情景のなかの人形たち 2023




 自分自身の個展「情景のなかの人形たち」も今年で6回目、こちらはそのイベントレポートです。
 いろいろあったけど、やっぱり面白かったです。


<アイドール vol.68>

 久々のイベント参加してきました。
 3年半前にI・DOLLに申し込んだのですが、新型コロナの感染拡大でこの年の2月以降、片っ端からイベントは中止になってしまった。
今回はその参加費がそのまま持ち越しになっていたということもあり、個展のPRの場として参加させていただきました。



 久しぶりの東京ビッグサイト、ともかく暑いです。
 開始1時間前に会場に到着したのですが、設営を始めようとしても、しばらくは汗を拭うのが精いっぱい見たいな感じです。



 持って行ったのは個展で展示する予定の3点のジオラマと、販売する4点の背景つきドールです。まわりに比べるといたってシンプルで地味な感じだな。
 11:30にイベント開始、さてこの3年半で何が変わったのかなと、あたりを見回す。久々にこういうところに来たので、人形業界の動向のようなものは気に
なるところです。
 入場者が以前と同じように、というより以前より増えている感じがする。それも年齢層の幅は男女の区別なく広がった感じです。コロナが一段落してという
ことや、コロナで家にいる時間が増えて、こういったドール趣味を始めるに至った人も多いのかもしれません。

 さて、このイベントに参加することを決めた理由の一つに「主催者がドール以外の分野を扱うようになったこと」というのをあげたのだけど、実際に出展案内に
あった創作人形、プラモや雑貨などの出展はなく、自分が持ち込んだジオラマなどは場違いな感じでした。
 そもそも自分はSDを模した小顔の球体関節人形からスタートして、イベントに参加するようになったけど、世の中の主流と自分のやりたいことが完全に違う
方向に向かってしまったと確信しました。

 3時を回ると入場者もほとんどいなくなったので、イベント終了を待たずに40分早く切り上げました。
 今回は完全にアウェーでした。流れに乗らずに独自のことをやってるとこうなっちゃう。でもなんだかんだで個展PRのDMハガキが30枚ぐらいはけたのは
良かった。



<1週間前>
 ついに8月、個展開催まであと1週間となりました。
 さすがにこの時期になると、仕事がなければほぼ個展の準備にかかりっきりという感じですね。
 参考になるかどうかは分かりませんが、個展の開催っていうのはそれほどハードルが高いわけではなく、創作活動の発表というのならば特別な審査を受ける
ことなく、公共の会場をお借りすることができます。



 ちなみに自分がいつもお借りしているのは平塚市美術館の市民ホールです。展示スペースは148.5m^2もあるんだけど1日4000円、販売はこの場所の場合には
できないのだけど、一般的なイベントの90cm×90cmで8000円などというのとは比較にならないほど安いです。
(ちなみに販売が伴う場合や入場料を徴収うする場合には利用料金が2倍以上になるところが多い・・・、けどそれでも安い)

 面倒なのは少なくとも半年前には利用申請して、重複した場合には抽選という手間がかかるということです。個人で借りる人は多くはないけれど、作品発表を考えて
いるなら検討しても良いのではないかと思います。
 まずはイベントからという考えもあるかもしれないけど、特に販売イベントだと「売れるもの」「流行りのもの」というところに目が行ってしまって、自らのやりたいことから
むしろ遠ざかることもある。そこは注意が必要です。

 さてこれだけ広大な面積となると、それなりに作品数をそろえて計画的に準備をすすめなくてはいけない。大まかな計画は半年ぐらい前から構想して、作品が出そろう
のは1月前、そして手順を考えながら1週間前から一気に準備を整えるのが自分流かな。
 もっと早くからでも良いと思いますが、そうすると作品が出そろっていないので修正の必要も出てくる。
 今回のドールやフィギュア、ジオラマの展示数はおおむね40、これにドール写真等が100程度、持ってゆける作品はその倍ほどあるのですが、準備時間の関係でこれ
以上は無理です。



 準備で最も大切なのは梱包です。
 作品作品それぞれに合った入れ物をダンボールからつくります。1/3や1/6といった大きなサイズのジオラマについては、そもそも梱包すること移動することを考えて、
レイアウトを考えています。「運べない」のでは何にもならない、極力きれいな直方体に収まるようにすべてを設計しています。
 次は搬入搬出手順の確認です。レンタカーなど借りて作品を移動するということもあるでしょうが、自分の場合には我家の軽自動車です。どうやら自分の作品群だと、
軽自動車1台分に収まるぐらいの作品数が準備時間を考えると適切な分量のようです。(設営に4時間ぐらい)
 これを越えると設営に1日以上の時間がかかる可能性がある。
 トラブルがないよう、手順をを考えながらリビングの一角に120cm×114cm×90cmの範囲内で積み上げる。このサイズは軽自動車の荷室のサイズそのものです。
 ここまで終われば少なくとも作品は会場に搬入が可能ということになります。

 

 次にやるのはPRのためのポスターや大判の写真づくりです。
 自分も知名度はないので、やれることは何でもやる。でもお金がかかるのは難しいのでその限界はあります。
 今やっているのはポスター作りです。もちろんこちらも自前です。大きい方が良いのだけどA3やそれ以上大きなプリンターなど置く場所はないし、あったとしても
1枚印刷するコストを考えたら、軽々しいことではないです。
 ここで庶民の味方になってくれるのが「ズームプリント」という製品(有料アプリ)です。大きなサイズの画像を自動的に分割し、一般的なA4プリンターで安価な
ファイン紙に印刷してくれる。
 もちろん「つなぎ合わせる」という手間はかかりますが、迫力が全然違うし、画質も遠目にはそこそこ良い。
 かくしてA1とA2のポスターができあがりました。それぞれ美術館の入口と裏口に貼ってもらう予定です。


<4日前>
 自分自身の個展「情景のなかの人形たち」開催まであと4日、遅いと言われちゃいそうですが、自分としてはまあまあのペースで準備は進行中です。
 今年はエントランスの作品以外に4つのコーナーと写真展示を行うことになります。展示としてはジオラマ関連が40、写真100といったところで、昨年より3割ぐらい
減らしました。
 これまでは作品をより多く展示することを目標にしてきたけど、準備に無理が出てきてしまった感じがある。これからはテーマを設けてそれに相応しいものを選んで
持ってゆく形にしようと思います。



