eye4工房番外編
白髭食堂
<白髭食堂>
1/72スケールの新しいジオラマをつくることにしました。
場所は小田急線の「鶴巻温泉駅」北口にある白髭食堂周辺の風景です。今回もご近所シリーズ、その第4弾となります。またそんな場所なんか
知らないよって言われちゃいそうですね。
画像の白髭食堂は中で食事ができるのはもちろん、今の状況を反映してテイクアウトの種類も豊富です。自分はこちらにまだ入ったことがない
のですが、ご近所の方々に愛されている美味しいものが食べられるお店のようです。
何か面白いジオラマのテーマはないかと、いろいろ探しているときにこちらのお店が目に留まりました。
なぜこの場所を選んだのかという、その理由ですが、過去のご近所シリーズ3作は、どちらかというと田舎の風景だったので、次は少し街中の風景に
しようかなって思っていました。
そしてまずは白髭食堂という名前が良い、きっとおいしいものをつくるシェフがいるんだろうなって思う。
そして決して広くはない敷地に合わせて建てられた三角形の建物、そこに自動販売機や看板、物置、いろんなものが組み合わさって、独特のお店の
形になっている。この雑多なんだけど調和がとれているところが面白い。
おとなりはとても広い駐車場。だから駅前にぽつんと1軒だけある感じです。
1 角材とスチレンボードの組み合わせでベースボードをtくります。
早速、ベースボードを組み上げてレイアウトを考える。起伏はほとんどないので、ベースボードはもうほとんどこれで完成です。
サイズは20cm×12.5cmでこれまでのなかでも最小です。但し建物自体の複雑さを考えると、これでも製作時間はけっこうかかりそうな感じ。
<地面をつくる>
レイアウトのイメージができあがったら、次はベースボードの質感の再現を行います。
ご覧の通り、地面の部分は歩道、アスファルト、コンクリート、土+砂利という4種類があることが分かります。
2 高低差や縁石部分の凹凸はスチレンボードを張り
付けて再現します。
3 アスファルトなどのざらっとしたところは、モデリング
ペーストに砂を混ぜたものを塗って再現します。
4 砂利は鉄道模型のバラストをまいて再現します。
固定は水で薄めた木工ボンドで行います。
土+砂利の部分はまずタミヤのテクスチャーペイントをたたくようにして塗り、乾いたところで、今度は水で薄めたボンドを塗り、鉄道模型用のバラストをまきます。
これであっという間にリアルな地面が出来上がる。
5 歩道部分の模様は写真画像をプリントアウトして使います。
歩道部分の塗り分けなんてものはとても無理なので、ここは潔く不戦敗を認め、PCとプリンターのお世話になります。
実際の画像を何枚か合成してレイアウトし、これを縮小してプリントアウトする。合成には多少の手間はかかりますが間違いなくきれいに仕上がる。
実際には1cmに満たない起伏もありますが、1/72だとこれも0.1mm程度の厚さに縮小されるわけで、これは大きな問題とはなりません。
こういう細かなところに気を使わなくてよいのは1/72という小スケールであることのメリットです。
6 プリントアウトしたものをベースに張り付け、汚し塗装を行います。
アスファルト部分はダークグレー、コンクリート部分はグレーで塗った後に、薄く溶いた黒をまばらに塗って変化をつけ、最後に大量のつや消し塗料を混ぜたタンを
薄く吹き付けて埃や汚れの感じを出します。
<建物をつくる>
ここまでは順調、このあとお店をつくってゆくのですが、画像からみると小さな三角形の敷地に効率よく様々な機能が埋め込まれているのが良く分かる。けっこう複雑で
難しい形状をしている。
7 写真から割り出した大きさにカットしたスチレンボード
を組み合わせて形をつくります。
8 外壁の模様も同じく写真をポストカードにプリントアウト
したものを貼り付けてゆきます。
まずは画像をもとにしてサイズを割り出し、2mm厚のスチレンボードで外壁を組み立ててゆきます。
具体的には、実物を正面から撮影し、それをPCに取り込んでから修正を加え、模型化する1/72の大きさに合わせてプリントアウトする。そうすれば物差しをあてるだけで、
どういう大きさにスチレンボードをカットすれば良いかがすぐわかる。
