eye4工房番外編

県境の自動販売機


<個展直前に新しいジオラマをつくる>

 あと個展開催まで一ヶ月ちょっとというところで、ちょっと面白いテーマを見つけたのでつくってみることにしました。
 TVの「バス旅」を見ていて思いつきました。結果、とってもシンプルなんだけど、見る者を試す玄人好みの作品になりました。













<製作の記録>
 この1年間は主に1/24スケールのジオラマで、架空の世界なんだけどリアリティーのある空間、そのある一瞬を切り取るみたいなテーマで
やってきました。

 

 使用するものは2つ、ジャンクパーツの箱から拾ってきた缶ジュースの自動販売機、そしてマスターボックスのヒッチハイカー
( トラッカーシリーズ エリカ&ケリー MB24041)、本当は二人セットなんだけど使うのは一人だけ。


   1 キットを組み立てます。
   

 この二つを中性洗剤でまずは洗い、さらりと仮組してみたのがこちらの画像です。
 「自動販売機の前でヒッチハイク」・・・一見悪くないんだけど、今一つテーマとして乗れてない。
 なぜかというと、そもそもヒッチハイクをする日本人はほとんどいないので、そもそも馴染みあるシーンとは言えない。それではこれがアメリカ
での話だとすれば、今度はアメリカの国道沿いに缶ジュースの自動販売機なんてほとんどないでしょって訳。
 つまり組み合わせること自体にやや矛盾がある。


   2 フィギュアのポーズをいじります
   

 左手の角度を少し変え、手のひらを開いた形に変えました。このあと缶ジュースを握らせるつもり。
 右手は肘の部分で切断し、真鍮線でつなげてパテで修正。建てた指は帽子の庇の部分に持ってゆく。
 この作品のテーマは「乾き」です。
 長い時間歩いてきて、やっと見つけた自動販売機。
 それを飲み干しながら指で帽子の庇をほんの少し上げ、ゆく先をじっと眺める・・・。
 さて、その先に何があるのか。
 このシーンが思い浮かび、ジャンクパーツの箱の中から2つを拾い上げた瞬間は、思わず「やったね!」って感じでした。僅かなポーズの違いで
これだけで全然違うシーンになる。もしかしたら作品の半分はこの段階で出来上がっているかも。
 こういう発想ってまだまだAIにはできないでしょう。人間はまだまだAIには負けません!



3 ポーズ変更後の隙間などは瞬間接着パテで埋め、
 あとはリューターで磨く。
4 サーフェーサーで下地を整えて人間用の化粧品で
 着色してゆきます。
5 これを何度か繰り返し、最後に筆で顔の造形を
 整えます

 まずはフィギュアを塗装可能な状態に下地を整える作業からです。
 ポーズを変更したところに段差ができてしまったのでエポキシパテで埋めて修正、細かな部分は瞬間接着パテを塗ってやすりで磨く。
 これが終わったら塗装しやすいように真鍮線をパーツに取り付けます。
 このあと全体にサーフェーサーを吹き付けます。(A)
 塗装は肌の部分の仕上げから始めます。全体をMr.カラー No.111 キャラクターフレッシュで着色してから、Mr.カラーGX No.113 つや消し
クリアーを吹き付ける。(B)
 このあと人間用のチークやシャドウを使って顔やボディのメイクを行います。(C)
 1回ではあまり色がのらないので、つや消しクリアーを何度なく吹き付けては色を重ねます。そして最後に筆で顔の造形を整えます。


6 肌の部分が終わったら洋服も描き込みます。仕上
 げにはつや消しのトップコートを用います。
7 どうやらヘアーのパーツが1つ足りないので、エポキ
 シパテで補いました。

 ついでではありますが、このとき帽子の角度も修正しています。
 正直言うと、帽子をかぶったポーズというのは展示する際にはあまりありがたくない。帽子の影が落ちて写真に撮ると表情が分かりにくく
なってしまう。



 今回は上のようにやや浅く、しかも前方に向かってやや大きく角度をとって、ぎりぎり影が瞳にかかる程度に改めました。
 こうするとまぶしい日差しを帽子で遮りながら、遠方を見ている雰囲気が出ると思う。

 フィギュアはこれで良しとして、後方の自動販売機はいただけない。パーツ数わずか2で商品の出てくるポケットどころか、商品を展示している
窓の部分の透明板すら省略されています。



 さっそく実物をいくつか観察してみました。


   9 その他、画像をもとにしてあちこち手を加えます。
    

 商品そのもの、取り出し口やおつりが出てくる部分の透明版、商品を選択する押しボタン等々、いろんなところに手を加えて一応それらしく
整えました。
 商品サンプルは写真をもとにして、縮小プリントして張り付けてあります。
 そして最後にその一つをフィギュアの左手に持たせてみる。出来はまだまだ荒いけど、雰囲気は出ているんじゃないかな。



