youki



<人形制作に慣れてきた頃のDOLLをリメイクする>
 
先日リメイクが完了して個展でもお披露目した leah という人形は、自分としての一区切りです。
 というのは、これまでに35体の球体関節人形を粘土からつくってきたのだけど、完全なる新作は5年前に制作した iria という人形が最後になります。最後の3作あたりは
人形制作のコツのようなものがつかめてきて、あからさまな失敗作とはならなくなってきたし、ときどき天から神様が下りてきたように、するするっと作業がすすむような
体験もした。

 一方で昔の作品は問題だらけであることに気付くようになり、そのまま放置しておくのはあまりにも可愛そうなので、新作の製作はおいといて、過去作品のリメイクをして
あげようと思うようになりました。
 粘土でできた人形なら、こういうところは自由度が高い。
 初期の作品だとほとんど新作に取り組むのと同じように手間がかかり、半年かかることもあります。それでも先日完成させた leah が最後で旧作品のすべてのリメイクが
完了しました。

 いよいよ新作をつくろうかとも思いましたが、手元には20体以上のオリジナル球体関節人形がある。以前はイベントなどで販売したこともあったけど、展示中心のドール
ライフになると特別なことがない限りは、もうこれ以上のドールは必要ないかとも思う。







 今回は9年前に制作した youki というオリジナル球体関節人形を再度リメイクしました。
 上の画像はほとんど作業は完了していて、撮影テストの段階です。人間は思い込みが激しくて良いと信じているものには盲目になる。だから客観的に見るために
最後は撮影してモニター上で確認することになります。








 こちらは8年前にリメイクが完了した yuzuki と youki というオリジナル球体関節人形です。
 背景になっているのは栃木県大田原市に雲厳寺で、画像合成して仕上げた画像作品です。昔は画像合成に凝っていた時期があって、こういう作品をいくつも
つくっていました。
 ただ最近は大きな人形も実際に背景を制作して展示することがメインになっているので、その回数は減りました。(そのうち再開したいとは思っています)




 ボディラインは、おそらくこの時代に身に着けた自分自身にとってのスタンダードなもので、特別手を加える必要もない。
 自立はもちろんするし、ある程度ポージングさせても関節等に問題はないです。




 優しく柔らかな表情も良いと思う。でも今の自分からすると、もっと輝きを増すことのできる可能性がある。
 人間と同様、人形も時とともに成長させることができると思います。

 リメイクするというのは、何かしらの問題点に気付き、それを改善する方法を見つけた場合に行うべきもので、やみくもにやっては結果がかえって悪くなることがあります。
大切なのは観察力、あとはそれに気づくための時間も必要です。1週間ほど手元に置いて眺めていました。



<ヘッドパーツの修正>
 結果としてやはり最大の問題はヘッドパーツにあるという判断に至りました。
 ということで、まずはヘッドパーツの修正から始めることにします。



 穏やかな表情で、このように正面から光が当たっているときは良い。ただ多くの場合は上方からの光が当たることが多いわけで、さらに虹彩に届く光の量を増やす工夫を
最大限行う必要があります。
 アイにあたる光を増やすなら、アイホールを大きくするという方向に向かいがちなのだけど、ブライスのような丸いアイホールでは台無しなので、それ以外の方法を考えます。



 直接的な方法としては、少しでもアイを前方に持ってくれば良い。そのために現在は2~3mmぐらいの厚さのある瞼をリューターで1mmの厚さまで削ればよい。(A)
 そのうえで一般に瞼の裏側に貼り付ける睫毛を瞼の下側に接着して、更にアイを前方にもってくる。(B)
 また人の良さそうな感じにするために、少し垂れ目な感じにしているのだけど(赤い線)、少しやりすぎた感じがあるので目尻側を少し持ち上げる。(C)

 これらが正しい方向の修正であるかどうかは、自分の場合にはPCによるシミュレーションで確認しています。具体的にはGIMPというフリーのアプリで、
(範囲指定)>(スタンプで描画)または(にじみ)、の操作を行っています。



 最初のAからCを実施した結果が上の画像です。少しきりっとした感じになった。左右の睫毛の形が違うことに次は違和感を感じた。多くの場合、すべての問題点に
気付くというのは希で、多くは最も大きな違和感を感じるところに目が留まります。
 左眉を太くしつつ外側に延長し、(D)
 右眉は内側に長すぎるので少し削る。(E)
 唇の存在感が足りないので、赤みの帯びた部分を増やす。(F)



 左目が右目より横長なので、目尻側を埋めて幅を狭める(F)
 下瞼の縁が下がりすぎているので少し持ち上げる。(G)



 すべての修正をシミュレーションしてみました。少なくともリメイクの方向性に間違いないことが確認できたので、ここで作業に入ります。
 自分は人形作りのポイントは、人形を見る観察力と、造形の方向を確認する計画性だと思っています。





