eye4工房番外編

風の谷のナウシカ 「メーヴェとナウシカ」



<ツクダホビーのメーヴェ>

 最近まで取り組んでいた球体関節人形のリメイクも完了し、一区切りついたところで新しいジオラマに取り組むことにした。
 というのも、あれこれ昔の作品を整理していたら、メーヴェに乗ったナウシカが見つかったから。

 

 この模型のスケールは1/20、かなり以前に(10年以上も前)自分がつくったもの。ちなみにメーヴェとはドイツ語のカモメのことだそうです。
 実際にこういうものが飛行できるかというと、可能のようです。これを小型ジェットの模型で再現した人がいて、その制作記事が雑誌に出ていたのを覚えている。
ただ実際に人が乗って操縦した場合、かなりバランスをとるのが難しいはずで、実際には自由自在に扱うのは無理だと思われます。



 これがオリジナルのパッケージで、今はなきツクダホビーから発売されていました。はじっこに示されている定価は600円、今でも同じ内容のものが、金型を受け継いだ
バンダイから入手できると思います(1000円ぐらい)
 ナウシカの姿勢がパッケージと模型で違っているのは、自分がパテなどを使ってナウシカのポーズを変えたから。やっぱり飛行姿勢の方が見ていて気持ち良いです。
ナウシカのシリーズは確か全部で4つあって、そのすべてを自分は制作しています。1つ目はカイに乗るナウシカで、こちらはすでにジオラマ化済み。そして2つ目がこれです。
 ちなみに最近になって、ナウシカが可動式(ポーズが自由に変えられる)になったものが発売されたようなのですが、メーヴェとセットになって、なんと22,500円!
 それはさすがにちょっと手が出ません。
 でもアニメが劇場公開されてから37年、いまだに新製品が出るというのはすごい。



<ベースボードをつくる>



 イメージしたのは草の生い茂る大平原を超低空飛行しているシーンです。(スケッチが下手ですみません)
 それこそ昔はこういう草原を表現するような術はなかったので、プラモを作ったところで区切りがついてしまい、そのままずっと押し入れの中で眠っていたということです。

1 角材をフレームにして、スチレンボードを組み合わ
 せ、ベースボードをつくります。
2 60cm×60cmの大きさなので、裏側を補強する。
 また内径5mmのパイプを2か所に埋め込みました。

 ベースの材料は例によって角材と3mm~7mmのスチレンボードです。スチレンボードは様々な厚さ、サイズの切れ端が結構たまっていたのでこれをかき集めて使うことにした。
もちろん多少面倒ですが、この際、中途半端なものは使い切ってしまおうということと、細かな起伏をつくるつもりなので、あえてまっさらなものを使う必要もなかったというのが、
その理由です。
 18m×6mmのヒノキ材でフレームを作り、そこに様々なサイズと大きさのスチレンボードを埋め込んでゆく。平原といえど完全にまっ平らなのはむしろ不自然、流水や風などの理由に
よってわずかな起伏ができているはずなので、なんとなく窪んでいる感じがするなという程度に、それを再現する。
 パイプはメーヴェを固定するもので、制作記録の後の方で出てきます。



 そのメーヴェを配置する位置は画像のとおりです。
 左右で3:7、上下で6:4、また基本的には対角線を少し外した方向に、その機首を向けるつもり。これをメインにあともう一ヶ所選択できるようにしたい。
 レイアウトの基本ですがメインとなるものは中心に置かない。絵画や写真の分野では様々な構図についての常識があるのですが、これはジオラマにもあてはまることで、
メインが1点である場合には、上下左右に空間的なバランスの取れない位置に、それを配置するのが基本です。


3 モデリングペーストやジェッソで表面を整えてゆき
 ます。
4 粘土を使って形状を整え、茶色がかかったグレーで
 着色します。

 ベースの仕上げですが次の手順で行います。
・ スチレンボードのつなぎ目をモデリングペーストで埋める(上の画像)
・ 全体にジェッソを塗る。
・ 地形がなだらかにつながっていないようなところに粘土を盛り、乾いたら布やすりをかける。
・ 茶色+グレーの塗料で全体を塗る。
 これで微妙に起伏のある地面が出来上がった。
 作る予定なのは草原を超低空飛行しているシーンです。 このまんま草を植え付けるのもありですが、やはりここは何かアクセントを置きたい。


