お茶の里
島田市周辺の旅
2024.08.15
個展が終わった後、お盆ということで実家のある静岡に帰省しました。そのうちの1日は暑い季節ではあるけれど、少しばかりご近所を旅してきました。お茶の里を巡る
大人の社会見学です。
早朝散歩
4:30
個展が終わったあと、つい先日のことですが実家のある静岡に帰省しました。
といっても最近の夏は出歩くには暑すぎるし、観光スポットなどや人気のあるショッピングセンターなどはどこも混んでいたりする。自分にとっては案外と居所のない時期です。
やることもないので、例によって早朝散歩にでかけます。出発は4:30、少し歩くとちょうど夜が明け始める。
まわりは水田とあとはとびとびにある住宅の景色です。昔に比べて住宅は増えたとはいえ、まだまだ農業が盛んな土地です。水の入った水田があると、思いのほか明け方の気温は
低い。風がそよぐと気持ちが良いです。
二つの河川が合流するところにあるお地蔵様、ほかにも石仏がいくつかある。
今はこんな風に殺伐とした感じもあるけれど、昔は河原が草原で何本かの太い樹が木陰をつくっていた。誰がかけたのか知りませんが、ブランコが大きな樹から吊り下げられていて、
とても美しいお気に入りの場所でした。
でもこの日行ってみたら、最後まで残っていた1本の太い樹まで倒されていました。
このお地蔵様の由来などは昔から分からず、今もgoogleで検索しても、その存在すらマークされていません。
でもいついってもきれいにされているし、お供え物もたくさんある。
もしかしたらその昔、人柱になった人がいたのかもしれないなどと、ふと考えたりします。自分にとっては昔からの謎なのですが、今は謎のままでも良いかなと思っています。
今この河川は少しずつ整備されてコンクリートの護岸を持つようになり、河川敷は地域に開放されていてお花畑になっていたりします。でもその昔は何度となく洪水の発生源に
なっていたと伝えられます。
5:00を少し回ったあたりで太陽が顔を出す。
ここで帰路に就きます。楽しくお散歩するには暑くなるまでに帰るのがいちばんです。帰りに立ち寄ったファミマのアイスコーヒーが抜群に美味しかった
このあたりの神社やお寺は1500年代の後半から1600年代の前半に建立されたものがほとんどです。
昔このあたりは大井川の広大な氾濫原で、この時期の少し前から人の手が入って、少しずつ開拓されていったと聞きます。ただその治水には苦労が多かった。
1816年(文政13年)、駿河と遠江両国は台風で著しい凶作と飢餓に見舞われます。百姓達は年貢の減免を田中藩に強訴、一揆の一歩手前の状況となりました。そのときこの地の
庄屋であった増田五郎右衛門は農民たちが暴動化することを止めて、あらためて自ら貢の減免を藩に直訴したといいます。
結果、五郎右衛門の願いは受け入れられたものの。一方で田中藩は混乱の首謀者探しを行います。これを知った五郎右衛門は、農民たちに嫌疑が及ぶ前に自らが首謀者だと
自首、その後に打ち首の刑に服して42歳の生涯を終えました。
島田市博物館
9:10
朝のお散歩は良いとして、暑くて昼間は出かける気がしない、人気のあるところは混雑しているし。そしてふと思いついたところがあった。
これだ「島田市博物館」、幸いにしてお盆休みの季節も開館して、中は涼しい。近隣は大井川の渡しの関連で国の指定史跡にもなっている。
行ってみたら「蘭字・茶箱絵 島田の茶業の歩み」と題した特別展が行われていました。(入館300円)
特別展なのでなかの撮影はNGでしたが、エントランスの絵にあるような茶箱絵がたくさんあって、なかなかにアーティスティックで見ごたえのある内容でした。またお茶の栽培が
盛んになった理由や、お茶の生産と輸出など、お茶に関する展示も分かりやすくて良かったです。
お土産は茶箱のレプリカと島田産のペットボトルのお茶を購入、お茶の方は濃いめでカテキンいっぱいでした。
入館料300円の内容としては十分におすすめです。(会期は9/29まで) 一方で常設展の方は無料で楽しめて撮影もOKです。
島田は東海道の宿場町として栄えたところで、なんと宿場町としては7番目に大きかったそうです。当時は小田原や岡崎よりも賑わっていた。
島田大祭は近隣の大井神社のお祭りで、一般には帯まつりの名で知られています。
神輿渡御に従って続く大名行列、鹿島踊り、屋台がまとまって一つの祭事となっていますが、大名行列の際に大奴が左右に差した日本の太刀に帯を吊るしているさまが特徴的で、
日本三奇祭の一つに数えられています。(3年に10月中旬に開催、80万人が訪れるという)
このお祭りが始まったのは元禄の頃、宿場町として最も栄えていた時代であった。
あと有名なのは文金高島田に代表される島田髷でしょうか、島田は当時のファッションの最先端を行っていたわけだ。
総じてこの島田というところは文化レベルが高く、文化人の多く訪れるところだった。
松尾芭蕉もまたこの島田を訪れている。この博物館の他にもあちこちにその句碑が残されています。
