情景のなかの人形たち 8
Dolls in the Scene 2024 Summer
自分自身の個展「情景のなかの人形たち」も今回で8回目、こちらはそのイベントレポートです。(公開中のブログを再編集しました)
今年もなかなかに暑かったいろいろあったけど、やっぱり面白かったです。
<1年前>
最近は創作球体関節人形や市販ドールのプチリメイクとジオラマを、同時に4つぐらい並行して作業をしていることが多い。多すぎって感じもするけど、粘土や接着剤が乾くのを
待っていたり、ときとしてアイディアが出てこなかったりするので、いくつか並行して作業する方が効率は良いです。
そしてつくった作品はこのブログやHPで発表するだけでなく、1年に1回、実物を見てもらうために個展という場で公開してきました。基本的には8月、場所は平塚市美術館の市民
アートギャラリー。そして今年は2月にも別会場で臨時的に開催を予定しています。(鶴巻温泉)
申し込みは10月初旬ということで、昨日その申し込みを完了しました。
来年もまた今年同様、何かのテーマを持って開催したいと思っています。
今年も平和については扱いたい
ウクライナへのロシア侵攻が始まって以来、意識して平和の問題をテーマとして取り上げてきたけど、最近ではウクライナだけでなくイスラエルでも大規模戦闘が始まってしまった。
だから平和の問題は今年も引き続き取り上げ、展示も「平和を願う心」を形でまとめてみたいと思う。
地球温暖化
新たに取り組みたいと考えているのは、一つにはこの気候変動をテーマにした展示です。こちらは製作に半年以上かかりそうな大作で、すでに制作を開始しています。
温暖化というと、ただ単に「気温が上がる」だけだと考えている人もいるけれど、事実は違う。気温が上昇すればその分、上昇気流が発生しやすくなって雲が発達する。また気温が
上がれば大気中に含まれる水分量そのものが増加するので激しい雨が降りやすくなる。また水蒸気そのものが温室効果を持っているので、温暖化はいっそうすすむことになります。
上昇気流のおこるところはいわゆる低気圧や台風で、上昇気流が強くなればなるほど積雲が発達して、時として大量の雨をもたらします。
上昇した大気は膨張することで温度が下がり、今度は下降気流となる。下降気流の起こるところはいわゆる高気圧となる。ここでは空気は乾燥し地表を冷却する。もちろん高気圧に
覆われ続けば、乾燥化はすすみ渇水状態になる。
バランスとして考えれば、激しい上昇気流が起これば下降気流も強くなる。結果として全体としては気温は上昇するものの、寒気はそれほど弱まらず、寒暖の差は激しくなる。
夏はより暑く、冬もそれなりに寒い。だから春と秋は短くなる。
強い高気圧と低気圧があれば、低気圧に向かう風は当然のことながら強くなる。最近も通常の低気圧なのに台風並みの強い風が吹いたことがあった。
そして寒気と暖気の温度差が大きければ大きいほど激しい気象現象が起こりやすくなる。たとえば落雷や突風、竜巻、巨大な台風の発生、局地的な豪雨など、近年様々な気象現象に
それはあらわれています。
つまり温暖化は気温上昇だけにとどまらず、天候の不安定化はすすんで様々な災害をもたらす。
再生可能エネルギーの利用や電気自動車、その他エネルギー資源の利用の中で脱炭素化が叫ばれるようになって久しい。日本でも確かにその流れのなかにあるのだけど、必ずしも
十分ではない。
原発の再稼働反対という声は時々聞くけど、石炭火力発電所の方もかなり問題としては大きい。こちらを使い続けている日本の姿勢はやっぱりちょっと問題がある。
<5ヶ月前>
開催まであと5ヶ月というところで、臨時的な個展を鶴巻温泉の「富永岳彦記念美術館」の市民ギャラリーで開催しました。こちらは同じことの繰り返しにならないよう、展示の中心を
地元をテーマにしたジオラマにしてみました。反応はまあまあだったので市が、ともかく会場が暗かった。
美術館の照明というのは、作品が劣化しないようにぎりぎりの明るさに抑えており、暖色系の照明になっている。またできるだけ影ができないように、ともかくフラットな照明だということ。
だからジオラマの場合には、強い日差しシーンの演出には向かない。また人形の場合には立体感がなさすぎて平坦に見えてしまうし、瞳の奥まで光が届かない。人形は瞳が輝いていないと
その魅力が半減してしまいます。
ということでLEDライトを持ち込んで補助光にしました。
平塚市美術館はもう少し明るいのですが、窓から離れたところでは同様の問題が起きるので、今回は照明というのも技術的なテーマになるような気がします。
<1月前>
一ヶ月ちょっと前ということで、遅れていた個展の内容もおおまかに決まり、会場の配置などを考えつつあります。さあ、いよいよだねって感じです。
ということでここからは活動のモードも少し変わってくる。まずは現在制作中の4作品の完成を急ぎつつ、個展開催の準備もすすめてゆくという感じかな。
内容についてですが、まずは当然のことではありますが、最新作は間違いなく持ってゆくことになると思う。最新作というのは、現在の自分が最も表現したいものをつくっている
わけで、ある意味その存在自体がメインテーマになり得ると思う。
ということでメインテーマは 地球の行方 と題して気候変動と世界の不安定化の問題を扱おうと思ってます。
なんか固くって真面目だなあと思いますが、それが自分の思うところなんで仕方ないです。
こちらは現在制作中の「交差点」(仮題)という作品です。制作を始めてから10ヶ月が過ぎて、やっと形になってきました。まだまだ全貌はお見せできませんが、今回の個展の中心とな
る作品になる予定です。
歴史ある街並みが現代的な街並みに置き換わり、それが更に気候変動によって水没してゆくというストーリーで製作がすすんでいます。
こちらは「シュナの旅」という1/20スケールのジオラマです。
「シュナの旅」もまた宮崎駿氏の描いた作品で「風の谷のナウシカ」の元になったとも言われる作品です。(アニメ化はされていない)
狭い納屋の中の限られたスペースの中、小さな竈を囲んで二人は過去を振り返り、未来を見つめる。
貧しく厳しい生活の中での一瞬の和み。こちらのシーンはエンディングに近い印象的なシーンを再現したのです。
今回の2つ目のテーマは 家 です。
これまでも様々な家を制作してきたのですが、自分の造る家はドールハウスとは違ってフィギュアや人形が主人公になっています。大切にしているのは「生活感」かな。
こちらは三陸鉄道リアス線の「恋し浜駅」を1/150で制作したものです。このブログでもレポートしているように、ほぼ完成の域に達していて、あとはフィギュア等の配置と微調整を
残すのみです。
1年前に三陸海岸の南部を旅してきましたが、やはり震災の傷跡は大きかった。その景色は衝撃的でした。復興のシンボルとも言われる三陸鉄道の姿をぜひ再現したい、旅の
最終日に制作することを心に決めました。
3つ目のテーマは 旅 です。
今回はジオラマだけでなく、旅行に行った時に撮影した風景などもたくさん展示します。
こちらは1/3スケールの球体関節人形用の展示用背景で現在制作中のものです。
底面が50cm×80cm、高さ85cmのサイズで今回展示する作品のなかではいちばん大きなものになりそうです。
モデルになったのは宮城県の田代島にある「クロネコ堂」というカフェです。おじゃましたときには、入口には親猫二匹と子猫が三匹いました。