 上のDOLLは chico ちゃんと名付けた小型のいわゆるラブドールで、昨年はルノワールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢」に扮してもらっていた看板娘ですが、
今年は彼女の出番はありません。
 とりあえず持ってゆく作品を優先順に選んだいったら、すでに車の荷台はいっぱいになってしまいました。
 今回は作品のだいたい半分がお留守番です。
 ちなみに chico ちゃんは個展を最初に開催するにあたって Amazon から購入したのですが(当時42,000円ぐらい)、顔などはプチリメイクしています。今はほぼ
すっぴんですが、ちゃんとお化粧してあげると、けっこうな美人さんに仕上がります。



 だいたい作品が出そろったところで、つくったのが準備のためのチェックリスト(左)で、これで持ってゆくものの確認と搬入の計画を立てる。
 右側は配置図で、会場内のどこに何を置くか、更にはどういう案内表示をするかを確認するためのものです。それなりに広い会場なので、設営を効率的にすすめる
には必須です。



 そしてこの配置図を基にして案内表示や解説文を用意する、昨日はここまで整えました。
 そして「壁の余白」がだいたい分かってきたので、今日はこのあとドール写真を追加でプリントしようかと思っています。



<3日前>
 自分自身の個展「情景のなかの人形たち」開催まであと3日、昨日やっていたのは、ドールやお散歩のときに撮影したきれいな風景などをフリントアウトする作業です。
 展示スペースのことを考えて、おおむね40枚ほど新規にプリントしました。

 プリントするにはやはり注意しなければいけないことがあります。
 まずは小さなサイズのプリントを繰り返して、プリンターの調整を行うことです。(A)
どうしてもモニターとプリントでは違いが出てしまうので、プリンターのプロパティはもちろん、必要に応じて画像自体も調整を行ってから本格的な印刷に入ります。
 あとは少なくとも何回かはこのプリントを使うことになるので、ちゃんとした用紙と純正インクを使うことかな。(B)



 展示する場合には、一般的にはパネルに貼るのですが、かさばるしお金もかかるので、自分の場合には八つ切り程度の画用紙の上に貼り付けます。(C)
 簡単ではありますが、これでちゃんと額としての働きをしてくれます。



 新規にプリントしたなかから3つほど作品をご紹介します。
 これはいちばんアーティスティックに仕上がったと思う作品。モデルは ikumi (オリジナルヘッド+TBLeagues24Aボディ 27cm 2018 )



 いちばんきれいだなって思った景色です。早朝の那須の景色です。



 あとはこれらの写真の配置を考えるだけ、ほぼ準備は整ったかな?
 あと2日を残してあとは点検作業に入りますか。



<前日>
 自分自身の個展「情景のなかも人形たち」もいよいよ明日からです。今日は午前中の仕事を片付けてから準備を再開しました。
 もう電車のなかもがらがらで、けっこうな割合で夏休みに入っているんだなという感じです。自分もしっかりこれから1週間は休みをとりました。



 昨日最終的な搬入物の点検と補修終わったので、ふたたびリビングに軽自動車の荷台と同じサイズに積み上げました。多分これで大丈夫です。



 こちらは完成した会場配置図で、これをもとにしておおざっぱな設営計画を練ります。おそらくは設営に要する時間は4時間ほどです。こういうものって
シミュレーションをして手順を確認しておかないと、思いがけず時間がかかってしまったりします。

 でも6回目ともなると少しだけ「段取り」みたいなものが分かってきたような気がします。細かなところは最終的には現場で考える。ポイントは全体像が
イメージできたかどうか、かな。

 

 展示するドールのお手入れもしました。
 プラスチックの人形は表面をメラミンスポンジで磨いて汚れを落とす。これでテカリもなくなってきれいになる。メラミンスポンジはメンテナンスのための必需品です。
 上のようなTPEドールの場合には人間用のメイク落としが一番効果的(セラミドなど入っていない低価格品で十分)、拭き取った後には必ずベビーパウダーを
ぱふぱふしましょう。(こちらもベーシックなもので良い)
 ドールヘアーのお手入れもしました。
 ふわっと仕上げたいときにはウイッグオイルをたっぷりと吹き付けて、全体にひろがるようによく揉み込む。(吹き付けただけだと効果は限定的)
 そして裾の方から櫛をいれてゆきます。これで静電気が抑えられ光沢も出てきます。
 ただ一般的にはドールヘアーはひろがってしまいやすく、どちらかというと形をきちんと整えたい、ボリュームを抑えたいということの方が多いかと思います。
 そういう時にはウイッグオイルでなく「革・ビニール手入れ剤」が良い。(分かりやすいネーミングです)
 しっとり感が出てきてヘアーが密着する。こちらも揉み込んでから櫛を通すと、長時間にわたって髪型が保持できます。



 心配された台風6号の影響も関東では限定的で、搬入には特に影響がなさそうです。
 おそらくは明日の午後1時頃にはオープンできている思います。よろしければ当方の道楽におつきあい下さい。



<1日目>
 今日から自分自身の個展「情景のなかの人形たち」開催ということで、まずは空模様を眺めながら、朝4時半に荷物を軽自動車に積み込みます。



 暑くなる前に作業はしておきたいし、突然のにわか雨というのも可能性としてないわけではない。今週1週間は台風6号と7号の影響は無視できないだろうなあ。
 20分ぐらいで作業は完了、リビングにあった作品はすべて収まった。
 計算上は大丈夫でも、なかなかぴったりとは収まらないもの。石組みを行う穴太宗とは言いませんが、こういったパズルを解くような積み込みって結構難しいです。



 9時半に搬入開始、設営は展示台を並べてカバーをかけ、作品を大まかに付近に置いてゆくところからスタートです。
 作品数は昨年よりも30%減、写真に至っては60%減です。昨年はその数が多すぎて設営にほぼ1日かかってしまったことの反省です。
 11時になってジオラマが並ぶ頃になると、ちらほらと入場者が現れます。その応対をしながら準備をするので作業はちょっとだけスピードダウンです。



 当初予定していた13時には、写真を含めてほぼ設営完了です。
 ところが何故か入場者が増えない。
 さてなぜ何だろう?
 しまった、「準備中」の張り紙を外すのを忘れてた!

