので、全体として関節部分は削り込んでゆくことになります。
 右側の画像は腰関節です。あいている穴はゴムの通るところです。昔は大きな丸い穴だったのですが(一般的にはこの形式)、強度や摩耗のことを考えて接する
部分の面積を大きくした。さらに関節の穴が大きすぎると、その分不安定になるということもある。
自由度を失わない程度に、ぎりぎりまで穴を小さくするというのが
自分の考えです。

   

 膝はもともとはきれいな球体に整えていたけど、今では側面をやや削り取って楕円体にする。こうすると関節は横回転しなくなり、ポーズをとらせたときの安定感が
増します。これも自分で考えた。あと首のジョイント部分はエポキシパテで補強する。ここはSカンをかけたりして最も力のかかるところです。だから強度は高い方が良い。
 自分のドールに対する基本的な考えは、単に飾っておくだけのものでなく、いろいろ遊べる実用品であった方が良いということです。
 それから軽いということも大切、転倒時の破損も少なくなり、テンションゴムも細いもので済む。関節の摩耗も少ない。ドールづくりは経験から得られるところが多いです。

 次は現在自分のつくる球体関節人形ではスタンダードな形式になっているマグネット仕様にあらためます。これは遊ぶための工夫です。

5 首裏に直径5mmの穴をあけ、ここにネオジムマグ
 ネットを埋め込みます。
7 バストトップには直径2.5mmのボールベアリングを
 瞬間接着パテで固定します。
8 ヘッドパーツは上下分割式に直し、耳には木ねじ
 を埋め込む。

 首裏に直径5mmのネオジムマグネットを埋め込むというのは、マグネットのつく黒板や鉄のパイプなどがあれば、ドールスタンドなして立たせることができるというアイディアです。
これはけっこう便利。
 ヘッドパーツは上下分割式に改め、そのうえでこちらも直径5mmのネオジムマグネットで、上下をつなぎとめる形式に改めました。そのうえでご覧のように、鉄のビスを耳たぶに
埋め込む。こうするとマグネットピアスが取り付けられるようになる。




 こういう工夫をあちこちでやっている。ピンクはネオジムマグネットを、黄緑色のところは鉄のビスを埋め込んでいます。
 ご参考までに、白い線はパーツをつなぐゴムが通っているラインです。こちらは別に特別なことはしていません。ちゃんと関節をつくればスタンドなしでもちゃんと自立する。
 再びゴムを通したら、いろいろなポーズをとらせてみて関節の具合を調整します。


   9 組み立てたところで可動域を確認し、関節の
    調整を行います。
   

 可動域を調整は、基本的にゴムを通したまま作業をする、その方が楽だから。




 調整後、再び立たせてみる。凛として良い感じです。もともとよくできたドールだとは思っていましたが、造形的に何か所か気になるところも出てきた。ということで、
次に少しだけボディラインの調整を行いたいと思います。





フィールドラインの話
 ドールづくりにおいて、最近自分が頼りにしていアイディアがあって、それをフィールドラインといいます。



 こちらは今作っている ayana ではなく、以前完成させた aimi というドールの未塗装状態のものです。普通にバランスの取れたラインに仕上がっていると思う。
 自分のドールはファッション誌に出てくるような整った体型を理想としてつくっています。イベントなどに出ていた時にはリアル系と呼んで下さる方も多いです。そのうえで
市販のOFを着せることができるようにしたいと思ったので、結果として8等身でスーパードルフィー(SD)をやや細身にしたようなボディラインになっています。




 ただドールの世界では圧倒的にヘッドは大きめにつくるのが主流で、たとえばSDあたりから比較すると、ヘッドが一回りから二回り小さいです。そこで画像編集ソフト(GIMP)
で頭部だけ10%ほど拡大し、画像的にボディにとりつけてみたのが上の画像です。
 横に引かれた黄色い線は拡大したイメージを表す線で、これは首から上の空間をちょっと大きくしたよという意味です。頭部を10%拡大すると割合としてSDの小顔ヘッドサイズ
になるのですが、ちょっと上が重すぎる感じで、バランスはむしろ悪くなります。これは空間としてスムースにつながっていないためです。




