ryou のリメイク

オリジナルアイを使う



<メタリックなボディを持つアンドロイド>

 今回リメイクするのは14年前に制作した ryou というオリジナル球体関節人形です。
 人形制作も10作目となると、何か画期的なことをやりたいと思うようになり、メタリックなボディを持つアンドロイドを制作してみることにしました。



 手足が長く、白い髪とメタリックグリーンのアイ、自分としては画期的だったのですが。実用性という意味ではなかなか難しい部分もあった。
 というのも、まずは関節までメタリックでつるつるしていてポーズが決めづらい。そして何らかの演出を加えて撮影しようにも、やっぱり個性的
過ぎて出番がなかなか訪れない。
 ということで、長い年月を経て、現在の自分の造るドールのスタンダードな仕様に変更します。



 リメイクプランを練ります。
 時間をかけてつくっているだけあって、ボディラインはそれなりにまとまっているけど、今となっては様々な部分で完成度の低さが気になります。
 自分のやり方だと関節がボディラインの造形を制約する。ということでまずは計画的に関節部分の修正を行い、精度を高めることにします。
A 肩幅が広すぎる感じなので、やや内側に中心点をもってくる。
B 肘関節が大きすぎるので1まわりほど小さめにして、可動方向をやや前向きにもってくる。
C 大腿部の受け(凹部)を大きめにして安定感を増す。
D 膝全体をスリムに整え、関節そのものを球体から楕円体に改める。


<フィールドライン理論>
 まずはこれらの点を修正し、メタリックなボディはジェッソで白く塗りつぶす。そしてあらためてボディラインを観察します。



 正面からみたところでは、もう十分に満足な状況になったので、今度は側面を中心にボディラインを見直すことにします。
 ドールの横に引かれた黄色い線をフィールドラインと呼んでいますが、これは空間的な拡大縮小を表現する自分のオリジナルアイディアです。
自分のイメージしたフィールドラインではウエストから下の太ももの上部までの間が、かなりボリュームとして少なめなのが分かります。
 正直、ここはかなり違和感を感じるところで、スムースなボディラインの美しさは感じられません。




 ということで次の修正における大きなポイントは、
A ヒップを持ち上げふくらみを持たせる
B 太ももの上部をボリュームアップする
 なぜこういうことになってしまっていたかというと、一つにはウエストの細いドールをつくろうとしていたので、完成したときのイメージがDDに近かったこと
(DDもウエストが極端に細く、ヒップが平坦)、そして太ももとヒップをつなぐ関節部分の処理方法が分からなかったことなどがあると思う。
 何を標準にしてフィールドラインをイメージするかはとても大切です。

 もしオリジナルの人形をつくろうと思ったら、何かの市販の人形をモデルにして、ともかくまずは1体を作りあげるのが良いと思う。(あまり出来が良くなくても良い)
 そして今度はそれを原型にして、自分のイメージしたボディラインの人形をいくつか完成させてゆくのが、最も上達の早い方法だと思う。1体ごとに手足の
長さをか変えたり、サイズやボリュームを変化させて、その変化を見極めてゆけば、そのうちに人形を見る目が育ってくるという感じです。




 あとは徹底的に滑らかな肌をつくりリキテックスで着色する。
 ここまでくれば最近制作したドールに遜色ない。




<コーティング>

 自分の場合には塗装すればおしまいというのでなく、ここから長い時間をかけてコーティングを行い、血液の流れや肌の透明感を出してゆきます。
詳細は以前の記事をお読みいただくとして、肌の塗装面はざっと次のような層構造になっています。



 コーティングに使う塗料は、これまでも何度か登場している「高耐久ラッカースプレーつや消しクリア」なのですが、手持ちの在庫は切れてしまっているし、
安価に入手できるAmazonではなぜか売り切れだった。



 いつも使っている「高耐久ラッカースプレー」は塗膜が強いのが特徴で肉痩せも少なく、コーティングには向いていますが、艶消しと言いながらもけっこうテカリが
あって、最終的な仕上げには向いていない。それが明確な欠点です。
 艶消し材を大量に添加すると、落ち着きのある仕上がりにはなりますが耐久性に問題が出てくる。だから半つや消し状態に抑えているのだと考えています。

 そこで今回は高耐久ラッカースプレーに代わるものはないかと、他の商品を探したけど、やっぱりこれを越えるものは見つかりませんでした。
 画像の真ん中、「ラッカースプレー」は使用感はほぼ同等、代用品として仕える。「クリエイティブカラー」はきめ細やかでシックな感じには仕上がるが塗膜は少し
弱い感じです。




