rena のリメイク

マッスルタイプのドールをフィールドラインで解析する



<ドール制作は進化の過程に似ている>

 人間というものは、1つうまく行くとその成功に味を占めて同じ方向性で創作をしたがるようになる。自分ではいろいろと工夫をして完成度を高めていってる
つもりなんだけど、ふと気づくと、結局は進歩のない同じようなものをたくさん作ってしまっているってことがある。
 良く言えば、その作家らしさが現れるようになったともいえるけど、人にマンネリ化してない? って聞かれて、さて完全否定することはできるだろうか。
 これはちょっとだけ進化に似ている。過去多様な突然変異の中で、その環境に最も合っているものがだけが種として生き残って子孫をつくり、更に所の
種の中でより優れた個体に進化してゆく。人で言えば脳が大きくなり、2本足で歩くのに向いた体つきになるなど、その後の進化にはある方向性が出てくる
ように思われる。
 進化の原因となる突然変異は、進化の初期ではその差異が大きいが、しかしその後は次第に微細になってゆき、最終的にはある方向性を持って収束して
ゆくと聞いたことがある。まあ、多少身長が伸びることはあっても、いきなり羽が生えるなんてことはなくなるということです。
 こと創作活動においては自分流を確立すると、一方で多様性を失うことになりかねない。
 過去につくった人形はとても粗削りで、進化の過程で言えば生き残れないような欠点も多いように思われますが、一方で新たな可能性があったことを教えて
くれることも多いです。その多くは偶然ではありますが、やっぱりそれを利用しない手はないでしょう。リメイクって可能性の再発見のような気がします。

 

 今回リメイクする rena というドールは、当時、圧倒的な人気を誇っていたタカラの「クールガール」というアクションフィギュアの影響を強く受けていて、
ボリュームのあるマッスルタイプに仕上げていました。(上の画像は当時のもの、CGと組み合わせて作品にしている)
 今作っているお人形とは全く別なコンセプトです。




 とりあえず14年ぶりに引っ張り出してばらしてみることにしました。
 ともかくごつくて重い。今1体400gほどで新作をつくっているのですが、(1/3スケールの創作人形としてはかなり軽い) このDOLLについては680gもあった。
重いということはゴムのテンションを高めないとポーズが決まらないということです。ではテンションを高めたらどうなるかというと、今度は関節部分の強度や
摩耗まで考えなければならなくなる。だから重いということは明確な欠点です。最大のポイントはやはり軽量化で、作業量を考えるとおそらくは新作をつくるほうが
早いかも。
 あとはっ造形的に見ても美しくない、正直言って顔は特に出来が良くない。今回の目標のようなものが少しずつ見えてきた。





<今回の改良ポイント>
 今回リメイクでは、具体的には次のような改良や変更、調整を行いました。

1 500g以下に軽量化する。

  

 パーツを切断して裏側から削りを入れて厚さをできるだけ3mmに近づけるようにしました。結果としてほぼ500gの目標は達成できました。


2 筋肉の表現を見直す
 マッスルなボディは良いとして、関節とのつながりが良くないのと、筋肉のつきかた自体に違和感を感じる部分もある。これについては後述のボディラインの
調整になかで行っています。
(後述)

3 破損しやすい手足、肘はレジンのパーツに置き換える。



 たとえ心材を入れても、粘土のお人形の細かなところは遊んでいるうちに壊れます。リメイク前に確認したら右手は4本も指がなくなっていた。レジンに置き換えると
黄変の問題を生じる可能性がありますが、しっかりとジェッソを塗って影響のないようにしました。

4 固定されたヘアーを改めてウイッグに変更。
 こちらも後述の最終メイクの段階で詳細な解説があります。
(後述)

5 マグネット仕様など、今の自分のスタンダードな形に変更。

 

 耳など身体の10か所に鉄のくぎなどを埋め込みます。これでマグネットピアスなどが固定できるようになります。
 首裏にはネオジムマグネットを追加しました。これで鉄の金具等があれば、スタンドなして立たせることができるようになります。



