eye4工房番外編

風の谷のナウシカ 「オームとナウシカ」



<オームとナウシカ>

 メーヴェに乗ったナウシカのジオラマが完成したところで、次のジオラマの制作にとりかかります。
 実は押し入れの整理をしていて、大昔につくったプラモの中にあと2つ「風の谷のナウシカ」シリーズを見つけていました。
その一つがこの「オームとナウシカ」という作品です。



 劇場版アニメのなかで、酸の海に入ろうとするオームのこどもを、身を挺してナウシカが制止するシーンを再現したものですね。
スケールは1/20、フィギュアの身長は8cmほど、オームは15cmぐらい。



 パッケージがこれ、やはりこれもツクダホビーから発売されていたもので、現在も同じ金型のものがバンダイから発売されています。
キットにはこのほかにテト、重機関銃、オームのこどもに打ち込まれたモリなどが入っていました。
 でも模型とはいえ、さすがに可哀そうで、オームの子にモリを打ち込もうとは思わなかったな。



 実はこの模型を見た瞬間に、ジオラマのイメージは出来上がっていた。
 スケッチはオームとナウシカが対面してお話しているところです。



<ナウシカのリメイク>
 ジオラマのベースはシンプルな草原にして、オームも基本はそのままにするつもりですが、手間がかかりそうなのはナウシカの方です。
 決して模型として良い出来とは言えないので、ポーズを変えつつ衣服の部分は完全に作り変えるつもりです。あとは髪型以外は全く似て
いない、そして少し歪んでいる感じのヘッドをどれだけ修正できるかが最大のポイントだと思う。
 1/6だったらなんとかする自信はあるのだけど、1/20だと正直、厳しいかもしれないです。



 リメイクプランをまとめるとこんなところです。
A ポーズとしてはオームと対話しているシーンにする。具体的にはナウシカは直立させる。
 そしてというか、残念ながらプラモデルとしてはあまりナウシカに似ていないし、表現なども今一つなので、衣装とか顔の造形なども
一緒に手を加えてしまおうと思う。
B ウミガメのマークの入ったおなじみの衣装から、普通の女の子の着るような、タンクトップ+ワンピースに着替えてもらう。
C 髪の表現が昔風で、少し暑苦しい感じなので、ちょっと短めにカットする。
D 最大の問題はやはり顔の造形で、特に正面から見たときに小太りな感じで、しかも彫が深すぎる。1/20スケールだと厳しいのですが、
 できれば似ていなくても少しだけ可愛い感じにしたい。 

1 いったんばらばらにして、衣類の部分をすべて削
 り取ってゆきます。
2 関節部分をカット、ピンバイスで穴をあけて直径1mm
 の真鍮線を通し、エポキシパテでつなぎます。
3 顔は手を加えられないところもあるけど、とりあ
 えずはヘアーを削って小顔にする。

 結局は全面的な作り変えで、そのまま使うのはポシェットと剣だけ、これだったら新規に1/20のフィギュアをつくってもあまり
変わらないかもしれない・・・。

4 磨いて基本的な塗装をしてみた。パンツは黒い糸で
 輪郭をつくりました。
5 ボディのバランスが良くないので更にウエスト部分
 と足をエポキシパテで延長しました。

 両手を差し出すポーズは自然で良いのだけれど、何かフィギュアのバランスが悪い。上体が大きくて、全体が6頭身に満たない。
そこでウエスト部分を3mm、足首も3mmほどエポキシパテで延長してバランスを取った。
 下着を作るなら、接着剤のついた糸を巻き付けて輪郭を描くのが一番簡単です。1分もあれば出来上がってしまう。但し、このあと
スカートを巻き付けてしまうので、あまりちゃんと作らなくても良かったかも。
 スカートやワンピース姿のナウシカって、幼少期の描写以外では単行本のなかでも描かれていないので、完成したらきっと新鮮
に見えるに違いないと思います。



<おまけ>
 宮崎アニメに出てくる主人公の女の子は、誰もが快活で健気で応援したくなっちゃう。少なくともその点で、自分はブレのない初期の
作品が特に好きです。
 ルパン三世カリオストロの城」、「風の谷のナウシカ」、「天空の城ラピュタ」というところが、世界的にも名前を知られるようになった
初期の作品だけど、実際にはそれらの作品を彷彿とさせるような、アイディアやキャラクターがそれ以前にもあったことはよく知ら
れるところです。