 今度は頭部を基準として足下に向けて10%連続的に縮小してみました。足が短くなって安定し、頭の重い感じはなくなりました。一方で足が短くなって子供っぽく、かわいい感じが
出てきます。このボディバランスはありだと思います。ウエストはやや細めだけど、スーパードルフィーこのあたりに近いように思います。
 あと頭が大きくての小さなもを可愛いと感じるのはヒトの持つ本能的なものなので、このラインを調整することで、ある程度の年齢表現も可能になるということにもなります。
 5年前のことですが、この黄色い線のことを、拡大縮小する空間を表現する線ということでフィールドラインと名付けることにしました。その後もいろいろと制作やリメイクを繰り返し、
今現在ではバランスのとれたDOLLを作り上げてゆく基準の一つとして、この
フィールドラインを滑らかにつなげてゆくことが極めて大切であると確信するようになりました。
(フィールドラインの詳細については以前の制作記事をご覧ください。)




 現在リメイクしている ayana のフィールドラインはだいたいこんな感じかな? 目指したのは足が長く洗練された雰囲気の美しいドールで、オリジナルフィギュアの世界でよく
見かけるタイプです。逆に創作人形の世界では少数派です。
 この ayana はまだフィールドラインという考えを持たない時代につくったのですが、正面から見る限りとてもよくまとまっている。フィールドラインというアイディアは独自のもの
だけど、これを自在に自在に操ることで様々な新しいDOLLのアイディアが生まれるのではないかと自分は考えています。
 もし乗り越えるべき問題があるとすれば、ボディラインのスタンダードが何なのかを見極める目がないと、絶対に自分の持つイメージを作品に生かせないという点です。
そうならないためには様々な作品を見て観察力そのものを鍛えておく必要があるということになります。




  このフィールドラインという考えで見たとき、問題は側面にあった。極端にウエストに向かってラインが収束し、スムースにつながっていない。削りすぎでここが不自然に見える。


   10 造形し直す部分をチェックします。
   

 そこで撮影画像から、どのぐらい粘土を盛りつけたら良いのかを書き込んでゆく。+3とあれば3mm粘土を盛るということ、逆にー2とあれば2mm削る。この見直しを18のパーツ
すべてで行います。ここが造形的な見直しのポイントとなるところなので時間をかけます。



次はレベルライン

 今度はヘッド部分にフィールドラインの考えをあてはめてみましょう。



 ドールの世界で主流なのは頭がやや大きめの娘で、自分自身もそういう娘をつくったことがあります。フィールドラインが上に向かって発散する場合には、それに従って水平線の
意味合いも変わってきます。フィールドラインというのはいわば縦軸のようなもので、人間の感覚としては、フィールドラインに直交するラインを水平とみなすことになり、この場合には
顔の各パーツが外側に向かって少し垂れてゆくのが自然に感じるのです。
 自分はこの感覚的な水平線のことをレベルラインと呼ぶことにしています。(画像の黄緑色の線)
  多くのドールは頭を大きめにつくっているので、どれもみな少しだけタレ目になっているのもそういう理由だと思う。




 逆に頭頂に向かってフィールドラインが収束してゆくような場合には、少し目を吊り上げた方が自然です。




 さて今リメイクしている ayana はというと、ボディ上部のフィールドラインはストレートなイメージでつくっている。 がしかし頭部だけ見てみると、目はややタレ目、口がへの字型に
なっている。つまりはレベルラインが外側に向かってやや垂れている感じになっている。フィールドラインと直交していないので、ここに違和感を感じる。実際にはニュートラルな表情
というよりやや不機嫌そうな感じというか。




 ヘッド部分はこのレベルラインの調整がポイントです。目頭を下げ、口元をストレートになおす、この2点を修正するころにします。
 なぜこういう修正をしなければならなくなったのか、その理由は想像がつきます。この時期、少しでも可愛くしようとして、評価の高い少し頭が大きめのドールを見過ぎて影響されたって
ことだと思う。ヘッドだけ真似をしてもダメ、やっぱり大切なのは全体の流れとか、バランスなんだよな。それは今だから言える。