問題はここから先です。壁や屋根が単純な形状であるならば色を塗っておしまいですが、こちらは様々な凹凸のある特徴的な建物です。一つ一つパーツをつくって
ゆくのも大変なので、市販されているペーパークラフト同様、撮影した画像を加工して厚紙にプリントアウトし、それを組み上げてゆく方法を選択しました。
でもやっぱりこれも面倒、画像の歪みを取り、色調を調整して、正しい大きさにプリントアウトする。それだけのことなんだけど、性格にその作業を行うのはなかなか
難しい。
いろいろ失敗を繰り返して、こんな感じで形になるまでに結局1週間近くかかってしまいました。
さらにここから様々なものを取り付けてリアルな建物へと変化させてゆきます。
ご覧の通り、建物の表面には様々なものが取り付けられていますが、これらもすべてPCのお世話になってつくりあげるつもり。
9 画像を加工して、ジオラマサイズに縮小したものを
プリントアウト。そして一つ一つを切り離す。
10 必要に応じてプラ板やスチレンボードに張り付けて
厚みを出す。
たとえば自動販売機だったら、本体部分と商品の展示部分に分けてカットし、透明プラ板をサンドイッチするように貼り付ける。そうするとこれだけで
自動販売機らしく見える。更に2mm厚のスチレンペーパーを重ねて販売機の厚みを出し、補強もかねてモデリングペーストを側面に塗る。乾いたら
これを磨いて着色すれば完成です。
11 幅2mmに切った紙を四角に折り曲げ(黄色い矢印)、ここに
ミニネイチャーの草花を埋め込めば、プランターの完成です。
7mm×2mmサイズなので1円玉にかるく乗る。
こんなものを1日に1つずつとか作っているから、作業は目に見えて進行することはない、毎日少しずつ、少しずつ・・・。
12 これは店の前に置かれた立て看板と掲示板です。
紙を重ねて厚みを出してます。
13 雨どいは直径1mmのプラ棒をライターの火で
形を整えてつくる。
14 直径2mmのプラ棒にピンバイスで穴をあけてカット
した・・・。
15 ・・・これを真鍮線と組み合わせて作ったのが看板を照らすスポットライトです。
作業はさらに続き、排気口、エアコンのパイプ、アンテナ、ゴミ箱、配電盤、手すり、マット・・・、などを追加する。
やっぱり家一軒作るのは大変です。
<駐車場その他>
ここまでがんばって、ようやく白髭食堂の建物本体ができあがりました。
でもまあこれじゃ建物がぽつんとあるだけで、雰囲気も何もないし、何かドラマの生まれそうな予感もないです。
現状、建物の左側はこんな感じです。実際には時間貸しの駐車場になっているので、今回はこれをつくってゆきます。
このジオラマは20cm×11.5cmと極小サイズなのですが、ここからきちんと前景や後景をつくって奥行きを出してゆきたいところです。これをやんないと、
ジオラマとしてのリアル感というか、説得力のようなものが生まれてこない。
実際の風景がこれ。スペースの関係で駐車場と分かる最低限の設備を取り付ける予定です。
16 写真から、実寸大のプリントを印刷し、それに合わせて真鍮線やスチレンボードから
遮断機や手すり、看板などをつくってゆきます。
今回は実際の写真をアプリで修正し、それを1/72スケールに縮小プリントしてパーツをつくることが多いのだけど、慣れてきたら、コツのようなものがつかめ
てきて、正確につくれるようになってきた。要するに正しいスケールにプリントアウトする知識があればそれほど難しい訳じゃない。(手間はかかるけど)
以前、「自分はあまり器用でないので、このようなジオラマは残念ながら作れません。」みたいなお便りをいただいたけど、たとえば四角い建物が立ち並ぶ
ような風景ならば、時間はかかるだろうけど、この方法ならそれなりに雰囲気のある街並みが作れるのではないかと思う。
少なくとも自然の風景より作りやすいと思います。(1/150ぐらいのスケールなら、細かな凹凸を無視しても、それなりに雰囲気は出ると思う)
ここがジオラマの背景となるわけだけど、背景の中心的な存在がこのミニクーパーです。これを置くことで視点がさらに増え、ジオラマの奥行きが増す。
店舗の左側は、これでさりげなくまとまったね。ここから先、今度は前景となる歩道部分を仕上げてゆきます。
次に植物の表現を行います。つくるのは3種類です。
A 歩道に続く並木道、この正面の1本だけをつくります。
