eye4工房番外編

青い空



<新しく1/3ドール用の背景をつくる>

 大きい人形の方は nao くんのリメイクが完了、ジオラマも「時計塔のある風景」が完成。全体として一段落したところですが、一つが終わったらまた
一つが始まる。



 新しいお人形も増えてきたので、今度は1/3スケールドールの展示用のジオラマを作ってみることにした。テーマは何にしようか考えていたら、壊れ
かけた椅子が目にとまった。確か10年ぐらい前につくったもので、1~2回撮影のときに使って、あとは一輪挿しの置台になっていたものです。
 雰囲気は悪くないので、組み直してこれまで以上に頑丈なものにした。(上の画像)

 少し気の利いた背景をつくってやると、ドールの見え方も俄然変わってくる。
 「記念撮影するならこんな場所がいいな」そういうことをイメージしながら作業を続けます。このあたりはドールも人間も同じです。


1 背景になる板塀をつくります。材料は100均で買っ
 てきたスチレンボードと角材です。
2 スチレンボードは横に細く切ったあとで、角材に
 張り付けてゆ。これは裏側の様子です。
3 木目調の化粧シートを貼った後、つや消しのブラ
 ウンを塗りひろげて少し色を落ち着かせる。

 市販の木目調シートを貼っただけだとあまりに平坦な感じです。そこで部分的にダークブラウンをさっと塗り、ティッシュペーパーで塗りひろげるという
作業を繰り返す。こうすることで木目に変化がでてくる。
 次はテラスの床部分をつくります。

4 5mm厚のスチレンボードに1~3mmの厚さのスチ
 レンペーパーをランダムに張り付けます。




 これが途中経過、この段階で全体のバランスなどを見ます。100均で買った造花を添えたら、何となく形になりそうです。


5 石畳の隙間にモデリングペーストをベースにした
 接着剤を流し込みます。
6 この隙間にペット用の砂を撒いて、コンクリートの
 ような感じに仕上げます。

 木工ボンドの空になった容器に、グレーに着色したモデリングペースト、水、木工ボンドを入れて、注入できる充填剤のようなものをつくりました。
隙間にこの充填剤を流し込み、すぐにペット用のトイレ砂を撒きます。

   7 完全に乾燥したら、今度は水で薄めた木工ボンドをスチレンペーパーの表面に塗り、再び全体にペット用の砂を撒く。
    これを何回か繰り返すと、ご覧のように見事な石畳の完成です。
   



<デコパージュ>
 椅子、石畳、そして背景になる塀の部分が出来上がって、とりあえずは形になってきた。もちろんこのまま終わりという訳ではなく、様々な演出を加えて
リアルな感じに仕上げようと思います。まずは塀の部分に一工夫したい。
 雑貨屋さんで気の利いたパネルを買ってくるとか、100均の鳥かごを吊るしてみるとか、時計を取り付けるなどいろいろなアイディアはあったのですが、
今回はここに絵か写真を張り付けてみることにした。

 いったい何を張り付けたら良いものか、そうでなければ実際に絵を描いてしまうか、いろいろ考えているうちに、ちょっと良さそうな昔の雑誌を見つけたので、
久しぶりにこれをデコパージュで処理しようと考えた。



 幸いすべて100均で道具は揃う。デコパージュはそれ専用の液が売られていて、乾くと透明なフィルムになるもの(右)、白いフィルムになるものもあって、
これは暗色のパネルに貼るときに使う(中)、そして表面保護のコーティング液(左)、この3つがあれば、とりあえずこと足りる。
 久々だったので、まずは小さな紙きれで練習しました。


8 まずは透明デコパージュ液を貼りつける雑誌の
 表側に何度か塗り重ねます。
9 表面に十分な厚さの透明層ができたら、これを裏返
 して水を含ませ、裏側をはがし落とします。

 張り付けるのは1959年に発行されたアメリカのLIFEという雑誌です。少し黄色くなって良い感じ。あまり大きいと作業がやりにくいので、上下を2分割しました。
 まずは透明デコパージュ液を表面に落として筆で全体に塗りひろげます。そして乾いたら更に塗り重ねるという作業を8回繰り返しました。本来は3から5回
ぐらいで良いのですが、今回はサイズが大きいので強度を考えて多めに塗り重ねた。
 これでこの表面の印刷がデコパージュ液によってつくられる透明膜に取り込まれることになります。
 今回は古い雑誌を使いましたが、市販のデコパージュ用のシートもあるし、写真なども使える。
 なお普通のプリンターのインクは水溶性なので作業中に滲みやすいです。お店にあるレーザープリンターを使った方がうまくゆきます。
  完全乾燥したところで裏返し、水を染み込ませて指でこすると、ポロポロと紙が剥がれ落ちてくる。すると残りはデコパージュ液の透明膜とそこに取り込まれた
表面印刷だけになるという仕組みです。