この田代島は猫の島、あるいはひょっこりひょうたん島のモデルになった島として有名ですが、こちらもまた震災で大きな被害を受けています。
今から70年ぐらい前には1000人を超える人々が住んでいたということですが、現在は50名あまりで猫の数の方がずっと多いそうです。
何せ作品が大きいので、変化をつけながら全体を白くしてゆくだけで2週間ぐらいかかっている。今個展に間に合うかどうか最も危惧される作品になってしまいました。
でも中途半端なことはせず、ちゃんと田代島の歴史が感じられるような作品にしたいと思います。
<3~1週間前>
さて自分自身の個展「 情景のなかの人形たち 8 2024 Summer 」まであと3週間を切るところまでやってきました。
今回の個展に向けて制作してきた4作品のうち、「V2ロケット」は完成、そして今また「恋し浜駅」も最後の撮影を残すのみで、この2,3日のうちに画像も公開できると思います。
今回最も長い時間かけて制作してきた「交差点」も透明レジンの流し込みが完了して、あとは演出を一つ加えてフィギュアを配置すれば完了なので多分間に合うでしょう。
「クロネコ堂」も概ね制作完了、今はこれに合わせる人形選びと着せるものを選んでいるところです。
それに並行して行うのは、そのそも何を展示するか作品を選ぶという作業です。とはいってもすべての作品を引っ張り出して比較するのは大変なので、上の画像にあるように
インデックスプリントの中から選びます。
インデックスプリントはWindowsでも標準で可能ですが、プリンターのメーカーから出ているアプリの方が使いやすいです。
それから画像のファイル名は自分の場合、<HA005_シュナの旅_2308_2330>などと少し長くしています。意味としては<整理番号+名前+制作年月+大きさ>です。とくに
最後の大きさは会場レイアウトの時に絶対必要で、たとえば2330とあれば、幅23cm、奥行き30cmということで、どういう大きさの展示台が必要なのか、すぐに分かります。
ちなみに上の画像に写っている猫は「クロネコ堂」に登場させる予定のもので、今何とか可愛くならないか、手を加えている最中です。
今年のメインテーマは「家」と「旅」です。このテーマにふさわしいものを中心に、結果今回は35作品をセレクトしました。展示可能な作品は70以上あるので、半分以上は家に置いてゆくことになります。
これが終わると会場配置を考えます。会場となる平塚市美術館には2週間前までにパネル配置等を指示しなくてはいけないので、この一週間がいちばん忙しいかも。
「もっと余裕もってやれば?」
そんな声がどこからか聞こえてくるけど、けっこうこのギリギリ感は好きです。
ちなみに自分がいつもお借りしているのは平塚市美術館の市民ホールです。展示スペースは148.5m^2もあるんだけど1日4000円、販売はこの場所の場合には
できないのだけど、一般的なイベントの90cm×90cmで8000円などというのとは比較にならないほど安いです。
(ちなみに販売が伴う場合や入場料を徴収うする場合には利用料金が2倍以上になるところが多い・・・、けどそれでも安い)
<1週間前>
球体関節人形の場合にはフィギュアと違って着せ替え可能だし、人形そのものも交換できるので、今は球体関節人形と展示背景のマッチングを行い始めたところです。
展示可能な作品が明らかになった段階で、最初にやる作業の一つはこのマッチング作業です。いちおう創作人形中心のイベントなので。
小さな人形の方のメンテナンスが終わったところで、今度は大きい球体関節人形のセレクションをして、背景に合った着せ付けをします。洋服選びはいつも大変で、やり始めると
部屋の中は一気に足の踏み場がなくなります。
ご存知かと思いますが、人形の保管は色移りを避けるために裸にしていておくか、もしくは淡泊な色合いの洋服を着せてプチプチなどで保護しておくのが良いです。
また樹脂製のDOLLは黄変の可能性があるので(無黄変をうたっていても若干変色する)、箱にしまうか暗いところに保管するのが良いでしょう。
自分の場合も以前はお人形を「出しっぱなし」にしてましたが、今では遊ぶとき以外は、経年変化を避けるためにエアコンの効く部屋に箱に入れて保管しています。もう扱いは完全に
「箱入り娘」です。
肌のお手入れの方ですが、汚れは中性洗剤で拭き取る。それで落ちなければメラミンスポンジや目の細かなスポンジやすりをかけてやります。そして肌の状況を見てトップコートを
しなおします。
人形の材質は様々ですが、やはり長期保存のためにはトップコートしておいた方が良いでしょう。
自分は新しく買ったお人形については、まずは全体を目の細かなスポンジやすりで磨き、まずはMr.カラーのGX113つや消しスーパークリアーUVカットを吹き付けます。次に高耐久
ラッカースプレー つや消しクリアーを何度か吹き付けて透明層をつくり、最後にGX114スーパースムースクリアーで仕上げるという手順です。
本当のことを言うと、2液混合型のウレタンクリアーにつや消し添加剤を混ぜて吹き付けた方が耐久性はあるし、しっとりとした奇麗なつや消しに仕上がります。でもウレタン塗料は
高価で、しかも扱いが難しく、保存性も良くないということで、今は使わなくなりました。
人形の方が一段落したところで、ジオラマ作品の点検と箱詰めのし直しを行います。
保存と運搬のためには専用箱が欠かせません。また紫外線対策にもなります。自分が長年使っている代表的な形式が上の画像のもので、ポイントとしては箱は作品より
一回り大きくつくり、がたつきがないようにリブ(白いスチレンボード)を入れるというものです。
作品の出し入れがしやすくて重宝しています。
これら一連の作業が終わったらリビングの片隅に積み上げてゆきます。
サイズとしては122cm×114cm×95cmの範囲で、これは我家の軽自動車の荷室に等しい。うまく積み上げられたらそのまま運び込めばよいというわけです。
<3日前>
さて個展開催まであと3日となりました。
基本的には展示する人形やジオラマはほぼ完成したので一安心という感じです。こちらは全部で35作品を展示する予定です。
ただ自分の場合には、立体作品だけでなく「写真」という形でも作品発表をしています。ジオラマが「自分のイメージした空間を再現する」というものであるならば、写真というのは
「自分の気にいった空間を切り取る」という作業なわけで、こちらも実に面白い。
こちらの作品数は150ほどで、毎年作品を追加したり入れ替えたりしています。
通常はモニター上で作品を見ているわけですが、これを何もしないでプリントしても、実は少し物足りない作品になってしまいます。
まずはきっちりとプリンターのキャリブレーションをきっちりと行うのがポイントになります。このあたりはメーカーのサイトで調べて見て下さい。
あとは必要に応じてプリントに向く画像に再調整するのも大切です。多くの場合(80%ぐらいの画像)は、自分はプリント用の画像として彩度とコントラストをやや高めにして調整
しています。
プリントしたら額縁に入れたりするのだけど、それを150枚もやっていたらとても運べません。またそのままというのもプリント自体に画鋲の穴が開いてよろしくない。
ということで簡便な方法として、A4フチなしプリントをB4のケント紙に貼り付けて展示しています。これなら安価だしかさばらないです。
ちなみに貼り付けは両面テープで行います。このときB4のケント紙に落とし込む枠などをつくっておくと中心が簡単に出て便利です。(上の画像の真ん中)