 どうしてこういうエントランスにしたのかというと、美術館を訪れる人は何らかの創作物に興味があるわけで、その入口に展示内容をコンパクトにまとめておけば、
それが目に留まって入場者も増えると思ったからです。
 こういうところは美術館に併設されたギャラリーで行うことのメリットだと思います。
 遅れを取り戻すために声かけもします。自分も知名度は高くないので、こういうことをしないと入場者は増えません。



 美術館のエントランスにペコちゃんが置かれていて、館内では屈指の撮影スポットになっています。この周りの方々に「よろしければこちらもご覧になってください」
というわけです。



 午後の入賞者のピークは2時から3時ぐらい。そのほとんどは美術館の特別展「ダンボール物語」(ダンボールによる造形)が目的だと思います。もちろんドールや
フィギュアを主人公として物語性のある空間を再現するという、そういう創作物など見たことのない方がほとんど。
 ある程度、説明を加えないと分かっていただけないところもあってなかなか忙しいです。

 初日ということで、入口に置かれたメインとなる2作品を本日はご紹介します。いずれも昨年完成させたものを微修正しています。



地下空間 ニューヨークの地下鉄
 2ヶ月にわたってロシア軍に包囲され続けたウクライナのアゾフスターリ製鉄所、ニューヨークの地下鉄の景色、さらには風の谷のナウシカ劇場版のエンディング、
この3つがなぜか自分の中で結びついてこういう作品ができあがりました。 どのような状況でも夢や希望は持ち続けたい。そして新たな芽吹きは近いことを信じたい。

 

 モデルドールは mirai (石塑粘土 55cm 2017 )。きりっとしたフェイスが特徴です。けっこう目の力が強くて、その視線に一歩引いてしまいそうな感じがする。





時計塔のある風景 誰もいなくなった
 時は1940年代、第二次世界大戦中のヨーロッパのとある小都市の広場をイメージしています。
 散乱するビラ、放置された買い物かご。
 ここにいたはずの人々はどこに行ってしまったのか?

 

 想定としては、対立する国家から航空機が飛来し、直後に上空から大量のビラがまかれたというものです。
 但し撒かれたビラなどには統一性が全くない。
 ベンチに取り残された新聞は1941年12月、日本がパールハーバーを空爆し、太平洋戦争が始まった時のもの。
 その下に落ちているのは『白バラ』のモチーフ。『白バラ』って何かというと、ミュンヘン大学の学生たちによる反ナチス抵抗運動のことで、彼らは1942年から
43年にかけて6枚のビラ作成し、戦争を終結させようと国民に呼び掛けたというもの。
 もちろん当時はナチスの存在は絶対的なものだったので、彼らは7枚目のビラを印刷する前にゲシュタポに捕えられ、国家反逆罪でギロチンにかけられてしまう。
 そのほかヒトラーが写っているビラはスターリングラード攻防戦のときに、ソ連軍がまいたドイツ軍兵士に投降を呼びかけるビラ。スターリングラードは最大規模の
市街戦となり、でヨーロッパでの戦いの転機になった。ドイツと枢軸軍の死傷者85万人。ソ連軍の死傷者120万人。この惨状が『白バラ』運動につながるきっかけとも
されている。
 そのほかにも第二次世界大戦中にまかれた数種類のビラがちりばめられています。
 背景となる壁はベルリンの壁を参考にしてつくったもの。印象的なメッセージを書き写したほか、そのほかにも印象的な言葉を追加しています。
 左上のFREEDOMは実際にベルリンの壁に書かれていた文字です。
 右上はアインシュタインの言葉で「神はサイコロを振らないと私は確信している」
 左側に大きく描かれたのはバンクシーの「風船と少女」、風船は愛や希望の象徴と言われているそうです。
 柱の部分はJR鶴見線の「国道駅」の柱を表現したもので、第二次世界大戦末期に米軍機による銃撃の痕跡が残っている。
 ベルリンの壁が崩壊して30年、もろもろの問題は解決していないどころか、拡大さえしている。
 背後には工業プラントの一部として煙突とパイプラインを取り付けてみた。現代世界の問題は国家、民族間の争いだけでなく、地球環境の問題もある。
 決して万全とは言えない世界、そして更にこの先が見通せない状況のなかに自分たちはいる。その事実をイメージとして再現したのがこの作品です。

 だからこれはリアルなジオラマではなく、ある意味メッセージそのものです。
 モデルドールは hitomi (TBLeagueS45 ヘッドリメイク 2021 26cm) TBLeagueS45部分のヘッドをリメイクしています。活動的な感じが出て、自分としてはお気に入り。

 入口にあるこの2作品は自分でもけっこうな力作だと思うのですが、自分のつくるものって、入り込めば入り込むほど難しくなる傾向がある。だから詳細な説明が必要
になってしまいます。
 分かってはいるのですが、作りたいものがそういうものだから、こればっかりはどうしようもないかな。



<2日目>
 個展「情景のなかの人形たち」2日目、今日は設営や準備もないので、のんびりと原チャリで開場に向かいました。天気は怪しいのですが、車で行くと駐車料金が
もったいないので、ここは節約です。



 エントランスは少しだけまた手を加えました。週末に向けてどれだけ足を止めることのできるエントランスにまとめてゆくかが勝負です。大きな写真のほかに
「Marilyn Monroe」と「next evolution」の2作品を置いています。

 

マリリンモンロー
 こちらは別々に販売されていたヘッドとボディを組み合わせたものです。
 ヘッドはあまりの酷さに4年ぐらい放置していたものです。外れを引いてしまったのか、似てないどころか全く可愛くすらなかったい。
 そしてこれをようやくダメもとでリメイク。具体的には厚い唇を薄くして、アイラインを引き直して、あごのラインを削って修正、最後にパステルとチークでで全体の
色調と陰影を整えたって感じです。
 ボディはTBLeague のs32A、柔らかく女性らしいボディラインがマリリンモンローのヘッドにぴったりです。簡単な背景は自作したものです。



 この日は台風6号の影響がしっかり出て、何度となく豪雨となり、その合間に陽がさすという荒れた天候。
 突然の雨に美術館のロビーから外に出られなくなることもしばしばでした。
 昨日はトップの2作品を紹介しましたが、そのほかは4つのエリアに分けて展示しています。その一つが「スナップ」です。