   10 板塀に白いデコパージュ液を塗って、出来上がったシートを張り付ける。
    乾燥したらつや消しクリアーを吹き付けて調子を整えます。
   

 シートを張り付けるには、接着剤として乾くと白くなるタイプのデコパージュ液を使います。出来上がったシートはとても薄くて透き通っている感じなので、
下地が暗色の場合には白くなるデコパージュ液が向いている。シートは極めて薄いため、ご覧のようにまるで絵を描いたような感じに仕上がります。
 あえて白のデコパージュ液をはみ出すように塗っているのも「手書き感」を出すための演出です。あとつやがあると「絵」の感じに仕上がらないので、
今回は表面保護のコーティング液は使わず、Mr.カラーのつや消しクリアーを吹き付けて仕上げました。




 こんな感じで椅子、壁、地面ができあがりました。
 次の作業は、これらに手を加えて板塀は板塀らしく、石畳は石畳らしいリアルな質感を再現してゆきたいと思います。


11 塗装でざらっとした感じに仕上げた後、鉄道模型
 用のパウダーで苔を表現します。

まずは地面から
1 多めに艶消し剤を混ぜたMr.カラーのホワイト、タン、ブラウンを用意してまばらに着色して変化を出します。
2 そのあと水で薄めた木工ボンドを隙間に塗り、鉄道模型用のパウダーを3種類ぐらいブレンドしてその隙間に落とし込みます。 (上の画像)
 これで少し苔が生えた感じの石畳ができあがる。


12 壁の下の方に木工ボンドを塗った後、ペット用の
 砂を撒く。
13 更にペイントの劣化や雨だれなどを筆で再現して
 ゆきます。

次は壁です
3 水で薄めた木工ボンドを塀の下の部分に塗り、ペット用の細かな砂を撒く。
4 乾いたところで余分な砂をサンドペーパーで落とし、上からつや消しクリアーを吹き付けて固定します。 (上の画像)
5 デコパージュしたところが白すぎるので、全体に薄めたブラウン系の塗料を塗って、少し日焼けした感じを出します。
6 多めに艶消し剤を混ぜたMr.カラーのホワイトとダークグレーを用意し、溶剤で色が微かに分かる程度に薄めます。そしてそれぞれを適宜、
 筆を縦使いにして塗り重ねてゆく。(上の画像)
 
 これで雨だれや、埃をかぶったあとに雨で流されたような変化を加えます。




 これが仕上がったところです。とりあえず組み上げて雰囲気を見る。




 100均で買った造花を置いて完成としたかったのですが、実際に置いてみたら何か今一つな感じ。これだと植物の方が目立ってしうので無い方が良いかも・・・。
でも何もないと少し寂しい感じです。ということで、空間のバランスをとるために若干の方向転換をします。



<空間のつながり>

 ここから先は作品作りから少し離れて、 ジオラマを制作する上での空間のつながりのようなものについて、思うところを述べたいと思う。但し自分自身は理系人間で、
芸術そのものの専門知識は学んだ経験はないので、もっと良い話をしてくれる人もいるかもしれませんが。




 絵画やジオラマというのは、実物の存在があるかどうかは別としても、何らかのシーンを「イメージとして切り取る」というところからスタートすると思う。
 上は球体関節人形を壁面に埋め込んだStratum(地層)という作品です。(1/3スケール90cm×60cm)
 この場合には人形とそれを含む地層を適切と思われるサイズに切り取っている。地層の長方形が作品のすべてであり、それ以外の空間的なひろがりはない。
多くはこの空間内ですべてが完結しているので、必要に応じて額や展示台などを使い、外側の(見る側の)空間から切り離すことが、展示の際には効果的だったり
する。


 

 こちらは「小さな丘 春」という作品です。(1/150スケール  25cm×20cm)
 特殊な場合としては「イメージをすべて表現する」というのもある。このジオラマの主人公は家族の墓標を訪ねてきた一人の女性です。もちろん右の画像部分だけを
切り取るという選択肢もありますが、見える範囲全てを表現することで、彼女がとても長い時間をかけてここにたどり着いたという感じが伝わってくる。
 現実世界は開かれた空間、それを開かれたままに表現するのは小スケールのジオラマの醍醐味です。




 最近自分がよくやるのは部分的に開かれている空間の再現です。
 こちらはアイルランドのとある街角を切り取った「旅立ち」という作品です。(1/3スケール 底面は1辺が50cm程度の不等辺四角形)
 スペースとしては大きくはないですが、あえて底面を不等辺の四角形にすることで、遠近法的な効果が出てくる。画像の左側の黄色い矢印の方向に空間が収束してゆく
感じがあって、壁や歩道が本当はもっと長く続いている、そういう空間のつながりがあることを見る者にイメージさせてくれる。