それが終わったら持ってゆく作品選びと、どういう順番で貼り付けるかを考える。
当日になって順番を決めている時間などはありません。
こちらは市川ソフトラボラトリーから出ている「ズームプリント」というアプリの編集画面です。(有料)
A2とかA3なんてサイズでプリントするなんて、お金がかかってとてもできないですが、これを使えば画像を自動的に分割してくれて、あとはそれらをつなぎ合わせて1枚の大きなプリントを
つくることができます。
たとえばこちらは画像を3枚×3枚に分割して印刷したところです。ちゃんとのりしろまでついている。あんまり枚数を多くすると、うまくつながらなくなるので、4枚×4枚のA0サイズぐらいが
上限かな。
余白をカットしてパネルに貼り付けました。サイズは84cm×58cmで、このパネルは人形用の展示背景に使う予定です。
もちろんちゃんとしたプリントには敵いませんが、つなぎ目も割合に奇麗で近づいて見なければ気になりません。
<前日>
さていよいよ明日から自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」を開催します。
基本的には十数年前から造ってきた創作球体関節人形やドール&フィギュアを主人公にしたジオラマ、そして画像作品の3種類が展示の中心になります。
なかには1年間かけて準備してきた作品もあって、自分としては完成度も高いと思います。
さて展示する作品がすべて整ったところで準備はおしまいというわけにはゆかない。
今回も新たにつくった作品や内容に変更を加えたものについては、キャプションを入れ替えなくてはいけない。メジャーな分野であればそのまま展示しても大丈夫かもしれま
せんが、こういう作品展はあまり一般的ではないので、解説しないといけない部分は多々あります。
さもないと「この人形はどこで売ってますか?」「私がつくりました」「えー、噓でしょ」みたいなことになります。
写真などもできるだけキャプションを加えます。
「そのままずばりで見てもらう方が潔い」という考えもあるでしょうが、自分はあまり芸術としての写真に興味はないです。
どちらかというと自分の作品の場合、なぜこの画像を選んだのか、なぜそこに足を運んだのかという、そのシチュエーションみたいなところに意味があったりする、だから
キャプションは欠かせない。
キャプションを含め、すべての展示物がそろったら、チェックリストに沿って点検しつつ(左側)、詳細な会場配置図(右側)を完成させます。
この段階で人の流れなどや、必要最低限の案内方法などのシミュレーションします。
これって結構大事で、来場者の反応はかなり違います。そしてこれは開催期間中にも微修正してゆく。
シミュレーションを行ったら、最終段階として必要な会場案内の作成を行います。
そして入口と出口には、簡便なあいさつ文のを掲げるというのがパターンかな。長いものは必要ないと思いますが、どういう思いでこういった作品展を開催したのかは分かって
ほしいから。
あとはお土産のポストカード(無料配布)も何種類か用意しました。
お持ちいただければ自分のサイトやブログのアドレスもすぐわかるようになっています。これってもしかしたらいちばん大切かもしれない。
準備が終わったら、あれほどごちゃごちゃだった4.5畳の自室がきれいさっぱりと片付いた。
「一つ終わったな」という感じです。
<1日目>
自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」がいよいよ始まります。
まだ暑くなる前の朝4時半に荷物を軽自動車に積み込み、9時に会場の平塚市美術館に向かいます。
会場費6日分24,000円を支払って設営を開始します。展示台を並べてカバーをかけ、ジオラマ作品を大まかに並べたところで12:00をまわる。作品数は昨年とほぼ同数の35、
写真は150、但し大型のものが増えたせいで、去年より時間がかかっている。
このころになると、ちらほらと入場者が現れます。その応対をしながら準備をするので作業はその都度スピードダウンします。
今年の会場はこんな感じです。会場は148㎡ほどあって、個展会場としては十分な広さがある。今時のイベント参加費と比較すれば、これが1日4000円というのは本当に
安いと思う。
さて会場には展示可能な移動式パネルが2枚あるのですが、今回はそのうちの1枚を使わないようにしました。
美術館というのは紫外線による作品の劣化を抑えるために、照明は暗くしてあることが多いです。そこにパネルをおいてゆくと、更に暗くなってしまう。絵画を鑑賞するのは
問題がないのだけど、立体的な小作品を鑑賞するには別途補助照明が必要になります。今回もLEDを3灯用意しましたが、数としては足りません。
今回、パネルを減らしたおかげで、会場内が一様に明るくなったと思います。こういう細かな見直しの積み重ねは大切です。
上の画像の真ん中は「誰もいなくなった」という1/6スケールのジオラマの背面です。本来は移動式パネルの前に展示する作品なのですが、今年は裏側をつや消しチャコール
グレーで塗装して、裏側を見られても恥ずかしくないようにしました。
パネルを減らすため、ほかにもいくつか作品に手を加えています。
最後にエントランスを整えます。ズームプリントでA0サイズに拡大したパネルを何枚か張り付ける。
美術館を訪れる人は何らかの創作物に興味があるわけで、その入口に展示内容をコンパクトにまとめておけば、それが目に留まって入場者も増えると自分は思っています。
現在、美術館のメインの展示は「ザ キャビンカンパニー」、親子で楽しめる企画なので入場者も多い、こういうところは美術館に併設されたギャラリーで行うことのメリットだと
思います。
すべての準備が終わったのは15時ごろ、もう疲れ果てたのが正直なところです。多分朝から20kmぐらいは歩いている。
エントランスにも1つだけ代表作を置いてみました。
マリリンモンロー
こちらは別々に販売されていたヘッドとボディを組み合わせたものです。
ヘッドはあまりの酷さに4年ぐらい放置していたものです。外れを引いてしまったのか、似てないどころか全く可愛くすらなかったい。
そしてこれをようやくダメもとでリメイク。具体的には厚い唇を薄くして、アイラインを引き直して、あごのラインを削って修正、最後にパステルとチークでで全体の色調と
陰影を整えたって感じです。
ボディはTBLeague のs32A、柔らかく女性らしいボディラインがマリリンモンローのヘッドにぴったりです。簡単な背景は自作したものです。
さて展示会場のトップに置いたのは、1年近くかけて制作した「交差点」という作品です。
交差点
こちらは水没してしまった街を1/24スケールのジオラマでつくっています。
温暖化がすすんで海水面が上昇してしまった近未来をイメージしています。
浅く水に沈んだ地面からツタのような植物が伸びてきて建物に絡み、また水分の補給を受けた苔類が全体を覆い始めている。おそらくは何もしなければ数年で建物自体が植物に
包み込まれてしまうのではないか。そのように見えるように演出したつもりです。
一部の人間を除けば、地球温暖化はすすみつつあり、単に「暑くなる」というだけでなく、激しい気象現象と災害をもたらすというのは常識になりつつあると思う。
こういう場合、多くの人々は標高の高いところに移住すると思いますが、何かの思い入れがあったり、何か事情があってここに住まなければならなくなったらどうするか?