   11 ニュートラルな表情にするため、レベルラインを調整します。
   

 そしてこれがその調整途中の画像です。コンマ何mmの調整ですが、これでがらっと変わるから不思議。
 慣れてくるとアイが入っていなくても完成したときの状況が想像できるようになります。この娘はかなり良くなります。

 次にボディに戻って、腰部分のフィールドラインを調整します。


12 まずは修正箇所にモデリングペーストをベースに
 した下地塗料を3回ほど塗ります。
13 カッターで削る、もしくは粘土を盛ることで形を
 整えてゆく。
14 完全に乾燥したらやすりをかける。以降はこれを
 繰り返して理想のラインに近づける。

 リメイクの場合には、新作と違って若干の問題がある。一旦完成したドールは塗装や樹脂による表面保護がなされているので、簡単には粘土はくっつかない。
ボンドを練り込んでつけるという方法もあるけど、やはり材質が違うので剥がれ落ちることがある。
 そこで専用の下地塗料をつくります。モデリングペーストに、リキテックスのアンブリーチドチタニウムとライトポートレートピンクを混ぜて肌色に近い色合いにして、
塗りやすい程度に水で薄める。これを塗ることで粘土との親和性が増し剥がれ落ちなくなる。
 ちなみに人形作家の吉田良先生の「吉田式 球体関節人形」という本にも(名著)、これと同様の下地塗料が紹介されています。吉田先生の場合にはこれに若干の
ジェッソを混ぜて更に粘着性を増しているけど、あとでやすりがかけづらくなる感じがして自分は混ぜていません。
 この下地塗料の特徴は強度があって、しかも切削が可能なところです。これなしで人形制作はできない。
 削る場合も同じです膝関節を薄く削ったのですが、そのままやすりがけすると、粘土部分が表面に出てきてしまっている部分は柔らかいので余分に削れてしまう。
そこでこの下地塗料を塗って固めたあとでやすりがけをする。




 手足のレジンパーツにもこの下地塗料を塗ります。多少食いつきは良くないのですが、これで他の粘土パーツと同じようにこの後の塗装ができるようになります。


   15 再度組み立てて、関節部分やパーツのつながりを調整します。
    

    

 塗る、盛る、削るの作業を繰り返し、予定されたラインに仕上がったところで、再度組み立て行って具合を見ます。
 組み立てた状態で、胸元、お尻のライン、左ひじ、股関節の4か所に更に微修正を加えました。

  球体関節人形なので、様々なポーズをとらせてみて具合を見ることはとても大切。 球体関節人形って着せ替えができて、そのシーンに合わせてポーズをとらせる
ことが価値なわけで、直立した状態だけが美しいというのでは価値は半減する。想像する様々なシーンの中でどれだけ美しい状態が保てるかがポイントだと自分は
思っています。
 少し足が組みにくい感じがあったので、股関節部分の可動域を拡大した。
 だったら最初からテンションゴムを通す穴は大きく開けとけばって言われちゃいそうですが、大きく開けると今度はポージングさせたときの安定性が低くなる。だから
ホールの大きさはポージングに制約がないぎりぎりの大きさにしています。
 テンションゴムの張力を増すって選択肢もあるけれど、今度は関節部分の摩耗が気になってくる。だから自分の場合、ポージングに関する考えの基本は、ホール最小、
テンション弱め、それでもポーズを保持できるよう、
ドールは限界まで軽量化するです。




塗装とコーティング作業
  全体のバランスやポージングに問題がなくなったので、ドールをいったんばらばらにして塗装に入ります。

   16 モデリングペーストとジェッソをベースにした塗料で全体を塗ります。
   

 塗料は下地塗料の配分でモデリングペーストを20%減らして、そのかわりにジェッソを加えたもの、色合いは同じです。今回はリメイクということで、新旧の塗装面が残っていて
不均一。そこで隠ぺい率の高いジェッソを加えたわけです。ただ塗装の食いつきが良くなる一方で、やすりの磨きがかけにくくなるのは欠点。このあたりはケースバイケースです。

17 均一に塗れたところで、布やすりを全体にかけて
 磨きます。
18 アサヒペンの高耐久ラッカー つや消しクリアーを
 全体に3回ほど吹き付ける。
19 吹き付けるごとに必ず埃とりを行いましょう。