 コーティングの最終段階にはこの液性ウレタンクリアーとつや消し添加剤を使います。
 この最終的なコーティングを行う理由は2つあって、まずは塗装面がとても強く薬品に侵されにくいことです。(自動車の塗装にも用いられる) その結果として
このあとラッカー系塗料によるメイクに失敗しても、薄め液で拭き取ったりすることもできます。
 2つ目は他の塗料には見られないほどのきめ細やかなつや消し効果が得られるという点があります。

 ただこのウレタンクリアーは扱いずらく塗料自体が高価、値上がりしていちばん左のフラットベース(艶消し剤)がついに100mLで4375円という信じられない
お値段になってしまった。だからこちらも代わりになるものはないかと探してみた。



 正直ウレタンに代わるものはなかなかない感じなのですが、Mr.カラーのNo.113とNo.114の組み合わせには可能性があると思った。
 No.113はUVカットのトップコートで紫外線対策になるし、No.114は塗膜が強いことと、使ってみたらかなりシックな感じに仕上がる。
 今回はウレタンのコーティングのあとにこの2つを更に上塗りしてみた。耐久性さえ良ければこれら2つに乗り換えるつもりです。



<ドールアイの選び方>
 最終段階の仕上げで特に難しいのがドールアイの選び方、正直言うと制作した人形にぴったりのアイを探すなんてのは、至難の業と言っても良いぐらいです。むしろ気に
入ったアイを見つけたら、それに合わせてヘッドやボディをつくった方が良いのではないかと思うことすらある。
 自分の場合には様々なショッピングサイトやヤフオクあたりから、使用する可能性の高いグラスアイを購入してストックしておき、毎回その中から選ぶようにしています。
 もちろん1組5000円もするような高価なものをたくさん買うことはできないので、今は1組300円から700円ぐらいの格安のものを手元に100組近く置いてある。



 最初に入っていたのはメタリックグリーンのプラスチックアイ、アンドロイドなら良いけどこの色では似合わない。だからこの際、ドールアイも交換することにします。
 以前のドールブームの時にはそれなりの数が市場に出回っていて、その中から良さそうなものを選ぶことができたものの、今のようにそのブームが去ってしまうと、
それも簡単にはゆきません。探しても格安で良さそうなグラスアイはあまり出回らなくなったし、選択肢としては1組500円ぐらいのプラスチックアイがそのほとんどに
なってしまいました。



 たくさんのアイの中から何を選んで取り付けるのか、その手順です。



アイを側面から断面図で見たところです。
1 まずはヘッドの裏側のアイホールのサイズからアイそのものの直径が決まる。(A)
2 表側からアイホールを見て、その開き具合から虹彩の直径が決まる。(B)
3 アイは前に出過ぎていても奥に入りすぎていても不自然に見えるので、レンズ部分のふくらみが丁度良いものを選ぶ。(C)
 ここまでの段階で100あった選択肢は、だいたい1/5ぐらいに減ってしまいます。
4 次に実際にヘッドに取り付けて、様々な角度、様々な光源下でドールを観察します。きっちりと虹彩部分に光が入り、キャッチライトするものを選びます。



 主流のプラスチックアイはこのような構造だと思います。球体前に虹彩と瞳孔が印刷されたプレートがあり、その前面を球面を持った透明なプラスチックが覆っている。
 欠点としては虹彩と瞳孔が平板であるがゆえに、深みのようなものが感じられず。また光の角度によっては虹彩が不自然に光を反射することがある。



 グラスアイに多いタイプで、円錐形もしくはボール状のくぼみに虹彩が描かれ、中央に瞳孔が形成されている。色ガラスのグラデーションをつけたりして、魅力的なものが
多い。
 これはこれで素晴らしいのですが、奥まったところに虹彩と瞳孔があるので、光が奥まで入りづらいという欠点が出てくる。丸く大きく目を見開いたお人形なら問題はない
のですが、自分のつくる人形のようにリアル系で目の見開きが小さいものだと、特に屋外撮影などではアイそのものが暗くつぶれて見えてしまいます。
 ご覧のように虹彩が平板、もしくはその窪みがごく小さいものは、こういった暗くつぶれるといったことは少なくなります。

5 ここまでセレクションしてから好みの色合いや模様のものを選びます。
 だから100個あっても、最後に残るのは1~2ぐらいこれが現実です。




<ドールアイのつくり方>
 だったらいっそのことドールアイをつくってしまえというわけです。もちろんグラスアイは簡単には作れないけど、今はUVレジンというとっても便利なものがある。
 実のところ1/6スケールのオリジナルドールは、自分の場合にはすべて手作りしているので、多少のノウハウはあります。今回は上の画像のように平板な虹彩の
上に、小さな瞳孔のあるタイプのものをつくります。