そんなことを
考えていたら、こういう作品になりました。
旧市街地の河口に近いところ、温暖化の影響で水没し、汽水域の浅い湾ができあがった。
彼女はそこで生きてゆくために必要な電気や水、食料の一部を確保し、足りないものがあればボートでたまに買い出しに行く。旧市街地の観測監視員としての1日の仕事を終え、
窓で一人缶ビールを傾ける。
入場者のピークは例年11時ごろと、午後はだいたい2時から3時ぐらい。
その時間帯には親子3代で訪れる人も多いです。
お盆近くの厚い時期ではありますが、家族でこうやって楽しんでいってもらえる。ここで見たものが思い出の1ページになってくれたら嬉しいです。
<2日目>
自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」の2日目です。今日は昨日発見した作品の破損個所を修復するところから始まります。壊れやすいものが多いので、搬入の際には
こういうことがたまに起こります。
そういった作業も10分ほどで終了して、お客様の受け入れ開始です。時期が時期だけに、子供とお母さんのや祖父母がいっしょに来場というパターンが多いかな。まだ完全に
お盆休みという訳でもないので、働き盛りの年代は少なめです。
創作人形をつかった大きな情景を今回は5セット持ってきました。今日はそのうちの4作品をご紹介します。
モデルドールは9年前に制作した youki というオリジナル球体関節人形を今年再度のリメイクをしたものです。(身長56cm)
田代島歴史資料館&クロネコ堂
三陸海岸の一番南、石巻港からフェリーで40分のところに田代島という「猫の島」あるいは「ひょっこりひょうたん島」のモデルになったとも言われている島があります。
2024年時点で住民は50名足らず、一方でネコはその倍以上住んでいます。
この島にはクロネコ堂というカフェがあって、ネコちゃんたちがゴロゴロしていました。
今は住む人も少ないですが、その昔は1000人を超える島民のいた時代もあり、学校があってお祭りなどの様々な行事が催されていたようです。
店内にはそういった昔の様子の記録写真などもあります。
お人形もさることながら、リメイクしたネコちゃん達も見どころです。TEMUで購入した300円ちょっとのネコを頑張って可愛く仕上げました。
古いドア
鍵を落としてしまって中に入れない。
こんなときに限って、親の帰りが遅い。
「どうしよう・・・?」
モデルドールはオリジナル球体関節人形の asumi です。
この作品のご自慢は古いドアそのものの質感でしょうか。スチレンボードをベースにしてモデリングペースト、砂、Mr.カラー、パステルその他を使って何十年物歴史の重みを
感じるように仕上げてあります。
夏休みの一日 (山北 酒匂川)
今日はこれから友達と待ち合わせて、一緒に横浜にお出かけする予定です。
夏休みも終わりに近づいてヒグラシも鳴き始めました。
少々アレンジしていますが、このバス停自体は山北町にあります。周辺には道祖神や水神、石仏、様々な石碑が多く見られるところで、その昔は酒匂川の氾濫でたくさんの人が命を
落とした場所だということです。
今年は「酒匂川」の存在を明確にするためにラージプリントで制作したパネルを背後に置いてみることにしました。もう一つのポイントは、夏の終わりを感じさせるような赤とんぼをバス停
のトップに置いたことです。
ちょっとした小物の配置が季節感やシチュエーションを明確にします。
LAST WALTZ
横浜駅東口に実在するバーです。その外壁がとても素敵だったのでつくってみました。もちろんお店の名前はザ・バンドの1976年解散コンサートのアルバム名からとったものに
違いないです。また店内には70~80年代あたりのアメリカンロックが流れていると聞いています。
モデルはオリジナル球体関節人形の nanami です。
今年は適当な大きさのラジコンバイクを見つけたので置いてみました。景色に合っていて「決まった感」が出てきた。
こちらの作品のご自慢は背景の壁です。実物の写真を見ながら何度となく塗りと汚しを繰り返しています。縦に入ったヒビも時間経過の重みを出している。
創作人形のブームって今から20年以上も前にありました。今では想像もつきませんが当時はたくさんのイベントがあって、このサイズのお人形でも、良くできた作品には数十万の
値段がつくこともありました。今はもう新規に発刊されるものは1冊もないけれど、当時は人形関連の雑誌もいくつか出ていてました。
可愛い人形をつくることができるのは立派なステータスの一つだったけれど、それがレジンキャストに置き換わり、更に外国の格安のお人形が台頭してくると、ごくごく当たり前のように
マーケットが縮小してゆきました。
そういったお人形たちは今どこで何をしているんだろう? 時々それを考えることがあります。
そして自分は今は何をしているかというと、こういう形で遊んで、皆さんにそれをご披露しているというわけで
<3日目>
自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」の3日目です。
今回の個展のテーマの一つは「家」、そこで今日は作品の中から、家もしくは自分の部屋に関係するような作品をピックアップしました。
Kittyの部屋
格安の中国製ドールハウスのキットをベースに、いろいろと手を加えてお花いっぱいの部屋に仕上げたものです。いわゆるドールハウス的なものに初めて取り組んだ作品です。
植物の表現というのはなかなか難しくて、なかなかリアルな情景にならないというのが現実、でもたまにはつくりたいという欲求優先で再現するのも良いと思いました。
気持ちの良い部屋の中で絵をかいていたら眠ってしまった、そんな1シーンを再現しました。
梁に迷い込んだ蝶々が1匹止まっているのもポイントかな。
何かこのあたりから、少しずつジオラマに対する考えが変わってきたように思う。ジオラマってリアルさの追求よりも自分の持つイメージを再現する方が大切なんだろうと思うし、その方が
ずっと楽しい。
Alice’s Dreamy Bedroom