 塗料を3回ほど塗ったら全体に400番の布やすりをかける。すぐに目詰まりするので、やすりは多めに準備している。この段階ではまだまだ細かな凹凸やキズは残っているけど、
このあとの本塗装とコーティングで少しずつ平滑になってゆく。
 次にアサヒペンの高耐久ラッカースプレー つや消しクリアーを全体に吹き付けます。このあとこのスプレーは頻繁に出てくるけど、一般的な塗料の中ではコーティングの能力が一
番高いです。

 

 高耐久ラッカースプレーでコーティングすると、とりあえずこんな感じに仕上がる。SDにたととえるなら素のままってところです。普通だったらちょっと肌に赤みを加え、トップコート
して完成っていうところかな。でも自分の場合には、ここからまだまだ作業が続く。


   20 関節部分をMr.カラーのクリアーレッド+オレンジで着色し、高耐ラッカーで関節部分のみ
    仕上げます。
   

 まずは関節の凹凸部分に少しだけ赤みを加えて何回か高耐久ラッカーを吹き付ける。高耐久ラッカーを吹き付ける回数は関節部分のがたつきがなくなり、程よく密着する程度に
なるまでです。ようするに関節の遊びをここで調整してしまいます。


   21 クリアー塗装を繰り返して肌の透明感を出します。
   

 関節の調整が終わったら、五体のパーツを組み合わせて更に塗装とコーティング作業を続けます。こうしておけば関節に塗料が入り込まず、塗りすぎて動かなくなるなんてトラブルが
なくなります。ここから先、どういう作業が続くのかまとめてみました。

 

 イメージとしては一番下が粘土層、そして塗り重ねてゆくものを下から順に表示しています。今は下から4番目の「つや消しクリアー(高耐久ラッカー)」の吹き付け作業が作業が
終わったところです。右側の3という数字は吹き付けた回数を示しています。だから次は「Mr.カラーによる塗装」ということになります。
 この塗装は、基本的にはMr.カラーのNo.111キャラクターフレッシュを吹き付け、頬や唇、関節など、赤みをおびたところには少量のクリアーオレンジ+レッドを補ってやるという
作業になります。 そして再びつや消しクリアーを2回吹き付ける。

   

 次の作業はクリアーブルーの吹き付けです。ちょっと考えられないことかもしれませんが、肌色の補色であるブルーを加えると(緑を加える人もいるが)、肌の色に深みが出る。
絵画の世界では昔から行われていた、むしろスタンダードな手法です。
 自分の場合にはこれを極端に溶剤で薄めてメロメロと吹き付ける。たとえて言うなら第二次世界大戦中のドイツの夜間戦闘機の迷彩と同じなんだけど、知らない人には分からない
だろうなあ・・・。 上はその練習をしているところで、ほとんど見えませんが人形にはCのレベルで吹き付けています。肌色の上にのせて微かに分かるぐらい。実際にやってみると、
これで静脈の流れのようなものが感じられるようになります。

   

 そして三たびつや消しクリアーを吹き付け、今度はクリアーレッド+オレンジを同じようにメロメロと吹き付けます。これは動脈の流れをつくる感じです。

   

 あとは全体を平坦化し、肌の透明感を出すためにつや消しクリアーを繰り返して吹き付けてゆきます。今回はこの吹き付けだけで12回、スプレー缶がゆうに1本なくなります。
この高耐久スプレーは名前の通り塗膜が強く、適度な弾力性があるのでドール塗装には向いていると思います。更に摩擦も大きいので関節の保持力もある。
 ただ「つや消しクリアー」って表示ですが、実際には半つや消しぐらいで割とつやはあります。だからこれをドールに使う場合には、最終的につや消しのトップコートが必要になると思う。
 あとこの塗装方法は肌の透明感を出すのには良いけれど、透明であるがゆえに埃の混入が目立つ。だから吹き付け塗装を1回するごとにデザインナイフで埃をかき取る作業が必要
になります。
 なんだかんだで完成するまでに30層ぐらいの塗装やコーティングを行うことになる。
 いろいろやってたどり着いたのがこの塗装なのですが、何でこんな面倒なことをやっているかというと、結局は生命感のようなものを求めているんじゃないかと思う。最近になってやっと
自分自身のやっていることに気づいた。