 環境が破壊された近未来を描写した独特な世界観は、「シュナの旅」という作品にも描かれています。「風の谷のナウシカ」は
見たけれど、という方にはぜひおすすめしたい作品です。
 主人公シュナのお相手がテアという少女なのですが、ナウシカのキャラクターに重なります。
(古い作品ですが、単行本はまだまだ入手可能)
 あと画像はご紹介できないのですが、テレビ版ルパン三世の第二シーズン「さらば愛しきルパン」では、「天空の城ラピュタ」に
出てくるロボット兵がプロペラ推進であることを除けば、ほぼ同じ姿で出てきます。
 宮崎監督はテレビシリーズで2本だけ制作を手掛けているのですが、これはそのうちの1本で、もしかしたら復刻版をどこかで
販売しているかもしれません。この作品でも悪人に手を貸さなければならなくなった小田切マキというキャラクターが、やはり
どことなくクラリスにつながる感じです。
 そしてこれらの作品では、見た後に登場人物のその後を想像したくなる。そういう発展性のようなものが更に作品の奥深さを
増しているような気がします。

6 フィギュアのサイズに合わせて少しずつ布をカットして貼り付けてゆきます。

 小さな布をつなぎ合わせるなら、布用接着剤を使うのが便利です。(自分は昔から「さいほう上手」を使ってます)
 縫うなんてことはできないので、基本はカットした布はこれで組み立てる。また裏側からうすく塗布すれば、布のほつれ防止にも使えます。

   7 最後に顔のメイクを行い、トップコートして完成です。
   

 顔の造形はふっくらとした頬を削り、それにあわせて首も一回り細くした。口の形はデザインナイフで「笑顔」を感じる
形に整えた。全体として彫が深すぎたので、目の位置には瞬間接着パテを流し込んで浅くし、細筆で目を描き込む・・・。
 ヘッドの大きさが1cm程度しかないので、自分の腕ではこれが限界です。
 決して似ているわけではないけれど、遠目には少し可愛くなったかと思う。

 

 少しPCでシミュレーションもしたのだけど、このフィギュアで正面からの姿をナウシカに似せるのは困難だと思った。
改めて漫画を見たのですが、正面からは平面的に描かれているんだけど、横顔は彫が深い。
 これを両立させる造形って自分にはできそうにない。
 横顔は正面からよりもずっと良い、角度によってはナウシカに少しだけ似ているかな?

 ただここで心配になったのは、もしかしたらナウシカだと気付いてもらえないかもしれないってことです。
 ウミガメのマークの入った飛行服を着せてしまえば、たとえ似ていなくてもナウシカだと理解してもらえるのだけど、
着せ替えてしまったので、「これ誰?」って人もいるかもしれない。
 そこで腰には例のセラミック刀とポシェットを取り付け、耳には赤いピアスなどの装飾品もつけてみた。これであまり
見たことのない人も「もしかしてナウシカ?」って気づいてくれるかもしれない。
 このあたりは気を使う。



<ベースボードをつくる>
 オリジナルのプラモデルとはかなり違うナウシカが仕上がりました。このあと草原を再現して、この上にナウシカとオームの子供を
配置して終わりにするつもりだったけど、考えてみたら「ナウシカ」のジオラマはこれで3作目、これまではいずれも自然豊かな情景
ばかりでした。
 このままだと背景的に代わり映えがしない。
 そこで予定変更、この作品は人の作った風景のなかのシーンにしようと思い立った。 ということで、次はそのベースづくりをすること
にします。



 イメージはこれです。ラフで申し訳ないですが、ナウシカとオームの子供が語り合うシーンを、すでに遺跡となった宮殿を
背景にしてみてはどうかと考えた。
 隙間から草や苔の生えた石畳の中庭、そしてそこに円形の池が2つあるというイメージです。


   8 2mm厚のスチレンボードの上に、0.5mm厚の厚紙を切って、少し隙間を確保しながら
    貼り付けてゆく。丸いところは後でくり抜いて池にする予定です。
   

   9 塗装の基本は、まずは石の質感を表現をした後で着色、そしてエージング処理を
    行います。
   

 石畳のざらっとした質感はペット用の砂(トイレ砂)を混ぜたモデリングペーストを塗り付けることで表現する。そして乾燥後、
ざっと色をおいてゆき、最後に艶消しのタンにダークグレーを混ぜたもので濃淡をつけて塗り分けてゆく。


  10 石畳の表現(上層)、池の部分の厚み(中層)、そして全体のベースになる部分(下層)
   の3つです。このうちまずは真ん中と下を接着します。
   


11 透明エポキシを流し込む準備として、池枠と底板
 の間をボンドで目止めしてから、グレーで着色。
12 トクサを枯れ枝からつくり、池の底にペット用の
 砂をまいて土の表現にします。