1  瞳孔と虹彩のサイズにあわせて円を描き着色し
 ます。
2 これを切り抜いて釘の台に両面テープで固定、UV
 レジンを盛ります。


3 別にプルミエで作った眼球と虹彩、瞳孔を組み合わ
 せます。
4 最後にもう一度UVレジンを表面に塗って硬化させ
 れば完成です。

 できるならレンズ部分を盛るのに使うUVレジンは粘性の高いタイプ、最後の仕上げに使うレジンは粘性の低いタイプが良いと思います。
 こうして2組のオリジナルアイが出来上がりました。小さな気泡が入ったこと、表面がきれいなドーム型にならなかったことなど、「売り物としてはちょっとな・・・。」
なんだけど、取り付け方しだいでミスは隠せそうです。
 比較した結果、カッパーのアイを使うことにした。品質は今一つかもしれませんが、なんといってもこのヘッドにぴったりのアイが取り付けられるという点は大きいです。




 実際に筆を入れた結果がこちらです。
 最初に思ったことはウイッグが似合っていないかもしれないということです。今回自作のアイを使っているためか、全体としてリアルな顔つきになった感じです。だったら
ウイッグもシルバーという見慣れないものよりは濃いめの色の方が良いかもしれない。



 ここで黒いウイッグに変更して眉毛をつけてみたら、やはりこちらの方がしっくりとくる。
 あとは最終的なメイクで仕上げます。



<最終調整>





 裸の状態で撮影し、画像チェックを行います。撮影するとより客観的に作品を見ることができるからです。
で気になった点があったので微修正しました。一つはアイの視線が左右で若干違っていること、もう一つはウイッグの取り付け位置が低いことです。


 

 高身長でメリハリの効いたボディライン、手足が長いのが特徴なので、こういうボディにフィットするようなワンピースが似合うと思う。あとはスリムなパンツスタイルも
良いかな。
 最初の洋服選びと撮影テストは完了です。
 率直な感想を言えばこの時点では78点ぐらいかな。(実はもっともっとかわいくなると思っていました)

 さてドールやフギュアを撮影・鑑賞するにはやはり室内が向いている。それは撮影や鑑賞に相応しい光を選んでDOLLにあてることができるからです。
 ところが屋外にそれを持ち出して撮影しようとするとうまく行かないことが多いです。
 自分の場合には「遊ぶ」ことが目的なので外にも連れ出します。今度は屋外での撮影テストです。






 やってきたのは例によって平塚の花菜ガーデンです。(県営のフラワーパーク)
 今はちょうど秋バラのシーズン、また園内のあちこちにハロウィンの飾り付けがしてあって、平日なのにけっこう混雑してました。




 日向にドールを置いて遠くから撮影します。上の画像は拡大したもので、本当はもっと人形自体は小さく写っています。
 こういうときにはカメラの顔認識が機能せず、美白系のお人形だと肌の部分が白トビ(真っ白くて何も写っていない)が起こることがあります。
 今回のドールについて言えば、やや暗めの肌の色合いにしているので、この白トビは十分に抑えられています。
 昔は「美白」が美しい人形の条件の一つと思っていましたが、最近は考えが変わってきて、極端な美白肌のドールは作らなくなりました。やっぱりちゃんと写らないと悲しい
です。




 今度はアップにしてみました。
 最近のカメラは顔認識すると、その顔に合わせて露出の調整をします。美白系のお人形だとその肌が適正な明るさになるように、やや暗めの画像になる。時には背景が
真っ黒ということもあります。
 この人形の場合もノーマルな撮影だと背景がかなり暗くなります。そこで自分の場合にはRAWで撮影してHDR補正を行うなどしています。(美白系ではないけど、やはり
人間よりは少し色白ってことです)
 でもまあ画像補正で簡単に治せるのならそれでよいかなということで。




 今度は窓際に人形を置いて撮影してます。
 画像補正を加えていますがちゃんと見られる写真になっています。ここでは自作アイが効果を発揮していると思います。極端な光の条件下ではアイそのものが暗く沈んで
しまうことも多いけど、ちゃんとブラウンの色合いも出ているし、きちんとキャッチライトして、生き生きとした表情のようなものも感じられる。
 ということで屋外撮影については予想以上の結果で満足です。



ryou
オリジナル球体関節人形 59cm 2008 mod.2022
 主材料はラドールプレミックス、その他ウイッグ、グラスアイなど。塗装はリキテックス、Mr.カラーなどで着色した後に高耐久ラッカー及びウレタンでコーティング。
サイズ的には volks の SD などの1/3スケールドールに近いので、同サイズの市販の洋服を着せることができます。
 当初はアンドロイドをイメージしたものでしたが、あらためてスタンダードな形式にあらためました。


 最終的な採点は84点ぐらいにUPです。
 では何が良くないのか、あるいは何が足りないのかと聞かれても、今はその答えは分かりません。それは伸びしろというか、将来のリメイクによる成長の可能性と
いうことで、とりあえず一区切りとしたいと思います。



2022.11
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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