  22 全体にスポンジやすりをかけ、モールドの甘くなったところを補い、必要最小限のメイクを済ませます。
     

 まずはいったん全身に中目のスポンジやすりをかける。そしてアイラインや睫毛、唇などに必要最小限のメイクを加えます。このメイクはパーマネント、次のコーティングを行うと完全に
取れなくなります。
 あわせて爪やバストトップなどにも色を加えます。



  23 ばらばらにして全体をウレタンコーティングします。
   

 このあとパーツそれぞれにウレタンクリアーに最大量の艶消し材を混ぜて吹き付けます。ウレタンは下層のラッカーを侵すので、最初は少量、表面が乾いたところであと3回ほど吹き付けます。
(1日おくと各層が一体化しなくなるので、必ず半日ぐらいのうちに行う) ちなみにウレタンは2液混合タイプを使用しています。こちらは楽天あたりでも入手可能です。

 これを使う理由はいくつかあるのですが、まずは素人が入手できるものとしては、おそらく塗膜が最強だということ、摩耗にも強く、適度な摩擦があってポージングも決めやすい。今この段階では
軽いメイクしかしていませんが、この後にMr.カラーによるメイクを行って失敗しても溶剤でふき取ることができる。もちろん汚れがついたら洗剤で洗うなんてことも可能です。メイク落としの
クレンジングクリームも使える。短時間なら漂白剤もOKでした(保証はしません)。
 あとはこのつや消しの美しさかな。ここまで積み重ねてきたクリアー塗装がここで生きてくる。
 ただ良いところばかりではなくて、やっかいなところもある。まずはこのタイプの塗料は化学変化を起こして固まるため、器具の手入れがものすごく大変なこと。そしてエアーブラシのカップの中
でも反応がすすむため、時間をかけていると粘度が増して吹き付けにくくなることなどです。以前は高耐久ラッカーを使わずこれだけでコーティングしてたから、コーティングだけで1週間もかかっていた。
 あとはつや消しであるがゆえに汚れがつきやすいいのも×、基本やっぱり手袋をして扱った方が良いです。
 いろいろ面倒なことがあって、それでもウレタンを使い続けてきたのは、やっぱりその強度とほかの塗料では出せない肌の質感が表現できるからだと思う。




アイとウイッグ、そして最終メイク
 あとは最後の段階、アイとウイッグを選び、最終的なメイクをします。 ここまで単調な作業が続いていたので、久しぶりに創作する楽しみのようなものを感じることができる。まあがんばったご
褒美みたいなものです。やっと終わりが見えてきた。
 ともかくドールづくりで難しいのは、最後の最後まで結果がはっきり見えないということ。はっきりとした方程式があるわけじゃないし、方向性を明確に指示してくれる解説本も存在しないんだ。
まだまだ最終的に「絶対に可愛くなるとい」という確信があるわけじゃない。最後のハードルとなるのはアイとウイッグ、そして最終的なメイクです。ここで自分の場合にはグラスアイとウイッグは
高くないものを結構大量に保有していて、そのなかから選ぶようにしています。
その理由はここからの説明で分かるかと思います。



 まずはフィールドラインの再度の確認です。今回の ayana については手足が長く、頭部の小さめなモデルのようなボディラインのを持っています。それを表現すると上の画像の黄色いライン
のようなイメージになる。つまり標準より下方を大きく拡大して表現していますよ、という意味です。
 一方でヘッドは標準的な卵型でフィールドラインはストレートになっている。
 まずはアイを選ぶためにヘッド部分を取り外し、分かりやすいように前髪の短いウイッグに取り換えてみました。



  24 アイを選ぶ。
    

 左はアイホールに対して標準的な大きさのアイを取り付けてみました。いわゆるリアル系のフィギュアだとこういうバランスをしていると思う。
 右はアイホールに収まる最大限のアイを入れたところです。
 大き目なパーツを取り付けるということは、そこから先のフィールドラインを拡大することになり、そのバランスは崩れますが、この方が人形らしい可愛さがでてくる。わざと大きめの
アイを入れることは昔から行われていて、むしろこの方がドールの世界では標準かもしれません。
 理由を解説しているようなドール制作本はないのですが、自分の考えとしては、これは見ている人間の感覚的なものだろうと思っています。
 人間には瞳孔の大きさから相手の心情を察する本能的な能力があり、瞳が大きく見えている相手は自分を好意的に見ているんだと感じる。人間関係で言えば、それが信頼とカ愛情
を抱く最も基本的な条件で、そういったことが人形にもあてはまることではないかと自分は考えています。
 だからやはりお友達としてのドールはアイは大きめがいい。