1694年(元禄7)、川奉行だった塚本如舟宅に宿泊した際には彼と詠みあうこともあった。
「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」 芭蕉
かの有名な句もここでつくられた。
島田が栄えた理由の一つには上流からの木材の集積地であったということもあるけれど、度重なる川止めの影響で、多くの旅人がこの宿場街のなかで時間を過ごし、結果として
たくさんのお金が落とされるようになったということも無視できない。
芭蕉が塚本如舟宅で連句することになったのも、川止めで5日間大井川を渡ることができなかったからだと伝えられます。
明治になって近くに蓬莱橋(世界一長い木の橋、現存してます)ができあがると、島田宿と対岸の金谷宿は他の宿場町と変わらぬ通過点となった。そして鉄道の開通も宿場町
の存在する意味を更に小さくしていった。
一方で蓬莱橋ができたことにより、対岸の牧之原台地に歩いて渡ることができるようになると、勝海舟の指導もあってここを開拓して広大な茶畑がつくられた。島田は橋一つで
宿場町からお茶の街へと暖簾の架け替えをすることになったわけです。
大井川川越遺跡
9:40
この日も気温は34℃と暑かった。でもせっかくやってきたので博物館だけでなく、周辺の街並みも少しだけ散策することにしました。
博物館自体は大井川の土手のすぐ下にあって、その昔はこのあたりから対岸の金谷宿に向かって渡しが行われていました。
幕府の政策によって、旅人は川人足に頼んで肩車をしてもらうか、料金をはずんで連台で運んでもらうしかありませんでした。 運悪く長雨が続いて水位が増すと「川留め」と
なって宿場に長逗留し、散財させられました。
大井川川越遺跡は渡しを行うかどうかの判断をする川会所と、川人足たちの宿泊施設などを復元した施設で、国の指定史跡になっています。
ときには完全に大井川の交通が遮断されることもありました。慶長の大洪水(1604~1605年)では大井川の堤防が決壊し、この渡し場だけでなく島田宿全体が洪水で流されてしまったという。
その後、規模な治水工事や灌漑工事が行われることになり、ここにはに島田大堤が築かれることになりました。(画像上)
工事終了後は、この流域の米の収穫量が以前の20倍にも増えることになったという。
大堤を越えたところにあるのが川会所です。
ここで 川越制度全体の取り仕切りが行われ、川越の料金設定や川札の販売が行われていた。こちらの建物は実際に使用されたものを移築修復したものだそうです。
島田宿川越遺跡にはそのほかに札場、立合宿、番宿などが復元されていて、ここだけ江戸時代の面影を感じることもできます。
また現在でも発掘調査が行われているのだという。
大井川対岸の金谷宿側と合わせると、人足だけで1000人もいたというのだから、当時の東海道というのは人々の往来が極めて多かったのだろうと思います。
こちらは島田市博物館の別館です。1900年に建てられた旧桜井邸を利用したもので旧家の面影を感じる重厚なつくりです。
奥には静岡県出身の版画家・海野光弘の作品を収蔵した「海野光弘版画記念館」もある。 (但しこちらは撮影不可なので図録の前で撮影したお人形写真で勘弁してください)
海野光弘氏の作品はけっこう好きです。景色の切り取り方が好き、そして人がたとえそこにいなくても、ここで人々がどのような生活をしているかがうかがえるようなリアルさがある。
さらにこの別館にはこの家が建てられた当時の井戸や庭、その他民俗資料を展示してある施設もある。
すごいのは本館の常設展、特別展、別館、海野光弘版画記念館、資料館等々すべて見学しても、料金は最初に本館で支払った300円のみということ。いまどき2時間楽しんで
300円というのは、なかなかないです。
でも暑いせいもありますが、訪れる人は少なめです。
ここは県外の人が来ても楽しめるような穴場だと思います。自分ならここと蓬莱橋だけで半日ぐらい遊べます。
別館から本館の駐車場に戻るため、再び旧東海道を歩きます。
江戸時代って、思っていたよりずっと華やかで豊かな時代だったんじゃないかと思います。ともかく260年以上も平和が続いていたってことがすごい。平和だったから様々な文化
や技術が育ち、教育が根付いた。そしてそれがあったからこそ明治維新でのセンセーショナルな世界デビューが実現できたのではないかと思ったりします。
平和であることは大切です。
智満寺
10:40
大井川川越遺跡と島田市博物館で大人の社旗見学をしたとあと、まだまだ早い時間帯だったので、もうちょっと面白そうなところに行ってみることにしました。
とは言っても暑いのは嫌なので、涼しい山の中へ、大井川をさかのぼって、支流の一つに入ってゆく。こちらは相賀という地区です。
東名高速の北側は南アルプスを頂点として、多数の川筋があり、その川に沿って延々と細長い平地が続く。
