TBLeague s44 のヘッドをリメイクする



 TBLeague s44 のヘッドをリメイクしました。
今回はその過程をご説明します。市販ドールのリメイクって、ちょっとしたことの繰り返しです。




<情景のなかの人形たち+2024 Winter>

 自分自身の個展「情景のなかの人形たち+ 2024 winter」開催まであと2日、ところがここでちょっと問題が発生しました。
 こちらは「誰もいなくなった」という作品は、この2年間の展示のなかではトップに位置する作品です。今回も展示予定だったのですが、モデルドールの hitomi
(TBLeague s45部分のヘッドをリメイクしたもの)がどこかに紛れて見当たらない。

 きっと作品周辺の片付けをすれば見つかるだろうと思っていたのですが、4日前になってもまだ失踪状態です。
 このアクションフィギュアの持つ雰囲気が背景にぴったりなのでぜひとも使いたい。ということで、急遽やむなくAmazonに注文することになってしまいました。
ただ、そのうちs45の方は出てくる可能性は高いので、同じボディラインを持つs44を選ぶことにしました。両者の違いは肌の色でs44はペール、s45はサンタンです。



 久しぶりに買ったTPEのアクションフィギュア、このs44とs45はTBLeagueボディのなかでは最も華奢で小柄です。
 おかげでものすごく高価なイメージのあるアクションフィギュア用のコスチュームは不要で、ジェニーちゃんやmomokoなどの1/6ドール用のOFが普通に
着せられるのが嬉しい。



 小さいからといっても関節の可動範囲はスタンダードサイズと変わりません。
 TBLeagueのアクションフィギュアにいまいちな点があるとすればヘッドだと思う。だからボディのみを買って、あとで別メーカーの出来の良いヘッドを組み合わせる
ということは、みんなやってるんじゃないでしょうか。

 

 ヘッド部分のアップ画像がこちらです。このs44についていえばそれほどひどくない、ひどくないけど輝いてもいないといった感じかな。何かつまらなそうな表情で
生き生きとしていない。
 本来はPCでシミュレーションしながらリメイクプランを練るのですが、今回は時間もないし、また同じ造形のs45のリメイクを経験していることもあって、すぐにリメイクを
始めることにしました。
A 三日月に近い眉毛の形状をストレートに近づける
B 目尻側が吊り上がっている感じなので、目尻側に睫毛を何本か入れて目尻を下げる調整をする。
C いわゆる三白眼になっているので、筆を入れて虹彩部分を下に広げる
 最初のプランはこんなところで多分「目つきが悪い」感じは軽減されると思います。

 

 これらを修正したら結構すっきりした感じになりました。次は顔の輪郭を整えます。顔の輪郭はヘアーと密接に関係します。このヘッドについていえば、せっかく
小顔ヘッドにまとめられているのに、ヘアーがそれを台無しにしていると思います。
D ヘアーは多分ヒートガンあたりで形を整えていると思いますが、そのために毛先がチリチリになっています。だからまずは毛先のカットから入ります。
E 小顔ヘッドを生かすためにお湯パーマでヘアーを整形して耳を出す。
F 前髪をつくって少しかわいい感じにまとめる。
 ヘッドの特徴を最大限に生かすヘアーメイクをします。



 ほら可愛くなった。よくある戦闘系アクションフィギュアからお人形になった感じです。でもまだあと一押しです。
G 人間用のチークやシャドウでいわゆるお化粧をする。色のせに使うのはいつもと同じで、大中小3種類の綿棒です。
H メイクが完了したらMr.カラーGX114のスーパースムースクリアーでトップコートしてお化粧を定着させます。



 これが完了した状態です。
 このヘッド、無茶苦茶に美人という訳ではないですが、自然な感じに仕上げられるヘッドです。普通のお姉さんみたいな感じがやっぱりジオラマでは使いやすいです。



 こちらのアクションフギュア、ほかの部分も急ぎで整えて2日後の個展に使います。
 ボディの方は小柄で華奢なので一般的なジェニーやmomokoの洋服が着せられるのはありがたいのですが、足だけはそうは行かない。



 左に写っているのはオビツのSBHボディの足です。だいたい2cmちょっとの長さになる。これに対してs44のフットパーツは3.5cmぐらいあって、市販の一般的な
ドールの靴は入らない。(スケールサイズで言えばs44の方が正しい)
 そこで画像に映っている交換パーツ(ハイヒール足)の下の部分をのこぎりでまずはカットします。



 あとは丹念にやすりがけして市販の靴が杯程度まで形を整えます。



 一通りの作業が終わったら、顔に袋をかぶせて全身にベビーパウダーをぱふぱふします。TPEドールの場合にはこのベビーパウダーが必需品です。摩擦も減って服が
着せやすくなるし、肌の劣化も防げる。



 シックな感じのコートを着せてみました。
 悪くないのだけど、ちょっとイメージが違う。あと眉毛ももう少し形を整えた方が良いかもしれない。写真に撮ると客観的に作品を見ることができるので、最終的な確認や
作業のポイントでは必ず撮影を行います。



 一転、軽快で清楚な感じのOFを選んでみました。イメージとしてはこちらのほうが作品に合っています。ただトップスのほうが少し緩い感じだったので縫い直して、ぴったり
サイズに合わせました。