 スナップは写真の世界では良く出てくる言葉で、日常の一瞬を切り取ること。それをジオラマのなかで行ってしまうというのがポイントです。
 この作品群に特別な意図はないです。ただただこういう空間があって、この一瞬を切り取ったらおもしろいかなという感じです。
 でもただただ普通につくってしまうと、本当につまらない作品になってしまうので、ちょっとしたトラップや生活感のようなものをスパイスとして加える。
すると「なるほど」と頷ける作品になります。





県境の自動販売機
 先日完成させたばかりの作品です。
 自動販売機とこの主役のフィギュアをジャンクパーツの箱の中で見つけたときに、「バス旅」のイメージと結びついて、このシーンが思い浮かびました。
 辺境を長い距離を歩き続けたら、何にもないはずのところに自動販売機が1つあった。 そしてその先の景色を見て彼女は笑顔になった。
 彼女が求めていたものが何なのかは見る者が推測するという作品です。
 シンプルながらけっこう良くできた作品だと思うのですが、今のところ全く注目を浴びていません。もしかして玄人好みなのかも。



 

Cappuccino
 家の庭、車、フィギュアで構成されたシンプルな作品。(1/24)  おそらくは展示作品の中でいちばん「くだらない」かも。
 普通に上から見ちゃうと、「あ、風でスカートがめくれあがっている。」ぐらいの観察で通り過ぎちゃう。
 こちら、周囲の目を気にせずスカートの中をのぞくとご褒美がある。
 「思わずにっこり」みたいなトラップを潜ませておくのは楽しい。




猫と遊ぶ
 ここに難しいテーマなどはない。ただ「家に帰ってきたら、庭に可愛い猫がいて遊んだ。」という、ただそれだけのシーンです。
主人公は「青春少女4」という林浩己氏によるフィギュアと猫です。これだけをつくって飾っても、きっと何か物足りないと思って、市販のドールハウスキットを
ベースにして彼女の部屋を作りあげた。
 小さなフィギュアのためにこれだけ手間をかけて背景をつくったのはも、そう「こういう感じの部屋ってあるよね。」みたいな共感や日常感、生活感のようなもの
が出てくると思ったからです。
 部屋を覗いて「あそうか、彼女は動物キャラが好きなんだ。」と気づいてもらえたら嬉しい。





テレワーク
 コロナの時代を反映して昨年つくったものを今回リメイクしました。
 軽のワンボックスに軽規格のキャンピングトレーラーを牽引して、あちこち出かけるというジオラマです。
 トレーラーを牽引しているのはスバルサンバー、これをキャンピング仕様にしてオリジナルのカラーリングでまとめてみました。 トレーラーのベースに
なっているのは小さなドールハウスキットで、これに1/24のプラモのシャーシーを組み込んでいます。 主人公はガールズ イン アクション シリーズの一つで、
Rita というフィギュアです。少々お高いけれど出来は良い。
 現代ならばネット環境が整っていればやれる仕事はいくつもある。そこでトレーラーの方は仕事場としての機能も追加しています。実際、度重なる災害も起きる
なか、こういうライフスタイルも良いかもしれないと思います。





Campus Friends
 こちらは個展直前に仕上げた最新作です。
 こちらは街中の明るく日常的な風景をイメージして、待ち合わせの一瞬を表現しました。
 主役はタミヤの1/24「キャンバスフレンドセットというフィギュアから選んだ2体で、ここに1/24スケールのドールハウスキットを組み合わせてみました。但しこちらは
基本的にお店の中だけを再現するものなので、屋根や壁、道や庭などはすべて手作りです。
 更にこれだけだと少し寂しい感じがしたので、ここにスバル360を組み合わせてみました。実車は1958年に発売された愛称は「テントウムシ」、日本で最初の普及価格帯
のファミリーカーとして知られる名車です。
 普通はこうやって正面からジオラマを見ると思うのですが、実はここにも「見かたのポイント」があります。



 ずばり、お店をはさんで通りと庭にいる二人の視線が合っているのがこのシーンの見所だと思います。
 シースルーな喫茶店の窓越しにすでに彼女の姿が見えている。この「デートの始まり」のわくわくドキドキが伝わってくれるかな?
 自分の描きたいのは日常のドラマなんです。





Zirai Ryousan
 時代は繰り返すというけれど、ハセガワから発売されていた80年代ファッションの二人は、地雷系とか量産型と呼ばれている今のファッションにつながるところが
あるように見えました。
 ということで着ているものの形はそのままに、色合いだけを白、黒、グレー、ピンクあたりに置き換え、小物類を追加して仕上げました。
 背景の白い家は、こちらの那須にある旧青木家那須別邸をモデルにしてつくっています。
 桜は太さの違うワイヤーをより合わせて枝をつくり、鉄道模型用の桜パウダーで花を再現してみました。





静岡おでん
 レースクイーンのフィギュアをそのままつくってもつまらない、そこでおでんの自動販売機と日本酒のカウンターを結びつけてみました。
 静岡おでん、静岡銘酒、プラモデル、この3つはどれも静岡の名産品です。



<3日目>
、昨日とは違って台風6号の影響は弱まり、比較的良い天気になりました。
 おかげさまで朝から早々の来場者があり、上々の滑り出しです。
 個展というと自分の制作物を展示するだけでなく、PRのための小道具なども必要になります。冊子やチラシというのもありですが、自分の場合には入場記念の
ポストカードを受付に置いておきます。



 今年は上の画像、オリジナルドール ikumi をモデルにして河津桜を背景に撮影したものです。当方のHPやブログのアドレスも書いてあるので、少しぐらいは
知名度向上に効果があるかなって思っています。
 今となっては粘土でつくった球体関節人形は完全にレアな存在だし、ドールハウスと言いながら、実際にはドールハウスにドールを置いた作品はあまり見ません。
 展示しているものが見慣れないものだと、やはり解説は必要なので一つ一つに解説文をつけています。ただ実際にはそれだけでは足りないので、こちらから説明
することになります。
 試しにこの日は万歩計をつけて説明していたら、終了時点で1.5万歩も歩いていた。距離にして10km以上、良い運動になっているかも。