夢見る少女の部屋というタイトルでつくった作品で、こちらもドールハウスキットがベースになっています。
但し基本的には狭い部屋のなかだけを再現しているキットだったので壁や階段ベランダなどは全て自作です。1週間でつくることのできるキットを2ヶ月かけて完成させました。
主人公は天文学に興味があって、ベランダには天体望遠鏡があり、関連した書物が置かれていたり、やポスターが貼られています。
フィギュアはシルフィー ココシュニック、このフィギュアは雰囲気があって、特にお尻のあたりが良い。だから顔も一緒に撮影するならこれです。ちなみに窓から彼女を覗き込んだ
アングルも好きです。
猫と遊ぶ
ここに難しいテーマなどはない。ただ「家に帰ってきたら、庭に可愛い猫がいて遊んだ。」という、ただそれだけのシーンです。
主人公は「青春少女4」という林浩己氏によるフィギュアと猫です。女の子の実際の大きさは高さ4cmほどです。
ただこれだけをつくって飾っても、きっと何か物足りないと思って、市販のドールハウスキットをベースにして彼女の部屋を作りあげました。
小さなフィギュアのためにこれだけ手間をかけて背景をつくったのは、彼女がどういう生活をしていて、何に興味を持っているのかを表現するためです。結果、「こういう感じの部屋って
あるよね。」みたいな共感や日常感、生活感のようなものが感じられるようになると、それがリアルさにつながる。
ドールハウスキットにも家具類や小道具が入っていましたが、使ったのはスケール感の一致したもののみで、かなり多くのものは手作りして追加しています。
真ん中にあるのは、大きさの比較のために置いた1円玉です。(直径2cm) キャラクターものも好き、特にミッフィー。
一人の人間が生きていると、間違いなく身の回りに雑多なものが増えてくる。手間はかかりますが、それらを表現するのがドールハウス的な作品のポイントなんだろうな。
次は一回り大きくなって、話題は部屋から家に移ります。
紅の豚 ポルコロッソのアジト
スタジオジブリが制作した映画「紅の豚」というと、今となってはレアな存在となってしまった戦闘飛行艇が実にマニアックに描かれていたのが良かった。そしてもう一つ、ポルコの
アジトがとても素敵なところで、実際こんなところがあったら住んでみたいとも思いました。
ということで、地中海のどこかにあるというポルコロッソのアジトを1/72スケールでつくってみました。
ポルコロッソと並ぶ主役は SAVOIA S21F という戦闘飛行艇です。
主役のポルコは、サボイアのキットに入っていた操縦姿勢のものに手を加えてつくっています。ビーチベッドに寝そべってワインを片手にラジオを聞いているという劇中のシーンです。
地中海にモデルになった島があって、けっこうな観光地だと聞いています。
でもね一人で暮らすとなるといろいろ大変だと思う。水はどうやって確保するのか、発電するにも発電機や燃料が必要だし、食料の調達も必要、トイレだって考えなくちゃいけない。
劇中で電話がかかってくるシーンもありますが、そんなことあり得ない。
これを制作中、いろいろ考えていくうちに、一人で孤島に住むのは、生きてゆくために必要な作業が多すぎて、けっして「のんびり暮らす」だなんてことはできないことに気付いた。
それが水没した街の一角を再現した最新作「交差点」につながります。
テレワーク
コロナの時代を反映してつくった作品です。
テレワークが可能なら都会に住む必要はない、ネット環境さえあればこういうことだってできるはず、そう思ってつくりました。実際に大型のキャンピングカーで生活している人って
世界中にはいっぱいいる。
サツキとメイの家
ベースになっているのはさんけいから発売されていた「サツキとメイの家」というペーパークラフトです。ここに自作のベースを組み合わせ、鉄道模型用のストラクチュアなどを
追加しています。(1/150スケール フィギュアの身長は1cmほど)
フィギュアはKATOやPreiserのものをベースにして、いろいろ手を加えて使っています。
入院していたお母さんが帰ってくる、それを屋根の上に登って出迎えたサツキとメイ。
「おかえり、おかあさん。」
アニメの本編は草壁家のひと夏を追ったものだったけど、お母さんはまだ退院できていなかった。だから自分としては秋になってお母さんが病院から帰ってくる日、おそらくは
草壁家にとって「最も待ちこがれていた一日」を再現したかった訳です。
和洋折衷の大きな家は昭和の初期のころに多くつくられたものだそうです。
その昔、結核という病気が日本人にとっては最もやっかいな病気の一つだった時代がありました。 この日からまた4人での生活に戻る。
そのうちサツキやメイも成長して、トトロたちを見ることのできない年代になってしまうのだけど、それでもトトロたちはこの一家をずっとそれを見守ってゆくんだろうね。
小さな丘
こちらは4部作のジオラマです。(1/150スケール フィギュアの身長は1cmほど)
設定としてはスコットランドあるいはイングランドの北部あたりにあった小さな丘、ヨーロッパ戦線に向けて飛び立つ航空機のため、数多くの空軍の飛行場がつくられていた
1940年代時代の話です。
初夏
ここにはかつて市場で働きながら花売りを生業にする一家が住んでいた。夫婦に娘一人、生活が楽であったわけではないが、日々は充実していた。
1940年、近くの草原に空軍の飛行場がつくられたとき、父と娘は屋根上に登って飛来する飛行機を眺めていた。
晩秋
それはある日突然訪れ、何もかも奪っていった。
空を覆いつくす巨大な金属の鳥から黒い塊がいくつも落ちてきて、あたりは炎に覆われた。
彼女には何の罪もないのに。
冬
それから何度となく季節が入れ替わり、あの家のあった小さな丘には樹が1本、そして小さな墓標が残るのみとなりました。
厳冬期、雪はすべてを覆いつくす。
早春
雪が融け、小さな丘は緑に覆われた。そしてあちこちで小さな白い花が咲き始める。
そして一人の女性がそこに佇む。
そしてそれから20数年の年月を経て、彼女はやっと丘の上に戻ってくることができました。
いま彼女はやさしい両親とともにここにいます。 fin.
あ、雨だ!