 シミュレーションした結果をもとに、ヘッドに手を加えた結果がこれです。
 かなりすっきりして整理された感じです。ただまだまだ手を加えなければいけないところがあるような気がします。
 人間というのは、最初の段階ですべての問題点に気づくわけではない、まずは大きな問題点だけが目につく、それを修正すると今度は次に大きな問題点に気づくという
感じです。これはおそらく本能的なもので、何回見直しても見落としがあります。



 ここから先はまた、上の画像をもとにしてPC上でのリメイクのシミュレーションを行います。
 右目尻に隙間があってアイを取り付けるための白いパテが見えている。(A)
 唇のラインを左右で比較すると、若干左側が短く感じる。(B)
 口元が不明確なので、やや濃い目の塗料を流し込む必要がある。(C)

 こんな感じです。でもおそらくは人形など作ったことがない人には、何をどうしたらよいのか全く分からないと思う。
 観察力だけは少し身についたのだと思います。昔は全く分からなかった、だから気づくようになった今リメイクをしているわけです。



 違和感がなくなったところで、次はいわゆる人間と同じ「メイク」をします。
 眉毛を太く濃くしてくっきりさせる。(D)
 目尻にシャドウを入れる、今回はブラウン系で。(E)
 頬にチーク。(F)
 顎にもチーク。(G)



 赤みを加えることで生き生きとした感じが出てきます。
 ポイントとしていえるのは、メイクはある程度顔が整ってからすることです。違和感を感じるままにメイクすると何が何だか分からなくなる。





 この段階で実物に実際に手を加えます。その結果がこれです。
 このままでも悪くない、悪くないのだけどまだまだ細部を詰める。
 気づかない点も多いので、1週間ぐらいはこの状態で眺めてみるというのもよい方法です。



 最後の詰めというのは端っこの処理です。目や鼻、口のパーツの端っこは表情を出したり、印象をがらっと変えたりする。しかも0.3mm単位で調整しないとうまくゆかない。
 左目頭の部分を0.5mmほど、中央に延長する。(A)
 目尻の部分を左右ともやや下向きに変える。(B)
 口もとがやや吊り上がっているのを、やや下向きに変えます。(C)



 そのシミュレーション結果がこれです。
 これをそのまま表現することは最低限で、実際に作業するにあたっては何かひらめいたものがあれば、後悔しないようにそれを取り込む。





 これがその結果です。細部の微調整は必要だけど、それは追々作業を続けるとして、ここから先はボディのリメイクに入ります。
 ヘッド部分の変更はまだまだ続くと思う。まだまだこれだって瞬間を感じてないからです。



<ボディの修正>



 ヘッドのリメイクが終わって、ウイッグをつやのあるブロンドから少し落ち着いた色合いのベージュに変えてみました。こちらのほうがしっくりとくる。
 ボディは造形的にはそれほど問題はないように思うのですが、しばらく観察していると、「こっちのほうがもっと良くなるかもしれない」というレベルの修正点が見えてきます。



A 肩の関節の形状を変える。
 球体関節人形でも人間でも関節というのは、一方が球形でもう一方がそれを包み込むような形になっています。この「包み込む」というイメージが大切だと最近
分かってきました。
B 上体部分はやや厚みが足りないので、全体に粘土を盛ります。
C 背中側は肩甲骨を強調するような形に改める。
D 下半身パーツとのつなぎ目部分を現在の自分の解釈に修正します。
E 下腹部に丸みを持たせる。
F 肘関節が完全に内側を向いている形から、45°ほど回転させた形状に変更して、自然な感じに改めます。



 

 プランが出来たら、そのイメージを直接パーツに書き込みます。
 コーティングがすんでいるものに、直接粘土は乗らないので、いったん着色したモデリングペーストを塗ってから、少しずつ粘土を盛ってゆきます。
 あとはやすり掛けと粘土を盛る作業を繰り返して少しずつ形を整えます。

 

 テンションゴムを通す穴は楕円形です。一般に円や楕円の穴をあけることが多いのだけど、自由度が大きいとポージングが決まらなくなるので、今では極力小さな穴にしています。
 ボディラインを整えるためにばらばらにしたら、あらたな修正点を発見しました。
 双方でクロスするような細い穴が、自分のたどり着いた形状です。必要以上に関節は曲がらずポーズが決まりやすいです。

 

 肘関節も穴を小さく整えて、かつまた予定通り45°ひねる。ここは調整が少し難しい。





<ヘッドの再修正>



 また少しヘッド部分も0.3mmレベルで調整をしました。
 今回、ヘッドからリメイクを開始したのには理由があります。やっぱり最終的には顔が最も大切なところで時間もかかる。だったら最初からヘッド部分に取り組んだほうが、
結果として仕上がりは早い。
 ボディの形が整ってから顔のメイクに取り組むのが普通なのですが、このあたりも決して常識とは言えないな。