   

 色については迷いません。彩度の高い色のものも結構持っているけど、リアル系のドールを作っている限り使うチャンスはほとんどない。試しに入れてみたけどやっぱり合わない。

   

 アイの選び方としては、まずは大きさが一番大切、その次がアイの質、あとは好みで色を選びましょうって感じです。

   

 で選んだのは標準よりやや大きめのグラスアイ、色は少し青みのかかったグレーです。
 これが一番落ち着く。



   25 ウイッグを選びます。
    

 色、髪型、長さ、いろんな要素があるけれど、最も大切なのは「顔のどこを隠すか」だと思っています。髪型によって顔の形は明確に変わる。これは人のヘアメイクと同じです。
 まずは左のショート系のボブから、美技のミディアムレングスのものに変えてみた。こちらの方が上下のバランスが良い。更に頬の部分が少し隠れてすっきりとした卵型の形が見えてくる。
まあ、これも好みなんだけど。

   

 髪が外に広がる感じよりストレートロングにして、すらっと下方に流れる方が清々しく思った。

   

 幸い手持ちのストレートロングは4色ほどあったので、そのなかから最終候補を選ぶことにします。

   

 そして最後に選んだのはこちら、同じロングでもブルー系のアイにはゴールド系のウイッグが合う。
 けっこう、アイとウイッグの選び方って難しい。何の法則性もないから以前は完全に試行錯誤でした。でもそこにも重視するポイントと順番があることが、最近になってやっと
見えてきたような気がする。
 そして改めてこの項の最初の画像と最後の画像を見比べてほしい、可愛さが全然違うでしょ? アイとウイッグでこれだけ違うんです。
 アイやウイッグは高ければ良い結果になるって訳じゃない。すべては相性なんです。「高価できれいなグラスアイだから、これを使えばお人形は必ずグレードアップする」だなんて、
単純なものじゃないです。



  26 次はいよいよ最終的なメイクを行って完成になります。
    

 まずはフィールドラインの確認です。 顔のパーツで言うと、大きめのアイを選んだ関係で、前回説明したフィールドラインが基本線より上側に発散するようなイメージを持つようになった。
その関係でこれに直交する水平線は上に凸になるように湾曲する。(レベルライン)  だからたとえばこの線に対して、眉が平行ならノーマルな状態、外側に上がっていれば吊り上がった
状態ということになります。だから人間はこういうものを無意識に(本能的に)見分けているということになります。
 この人形の場合だと右眉(向かって左)がレベルラインに対してやや吊り上がっている感じなので、ここは修正しなくちゃいけない。 自分の見つけた問題点とメイクのポイントは3つです。
A 左目の中心がやや中央によっているので、これを1mmほど外側に移動させる。
B 施すべきメイクは頬の高い位置にチーク、目尻に軽いシャドウを入れるぐらいでそれ以外は不要。
  人間だと、基本は目を大きくぱっちりと、何て感じなんだけど、もう十分にこの娘はぱっちりと大きい。
C 右眉が少し吊り上がっっている感じなので、眉を少し太くしてゆくなかでこれを修正します。ここが例のレベルラインと関係するところです。

 人間を含めて動物の目ってものすごい観察能力を持っている。ペンギンなどは営巣地に何万羽もいるなかから自分の子供を見つけるというし、人間だってちょっとした顔のパーツの変化
から心情を察したり、健康状態を見分けたりすることまでできてしまったりする。
 逆にそれを人形の場合にあてはめてやると、ちゃんと作ったのに何かおかしい、どこか可愛くないってことがよくある。その原因は僅かな歪みやずれだったりするのだけど、観察能力って
人間が生まれ持って備えている本能的なものだから、その理由は理屈では分からない。それがゆえに修正するにも、どこをどうやったら良いのか分からない、だから本当に困る。
 いちばん難しいのは本能的な観察力を、理性的で客観的な理屈におきかえることなんだろうと思う。