10 100均で買ってきた角材とスチレンボードでベース
 をつくります。
11 ジオラマのレイアウトを考えます。構想的には
 至ってシンプルです。

 100均で買ってきた角材を組み合わせてフレームをつくります。ご覧のように、まずは正方形の断面のものを少しずらして接着して4辺を
つくります。こうすることで角の部分が補強されて頑丈になります。
 長方形の枠ができたら、その上に100均で買ってきたスチレンボードを接着して基本的な形状はできあがる。今回は小さめの作品なので、
ここまでかかった費用は数十円といったところでしょう。

 シチュエーションとしては「長い間、歩いてきてようやく1台の自動販売機を見つけた。そしてそこで買った飲み物を口にしながら、更にその先を
見つめる。」という感じなので、より横に長いベースにして、前方に大きめの空間を残します。
 そして手前は荒れた道路(A)、そして奥は植物も満足に育たない荒地(B)、より乾いた感じにすれば女性が手にするドリンクがより美味しそうに
感じられる。
 レイアウトの基本構想はこんなところです。


   12 地面をつくります。
   

 奥の荒地(B)は、まずは茶色に着色したモデリングペーストに砂を混ぜ、適度に水を加えて塗った後、それが乾く前に更に砂を撒くという方法で
つくっています。例によって「浴びっこサンド」を使った簡易な土表現です。今回は追加で鉄道模型用の細かなバラストをところどころに接着して
変化をつけています。

12 道路をつくります。今回はクラックを入れて
 仕上げます
*) ヒビの入り方は予想が着きにくい。事前のテスト
 は絶対に必要す。

 手前は道路(A)になるのですが、最初の段階としては茶色に塗っておくだけです。
 今回やろうと思うのは「クラック塗装」です。液体のりや木工ボンド等を塗った後に再塗装するとひびが入るというものです。ほかにもエナメル
塗料の上にラッカー系塗料でもできるので、好みで使い分けると良いと思います。
 但し、ヒビの入り方のコントロールはとっても難しいので、事前にテストしておくことは必須です。

 今回はご覧の液体のりと100均で売っているアクリルカラーで表現しようと思います。やりかたとしては、まずは液体のりを塗り付けて、それが
乾く前にアクリルカラーをそっと置くように塗ってゆく感じかな。
1 液体のりをどれだけ塗るかで、効果の大小をコントロールできる。(多く塗るとヒビが増える)
2 塗料の塗り方でヒビの大きさがコントロールできる。(多く塗るとヒビが大きく、少ないと細かくなる)
3 塗料の塗る方向でヒビの入り方がコントロールできる。(たとえば横に筆をつかうと、横方向のヒビが多くなる)
 なお今回上から塗った塗料は、着色したモデリングペーストに砂と水を少量加えたものです。

 結果はこんなところです。最初下地に茶色に塗っておいたのは、ヒビが入ったところは下地が見えるからです。実際の道路にヒビが入ると
地面が見えてしまうわけで、これだけでかなりリアルな感じになります。
 あとは全体に、タンを少量混ぜたつや消しクリアーを吹き付けてやれば、埃っぽい感じが出て見栄えがよくなります。


   13 電柱を立てます。
   

 自動販売機の横に小さな電柱を立てます。
 こういう立て方をすると、この自動販売機のためだけに電気がここまで引かれているという感じになる。「バス旅」で言えば、もうちょっとで
県境を越える場所、まさに辺境の地といったところかな。


   14  まばらに草表現をします。
   

 枯れた感じの色合いのパウダーを3種類、そして短めのファイバーを2種類を混ぜて、例によってスタティックアプリケーターで上から振りかける。
 別にモデルになった場所などないけど、とりあえず良い感じに仕上がりました。
 あと少し調整してフィギュアを置けばこちらのジオラマは完成です。



<完成画像>



 個展の前の準備で忙しかったのですが、たまたまジャンクパーツの箱の中を覗いていたら、ちょっと閃くものがあって簡単なジオラマをつくってみる
ことにしました。完成まで実質10日ほどだったので、自分としては最短記録かもしれません。
 スケールは1/24、フィギュアの身長は7cmほど、ジオラマサイズは25cm×11cmです。



 使用したキットはマスターボックスのヒッチハイカーとジュースの自動販売機の2つのみ、構成もとってもシンプルです。ベースボードや電柱は
100均で購入した素材から手作りしてます。
 この作品のテーマの一つめは「乾き」です。
 長い時間歩いてきて、やっと見つけた自動販売機。
 飲料水を飲み干しながら指で帽子の庇をほんの少し上げ、ゆく先をじっと眺める。 さて、その先に何が?



 この作品の見どころの一つは路面の「クラック塗装」です。液体のりの収縮を利用してヒビを入れ、劣化がすすんでいるのを再現しました。
 あとまばらに生えている草は例によってスタティックアプリケーターを使って再現しています。
 小さなジオラマなんだけど、表現についてはやれることは全部やっています。



 この作品のテーマの2つめは「探し求めていたものを見つけた歓び」です。
 このシーン、もともとは「バス旅」の再放送を見て思いついたのだけど、別に彼女が見つけたのが「バス停」でなければいけないということでも
ないでしょう。だからバス停は置きませんでした。



 この彼女の視線の先にあるものは、見る者が決めてよいと思います。



2022.08
camera: Panasonic DMC-LX7  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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