   5 あらためて全体の配置図をつくって見ました。
   

 イメージしているのは波打つような草の海に点々と岩が突き出ているような感じです。
 ここで新たなスケッチです。具体的には上から見た図で岩の配置を示している、いわゆる自然な感じで、しかも撮影ポイントを考えながら配置するって結構難しい。


6 発泡スチロールから岩のもとになる断片を切り出し、
 その上に1枚に剥がしたティッシュペーパーを置く。
7 上から水で薄めた木工ボンドを浸み込ませ、更に
 そこにペット用の砂をまく。

8 水性アクリルのグレーを濃淡をつけながら塗って
 ゆきます。
9 再度、木工ボンドを浸み込ませ、ペット用に砂をまい
 てゆきます。。

   10 層状の岩はこれらを組み合わせてつくります。
     最後に艶消し材を混ぜたグレー+イエローを吹き付けて岩は完成です。
   

 岩の材料とするのは1cm厚の発泡スチロールと3mm厚のスチレンボードです。配置図に従って適当な大きさにちぎり、カッターで形を整えています。
 イメージとしては層状の堆積岩(砂岩等)です。大きな岩は何枚か張り合わせて一つにする予定です。
 ポイントになるのは、まずは砂岩らしい質感を出すことです。 まずは重なったティッシュペーパーを1枚にはがして、発泡スチロールに置く。その上から水で薄めた木工ボンドを
塗り、ペット用の細かな砂を振りかける。たったこれだけで岩らしい質感が表現できます。
 ここはそんなに難しい作業ではないけれど、見た目はかなり岩っぽい。この制作方法はいろいろな場面で利用できると思います。


   11 岩をベースボード上に配置してみます。
   

 ここでできあがった岩をベースボードに配置し、撮影テストをしてみます。バランスを取りながら微修正、最初の配置図とは小石の場所が変わった。



<ナウシカとメーヴェをつくる>

 次はメーヴェとナウシカの組み合わせを完成させようと思います。
 ただキットの方はすでに一旦完成させてあるので、修復とリペイントがポイントになります。

   12 破損部分を修復します。
   

 次はナウシカとメーヴェに手を入れる。
 押し入れにしまってあったプラモデルだけど、埃もかぶっていて、結構ぼろぼろの状態でした。メーヴェからナウシカも外れてしまっていた。まずはスキッドが破損して
いたので修復、その他、目につく細かな部分をシャープに成型してゆきます。修復自体は2日ぐらいで完了。
 こちら、30年以上も前に発売されていたプラモデルなのですが、今でも同じ内容のものが、金型を受け継いだバンダイから入手できると思います。ただナウシカの
姿勢は本来、腰にある剣に手をかけた状態で、このような飛行姿勢ではありません。こちらは自分が手足のパーツを切断し、パテなどを用いてこのようなポーズに
変更したものです。


13 メーヴェにステンレス線を差し込んで固定、空中
 に浮かせることができるようにします。
14 メーヴェにナウシカを固定するためのベルトを
 取り付けます。
15 全体を少し明るめにリペイントしてゆきます。胸の
 マークなどもあらためて書き入れました。

 ナウシカ本体ですが、立体感にやや欠けるので、明暗をつけながら全体をもう少し明るい色に塗りかえます。通常は明色から暗色へと塗装をすすめるのですが、
プラモの衣服に関しては、徐々に明るい色で塗り重ねてゆくのが良い。
 また顔は小さいのですが、ここも先端のとがった綿棒と人間用の化粧品で調子を整えています。 あとテト(肩にいるキツネリス)の耳が折れていたのを修復。