 さて本日は昨日の「スナップ」のコーナーに引き続き、「思い出の世界」と題されたコーナーから、いくつか作品をご紹介します。一言で言えば時の流れを意識
した情景ということかな。





浮島稲荷神社
 平塚市の岡崎地区に実在する神社です。(1/72スケール フィギュアの身長は2cmほど)
 今は周りは畑なのですが、その昔はその名のとおり水田に浮かぶ小さな島のような景色だったのではないでしょうか。そこで少し前の時代の様子をイメージし、
この作品をつくってみました。

3日続いた雨も上がり、やっと秋の日差しが降り注いだ。
若い母親と娘が何日かぶりで浮嶋神社を訪れる。
降り続いた雨のために増水し、神社はまるで湖に浮かぶ小島の上に建っているかのよう。
そしてその境内は彼岸花であふれていた。




 

竹松農民精米所
 こちらも南足柄市の実際の風景をジオラマにしたものです。(1/72スケール フィギュアの身長は2cmほど)
 南足柄は水の豊かなところで、きれいな水を引いた水路があちこちにあります。
 ここはたまたま発見した地域住民のための精米所なのですが、立地条件として考えると、おそらくここには水車小屋があったと考えられます。精米所の脇には
水路があり、精米所は本当にぎりぎりのところに立っている。そして脇の水路には、水車と川底が干渉しないように窪みが掘られています。

 いったいどんな景色だったのだろう?
 想像力を働かせて、地形的なものは変えずにその頃の風景を再現してみることにしました。



8月10日
 夏休みも半ば、お盆の時期が近づいて母の実家に帰省することになりました。
 今住んでいる街から電車とバスで2時間半のところに母の実家はあります。時は昭和30年(1955年)8月10日、母と二人で清流の流れる集落を歩いていました。



 重い荷物を抱えながら、ゴトンゴトンと大きな音を立てている小屋の前を歩きます。その小屋は水車小屋で、米をついたりするときに近所の人がやってくるそうです。
その日はとても暑い日で、ハンカチはすぐに汗で濡れ、その役割を果たさなくなっていました。
 しばし大きな樹の下で休憩します。



 川では男の子たちが水遊びしていました。せき止められた水路にはスイカが冷やされている。 「きっと遊んだ後に食べるんだろうな・・・。」  少しうらやましく思いました。
 そのとき傍らを鐘を鳴らしながら、1台の自転車が通り過ぎてゆきました。すると農家の軒先から一人の少年が飛び出して自転車を追いかけてゆく。
 その自転車に乗っていたのはアイスキャンディーを売りに来たおじさんでした。
「私たちもアイス食べよっか。」
 おかあさんがそう言いました。
 これが母の実家を始めて訪れたときの最初の出来事です。

 田舎では夏になると鐘を鳴らしながらアイスキャンディーを売りにくるというのも景色の一つ。
 高度成長の過程ではまだまだプールのない小学校もあって、川は夏の遊び場として最も人気のある場所でした。
 このジオラマではホーロー看板や映画のポスターなども見所の一つです。
 こういう風景が遠くない過去にありました。
 そして昭和はもはやレトロです。


 

サツキとメイの家
 ベースになっているのはさんけいから発売されていた「サツキとメイの家」というペーパークラフトです。ここに自作のベースを組み合わせ、鉄道模型用の
ストラクチュアなどを追加しています。(1/150スケール フィギュアの身長は1cmほど)
 フィギュアはKATOやPreiserのものをベースにして、いろいろ手を加えて使っています。

 
入院していたお母さんが帰ってくる、それを屋根の上に登って出迎えたサツキとメイ。
  「おかえり、おかあさん。」

 アニメの本編は草壁家のひと夏を追ったものだったけど、お母さんはまだ退院できていなかった。だから自分としては秋になってお母さんが病院から帰ってくる日、
おそらくは草壁家にとって「最も待ちこがれていた一日」を再現したかった訳です。
 和洋折衷の大きな家は昭和の初期のころに多くつくられたものだそうです。
 その昔、結核という病気が日本人にとっては最もやっかいな病気の一つだった時代がありました。 この日からまた4人での生活に戻る。
 そのうちサツキやメイも成長して、トトロたちを見ることのできない年代になってしまうのだけど、それでもトトロたちはこの一家をずっとそれを見守ってゆくんだろうね。





小さな丘
 こちらは4部作のジオラマです。(1/150スケール フィギュアの身長は1cmほど)
 設定としてはスコットランドあるいはイングランドの北部あたりにあった小さな丘、ヨーロッパ戦線に向けて飛び立つ航空機のため、数多くの空軍の飛行場がつくられていた
1940年代時代の話です。
 3年前に完成させた作品ですが、今回は構成を若干変更して展示しています。

初夏
 ここにはかつて市場で働きながら花売りを生業にする一家が住んでいました。
 夫婦に娘一人、生活が楽であったわけではないが、日々は充実していました。



晩秋
 それはある日突然訪れ、何もかも奪っていった。
 空を覆いつくす巨大な金属の鳥から黒い塊がいくつも落ちてきて、あたりは炎に覆われた。
 彼女には何の罪もないのに。




 雪はすべてを覆いつくす。

 

早春
 20数年が過ぎ去った。
 雪が融け、小さな丘は緑に覆われた。そしてあちこちで小さな白い花が咲き始める。
 そして一人の女性がそこに佇む。
 彼女はやっと丘の上に戻ってくることができました。
 いま彼女はやさしい両親とともにここにいます。






梅雨明け
 これはNゲージのストラクチュアを多用しながら、あえて鉄道模型を置かずにジオラマとして完成させた作品です。
 昭和30年代まではどこでも見ることのできた地方都市の風景を再現してみました。20cm×25cmという狭いスペースに詰められるだけ詰めて、作り込められる
だけ作り込んだって感じです。だから小さいけどお金と時間はけっこうかかっている。360°どこから見られても良いようにつくってあります。
 年配の方なら、これを見て子供の頃に戻れるんじゃないかな?