6 全体的な関節の見直しと精度の向上。



 腰の関節を追加したこと、肘を二重関節に改めたこと、この2つが大きな変更点で、更に全体に関節の精度を高めています。

7 塗装と表面コーティングの追加。
 こちらも透明層の形成とウレタンコーティングという現在のスタンダードな仕様に改めています。
(後述)

8 ヘッドの造形の見直し。
 フィールドラインとレベルラインのアイディアから、このボディに向いた造形やメイクに改めました。
(後述)





<フィールドライン理論>

 何事にも感覚だけに頼っていては、そのうち進歩がなくなってしまうような気がする。物事を客観的に見つめて判断することができて始めて次の
ステップを踏むことができるように思う



 こちらは作業に入る前の画像です。ドールの横に引かれた黄色い線をフィールドラインと呼んでいますが、これは空間的な拡大縮小を表現する
自分のオリジナルアイディアです。SDあたりの標準的なボディと比較すると、こちらのドールは小顔、ウエストは細め、そして腰から下は大きくて
足は長いというイメージです。
 そしてこのフィールドラインをスムースに連続させることで自然なボディラインはできあがるのですが、現時点では、いくつかの部分でそのつながりに
無理があると思った。今回は軽量化というのもポイントになっているので、全体のラインがスムースにつながるよう、「とがっている部分を削る」という
方向で調整を進めることにします。

 上の画像は、いったんボディをバラバラにして軽量化のための削りを入れ、関節の調整を行ったところです。
 全体としてスムースなつながりにはなったけど、気になる点はいくつもある。特に大きな問題点は3つほど。
A ウエストに対して、脇腹から肩にかけてのボリュームがありすぎる。
B ヒップの位置が高い。
C 太もものふくらみが左右で異なる。



 ここから2巡目の作業に入ります。上の画像で-1とは1mm削る、+2は2mm盛るということです。但し塗装済みのところに粘土は直接つかないので、
盛るところにはジェッソを事前に塗っておきます。



 こういった作業を何度か繰り返すうちに、次第に理想とするボディラインが整ってゆきます。上の画像は造形の過程がほぼ終わった段階で、フィールドラインが
スムースにつながる感じになった。
 一連の作業を終えたら表面を中目の布やすりで磨き、表面をきれいに整えます。その後、EASY SLIP(現モデリングキャスト)を水で薄めて、スポンジに少量含ませる。
これを全体に薄く塗ってゆくと、粘土の毛羽立ちが抑えられ、細かなキズが見えてくるので粘土をすり込んで消します。
 浸透したEASY SLIは表面を固くしてくれる効果もあるので便利です。


 ここから先は塗装とコーティング作業になります。話が長くなるので、ざっとその過程を表にしてみました。詳細は以前のドール制作の記事をご覧ください。



 途中、高耐久ラッカースプレーを頻繁に吹き付ける理由には二つあって、一つは名前の通り耐久性の高い塗膜をつくって各パーツを保護すること、そして
もう一つは表面にクリアーの層をつくることで透明感のある肌の質感を出すことです。
 計ったことはないですが、1回の吹き付けで0.05mmぐらいの透明層ができる感じです。自分の場合には最低10回、部分によっては20回ぐらい吹き付けていると
思います。だから人形1体つくるのに、このスプレー缶で1本半ぐらい使ってしまいます。



 吹き付け2回目が終わったところで、Mr.カラーのクリアーブルーを極めて薄くしたものを、パーツの表面にめらめらと細く吹き付けてゆきます。
 よく分からないとは思いますが、例えていうなら第二次世界大戦中の夜間戦闘機に施された迷彩模様に近い)肌の色はオレンジ系ですが、なぜこの補色である
ブルーを吹き付けるかというと、ここにも理由が二つある。一つは静脈を連想するような肌の仕上がりになることです。血液の流れを再現すると俄然、肌が本物っぽく
なる。もう一つは補色であるブルーを下地に入れることで色に深みが増すことです。
 これは古くから絵画の世界で行われていた技法の一つで、実際に著名な人形作家さんのなかにもいったん全身を緑色にするという人はいます。
 高耐久ラッカーの吹き付けを4回完了したところで、今度はクリアーレッドに少量のオレンジを混ぜたものを、まためらめらと吹き付けます。こちらは動脈の表現という
感じかな。ほかにも膝や指先など、毛細血管の集まるところには多めに吹き付けます。