 こちらが着色したモデリングペーストによる下塗りと、リキテックスによる塗装作業が終わったところです。粘土を盛ったり削ったりしたのだけど、もちろんその境目などは
分からないように仕上げています。
 色味はある程度あとでも変更できるので、基本的に自分自身はMr.カラーのNo.111キャラクターフレッシュを基本色としていて、それにモデリングペーストの下塗り塗料と
リキテックスの上塗り塗料の色合いも合わせています。そしてそれをある程度の分量ストックしておけば、いつ何時でも色合いをリセットすることができます。

 さて組み立て直して出来上がりを確認していたら、ちょっとした問題点に気付いてしまった。
 自分にはこの角度で見たとき(上の画像)、向かって左側の頬から顎にかけてのラインが膨らみすぎな感じがした。
 こういうときは一旦写真に撮って冷静に客観的に見て、それでもやっぱり違うなと思ったら、躊躇なく修正します。



 まずは削りを入れて、着色したモデリングペーストを厚めに塗る。あとは磨きとモデリングペーストの塗りを繰り返しながら平坦化します。



 リキテックスによる塗装を終えて、メイクのし直しをしようと思ったら、今度は鼻のてっぺんが気になった。もう少し丸い方がいいなと思って、今度は瞬間接着パテを盛りました。
(上の画像) 瞬間パテは固化が早いので、量が少なければとても便利な素材です。


 
 左の頬から顎のラインがすっきりしました。鼻の形もきれいになりました。
 メイクの方は例によって人間のチークやシャドウで仕上げています。





<塗装、メイク、コーティング>



 さてヘッドに比べるとボディの方は色味がやや薄く見えると思います。ここから先はボディの方にもメイクを施してゆきます。
 例によって高耐久ラッカースプレー つや消しクリアーを3回ほど吹き付け、Mr.カラーのクリアーブルーを極めて薄くしたものを、パーツの表面にめらめら(*)と細く吹き付けて
ゆきます。でも画像にするとよくわからない、そのぐらい薄い吹き付けです。
(例えていうなら第二次世界大戦中の夜間戦闘機に施された迷彩模様に近い)

 見た目の感じは、色白でちょっと不健康な感じの肌の色合いに変化します。
 肌の色はオレンジ系ですが、なぜこの補色であるブルーを吹き付けるかというと、理由は二つあって、まずは静脈を連想するような肌の仕上がりになることです。血液の流れを
再現すると俄然、肌が本物っぽくなる。
 もう一つは補色であるブルーを下地に入れることで色に深みが増すことです。これは古くから絵画の世界で行われていた技法の一つでもあります。実際に著名な人形作家さんの
なかにもいったん全身を緑色にするという人はいます。



 更に高耐久ラッカーの吹き付けを3回完了したところで、今度はクリアーレッドに少量のオレンジを混ぜたものを、まためらめらと吹き付けます。(上の画像)
 こちらは動脈の表現という感じかな。ほかにも膝や指先など、毛細血管の集まるところには多めに吹き付けます。
 肉眼では分かるのだけど、やっぱりこうして撮影してしまうと良く分からない。



 更に10回ぐらい高耐久ラッカースプレーの吹き付けを行うと、肌に透明感が出てきます。
 高耐久ラッカースプレー自体は「半つや消し」状態に仕上がるので、最後にUVカット効果のあるMr.カラーのGX113を吹き付け、更にGX114スーパースムースクリアーを吹き
付けると、しっとりとした落ち着いたつや消しの肌ができあがります。
 うまくやると、深みがあって血液が流れているような肌の仕上がりになります。





 完成したのかどうか、またこのまましばらく置いて観察をします。
 しばらくそのまま放置しておいて、たまに眺めてみる。時々ポーズや見る角度などを変えてみるのも良い。そうすると昨日は見えていなかったところに、今日はふと気づいたり
することがあったりする。
 そしてどうすれば良くなるかが見えれば、その方向に修正をするし、問題が微細なものであれば個性としてそのまま残すこともある。このあたりは知識や経験がどうのというより、
感じて修正するレベルかな。

 

 こうやって見るとごくごく自然な感じのお人形になったと思います。
 修正の結果、立った姿勢以外のポーズをとらせても各パーツのつながりが良くなったし、ポージングの安定性も増したと思います。




 

 基本的には容姿は極端に変えることしていませんが、微細な修正の積み重ねで自然な感じの魅力的なドール担ったと思います。



 

 さていつまでも裸のままではかわいそうなので、ストックしておいたもののなかから、雰囲気の合ったお洋服を選びます。柔らかな優しい感じなので、清楚なワンピースを
選んでみました。
 着せてみたらこんな感じでイメージぴったりです。 そしてこの姿でこのページの銭湯の画像を撮ってきました。場所はいつもの花菜ガーデンです。





 

 そして新たな出番として「田代島のクロネコ堂」というジオラマにも出演してもらう。
 こちらは自分自身の個展「情景のなかの人形たち」の出品作品の1つになる予定です。



2022.07
camera: Panasonic DMC-LX7  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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