   

 以上をすべて行ったのがこちらの状態です。実はこれ、実際にメイクしているのでなく、GIMPというフリーのグラフィックアプリでシミュレーションしたものです。
 これはドールやフィギュアのメイクでお困りの人にはぜひおすすめしたい操作です。実物でやっちゃうと取り返しのつかないことになるけど、これだったら何度でもやり直しがきく。
ついでにいうとこれを何度か行うことで、ドールやフィギュアを見る目ができてくる。
 人形作りやその完成画像をブログやHPにその記事をUPすると、「自分も人形作りをやってみたいのですが、あまり器用ではないので」とか、「チャレンジしたけど、やり直しばかりで嫌に
なっちゃいました」みたいなお便りをいただくこともある。こういうものって手先の器用さってものは確かにあるけれど、それよりも良し悪しを見極める目と、問題点を解決するための想像力の
方が大切だなって、今になって自分は思う。ある意味、最初の話の繰り返しになっちゃうけどね。
 画像の操作は間違いなく観察力と想像力のトレーニングになります、嘘じゃないです。



27 リューターでアイホールの調整を行い、パテでアイ
 を固定します。
28 メイクは人間用のものを用いて綿棒で行います。

29 睫毛は手芸用の接着剤で下瞼の底辺に張り付け
 ます。

 まずリューターで左のアイホールを移動します。合わせて瞼の部分の厚さをアイに合わせて調整します。ドールアイってどうしても虹彩部分が奥に行ってしまいがちなので、この調整は必要です。
 メイクには人間用のチークとシャドウを使っています。(CEZANNE) 失敗したらクレンジングで落とす。終わったらつや消しのトップコートを吹き付けてメイクは完了です。
 睫毛を瞼の下に取り付け、水道補修用のパテでグラスアイを固定、光を当てて軸を調整・・・、という具合で無事にヘッドも完成しました。


  30 あとは全体を慎重に組み立てて完成です。
    


 最終的なメイクを完了して、パーツをテンションゴムでつなぎリメイクは一区切り。  もう何度もやっているけれど、全体のバランスや関節の具合などをチェックします。






 身長56cm、おおむね1/3スケール。基本的に市販のSDやDD用につくられたOFはほとんど着せることができます。但しヘッドサイズは一回り以上小さく、全体としては8頭身の
バランスです。(ウイッグはMSD用のもの)







 ちょっとだけ腰関節ゆるめ、膝関節きつめでしたがポージングに問題はなく、ちゃんと自立することもできる。 直立したときのボディラインはもちろんですが、可動させたときでも
ラインがスムースにつながっていることがだいじです。だって球体関節人形なんだから。












 何回かの塗装とコーティング作業によって、透明感のある肌が再現できました。ここは自慢できるポイントだと思っています。





 ドールの特徴って、撮影してみて初めて客観的に理解できるってことも多いです。肉眼で見てしまうと思い込みや、本能的な錯覚のようなもので見誤ることがある。
 それからグラスアイを大きなものにするとどうしても撮影する角度によって、その表情のようなものに違いが出てくる。その原因はスケール換算で人間の2倍以上奥まった
ところに虹彩があり、その前には分厚いガラスレンズがあるということだと思う。
 でもこれは欠点というより特徴と言ってよいものかもしれない。もし本当に気に入らなければ、ここで光軸を調整すれば良い。


 

 正面上方から撮影するときりっとした表情、向かってやや左に向けたときが一番整っていてきれい、右をむけたときはやさしい感じがするけど、頬が大きく見えてしまうとバランスがやや悪い・・・などなど。
 いちおう自分にはそう見えるんだけど、人によって美的な感覚は違うと思うので、それ以上は何とも言えない。










 ということで、今回自分の思う決めの1枚がこれです。  ブロンドのロングウイッグで画面に流れを作り、やや左を向けて撮影しました。



 もしかしてこのリメイクは一ヶ月ぐらいで終わるかもと思っていたけど、3ヶ月もかかった。ちょっと甘かった。
 個展も近いし、焦ってます。



2021.04
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm  / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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