 途中、その効果は分かりにくいと思いますが、最後にコーティングを完成させて肌を落ち着かせると、その効果が表れます。
(上の画像は彩度をあげて効果が分かりやすいようにしています)






 コーティング作業での一番の敵は埃です。透明層であるがゆえに埃の混入は目立ちます。埃の混入を見つたら、乾くのを待って丁寧にデザインナイフで取り除く。
一連の作業の中で一番苦痛と思えるのがこの段階かなあ・・・。ただひたすらにやるべきことをやるだけって感じです。
 これがコーティング作業が終わった状態です。この作業が特に長くかかるのですが、効果は抜群、肌の透明感と柔らかさ、そして血液の流れのようなものを
感じられるようになる。






 こちらはリメイク前の画像です。1/3スケールのアクションフィギュアみたいなものをイメージしていた。

 この作業を行っている最中、テレビつけてたらロシアがクリミアの2州を一方的に併合したというニュースが入ってきた。その後、実際にロシア軍本隊がクリミアに進軍、
いまだに大規模戦闘は続いている。
 Imagine there's no countries
 It isn't hard to do
 Nothing to kill or die for
 And no religion too
 Imagine all the people
 Living life in peace
(ジョンレノン イマジン)
 またきっとどこかで、この曲を歌っている人がいるに違いない。
 人類はまだ歴史から何も学んでいないのかもしれない。



<ヘッドの仕上げ>
 15年前につくった球体関節人形 rena のリメイクもいよいよ最終段階です今回は最終的なメイクに関係するフィールドラインというアイディアについてのおさらいからです。

 

 ドールの横に引かれた黄色い線をフィールドラインと呼んでいますが、これは空間的な拡大縮小を表現する自分のオリジナルアイディアです。
 左側の全体のフィールドラインから考えると、その延長線にあるヘッドのフィールドラインは右のように上に向かってやや収束するような感じになっている。
 黄緑色の線はフィールドラインに直交する線で、いわば空間的な水平線を表しています。自分はこれをレベルラインと呼んでいます。レベルラインがお皿のように湾曲して
いるので、目や眉毛、口といった顔のパーツは外側に向かって、やや吊り上げぎみに配置するのが、むしろ自然ということになります。

 さてこの基本的な考えを頭に置きながら、アイとウイッグを選び、最終的なメイクの方法について考えてみたいと思います。まず最初にこれまでの経験から言えることは、
仮メイク、アイの選択、ウイッグの選択、本メイクの順番で作業は進めるべきで、この順番を変えてしまうと。ベストな方向性が見えづらく、余分な手間がかかりやすくなると
いうことです。



 まずはスタンダードな茶色のウイッグを被せて、手持ちのアイの中からベストなものを選びます。あらたに人形に合ったアイを購入するという方法もあるかとは思いますが、
ともかくたくさんのアイを手元に置いておき、そのなかから選ぶ方が作業はスムースにすすみます。
 影響の大きな要素から固めてゆきます。まずはそのヘッドに見合ったアイの大きさを見きわめ、続いて濃淡、そして最後に色合いの選択をします。
 頭頂に向かってフィールドラインが収束してゆく感じなので、アイはそれに応じてや通常よりやや小さ目、リアルなドールに近いものを目指しているので虹彩は濃いめ、候補
として最後に残ったのは上の画像の下2つですが、きりっとした感じの緑のものを使ってみることにしました。



 この段階で、アイの形状に合わせて裏側をリューターで削ります。瞼の厚さというのは実際の人間では3mm以下、だから1/3スケールのドールでは1mm以下にしたいところです。
これをやらないと瞳がアイホールから奥まったところに固定されることになり、横顔が不自然になる。また光がアイの奥に届きずらくなり、暗く沈みこんだ感じになってしまいます。