この日は天候の変化の激しい日でした。予報は「曇り時々晴れ」でしたが、朝からしっかり晴れていて夕方は雷雨になりました。
激しく変化する天候や気象災害も温暖化とは無関係ではない。
おかげで原チャリで開場にやってきた自分は、帰り道にずぶぬれになりました。
世の中は毎日オリンピックのことで盛り上がっているけれど、一方で戦争が起こり、飢餓に苦しむ人もいる。こういう落差がいったい何によってもたらされているのか、そちらの原因も
明確にする必要があると思う。
<4日目>
自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」の4日目です。
テレビでは南海トラフ「巨大地震注意」のテロップがずっと出ていますが、ここ神奈川県の中央部では震度5弱の地震が一昨日(9日夜)に発生しました。
震源は厚木市で個展会場の平塚市美術館はお隣の市にあります。震度も4ぐらいはあったはずなので、この日の朝は少し心配しながら会場に向かいました。
でも行ってみたら何事もなく、作品は整然と並んでいました。
自分の作品は極力、軽量化しているので、マグネット一つでもお人形はポーズを崩さず立ってました。
何かちょっとだけ自慢したい気分でした。(ちっちゃいガッツポーズです)
さて今回の個展のテーマのもう一つは「旅」です。今日は作品の中から旅やお散歩に関係するような作品をピックアップします。
旅立ち
アイルランド スリーブリーグ
設定としてはアイルランド北西部、スリーブリーグ近くの小さな町の街角から二人が旅立ってゆくというシーンを再現したものです。こちらの作品のご自慢は道標です。道標その
ものはフィクションですが、前景としての存在感が感じられるようにリアルに仕上げました。
遠方への旅は期待感だけでなく、わずかな不安が常に伴うもの。
この二人の表情にそれが感じられたら作品として成功だと思います。
恋し浜
昨年秋に三陸の南部を巡る旅をした帰り道、三陸鉄道の「恋し浜駅」を訪れました。そして太平洋に面した眺望の良いこの駅の風景を1/150スケールのジオラマ(Nゲージのレイアウト)
にしました。
昨年の三陸の旅はいろんな意味でインパクトがありました。
そして復興のシンボルとも言われる三陸鉄道のこの駅はぜひとも完成させたい作品でした。
由利高原鉄道「曲沢駅」
実在する駅の風景を再現しています。但しそのままだと幅2mに及ぶ作品になってしまうので、全体を縮小しています。
由利高原鉄道は楽しい。1日乗車券でいろいろ遊べる。お酒も美味しい。
羽後本荘発 10:37 のYR3002で曲沢駅にやってきました。まわりはいちめんの田んぼ、周辺にはお店や民家どころか自動販売機すらありません。
青い空と緑、そして遠くに鳥海山。聞こえるのは揺れてざわめく稲穂の音だけ。
ホームから見ると360°どの方向を向いても、いちめんの田んぼがひろがる。
最寄りの集落はここから1kmほどのところにあります。たまたまその集落に住んでいた方がこの作品を見て、 「本当にこの通りです!」と驚いておられたので、間違いなくリアルにできて
いると思います。
今回は旅が一つのテーマなので、全部で6つのNゲージのレイアウトを展示しています。
vending machine
スケールは1/24、フィギュアの身長は7cmほど、ジオラマサイズは25cm×11cmです。
使用したキットはマスターボックスのヒッチハイカーとジュースの自動販売機の2つのみ、構成もとってもシンプルです。ベースボードや電柱は100均で購入した素材から手作りしてます。
長い時間歩いてきて、やっと見つけた自動販売機。
飲料水を飲み干しながら指で帽子の庇をほんの少し上げ、ゆく先をじっと眺める。
さて、その先に何が?
フィギュアはもともと通りかかる自動車に親指を立てるポーズだったのですが、そこはこのシチュエーションに合うように変更しています。
自動販売機の横に小さな電柱を立てます。
こういう立て方をすると、この自動販売機のためだけに電気がここまで引かれているという感じになる。「バス旅」で言えば、もうちょっとで県境を越える場所、まさに辺境の地といったところ
です。
この作品で気づいてほしいのは「探し求めていたものを見つけた歓び」です。
このシーン、もともとは「バス旅」の再放送を見て思いついたのだけど、彼女が見つけたのは自動販売機だけでなく、帽子の庇の先に見つけた目的地の「何か」なんです。
けっこう細かな演出を加えているのですが、こういうのってなかなか気づいてもらえないのが少し残念です。「撮影して拡大して下さい」と入口で声掛けするのだけど、9割の方は気付かずに
通り過ぎてしまう。
やっぱりジオラマって、身近なものではないからなんだろうなって思います。
シュナの旅
宮崎駿監督が描いた「シュナの旅」という作品の1シーンを1/24スケールのジオラマ作品にしてみることにしました。
「シュナの旅」は「風の谷のナウシカ」の製作と並行して描かれたというコミックで、発表はアニメ版のナウシカよりも古く、もう36年も前の作品になります。
お話としては、豊かな実りをもたらす麦を求めて「神人の土地」にシュナが向かうというもの、途中テアとその妹に出会い、苦難を経て目的を遂げる。
「シュナの旅」ははるか昔、あるいは遠い未来を描いたとても素敵なお話です。
そしてこのジオラマは作品のエンディングに近いシーンを再現したものです。
狭い納屋の中の限られたスペースの中、小さな竈を囲んでくつろぐ。
暗黒の世界の中で、少なくともこの小さな納屋の一角、この瞬間だけは幸せに包まれている。
彼らの旅はまだまだ続く、でも前向きである限りは、決して後悔しない未来があるに違いない。
<5日目>
自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」の5日目です。
台風がやってきた影響で、逃げ場のない暑さでした。
会場内には人形やジオラマのほかに140点以上の写真を展示しました。今日はそのなかからいくつかをピックアップしてお送りします。
akane
まずはエントランスの中央に置いたラージプリント作品です。A4プリント9枚を1つにまとめたものですが、ご覧のように遠目には継ぎ目も目立ちません。
モデルはオリジナル球体関節人形の akane (1/3スケール)で実物も会場内に展示しています。
ayana
モデルドールはオリジナル球体関節人形の ayana (1/3スケール)背景はBlue moon blue と fiorucci のジーンズ。この娘には青系が結構に合っているかもしれません。
上大井から秦野へ
夜明け前、16kmほどの距離をお散歩旅しました。山一つ越えたところで夜が明けた。
しんとした空間
下層を白く靄が覆い空は刻々とその色を変えてゆく
名前ない場所 でも何て素敵な場所なんだろう
モデルドールは sae (TBLeagues s34をヘッドリメイク)です。
雪
雪が手のひらに
そして消えてまた手のひらに
とけてほんの少しだけ重くなったように思う
今回は画像加工した作品も多く展示、こちらもその一つです。
モデルドールは dollmore の Hayan Cho 、市販品ですが珍しく自分がリメイクの必要なしと判断したお人形です。美しい。
土佐中村 田野川
四万十 半家の沈下橋
高知県に行った時に撮影した画像にオリジナルドールの nanami (1/3スケール)の画像を合成したものです。
合成写真というのは特別なものではない、お人形遊びの道具としてPCは欠かせないなって思います。
パステルカラーの朝
それでも台風が通り過ぎた後、微かな日差しがあったので5時からお散歩に出かけます。
水蒸気がとても多い朝だったので、すべてが霞み、空も田んぼもパステルカラーの朝でした。
ふと、こういう朝も良いなと思いました。
6年間も土の中で生きて、そして地上に出てからの1週間は彼にとってどのようなものだったのだろう?