 こちらは最近完成させた「そして誰もいなくなった」という作品です。(1/6スケール 80cm×50cm)
 上の作品が左右に開かれたものだとすれば、こちらは上と背後に開いている作品です。時計塔や化学系の工業プラントの一部を壁からはみ出すように配置して、
人間の住む世界を圧迫するようなイメージを与えたつもりです。
 一般には空間を切り取って長方形や直方体の中に押し込めるという、そういう表現の作品は多いのですが、空間のつながりを意識して、表現していないところまで
想像させることができると、迫力や説得力のようなものが出てくるように思う。
 試行錯誤ではありますが、自分としてはジオラマ表現の様々な形にチャレンジしているつもりです。


 話は元に戻って今作っている作品をどうまとめるかについてです。
 100均の造花は緑色が目立ちすぎて、人形が引き立たない。また空間がすべて閉じてしまう感じになるので解放感がなくなる。
 そこでイロハモミジを背後から伸ばして上に開いた空間を演出することにしました。

14 モミジの画像を加工して様々な色合いのイロハ
 モミジをつくりました。
15 プリントアウトした後に、裏側はパステルカラーで
 着色しました。
16 表面をコーティングしたら、少し柔らかいものの
 上で形を整えてゆきます。

1 手持ちの写真からモミジの葉を切り出し、様々な色合いに変化させたものをプリントアウトします。
2 そのプリントをデザインナイフで切り出す。(上の画像)
3 裏側は白いままなので、パステルをカッターで削り、その粉を綿棒にとって裏側を着色する。
4 造花の芯(手芸用)をボンドで取り付け、この芯も葉の色に合わせて着色します。
5 全体にMr.カラーのつや消しクリアーを吹き付けてコーティングします。(これをしないといずれボロボロに劣化してゆく)
6 強度が出たところで、マウスパッドの上で筆の軸をこすりつけ、形を整えてゆきます。
 この作業が最も大切なところで、それまで単なる紙切れだったものが一気に本物らしくなる。(上の画像)


   17 0.5mmのピンバイスで穴をあけ、制作した葉を着色した枝に取り付けてゆきます。(この枝も手芸用のものとして販売されている)
   


   18 特に赤く染まった3枚は枝に取り付けないで地面に接着しました。
     手持ちの素材の中からターフとさかつうのファインリーフを選び、これを石畳の隙間に詰め込んで変化をつけます。
   


19 背景の塀にはその隙間の部分に水で薄めた木工
 ボンドを塗り、パウダーをまばらに接着する。

 最後の方の演出は全体に比べれば微々たるものなのだけど、これをやるのとやらないのでは結果が全然違う。数段ジオラマとしても説得力が増します。



 比較的に雨の多い日本では、苔が小さな隙間に生えている場所をよく見かける。そして季節は秋、外に椅子を持ち出して本を読むのだから、比較的暖かい日中、
おそらく彼女の目にはイロハモミジを透かして青い空が見えているに違いない・・・。
 いろいろ考えはあるとは思いますが、こういうシチュエーションが自然に見えてくるようなものが自分は良いと考えています。
 リアルという言葉はもちろん本物に近いことを意味するものですが、ここにはもう一つ、ある空間の中に破綻のない世界がひろがっているという意味もあるのでは
ないかと思う。だとすればたとえ架空の世界であっても、リアルな空間が存在するのは間違いない。
「あ、どこかにありそうな風景だな・・・。」などと思わせたら成功じゃないのかな。



 1/3ドール用の展示背景が完成したので、オリジナル球体関節人形 ayumi をモデルにして撮影をしてみました。
 イメージとして浮かんだのは、ぽっかりと上に開いた屋上のテラスでの1シーン。









 背景はスチレンボードに木目シートを張り付け、そこに1949年に印刷されたLIFE誌の表紙をデコパージュしてつくったものです。




 上から伸びるイロハモミジは、実物の画像をプリントアウトしたものをもとに自作しました。




 モデルドールは ayumi
 仕様:身長52cm(1/3スケール)テンションゴムを用いたオリジナル球体関節人形(2005年制作、2020年及び2021年にリメイク)
  素材:ラドール、モデリングペーストによる表面仕上げ グラスアイは組み込み、ドールヘアはウイッグ、リキテックスとMr.カラーによる着色
     つや消しウレタンクリアー及びMr.カラーのつや消しクリアーのコーティング







 
椅子を持ち出して本を読んでいたら、風に吹かれたイロハモミジの葉が何枚か舞い降りてきた。


 

 舞い降りてきたイロハモミジの1枚がそのまま栞になる。

 石畳はスチレンペーパーをペット用の砂で質感を出してから着色したもの。隙間には鉄道模型用のパウダー類を使って苔が生えている感じを出しています。




 ひろい青い空をつくることなど到底できないけど、きっとこのドールの目からはイロハモミジの向こうにそれが見えているに違いない。自分としては、
そういう上につながってゆくような空間を作りたかった訳です。




 この作品には「くつろぎの時」という仮題をつけていましたが、あらためて「青い空」と名前を変えようと思います。その方が似合っている。



2022.02
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm  / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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