 眉毛もほんの少し筆を入れ、少し太く更にフラットにまとめました。0.3mmの描き直しでも結構見た感じが変わります。
 これで個展では「誰もいなくなった」というジオラマの主役を演じてもらえます。



<個展>

 

誰もいなくなった
 2年越しで完成させた作品です。時は1940年代、第二次世界大戦中のヨーロッパのとある小都市の広場をイメージしています。
 散乱するビラ、放置された買い物かご。ここにいたはずの人々はどこに行ってしまったのか?そういう緊迫感とちょっとした恐怖のようなものが感じられるように配置して
みました。想定としては敵機の飛来を察知して人々は姿を消し、直後にその航空機からは大量のビラがまかれたというものです。

 実は撒かれたビラなどには統一性が全くない。ベンチに取り残された新聞は1941年12月、日本がパールハーバーを空爆し、太平洋戦争が始まった時のもの。その下に
落ちているのは『白バラ』のモチーフ。『白バラ』って何かというと、ミュンヘン大学の学生たちによる反ナチス抵抗運動のことで、彼らは1942年から43年にかけて6枚のビラを
作成し、戦争を終結させようと国民に呼び掛けたというもの。
 もちろん当時はナチスの存在は絶対的なものだったので、彼らは7枚目のビラを印刷する前にゲシュタポに捕えられ、国家反逆罪でギロチンにかけられてしまう。そのほか、
スターリングラード攻防戦のときに、ソ連軍がまいたビラ、ドイツ軍がダンケルクで撒いたとされるビラなどなど。

 背景の壁はベルリンの壁を参考にしてつくったもの。印象的なメッセージを書き写したほか、そのほかにも印象的な言葉を追加しています。
 柱の部分はJR鶴見線の「国道駅」の柱を表現したもので、第二次世界大戦末期に米軍機による銃撃の痕跡が残っている。

 ベルリンの壁が崩壊して30年、もろもろの問題は解決していないどころか、拡大さえしている。もちろんその下はバンクシーの「風船と少女」、風船は愛や希望の象徴と
言われているそうです。
 背後には工業プラントの一部として煙突とパイプラインを取り付けてみた。現代世界の問題は国家、民族間の争いだけでなく、地球環境の問題もある。決して万全とは
言えない世界、そして更にこの先が見通せない状況のなかに自分たちはいる。その事実をイメージとして再現したのがこの作品です。
 だからこれはリアルなジオラマではなく、ある意味メッセージそのものです。






 その後も何か気になるところがあれば、少しずつ手を加え続けています。
 お散歩に持って行って困るのはすぐにヘアーがぼさぼさになってしまうところです。
 ここはウイッグオイルで落ち着かせるのでなく、「革・ビニール手入れ剤」を使ってしっかりとまとめます。



 爪もそのままでなくピンク色をのせました。
 クリアーでコーティングするとすぐに色落ちするので、仕上げにはUVレジン液でトップコートします。



 瞳の部分にもUVレジンを盛って仕上げます。こうすると描き目でも瞳がキャッチライトして印象が良くなります。



 

 それから2ヶ月、大々的に顔の造作に再び手を加えることにしました。
A 瞳を更に大きくする。
B 眉毛を外側に伸ばし、やや太くする
C 目尻側を延長、シャドウを入れて眼を大きく見せる
D 頬の下側がやや膨らみがあって、顎に影ができやすい。そこで明るめのチークで影をつぶす
E 口の外側に影を入れて、きりっとした感じに仕上げる。
 目や口と言ったパーツのはじっこはもの凄く影響が大きいので、不安があればPC上でシミュレーションするのが良いです。

 

 全てが終わったら撮影して確認します。肉眼だと「思い込み」「見落とし」が多いので確認はモニター上で行うのが良いです。
 しかしここに一つ注意があります。撮影するときカメラでもスマホでも起動すると、最初はズームが広角側にセットされます。24㎜とか28mmというのは人間の
見た目とは違って、やや中央が膨らんだ樽型の描写になります。

 ちなみに左の画像は24mmでやや樽型に顔が膨らんでいます。
 右は50mmで人間の見た目に近い、撮影して確認するときには必ず50mm以上にズームする。ちなみに最もポートレートに向く画角は85mmだそうです。







 何度か手を加えて、ようやく満足のゆく仕上がりになったので、撮影テストに行ってきました。
 ドールやフィギュアはLEDのフラットな照明をあてて良い感じでも、様々な条件下で撮影すると、また違った見え方をするものです。
(もちろん自分の部屋だけで鑑賞するというのであれば、その必要はない)

 

 美白系のものは、特に直射日光の下では肌が白トビしやすい。適切に明度を下げ、つやを消すというのがその解決方法です。
 ヘアーが顔に影を落とすというのもチェックポイントです。これはヘアーのカットやお湯パーマで対応します。



 結果として、ものすごいべっぴんさんにはならなかったけど、性格良さそうな感じに仕上がったと思う。遊び相手なのでこういう感じが自分は良いと思う。
 アクションフィギュア特有の戦闘態勢の厳しい表情を、普通の感じ作り変えちゃうのが、少しだけ上手になったかもしれないと思いました。



2024.05
camera: Panasonic DMC-TZ60 / graphic tool: SILKYPIX Developer Studio pro 7 + GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



サイトのトップページにとびます