13 透明エポキシを規定量調合、そこに着色剤を
 添加したあと池に流し込みます。
14 手持ちの造花類を接着して形を整えてゆきます。
 最後に軽く色を加えて池は完成です。

 追加した花は、1/6スケールのドール用髪飾りとして売られていた花冠をばらしたものです。形を整え、必要に応じて真鍮線で
茎をつくります。あとは生け花の要領で先ほどの池に植えてゆく。(といっても生け花を学んだことはないのですが)
 今回、透明エポキシには青と緑の染料に少量の赤を混ぜて、少し濁った青緑色に調色しています。流し込みは一気に行わず、
まずは少量、そして様子を見ながら全量を流し込みます。

 次に石畳の方ですが、こちらは隙間から草の生えているような感じに仕上げます。

15 スタティックアプリケーターのカップにブレンドした
 ファイバーを入れる。
16 石畳の隙間部分に糊を塗っておき、上からファイ
 バーを振りかけて乾かします。

 用意したスタティックアプリケーター(Static Grass Applicator 植毛機)というもので、静電気を発生させて繊維を帯電させ起毛
させる装置です。
 (自分は格安のものを中国から2000円ちょっとで取り寄せました。amzonあたりでも売っている)
 準備の手順としてはこんな感じです。
1 スタティックアプリケーターのカップの中にブレンドしたファイバーを入れる。
 (リアルに見せたいのなら、長さや色の違うもの数種類混ぜるのが良い。)
2 今回は石畳の隙間部分にジオラマ用の糊を塗る。
3 アース端子を金網に接続し、その上のボードを置いて上からアプリケーターのカップを振る。 



 糊を塗った部分だけにファイバーが張り付いて、こんな感じで石畳の隙間から草が生えている感じが表現できます。
  このあと先に完成していた池の部分と組み合わせて、ベースボードを完成させる。



 池のまわりはもう少し緑が濃い方が良いと思い、水で薄めた木工ボンドを塗り、上から緑のパウダーを振りかけて苔の表現を
加えました。



<オームの仕上げ>
 べースが形になったところでオームをこの上にのせてみた。
 説明書どおりのカラーリングでも悪くはないのですが、今一つオームがベースに馴染まない。まずは平坦な感じのその色合い、
そして作品としてのクオリティ。ベースや背景に細かな表現を加えれば、登場人物にはそれ以上のクオリティが求められるわけで、
背景より登場人物の方があっさりとしているというのは、やはりバランスが悪い。

17 全体にグリーン系の塗装を行い、そのあとペット
 用の砂をまぶす。
18 再び部分的に糊を塗って、鉄道模型用のパウダ
 ーを振りかけて、苔の表現を加えます。
19 最後に触手を0.5mm径の真鍮線で追加しました。
 プライマー処理してからクリアーオレンジで着色。

 塗装についてですが、まずは全体に薄くグリーン系の塗装を施し、背景の色合いに馴染ませる。そのうえで陰になる部分は
やや暗いグリーンで、明るい部分は艶消しのライトグレーの吹き付けを行い、全体のコントラストを上げた。
 ちなみに主役を目立たせる塗装としては、目立つ色合いにする(彩度を上げる)、明るい色にする(明度を上げる)、コントラスト
を上げるという3つの方法が考えられますが、リアル系のジオラマであればコントラストを上げるという選択肢がもっとも自然である
ことが多いです。
  存在感やリアル感を増すという意味では汚し塗装も大切です。
 今回は砂汚れを選択し、糊を塗ったあとでペット用の砂をまぶした。あとはタンに艶消し剤を混ぜたものでドライブラシを行う。
 さらに追加したのは背中の苔、オームって脱皮しながら成長してゆくものなのだけど、森の中を移動してゆくうちに苔が殻に
生えてくることは、可能性として十分にありうる。
 説得力というか、現実感はこういうところをどれだけ表現できるかどうかに関わってくるものだと思う。やはり想像力は大切です。



 何か表情のようなものが出てきてちょっと可愛い。本当にこういう生き物がいたらペットにしてもいいかな・・・。


<最後の仕上げ>

 想定していたイメージに近い登場人物が出来上がった。但し、ベースボードの方があっさりしすぎている感じもする。 ずっと昔、
科学文明の繫栄していた時代につくられて宮殿の遺跡、今それが森に飲み込まれようとしている臨場感のようなものを出すのなら、
もっと植物は多い方が良いかもしれない・・・。予定変更で更にここから植物の表現を追加しようと思います。