<4日目>
 帰省のピークとなるこの日は平日ということもあってか、比較的静かな一日でした。入場者は100名と少し、一人でやっているのでこのぐらいがちょうど良いかも。



 平塚市美術館の市民ギャラリーをお借りしているのですが、美術館そのものの企画展は「ダンボール物語」、ダンボール造形作家 玉田多紀さんのユニークな
立体作品130点を紹介するというものです。

 基本一人でやっている都合上、見に行くことはできないのだけど、けっこう家族連れでやってこられる方も多いようで、評判も上々なのではないかと思います。
 自分の個展を目指してやってくる方はほとんどいないので、来場者は結局「ダンボール物語」の会場から流れてくる方々がそのほとんどです。それでも自分のように
知名度が低い場合には、とってもありがたいことです。



 このブログをご覧の方の中には、何かイベントをやってみたいなって考えている人も多いと思うけど、作品の良し悪しはともかくとして、人の流れのある場所で開催
しないと寂しい思いをすることは間違いないです。

 ということで、本日も作品の一部をご紹介します。
 「スナップ」「思い出の世界」に続く3つめのパートは「未来を想像する」です。なんだ、どこかの歌のように現在、過去、未来って並べただけじゃん、て言われちゃいそう
ですが、まさにその通り。



 今回は宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」公開ということもあって、スタジオジブリ関連のものを多く持ってきました。
 宮崎アニメでは破綻した近未来世界を描いたものも多く、現実に地球温暖化による大規模災害や各地での紛争が続くなか、我々はその瀬戸際にいるのではないかと
考え、作品を選びました。


 

風の谷のナウシカ メーヴェ
 ツクダオリジナルのプラモを改造し、草原だけの清々しい風景に仕上げました。草原自体はスタティックアプリケーターを駆使して仕上げています。
 この作品は青空の下で撮影すると、本当に飛行しているような感じの写真になります。
 なのだけど美術館内でそれはできない。背後の青い空については、見て下さる方の想像力にお任せするしかありません。



 

腐海の尽きるところ
 ナウシカのフィギュアはプラモをベースにつくっていますが、この作品の見どころは、やはり腐海の植物とよみがえりつつある旧世界の植物が共存する
この空間です。
 劇場アニメ版ではオームの怒りをナウシカが鎮めるシーンでお話が終わっていましたが、その原作となるアニメージュ文庫(全7巻)ではさらにその後の
世界も描かれていました。
 旧世界は様々な毒によって大地が侵されていた。腐海の樹々はその毒を取り込み、そして自らはきれいな結晶となって、やがては大地の新たな土となる。
 腐海の最深部ではその浄化がすすみ、再び生命のあふれる世界が再現されつつあるという。(第6巻)
 この作品はそれを参考にして、平和が訪れたであろう最終第7巻の少し先の時代をイメージして制作しました。
 これを暗くした自室でスポットを当てて撮影すると右側のような画像になります。
 「青空」と違い、さすがにこのシーンはイメージしにくいと思って、今回はこの画像をパネルにして作品のすぐそばに置きました。


 

風の谷のナウシカ オームとナウシカ
 ツクダオリジナルのプラモに手を加えて主人公を完成させています。
 月間アニメージュではトルメキアとドルクの戦いに一区切りついたところで、その最終回となりますが、自分としてはその後、再び世界に平和が訪れつつある
シーンを再現したいと思って制作しました。
 腐海がその勢いを失った時代、旧世界の遺跡に再び足を踏み入れると、そこに過去に存在していた植物が再び繁茂し始めていた。そこでナウシカはオームの
子供に出会う。
 皆が穏やかに生活できるようになったら、こういうシーンもあっても良さそうな感じがしませんか?
 風の谷のナウシカというと、戦いに明け暮れる少女の物語というイメージがあるけれど、やっぱり誰だって心穏やかに暮らしたいはず。だからそれを再現して
あげたいなと思ったのが、このジオラマをつくったきっかけかな。
 青いタンクトップに白いワンピースという、一見活動的でない服装なのも平和な時代の象徴です。



 

天空の城ラピュタ ロボット兵
 ファインモールドから発売されているプラモを使って制作したジオラマ、スケールは1/20、ベースサイズは26cm×26cmです。
 劇場アニメの「天空の城ラピュタ」では世界を支配するラピュタ人は、謎の病を避けて地上に降りたとされていますが、それがもし近未来の日本だったらという、
自分のイメージした架空世界を具体化したのがこちらの作品になります。
 右側の画像ですが、こちらは合成した背景をつけています。青緑のオーロラのようなものがめらめらと上に立ち登ってゆく感じです。これを実際に紙の上でやろうと
思ったら、その大きさが2m×1mぐらいになっちゃう。目立ちすぎて他の展示に影響が出るのでやめました。





シュナの旅
 宮崎駿監督が描いた「シュナの旅」という作品の1シーンを1/24スケールのジオラマ作品にしてみました。
 「シュナの旅」は「風の谷のナウシカ」の製作と並行して描かれたというコミックで、発表はアニメ版のナウシカよりも古く、もう36年も前の作品になります。
 この構想はずっと以前からあったのですが、劇中に登場する「ヤックル」の造形がちょっと厳しそうなのでためらっていました。
 ところがある日、100均に行ったら同様なサイズのトナカイが販売されていて、問題は一気に解決しました。

狭い納屋の中の限られたスペースの中、小さな竈を囲んで二人は過去を振り返り、未来を見つめる。
貧しく厳しい生活の中での一瞬の和み。


こちらのシーンはエンディングに近い印象的なシーンを再現したのです。
 宮崎ニメのすごいところは、その架空の世界を生態系として見たとき、あるいはもっと根本的に原因と結果の因果関係として見たときに、論理的に破綻していない
ところだと思います。




Goshawk
 イメージとしては近未来、荒廃した都市空間が荒れ果てて、いったんはそこに植物が繁茂する。混乱はさらに続いて、最後はその植物も破綻した環境の中で
枯れてゆく。
 当然のことながら人口は激減する、それでも生き残った者たちのなかで戦いは続く。
 そういうあってはならない未来の空間をつくってみました。
 やっぱり我々は世界が破綻するしないの瀬戸際にいると思います。
 H.G.ウェルズの小説タイムマシンを思い出した。