 実はヘルメットが落ちななくなっていたのをエポキシパテで再現した。ただヘルメットがあるとナウシカの顔に影が落ちるし、雰囲気に合わないので、結局は取り付けなかった。







 完成画像ですが、 後ろから見ると、ちょっとだけ左に傾いていることが分かる。実はこれは演出です。
 少し不安定な状況にしてあげるというのが、むしろ自然で良い。そしてどういう感じでバランスを崩すかは、全体をイメージしながら考える。何というか、将棋で言えば
大局観というか・・・。

 そして飛行姿勢にポーズを変えたことですが、これもパッケージ通りつくるより、こちらの方が清々しくスピード感があって良かったと自分は思います。
 さっきヘルメットを再現したけど取り付けなかったと書いたけど、ひとつには「戦う」ってシーンから遠ざけたかったというのもある。
 「風の谷のナウシカ」のシリーズは40年近い年月を経て存在し続けているという、もはや伝説的な模型になりつつあると言っても良いかもしれません。
1作目 カイに乗るナウシカ(銃を片手にして戦場に向かうシーン)
2作目 メーヴェとナウシカ(ムシアブとの闘い 本作)
3作目 風の谷のガンシップ(風の谷の戦闘機 これだけが1/72スケール)
4作目 王蟲とナウシカ(王蟲の子供が酸の海に入り込むのを、ナウシカが制止するシーン)
  これが「風の谷のナウシカ」の全4作品なのですが、すべてが戦っている、もしくは危険な場所に向かうシーンを再現したものです。ツクダホビーというメーカーがその後も
存在していたら、どういう製品を追加していたかは知る由もありませんが、やはりナウシカが近未来の世界の戦いの中で生きるヒロインというイメージが強かったのは間違い
ないと思う。
 でもやっぱり、たまには平和で幸せな世界も実現してあげたいじゃない。誰だって不安なく幸せに生きていたい。
 だからヘルメットは外してもらい、自由に草原を飛び回るシーンを選んだ。



<草原をつくる>
 ベースボードが出来上がり、いよいよ今回の核心部分にチャレンジする段階になりました。どうやって草原を作りあげてゆくのか、ここが作品の成否を決定する最大のポイントです。



  ところが1/20スケールの草を用意するっていうのは、実はものすごく大変です。ペーパークラフトの雑草や鉄道模型用の草なんかも市販されているけれど、そんなもの使ったら
60cm×60cmの面積をうめるのに、何万円もかかっちゃう。
 ということで、ここはジオラマ用のファイバーを使うという選択肢しかなくなるんだけど、今現在の手持ちの道具だけではうまくゆきそうにない。
これまでは細かなファイバーをKATOの「繁茂」というボトルで静電気を発生させ、糊を塗った地面にばらまいて起毛させていたのですが、これだと使えるファイバーはせいぜい長さ
5mmぐらいまで。今回は1/20なので長さ1cmを越えるものも使いたいので、これでは明らかに力不足です。

 

 そこで用意したのはスタティックアプリケーター(Static Grass Applicator 植毛機)というもの、静電気を発生させて繊維を帯電させ起毛させる装置です。
 Amazonあたりでも3000円ぐらいから入手できるのですが、格安のものは中国製なので、ここはAliexpressから購入しました。(セール中だったので2000円ちょっと)
 電源は単三乾電池2本、さっそく動作テストをしてみたらちゃんと使えて一安心。端子をショートさせると盛大に火花が飛ぶ、電流自体は微々たるものでしょうが、
電圧は少なくとも数万Vはあるはずなので、ちょっと怖い。
 同じく用意したのは様々な色と長さのファイバーです。

 失敗するのも嫌なので、まずは練習です。

A カップの中にブレンドしたファイバーを入れる。
 リアルに見せたいのなら数種類混ぜるのが良い。
B ジオラマ用の糊を塗り、アース端子をスチレンボード
 に置きながら、上から植毛機のカップを振る。
C 最初の作業が終わったところです。起毛している
 んだけど密度が全然足らない。


D 上からスプレー糊を吹きかけ、更に繊維を振りか
 けます。
E ヒートガンを斜めから吹きかけて、繊維先端を丸め
 て少し倒します。
F 一連の作業を3回ぐらい繰り返したところです。
 悪くないんだけど、厚みが足りない感じです。