B 並木の下の植え込み
C 建物背後の垣根
使う材料はこんなところです。基本はともかく多種類ストックしておいて、そのなかから相応しいものを選ぶこと。
ちなみに、そのものずばりとか、手を加えなくてもぴったりだなんてものは、ほとんどないので、基本はそれらを組み合わせて、それらしくつくるという
ことになります。
17 並木はTOMYTECの「椋」をベースにします。枝を
適当にねじり、フォーリッジを広げてつける。
18 糊スプレーを吹き付け、NOCHのパウダーリーフ
を上から撒きます。
並木はTOMYTECの「椋」を使いました。このキットには葉っぱになるスポンジ素材も入っていますが、いかにも「模型の木ですよ」みたいな感じなので、
上の説明のように作りかえる。1/72スケールとしてはちょうど良い樹の表現になります。
19 植え込みは GREEN STUFE WORLD の灌木を
そのまま使います。ちぎって貼るだけ。
20 垣根は ミニネイチャーシリーズの中のツタに、
こちらもターフをまぶしたものを使います。
植え込みにつかった GREEN STUFE WORLD とても良い出来で、ぜひ常備しておきたい製品です。
21 直径3㎜のプラ棒と透明なプラ板で、歩道の街灯を
追加しました。
1/72という小スケールなので、なかなかピントが全体に合わないのですが、雰囲気良く歩道が仕上がったと思います。
22 続いて作品全体に汚しの表現を加えます。
具体的にはこんなところです。
D 屋根やトタンの壁などに雨だれの表現を加えます。 → 溶剤で薄めたつや消しのダークグレーを細い筆で書き加える。
E 歩道や駐車場の所々に黒っぽいシミのようなものをつける → つや消しの黒を溶剤で薄め、これをちぎったスポンジにとって染み込ませる。
F ドライブラシ → つや消しのタンを少し乾燥させた状態で筆にとって、こすりつけるようにして塗る。
G 少しだけ出ている地面やコンクリートの隙間に雑草の表現を加える。 → 水で薄めた木工ボンドを塗り、上から緑色のパウダーをまく。
すべての作業が終わったところです。20cm×11.5cmという、ごく小さなジオラマではありますが、樹木とか駐車場の小物とかいったものを追加すると、
奥行きが出て、俄然様になってきた。
ジオラマって実在するシーンや自分のイメージした空間を「切り取る」という作業をするわけだけど、いったいどの部分を切り取るかという、一番最初の
選択がいちばん大切かもしれない。
<フィギュアの追加>
ここまでの作業で食堂と手前の歩道、隣の駐車場がそれらしく出来上がった。
ドールハウス的にはこれで完成としても良いのですが、日常の1シーンを再現するという自分の考えからすれば、基本的にここはちゃんとフィギュアを
置きたいところです。というか、どういうフィギュアを置くのかは、制作しながらずっと考えていたことなんだけどね。
ストックしておいた多数のフィギュアから人選を行います。自分の場合、フィギュアはNゲージとHOゲージを合わせてAmazonの小箱1箱分ぐらいの
在庫があるんだけど、その大半はヤフオクで仕入れたものです。
ずっと以前に、鉄道模型のフィギュアやストラクチュア、いろいろ取り交ぜて1箱2500円みたいな出品がヤフオクにあって落札したんだけど、考えて
みたら何らかの理由で持ち主は製作を続けられなくなってしまったんだろうな。そう考えると乱暴な扱いなどできない、大切に少しずつ使わせていただいて
います。
23 フィギュアの修正と塗装を行います。
そして選んだのはこの7体です。すべては Preiser 社のHOゲージ用フィギュアで、3体は完成品、あとの4体は無塗装のもの。
なぜこの7体になったのかは追々説明するものとして、早速修正と塗装を行います。
A これらは完成品だった3体に手を加えたものです。
自転車の男性はハンチングを脱がせて、首にタオルをかける。自転車の荷台にバッグを追加しました。子供は白シャツにデニムのジーンズに変更。
女性は左手にスマホを持たせ、髪をショートに変更する。
Preiser のフィギュアは今見てもとても良くできているのだけど、基本的にはもう数十年も前の金型を使っていたりするので、現代風にアレンジする