<5日目>
 今日は土曜日なのだけど昨日に引き続いて来場者は少なめです。この時期は週末の効果はあまりなく、台風などの天候の問題や帰省のピークの影響の方が
大きいようです。
 ここまでくると、個展そのものの評価が自分のなかでも徐々にかたまってきます。当然、こうすれば良かったなって反省点も出てきます。難しいのはやっぱり自分の
やりたいことが、皆さんの喜ぶこととは一致しないことです。でも選択を迫られたときには、そこは自分のやりたいことの方を優先する。だってプロじゃなくて、アマチュア
の趣味なんだから。

 今年最後の展示パートは「世界の街角から」と題したオリジナル球体関節人形でつくったジオラマです。
 正直なことを言うと、そもそも個展をやり始めた動機というのは、自分のつくった球体関節人形を見ていただきたかったからです。ただ残念ながら注目度は低いかも
しれません。今となってはもう絶滅危惧種に近い存在なので、そういうものがあることを知らない人の方が多いのだと思います。
 ここから先、登場する人形はすべて粘土からつくったオリジナルの球体関節人形です。だいたい一つつくるのに2~3ヶ月ぐらいかかります。そして完成したらそれで
終わりじゃなくて、そこから様々なシーンを思い浮かべて、それを情景として仕上げてゆきます。





旅立ち  < アイルランド北西部の港町 >
 設定としてはアイルランド北西部、スリーブリーグ近くの小さな町の街角から二人が旅立ってゆくというシーンを再現したものです。二人の不安と期待が感じられたら
作品として成功だと思います。
 道標に記された場所は実在するものですが、このような街角があるかどうかは定かではありません。





夏休みの一日  < 山北 酒匂川 >
 こちらは山北町に実在するバス停の風景です。 「夏休みの終わり頃、これから友達と待ち合わせて一緒に横浜にお出かけする。」そういう設定で組み上げてみました。
 少々アレンジしていますが、このバス停自体は山北町にあります。
 周辺には道祖神や水神、石仏、様々な石碑が多く見られるところで、その昔は酒匂川の氾濫でたくさんの人が命を落とした場所だということです。





ひまわり < ウクライナの平原 >
 ウクライナというと往年の名画「ひまわり」の舞台になった国で、自分としては地平線の遥か彼方まで続くひまわり畑が思い出されてしまいます。最初はこのひまわりと
青空でウクライナカラーの情景をつくろうと思ったのですが、作品として制作するのは難しい、そこでこの雨上がりの風景をつくってみることにしました。

実際、あれほどひどく降りしきり、強く傘をたたき続けた雨も30分とたたずに止んだ。
そして静寂な時間。
私たちの上には、ただ空があるだけ。
そして陽光が大地に差し込んだ。


 黄色いひまわりと青い傘はウクライナ国旗のカラーから、白い壁の落書きはジョン レノン&ヨーコ オノのイマジンの歌詞、 激しい雨が止んで陽光が大地に降り注ぐという
ストーリーは世界中の願いです。



 

青い空 < テラスのある鎌倉の旧家 >

椅子を持ち出して本を読んでいたら、風に吹かれたイロハモミジの葉が何枚か舞い降りてきた。
舞い降りてきたイロハモミジの1枚がそのまま栞になる。


 ひろい青い空をつくることなど到底できないけど、きっとこのドールの目からはイロハモミジの向こうにそれが見えているに違いない。自分としては、そういうひろがりの
ある世界を作りたかったわけです。
 1/3という大きなスケールでは、人形とそのまわりの僅かな空間しか再現できません。だから制作したものから外にひろがってゆく空間をイメージできるような作品に
しなくてはいけない。
 この場合には人形の上に伸びているイロハモミジの枝が工夫の一つです。



 

古いドア < ロンドン郊外の古いアパート >

鍵を落としてしまって中に入れない。
こんなときに限って、親の帰りが遅い。「どうしよう・・・?」


 見どころは人形もさることながら、古いドアそのものの質感でしょうか。
 こういうところにいろいろ工夫をしてゆくうちに、だんだんとそれぞれの素材の質感を出すというのがいかに大切かが分かってきました。
 そのうち1/3スケールの球体関節人形だけでなく、もっと小さなスケールの情景をつくるようになってきたわけだけど、それまでの経験と知識のようなものが、
今の創作活動にも生きていると思います。



<6日目 最終日>
 いよいよ「情景のなかの人形たち」も最終日です。心配された台風7号の影響もそれほどではなく、時々雨はぱらつくものの、傘なしでは歩けないという状況でも
ないので、朝からたくさんの方々にご来場いただきました。



 しかしながら最終日は16:50までに会場の復元を完了しなくてはならない関係で、15:00ごろから撤収作業を少しずつ始めます。
 まだまだ入館者は多いので、最後まで人気のジブリ関連と1/150の小さなジオラマは残しておいてご覧いただいてました。それでも最後方は結局、PRのための
ポストカードをお渡しして「あとはブログやHPをご覧ください」になってしまって申し訳なかったです。



 これまでにご紹介した4つのメインパートのほかに、今回も100枚ほどの写真をA4サイズにプリントアウトしたり、大きめのパネルやポスターなどを会場内外に展示しいました。
 今日はその写真のなかからいくつかをご紹介します。



nanami
 こちらは何種類か用意したお土産のポストカードです。モデルはオリジナル球体関節人形の nanami です。
 もちろんPRのためのものなので、当方のブログやHPのアドレスは忘れずに記入してあります。



風の谷のナウシカ
 会場内にも展示してあったジオラマを撮影したもので、今回はこれを美術館のエントランスに掲示していました。効果のほどは分かりませんが、知名度が低ければ
何事も「やらないよりやった方がマシ」の積み重ねです。





大光院
 こちらは平塚の岡崎というところにあるお寺です。このあたりはもともと鎌倉幕府の重鎮だった岡崎四郎の所領だったところで、近くに城址もあります。
 こちらのお寺は水田を見下ろす高台にあって、99体の石仏の彼方に富士山が見えるという、なかなかの絶景ポイントです。
 最近は遠くに旅行に出かけることもなく、今回はこういったお散歩旅の時に撮影した写真をたくさん展示していました。



 

相模線の桜
 「相武台下駅」と「下溝駅」の間は桜並木がずっと続きます。撮り鉄にとっては撮影ポイントなんだろうけど、この日は撮影に来た人は見かけませんでした。
相模線て人気ないのかな?
 撮影の日はちょうど満開になったばかりで、こういう写真が簡単に撮影できます。これから数日すると、相模線の車両が通過するたびに桜吹雪が舞うようになる、
これもまたきれい。

 桜の季節になると、テレビなんかで桜の名所紹介などしてますが、桜並木の下をたくさんの人がぞろぞろ歩いているみたいな感じのところに自分は行きません。
 地方に行くと100本の桜の下に歩いている人は2~3人みたいな、知られざる自分だけの名所って少なからず存在します。



 

花菜ガーデン
 ともかく行って見たら、チューリップがすごいことになってた!
 ここは1年を通して様々な花が楽しめるところです。
 人形のテスト撮影にももってこいの場所で、自分以外にもDOLLやぬいぐるみを持ち込む人が少なからずいます。DOLL撮影の隠れた名所かな?