 例によってジオラマスプレーは効果は高いのだけど、ともかくあたりが汚れる。糊よけのための大きなシートや新聞紙は必須です。

   G  練習3回目です。スチレンボードにテクスチュアペイントを塗ってから作業を始めました。
   

 まあまあかな。最初はブラウン系のファイバーを多めにしてスタート、徐々にグリーン系のファイバーの割合を増やしていった。
 十分なボリュームを得るためには、作業は最低5回ぐらいは必要だということが分かった。
 もともとイメージしていた草原とはちょっと違ってしまったけど、これはこれで納得できる仕上がりです。


 ということで、本番を開始したいと思います。

16 まずはベースに糊をたっぷり塗り、カップにファイバーを入れて、上から振り下ろす。
17 ドライヤーで乾かしながら、作業を続けます。
 これで3回目ぐらい。
18 あえてムラをつくり薄くしたところには、ペット用の
 砂をまいて変化をつけます。

  使用するファイバーは5mm、8mm、12mmの3種、そしてそれぞれ3色ぐらい使っているので、トータルで9種類ぐらいのファイバーを混ぜています。
・ 基本はブラウン系のファイバーから始めて、徐々にグリーンのファイバーの配分を多くしてゆく、単純な変化だけど、それらしく仕上がります。



 乾燥には遠目からヒートガンを当てています。これでファイバーの先端が丸くなり、繊維に方向性が出て風の流れのようなものが表現できます。実際には更にウイッグ用の
櫛でファイバーの向きを整えました。




 これで作業7回目、一番厚いところでは草丈1cm以上のふわふわ状態になっています。


   19 部分的に草原をはぎ取り、準備しておいた石を配置しました。
   


 草原に点々と石のある風景って、よく巨石文化のあったところに見られるんだけど、自分としてはスコットランドあたりをイメージしています。
 でもこのままだとちょっと変化に乏しいので、ちょっとだけ味付けをします。



 準備したのはGREEN STUFF WORLDの背丈のある灌木と、PLATZのパウダーリーフです。



20 部分的に岩陰に灌木を差し込んで固定します。
 場所としては風に吹きさらされていないところです。
21 パウダーリーフは草の大きく延びているところを
 中心にまきます、

 表土が薄く、痩せているところに樹々は育たないのだけど、それでも岩陰にできる吹き溜まりでは灌木が育つこともある。パウダーリーフは草原を覆う植物の穂を
表現したつもりです。一般的な植物はその形がどうであれ実をつける。ジオラマに必要なのは、そういう説得力のようなのもなんじゃないかと、自分は思います。




 ということで草原の完成です。
 思っていたものとは少し違う感じではあるけれど、これはこれで納得できる景色です。
 あとはナウシカとメーヴェを配置して完成です。





<完成画像>
 ものすごく前に発売されていた(今もバンダイから出ているけど)ツクダホビーの「風の谷のナウシカ メーベ」を使ったジオラマが完成しました。



 ジオラマサイズは 1/20スケールの60cm×60cm、スチレンボードと角材でつくったベースに着色、起毛させたファイバーを接着して作ってあります。
 岩は発泡スチロールにティッシュペーパー、砂をつけて質感を出し、着色しています。
 雰囲気を損ねないよう、画像は撮影した後、メーヴェを固定するピアノ線はアプリで消去、草原も若干修正していますので念のため。
















 ナウシカはオリジナルのポーズでなく、数か所を切断し、エポキシパテでつなぎ合わせて飛行姿勢にしています。
















 ジオラマベースにメーヴェとナウシカを完全固定しているわけではないので、角度やポジションを変えることができる。だから機体が接近するシーンもこんなふうに再現できます。







 これが最初に描いたスケッチです。  青い空のもとで、超低空を自由に飛んで、空中散歩しているってイメージです。







 草原はイメージとは違う感じだけど、これはこれでまとまっていると思う。(本当は風になびく雰囲気を出したかった)
 また来年個展をするつもりだけど、こちらが展示するジオラマ作品の新作第1号となります。





2021.07
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm  / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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