必要があります。また人種的にもファッション的にも日本人とは全然違うので、少なくとも全塗装するぐらいのことは考えなきゃいけない。
B 無塗装の4体です。
こちらにはザックやウエストバックをまずは補います。
この鶴巻温泉駅は丹沢大山国定公園の入口の一つ、比較的に難易度の低い山々が続いているので家族連れも多いところです。だから休日の朝、
みんなでハイキングにやってきたみたいな、明るい雰囲気を演出したい。
ちなみにHOゲージのフィギュアは1/87スケールで身長が2.1cmほどに統一されています。これを1/72のジオラマのなかで使うと身長がだいたい
150cmぐらい。西洋人に比べてやや身長の低い日本人なら、スケール的にはまあ使える。
但しこれは女性フギュアに限ったことで、男性フィギュアは低すぎる、だからお父さんフィギュアは真鍮線とエポキシパテで3mmぐらい身長を高くしました。
2体はよくありがちな格好をした夫婦に仕立てた。そしてあとは迷彩柄のレギンス姿のハイカーと、ビデオカメラを手にした娘
こちらは実際の風景です。正面の歩道をすすんでゆくと、弘法山という人気のハイキングコース、途中、鷹取山から大山に向かうという健脚コースもある。
この画を見ながら配置を考えます。
24 更に歩道に道標を追加します。
フィギュアのレイアウトを考えていたら道標が欲しくなった。道標は実際には存在しないものだけど、駅前でもあることだし、こういうものがあると更に
それらしく見える。
早速地名をPCで印刷し、つまようじとの組み合わせでそれらしいものを作った。
<完成画像>
小田急線「鶴巻温泉駅」の北口に実在する白髭食堂というお店周辺を1/72スケールのジオラマで再現してみました。もちろんキットなどあるはずもなく、基本、
すべて手作りです。
ベースの大きさは20cm×11.5cmとこれまでつくったなかでも最小サイズです。画像からの印象は大きく見えるかもしれませんが、フィギュア1体の
身長が2cmちょっとしかありません。
基本は手作りですが、こちらのミニクーパーはミニカーの完成品、フィギュア7体は既製品のリメイク、もしくは無塗装状態のものに手を加えてペイント
したものです。
こちらが実際の風景です。
ここは鶴巻温泉というと都心から最も近い温泉街として知られるところ。その中心的な存在は「陣屋」という老舗旅館で、こちらでは王将戦をはじめとする
将棋のタイトル戦が300戦以上も開催されているということです。
実のところ、こちらのオーナーと宮崎駿監督はご親戚のご関係だそうで、子供の頃には監督自身もこの旅館でよく遊んでおられたとか。
でももちろんローカル線のひなびた温泉街とはやはり趣が違う。
こちらの駅の乗降客数は1日1万5千人、東京都心まで1時間少々ということもあって、駅周辺は開発がすすんでいる。
ただ駅を少し離れれば、豊かな自然に親しめるところで、丹沢大山国定公園の入口の入口の一つとしても知られているところです。また家族連れで
楽しめるようなハイキングコースもあって、春や秋はそれなりに観光客やハイカーで賑わいます。
そしておそらくは、その誰もが目にする食堂がこの「白髭食堂」さんというわけです。
このジオラマは春の休日の朝の風景を再現してみました。弘法山ハイキングコースに向かう家族連れ。
大山南陵の縦走コースに一人で向かう女性。
行ってみれば分かるけど、春先は実際こんな明るい雰囲気です。
ジオラマっていろんなタイプのものがあるけど、とことんリアルを追求するというのでなく、こういう頷けるもの、共感できるものがやはり好き。
もうちょっとで暑い夏も終わる。そうするとまたこの駅周辺もハイキングにやってきた人で賑わうようになることと思います。そしてベストシーズンは
やっぱり紅葉の頃かな。
ちなみに白髭食堂のご自慢はジビエ、陣屋は森のようなお庭を眺めながらのコーヒーがおすすめ。
(もちろんお金があれば食事や宿泊も良い、比較的リーズナブル)
あとこの近辺のお土産は農産物直売所のお野菜がいちばん。あとはお隣の町になりますが、菊勇というお酒もおすすめです。
2021.09
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10
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