 

蓑沢の彼岸花
 那須に別荘がある関係で、栃木県の北の方をお散歩することも多いです。
 この蓑沢っていうところは地味ながらとってもおすすめの場所です。「日本の美しい村をあげよ」と言われたら、自分が真っ先に選ぶ場所の一つだと思います。
 特にこの彼岸花の咲く風景は絶景と言っても良いと思います。





油屋鮮魚店で出てきたコーヒー
 蓑沢からの帰り道に立ち寄ったお店です。こちらのお店、入ってみたらそこは何でも売っている雑貨屋さんのような感じですが、そもそもは鮮魚店だったようです。
 とりあえず、おしゃれなお店の中で当初の予定通り、300円のコーヒーとチロルチョコを注文しました。
 出てきたのはこちら、黒漆のお盆の上にコーヒーカップとそれを彩る花、そして黒漆に映った空がまた素敵。300円でこれだけのおもてなしをしていただけるなんて、
もう大感動でした。
 江戸時代までは宿場町として栄えていたところなのだけど、今は人口減少がすすんでお祭りを開催するのも大変な状況になってきている。それでも頑張っている人は
いるんだなあと思いました。



<打ち上げ>
無事に6日間の個展が終わったあと、ご近所の居酒屋さんで打ち上げです。
 そういえばコロナの関係で、こういう感じの打ち上げも久しぶりです。



 さてこの場には今回の看板娘だった hitomi (TBLeague s54 ヘッドリメイク)も連れて行きました。
 まずは「お疲れ様、乾杯!」
 初めて入ったお店だったけど、けっこうお魚がおいしい。あとは焼き鳥も・・・、お酒もいろんな種類がある。しかも良心的なお値段で、なんかこれからたびたびお世話に
なるかもしれないな、などと思いました。



 さて今回もいろいろ思うところはあるのだけど、「ドールやフィギュアを主人公にして自分のイメージした空間を表現する」という目標については少しずつ進歩していると思います。
 もちろんそれがこういう場面でどのように評価されるかは別問題なのだけど、アマチュアの個展としては、最終的には「受けるもの、売れるものをつくる」でなく「自分のやりたいことを
やる」なので、そこは気持ちの上では楽です。



 じっくりと見てコメント下さる方がいれば、こんなもの興味ないよで、すっと通り過ぎて終わりって人もいる。レアな趣味なので、そういう違いは当然のこととして受け入れています。
 作品についてコメントいただき、さらに活動についても長い時間お話しさせていただくことが何度もありました。参考になるご意見も多く、これからの活動に生かしてゆきたいと思います。





 印象的だったのは初日、おそらくは東南アジアのどこかの国の2家族ぐらいだと思いますが、作品を見てえらく感心したみたいで、1時間近く展示室内であれこれ見たり
撮影して回っていた。とっても楽しそうにしていて、最後は自分を含めたみんなで記念撮影して、手を振ってのお別れ。

 絵画を勉強していて、人形をやってみたいと思っている女子大生?の方とは、作品のコンセプト、表現方法、創作人形の近年の状況、個展の運営等々、様々なことで
話をさせていただきました。とっても前向きで謙虚、こういう方にはぜひ頑張ってほしいなと思いました。

「もともと創作人形をつくっておられた方が、どうしてジオラマをやるのようになったのか、そこがよくわからない。」
 そういう質問も受けました。

 今から20年以上前、創作人形のブームがあって、よくできたお人形には20万円以上、名前の知られた作家なら100万円の値がつくことも珍しくなかった。そしてvolksの
主催するドールイベントには1日に10万人もの人々が押し寄せ、今では想像もつかないけれど、そこで創作人形のコンテストも行われていた。
 自分もその時代に人形をつくりはじめた。でもブームはいつしか過ぎ去り、技術が向上するのと反比例して人形は売れなくなっていった。
 現状では一部の芸術的作品としての人形以外は、そのマーケットはすでにほぼ消滅しているように思う。8年ぐらい前に最後にヤフオクで自分の人形についたお値段が
35,000円、3カ月間かけてつくったという労力には、もちろん全く見合わない。
 そして売るのをやめて、まずは知ってもらうことを目的に個展を開催することにしました。
 準備に2年、どうせやるならと背景にこだわってみた。夏休みの時期に開催するので、一緒に子供たちの喜びそうなジオラマも置く、するとジオラマのまわりには結構な
人だかりができる。
 手作りの創作球体関節人形の方はというと、年々その知名度のようなものは下がり続け、球体関節人形というとビスクドールあるいは工業製品の方を示すものになってしまった感がある。そして人形そのものの人気低迷もあって、こちらにはなかなか人が集まらない。
 そして方向を少し修正して、様々なスケールで自分のイメージした空間を人形やフィギュアを主人公にして表現するという活動に切り替えました。
 自分のやりたいことを表現しながら、まずは見て喜んでもらう。そして造ることの面白さを子供たちには知ってもらいたい。

 こういうお話を「もともと創作人形を・・・」と質問された方にお答えしたら、「なるほど」と頷かれていました。






 会期中、こういうシーンを何度か見ました。世代を超えてみんなが楽しんでいる。
 個展を今年も開催して本当によかったなと思う。
 楽しいのは作品を見ている人たちだけじゃなくて、それを背後から見ている自分自身も同じです。



 お店を出たら、おりしも台風7号の接近によって水分が過飽和の状態。  すべてが滲んで少し幻想的でした。


2023.08
camera: Canon Powershot G9X Mk.2 / graphic tool: SILKYPIX Developer Studio pro 7 + GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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