今川の時代に今のように街道は整備されて、網の目のように集落を結ぶ。そして要衝と思われるところには山城や砦のあとがあるといった具合です。
そういった地形であるがゆえに、川筋一つ越えて次の集落に向かうには、いったん大きく迂回して下流に出るか、細い険しい山道を越えてゆくということになります。
「ぽつんと一軒家」に出てくるような、対向車があったらすれ違えない細い道を20を分近く登って、ようやく尾根の上に出てきた。先ほどの相賀の集落がはるか下に見えます。
更に細い道をすすんで数分、突如として山頂近くに小さな集落があり、その中心に古いお寺の入口を見つけます。
11:20
こちらは智満寺、比叡山延暦寺を総本山とする天台宗の古刹で、創建は奈良時代と伝えられます。修験道の霊場である山岳寺院として栄えたと考えられています。こんな不便な
山の中にあるこの集落も長い歴史があるってことかな。
現在の本堂は徳川家康によって1589年に再建されたもの、桃山文化の影響を受けたとされる茅葺屋根は迫力がある。長く今川氏や徳川氏の信仰を受けて今日まで大切にされてきた。
(国重要文化財)
ご本尊は千手観音菩薩像でこちらも国指定の重要文化財、こちらは60年に一度の御開帳で次は2050年代だそうです。
そのほか県や市の指定文化財多数なのだけど、内部の撮影不可なので、本日はここまでです。
お寺の周囲は樹高30mはあろうかという杉林になっている。山頂の奥之院に向かう途中には「智満寺の十本スギ」と呼ばれる杉があって、1962年に国の天然記念物に指定されました。
たがそのあと60年以上が経過し、現在までに源頼朝が手植えした伝承が伝わる「頼朝スギ」を含めて、そのうちの3本が倒木しているということです。
それ自体はもちろん「惜しい」ことではありますが、命あるものは必ず滅びるもの大きな杉が倒れて、そこにまた再び若杉が育つ。そうして森の新陳代謝はすすんでゆく。
10本の杉の存在より、むしろ自然界の摂理が正しく機能している森が、1000年にわたって保たれてきたことの方が重要なのだろうと自分は考えます。
お茶の里
智満寺でたくさんすごいものを見せていただいたあとは、さらに山奥深いところに行ってみることにしました。大井川水系のたくさんの支流がいくつもの谷を作り、その一つ一つに道が延びて
集落がある。
但し利便性はもちろんよくないです。「ぽつんと一軒家」に出てくるような車どおしがすれ違えないような細い道ばかりです。平均速度は30km/hを下回る。
12:30
山一つ越えてお隣の藤枝市に入りました、ここは瀬戸ノ谷という地区です。「ぽつんと一軒家」では静岡市内の山の中にある天空の茶畑が有名になったけど、静岡、藤枝、島田あたりの
山中は本当に茶畑の多いところです。ここもすでに天空のといってもよいぐらいです。
茶畑の真中にある「鼻崎の大杉」です。樹高27.5mで十本杉以外にもこういった巨大杉が周辺に何本もあります。
大久保川を下ってゆくと、「藤枝の大茶樹」と呼ばれる樹齢300年、周囲33mの巨大なお茶の木があった。静岡県内では最も大きなお茶の木で今でも茶葉が収穫されているそうです。
13:00
大久保川が伊久美川と合流するあたりから再び島田市内に入ります。
こちらは伊久美と呼ばれる地区で、数十年ほどタイムスリップしたかのような錯覚に陥るようなところです。現在でも二十数軒が居住し、お茶、椎茸などを生産しているそうです。
この地は江戸期から茶産業を中心に発展してきたところで、静岡県内でも茶業発祥の地ともいわれる場所です。現在の製茶技術はこの地から県内に広まったという。そして
横浜開港以降はアメリカにお茶が輸出されるようになり、たいそう栄えたとか。
(島田市博物館の第二話とうまく話がつながったね、たまたまだけど)
上のモダンな建物は伊久美公会堂ですが、もともとは集落内につくられた銀行でした。(旧伊久美銀行)
海外との取引にはやはり銀行がないといけない。
清流の流れる伊久美川にはいくつかのつり橋がかかっています。
川の流れが涼しい風を運んできます。
なんとも懐かしい風景、こういう場所は残しておかないといけないような気がします。
こういう場所を「心のふるさと」というんじゃないかな。
このあと伊久美川が大井川に合流するところまでドライブして今回の旅はおしまいです。
道はとっても狭いけどバス停もこの伊久美川に沿って点々とある。
今回は自家用車だったけど、バスで行って歩いて大井川に出るというのも良いかもしれません。
きっと楽しい旅になると思う。
2024.09
camera:Panasonic DMC-TZ60 / graphic tool: SILKYPIX Developer Studio pro 7 + GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10
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