少なくともお天気には恵まれなかったのだけど、次の世代を残すことができたのであれば、生きて地上に出てきた甲斐があったと言えるのかもしれません。
右左口宿
甲府に行った帰りのこと、ちょっと古い町並みの残るところに行ってみようと思い、中道往還の左右口宿を訪れました。中道往還とは甲斐と駿河を結ぶ古道で、ここ左右口宿は
織田信長が往来するために徳川家康が整備したといわれています。
一方でここで生まれた歌人、山崎方代の生家跡や直筆の歌碑などもあって、和歌の里ととしての見どころもあります。
坂道の上の方に敬泉寺という古いお寺があります。徳川家康が戦に備えて、寺内に兵士のための仮小屋を建てて高台の観音堂に見張りの兵を置いたという伝承が残ります。
その観音堂の手前に万代の和歌が記された木版がありました。
一度だけ本当の恋がありまして 南天の実が知っております
思わず南天を探しました。
その恋は実ったのでしょうか? 意味深です。
この観音堂は高台にあって、ここからの景色がすごい。
甲府市街から南アルプスまで一望です。山登りしたわけではありませんが結構な登りです。でも上ってきて良かった、あまり知られていないところだけど絶景だと思います。
ここは絶対のおすすめです。
この観音堂につながる参道にも、ここを歌った和歌がありました。
めしひなる母を背にして詣てつる 観音堂を夢に見しかな
しみるなあ。このお母さんも観音堂からの景色を何度も見たんだろうと思う、泣けます。
<6日目>
自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」もいよいよ最終日の6日目です。
今日は14:00頃から少しずつ撤収作業を開始して、15:00には会場をCLOSEする予定です。
とはいえ連休最終日、お盆休みということもあって、たくさんの入場者が予想されます。
毎年のことではありますが、午後の入場者のピークに撤収作業をしなくてはならないのは辛いです。
たとえ撤収作業中でも来場された方がいたら、残った作品をご覧いただいて、あとはDMをお渡しして「ブログやHPからも作品は見ることができます」ということになるのですが、
やっぱり3次元のものを2次元で見るのはイメージが違います。
hitomi
こちらは受付嬢をしてもらった hitomi 、TBLeague s45 のヘッドをリメイクしたものです。
TBLeague は確かによくできたアクションフィギュアではありますが、やはりヘッドの部分は出来が今一つのものが多く、自分はほとんどの場合、手を加えてから遊んでいます。
手を加えると言っても、ほんの僅かですが、それで格段に見栄えは良くなります。
このフィギュアの場合には、ヘアーのカットとセットは必要不可欠でしょう。
乾かない・・・
pico
こちらはピコニーモボディにオリジナルヘッドを組み合わせたものです。
今現在、ドールやフィギュアの世界でいちばん勢いのあるスケールは1/12だと思います。100均に行ってもこのスケールの小物類が溢れるほどあし、中華通販サイトに行けば
もっと安価で大量に仕入れることもできます。
そんななかで何年か前につくったこちらのお人形ですが、正直言って難しい。
そこそこ可愛くはなったのですが、やっぱりこのサイズでヘアー付き入れ目タイプにするのは結構大変で、アイの制作や瞼を薄くする作業やヘアーの貼り付け作業が困難で、
ヘッドがうまく出来上がる確率は40%ぐらいではなかったかと思う。しかもスケール感のある洋服も少ない。
実際1/6なら再現できるけど、1/12だとできないことが多いです。
また1/24なら省略できるものも、1/12だと手抜にみえてしまうというのもある。
作る側とすれば、実にやりにくいスケールです。ということで、10個ほどヘッドを完成させたところで自分は本格的に取り組むのをやめました。
クラリスとカール
今回もまた宮崎駿関連のコーナーを設けて7作品を展示しました。
こちらは、アニメファンならだれでもご存知の「ルパン三世 カリオストロの城」のエンディングシーンを再現したものです。遠景として使ったお城の模型は、実は市販品です。
フィギュア自体は、ルパン三世「カリオストロの城」に登場したプラモの自動車シリーズというものがあったけど、おそらくはそれに付属していたレジンキャストキットです。
ジャンクパーツの箱の中から取り出しました。
キットとしての出来は良くなかったので、2つとも時間をかけて修正しています。
「ルパン三世 カリオストロの城」について言えば、意外性のあるストーリーと素敵エンディング、そして登場人物のなかでも、やはりクラリスの健気で、見ているものに思わず
「守ってあげたい」と思わせてしまうキャラクターが良かった。
でもインターポールがカリオストロ公国に大挙して踏み込んだ後、公国とクラリスはどうなってしまったのか?
損害賠償その他で国の経済は破綻、貧乏のどん底で国民は飢えに苦しみ、あるいは騒乱が発生するかもしれない。映画を見た後しばらくして冷静になると、そのことがものすごく
気になりました。
これからこのカリオストロ公国は本当に大変な状況になるに違いないのだけど、ルパンとの別れや彼を追いかけてきた銭形警部とのやりとりのシーンがあまりに良すぎて、
それらがみんな吹っ飛んじゃう。そんなこと微塵も思わせない。
「いや、奴はとんでもなものを盗んゆきました・・・。それはあなたの心です。」
「はい。」
「ルパン三世 カリオストロの城」、見終わった後にみんなが幸せになれる、やっぱり歴史に残る素敵なエンディングです。
風の谷のナウシカ オームとナウシカ
ツクダオリジナルのプラモに手を加えて主人公を完成させています。
月間アニメージュではトルメキアとドルクの戦いに一区切りついたところで、その最終回となりますが、自分としてはその後、再び世界に平和が訪れつつあるシーンを再現したいと
思って制作しました。
腐海がその勢いを失った時代、旧世界の遺跡に再び足を踏み入れると、そこに過去に存在していた植物が再び繁茂し始めていた。そこでナウシカはオームの子供に出会う。
皆が穏やかに生活できるようになったら、こういうシーンもあっても良さそうな感じがしませんか?