20 5mm厚のスチレンボードをカットし、少し角をとっ
 て着色、汚し塗装をして石材を仕上げる。
21 ジャンクパーツのなかからつる性の植物を探し、
 着色します。

 植物の繁茂とともに、建造物は崩壊してゆくというのが自然な流れ。そこで崩壊した建物の一部として、散乱する石材をつくってみた。
 つる性の植物はSD用の花冠をばらばらにしたもので、もうこういうところは「使えそうな」雑品をどれだけストックできているかが勝負だね。




 あとメインで使うのはこちらのWAKOのペーパークラフトです。様々な種類が発売されていてリアルに仕上がる。ただしそれなりの
お値段がするので、大量には使えないのが残念です。


22 まずはパーツを着色するところから始めます。
 単一色でなく、色の変化をつけるのがポイント。
23 乾燥したら、パーツ一つ一つの形を整える。組み
 立てはそのあと。

 右上の画像はこのペーパークラフトを筆のお尻側で押して、全体に緩やかなカーブをつけているところです。制作のポイントは
それらしく着色することと、組み立て前に本物らしく形を整えるということです。
 大きさ1cmの紙パーツを、植物の本来の形状に整えるのはけっこう難しい。




   24 飾り付けるものを仮置きしてバランスをとり、そのあと1つ1つ固定してゆく。
   

 配置するにあたっては、池の周りを密度高く、そしてそこから植物がひろがってゆくような感じをイメージした。池の水によって
周辺の植物が育まれているのであれば、おそらくはこういう配置になるに違いない。
 使う素材こそ違うけど、生け花みたいなものかな? ちなみに自分は生け花を勉強したことはありませんが。
 とりあえずここでオームをのせてみた。配置と色合いのバランスも良い。あとはもう一人の主人公を固定する前に一工夫して完成です。



<完成画像>
 2ヶ月にわたって、ちょっとずつ作業をすすめていた新しいジオラマが完成しました。
 20年以上も前につくった「風の谷のナウシカ オーム」というツクダホビーのプラモが原型になっています。



 ジオラマサイズは32cm×22cm×11cmで、そのスケールは1/20です。(ナウシカの身長は8cm)
 この作品で表現したシーンはアニメや単行本にはなく、自分のイメージした空間を再現しています。



 月間アニメージュではトルメキアとドルクの戦いに一区切りついたところで、その最終回となりますが、自分としてはその後、
再び世界に平和が訪れつつあるシーンを再現したかった。
 腐海がその勢いを失い、旧世界の遺跡に再び足を踏み入れると、そこに過去に存在していた植物が再び繁茂し始めていた。
そこでナウシカはオームの子供に出会うといった感じです。



 このジオラマ制作の最後の作業は、オームの子供の触手に花一輪を持たせて位置調整すること。
 何か今回は、このジオラマを完成させるのがちょっと惜しい感じがした。もう少し作り続けていたい気持ちになるぐらい、作っていて楽しかった。
 旧世界の遺跡で出会ったオームの子供から、お花のプレゼントをもらうだなんて、このシチュエーションだとありそうな気がしませんか?




 風の谷のナウシカというと、戦いに明け暮れる少女の物語というイメージがあるけれど、やっぱり誰だって心穏やかに暮らしたい
はず。だからそれを再現してあげたいなと思ったのが、このジオラマをつくったきっかけかな。
 青いタンクトップに白いワンピースという、一見活動的でない服装なのも、平和な世界が訪れつつある証です。
 ワンピースを着たナウシカをつくった人って、ほとんどいないと思う。ちょっと新鮮で良い。







 長い時間を経てもなお水を供給し続ける水源、それが様々な植物を育んでいる。
 スチレンボードと角材でつくったベースボードに、厚紙とスタイロフォームで池と敷石をつくっています。水は透明エポキシの流し込み。
植物は静電気による植毛、WAKOのペーパークラフト、その他雑多な鉄道模型のパウダー類等を用いて作っています。










 平和な世界が訪れつつある状況を再現したかったと最初に書いたけど、現実世界においては、戦争や争いのない平和な時代って、
過去一度も実現したことがないし、またその見通しもないというのが現実です。
 風の谷のナウシカのテーマは重いです。



 風の谷のナウシカは単行本で全7冊、アニメになった内容はまた少しストーリーが違っていますが、いずれもそのエンディングは
きちんと語られていません。
 もう一度、宮崎駿監督が風の谷のナウシカに取り組んで、その話を完結するということはないように思うし、むしろその方が良いと
思う人もいるかもしれない。自分もそうだけど、話がひととおり語られた段階から、新たなストーリーが自分の中で展開していった
という人も多いと思う。




2021.10
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm  / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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