 続いてウイッグを選びます。選択の順番はまずは色合いで、次に長さを決める。ウエーブの有無は最後で良いと思う。 ウイッグの色はアイの色や肌の色に連動すると思う。
 ご覧の通り色が濃いめのアイを選んだ場合、やはりウイッグも濃いめの色の方がバランスが良く見える。またウイッグは顔かたちの輪郭を明確にする働きがある。
 今回は顎のラインをすっきり見せるためには長めのウイッグの方が相応しいと考えた。そして「小顔」に見せたいという方向性にも一致している。
 結果として選んだのは、やや小さ目なグリーンのグラスアイ、そしてシャイニングブラウンのロングストレート ウイッグという組み合わせです。





 ウイッグに合わせて仮メイクの色も少し濃いめに描き直しました。(眉毛、アイライン、二重瞼) いわばこれが「すっぴん」の状態で、ここから更にメイクを加えてゆきます。
 仮メイクが終わった段階で写真に撮ってPCでその画像をチェックし、最終的なメイクをどう行うかを考えます。
 結果として、まずは眉毛の下側を描き加えてを、全体をやや太くする(A)。口元に色を足してきりっとした感じに仕上げる(B)。上瞼に軽くシャッドウを入れて立体感を
強調する。更に目尻側には濃いめのシャドウを入れる(C)。頬の高い位置にピンク系のチークを入れる(D)。
 そういうメイクのプランを立てました。



 そのプランに沿って、GIMPというフリーのアプリでシミュレーションをしてみます。その結果が上の画像となります。意図したものではありますが、今回はやや北欧系の
顔つきになってきた感じです。



 これがその途中経過です。

 

 口元の着色以外は、すべて人間用のチークやシャドウを用いて行います。ある程度メイクがすすんだら、そこでつや消しクリアーでメイクを固定し、再びそれを画像にして
PCでチェックする。



 今回はこれを2回ほど行って、一応の完成としました。 「一応」というのは、だいたい後になって「こうした方が良かった」と気づいて手直しをすることが多いからです。

 

 「こちらの画像は何?」そう聞かれてしまいそうですが、これが恥ずかしながらリメイク前の状態です。(正直あんまりお見せしたくない) もう完全に別人と言っても良いと思う。
 でも15年でこれだけ上達したってことだろうな。リメイクしていて楽しいのは、こういう自分自身の上達が意識できることだと思う。





 最後にやることといったら、睫毛をつけて(上の画像)、必要に応じてお湯パーマをかけることです。
 但しこちらのお人形には弱点があって、下斜め下方からの見栄えが少しだけ良くない。ちょうどそれが分かるのが上の画像のアングルです。ストレートロングのウイッグの
特性上、耳の下に空間ができてしまう。

 

 そのためここをカバーし、全体の顔形を卵型に整えるようにお湯パーマをかけます。自分の場合にはヘアーを丸棒の上に置いて、先の細いポットから少しずつお湯を
落として形を整えています。
 あとこの部分は状況に応じてマグネットピアスで弱点を補うこともできます。もちろんアイキャッチャーとして使うので大きめのものが良いかな?
 そう思ってめぼしいものを探したら、これが目に留まりました。







<完成画像です>
 そして 15年前に制作した rena というオリジナル球体関節人形のリメイクが完了しました。
























rena
オリジナル球体関節人形 54cm 2006 mod.2022
 主材料はラドールプレミックス、その他ウイッグ、グラスアイなど。塗装はリキテックス、Mr.カラーなどで着色した後に高耐久ラッカー及びウレタンでコーティング。
サイズ的には volks の SD などの1/3スケールドールに近いので、同サイズの市販の洋服を着せることができます。
 当初、力強い筋肉質の身体を持つ戦士をイメージして制作しました。今回は基本的なコンセプトはそのままに、より洗練されたボディラインに作り替えました。
通常、自分の造るドールに比べると肩幅があって筋肉質な感じに仕上がっています。
 またややヘッドについてはほぼ全面的に造形を見直して、西洋のやや彫の深い顔つきに改めています。これだけがらっと雰囲気が変わると、同じ人形とは思えない
感じです。

 これまでに制作した球体関節人形は35体、でも新作は3年前につくったきりで、もここのところリメイクばっかり。
 でもリメイクするっていうのは、自分のつくった人形を成長させるような感じで楽しい。そしてやっとではあるけれど、どこをどうすれば良いのかがが見えてきたような気もする。



2022.03
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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