風の谷のナウシカというと、戦いに明け暮れる少女の物語というイメージがあるけれど、やっぱり誰だって心穏やかに暮らしたいはず。だからそれを再現してあげたいなと思ったのが、
このジオラマをつくったきっかけかな。
青いタンクトップに白いワンピースという、一見活動的でない服装なのも平和な時代の象徴です。
天空の城ラピュタ ロボット兵
ファインモールドから発売されているプラモを使って制作したジオラマ、スケールは1/20、ベースサイズは26cm×26cmです。
劇場アニメの「天空の城ラピュタ」では世界を支配するラピュタ人は、謎の病を避けて地上に降りたとされていますが、それがもし近未来の日本だったらという、自分のイメージした
架空世界を具体化したのがこちらの作品になります。
(左は会場で撮影、右はCGの背景を追加しています。)
ジオラマというと、やはり基本は「リアル」にミニチュアをつくるということです。
ただ今回はそこから一歩出て、もしこうだったらという架空の世界を再現したものを多く持ち込みました。ゆくゆくは2次元、3次元の区別なくAIが優位になってゆくのかもしれないけど、
情景の世界においては、まだまだ可能性に満ちている部分があると思います。
この身長41cmのお人形が、洋服(上の画像とは違う)、靴、アクセサリー、メイク付きフルセットで驚愕の19000円。
アクションフィギュアの分野ではTBLeagueに代表されるシームレスのTPEドールが完全に主流で、今また50cmサイズのものが1万円台前半の価格で登場し始めています。
BDJは日本のvolks社で火がついて、後に韓国や中国のメーカーが追い抜いていった感があります。5万円以上する日本製の人形はどうしたら対抗できるのでしょうか。
それは創作人形の世界も同じで、少なくとも自分は普通の人形をつくって売っている限りは、どう考えても絶対に敵わないだろうと思っています。きっと生き残るのは芸術作品としての特別な創作人形だけだろうな。
だから「人形作家」という肩書も今が最後で、後々は消えてゆくことになるような気がします。
<反省会>
自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」の最終日は17:00ごろに撤収が完了し、そのあとは自宅で荷物の積み下ろす。いつもながら初日と最終日は大変です。
シャワーを浴びたら、早速近所の焼き鳥屋さんへ向かいます。これから恒例の反省会です。
ビールやハイボールなすすむ。初めてのお店だったけど、けっこう安くておいしい。焼き鳥はもちろん鶏唐揚げもいける。疲れたけど充実感は一杯です。
なんかさー、このために個展をやったって感じ。
それで今回の個展が成功だったかどうかってことだけど、入場者数は6日間で537人でした。1日に100人近い数字なわけで、これはけっこう嬉しい。
以前はオリジナルの球体関節人形一本で勝負していて、ドールイベントなどにも頻繁に出店していました。しかしながら自分のような創作人形に関して言えば興味を持つ人は
だんだん少なくなってきて、最後の方はブースの前に立ち止まる人は日に10人いれば良い方でした。しかも1テーブルの参加費は1万円ぐらいする。
この会場について言えば148m²もあって4000円、全く比較にならない。創作人形なんて今はもう売れるもんじゃないので、販売しないのならこちらの方が断然良い。
あとこのブログなりHPを見てやってくる人はあまりいません。多分サイトの案内を見てきただろうなって人は、日に一人か二人って感じですね。
でもこのイベントそのものに興味を持っておられる方は多いようで、ブログを訪れる人は必ず増えます。また会場にいらした方のなかにも新規にブログ読者になられる方もいると
思います。
個展をやり始めて7年ですが、徐々に読者数も増えてきて、少なからず自分としては手ごたえを感じています。
実は創作人形のブームって今から20年以上も前にありました。今では想像もつきませんが当時は創作人形のイベントがあって、50cmサイズのお人形でも、良くできた作品には
数十万の値段がつくこともありました。今はもうヤフオクでも値段がつかないし、何種類もあった人形関連の雑誌はすべて休刊となってしまいました。
その頃、可愛い人形をつくることができるのは立派なステータスの一つだったけれど、それが2000年代初頭、Volksに代表されるレジンキャストドールに置き換わり、更に外国の
格安のお人形が台頭してくると、ごくごく当たり前のように国内のマーケットも縮小してきたというのが現状なんだろうと思う。
最近ではOFやお化粧つきでフルセット18000円だなんて良くできた外国産の球体関節人形があるなかで、今、人形づくりのプロとしてやってゆくことは相当難しいでしょう。きっと
人形作りのプロとして生き残るのは、芸術作品としての人形をつくる、ごく限られた人間だけになると思います。
今回来場された方のなかには人形全般にものすごく詳しい人がいて、いろいろお話したり、自分の創作人形で遊んでもらったりしました。その方が言うには、手作りの球体関節
人形のマーケットはすでに消滅しているそうです。
その昔、華々しくドールイベントを盛り上げていたあのお人形たちは、今どこで何をしているんだろう?
今時々それを考えることがあります。
そして自分は今は何をしているかというと、こういう形で遊んで、皆さんにそれをご披露しているというわけです。
「情景のなかの人形たち 9+ 」
Dolls in the Sciene 2025 spring
2024.3.xx(金) ~ 3.xx(日)
開成町 あしがり卿 瀬戸屋敷
(入場無料、会場内撮影可)
まだ検討段階ですが、来年の2月または3月に臨時開催の個展をやろうかと思っています。会場は「瀬戸屋敷」を予定、ただ予約が3か月前からなので、まだ実施について明確なことは
言えません。
こちらは茅葺の古民家なので、会場に合わせた人形展示をしようかと考えています。
さてそれではもう一つの柱であるジオラマはどうなのかというと、そもそもジオラマというカテゴリーのマーケットは存在しません。それでも世の中にはジオラマ素材はたくさん出回っている
ので、趣味の一つとしては受け入れられているのだと思う。そして模型雑誌も少ないながらも存在する。
但しここでも流れは変わってきているようです。今回、来場者された方との会話で出てきたのですが、最近の子供たちは「そもそも模型はつくらない」のだそうです。「プラモをプレゼントした
けれど、見向きもされなかった」なんてことを話す人もいました。
現実に模型の中で最も人気があるのはフィギュアの分野でしょうが、こちらはおそらく99%が完成品でしょう。
「つくって遊ぶ」から「眺めて遊ぶ」へ移行しつつあるなかで、「あるシーンを再現する」という情景の世界はやはり特殊な分野になりつつあるのかもしれないと思いました。
現実にプラモは昔に比べれば値段も上がり、ジオラマ素材だってフォーリッジ1袋が1000円以上するようでは、基本子供の遊びにはならず、子供の頃に熱くなって遊んでいた中高年の趣味
の一つになりつつあるのかもしれないと思います。
現実にはこちらも絶滅危惧種の一歩手前かもしれません。
創作球体関節人形、そしてドールやフィギュアを主人公にした情景の世界も、今となってはなかなかにレアな趣味ではあると思います。もちろんレアであるがゆえに、そこにマーケットは
ありません。
儲からないのに、なぜ自分がそのようなことをするのかと言えば、ずばり「言いたいことがある」からです。
地球温暖化と環境の危機、一部の人間によってたくさんの人たちの生命が危機にさらされているという現実、少なくともその2つは意見として述べたかった。
あまり身近な分野ではないので、写真だけ見てゆく人や、ざっとものの5分ぐらいで退室してゆく人ももちろん多いです。でもなかにはじっくりと見て、キャプションまでしっかり読み込む方
もいる。その受け取り方の差は大きいと思う。
あとは広義の「モノつくり」の楽しさを子供たちに知ってもらうことかな。
バブル以降、モノつくりを見下して世界レベルの技術力や開発力を失ったこの国が、再び復活を遂げるためには、もう一度原点にもどって、真摯にその事実を受け止めるべきだと思う。
「すごいですね」
「感激しました」
「自分も全くその通りだと思います」
「これからも頑張ってください」
「応援してます」
自分の受けた一つ一つの言葉が励ましになります。ありがとうございました。
2024.08
camera: Canon Powershot G9X Mk.2 ほか/ graphic tool: SILKYPIX Developer Studio pro 7 + GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10
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