eye4工房番外編

交差点



<地球温暖化 そして水没した都市>




 さて8月に開催した自分自身の個展「情景のなかの人形たち 8」、その会場の入り口に置いたのは、1年近くかけて制作した「交差点」という作品でした。



交差点
 こちらは水没してしまった街を1/24スケールのジオラマでつくっています。温暖化がすすんで海水面が上昇してしまった近未来をイメージしています。
 そんなことあり得ないとか、そうなる前に堤防などで対応すればよいという考えの方もいるでしょうが、現実には海水面の高さは数m単位の上昇や下降は過去にも頻繁に、
実際に現在の日本の海岸線にある平野部分の多くは、縄文時代には海面下でした。
 対応が遅れたら、ないしは気候の変化が急激であれば、こういうことも起こり得る。



 基本的には3層構造になっていて、一番下は水没してしまった現代の風景で交番とs神社の入口を再現しています。最上部が居住区、そして中央部分がソーラパネルや
水の浄化装置といった生命維持機能持ったプラント部分となります。

 製作期間は11ヶ月、大きさは底面が31cm×31cm、高さ60cmと1/24スケールのものとしては最大級の大きさです。ちなみに透明レジンで水を表現していますが、レジンだけで
7000円もかかってしまいました。



 LEDを仕組んであるので、夜景として楽しむことができます。
 個展でもお見せできないので、自分だけの特権かな。




 浅く水に沈んだ地面からツタのような植物が伸びてきて建物に絡み、また水分の補給を受けた苔類が全体を覆い始めている。おそらくは何もしなければ数年で建物自体が
植物に包み込まれてしまうのではないか。そのように見えるように演出したつもりです。
 一部の人間を除けば、地球温暖化はすすみつつあり、単に「暑くなる」というだけでなく、激しい気象現象と災害をもたらすというのは常識になりつつあると思う。



 こういう場合、多くの人々は標高の高いところに移住すると思いますが、何かの思い入れがあったり、何か事情があってここに住まなければならなくなったらどうするか?
 そんなことを考えていたら、こういう作品になりました。

 各階層への移動は支柱に据え付けられた簡易エレベーターを使う。
 鳥居の向こうに見える白い建物は植物を育てるハウスです。その他作品には釣りの道具なども置かれていて、基本ここだけで生活できるという設定で作品を制作しています。




 水没した交番の上にはモーターボートとそれを下すための簡易クレーンが据え付けられています。
 何かあったときにはこれを使用して移動する。



 但し基本的にはこの空間は、宇宙船や一人乗りのヨットに似た閉鎖された空間になっている。
 よほどのことがない限り、この閉ざされた世界で生きてゆくためには、孤独に耐えられる精神的な強さが必要であるに違いない。



 1年前にこのフィギュアと小さなドールハウスキットを見つけたとき、このシーンが思い浮かびました。
 彼女が何を考え、なぜここにいるのか疑問に思いませんか?





<信号機>
 プラモって歴史的に見れば、そもそもは戦車や飛行機、船舶、自動車あたりをメインに扱ってきたところがあって、フィギュアっていうのはそもそも脇役だった。昔は戦車に
上半身だけの戦車長、飛行機にはコックピットのおまけとしてのパイロットみたいな感じで、メインキャラにはなり得なかった。

 そこにきてタミヤがジオラマというジャンルを扱い始め、大量の1/35のフィギュアを発売するようになって流れは変わり始めたのだと思う。そしてその後に「心のなかに、ある
感じを起こさせる光景や場面を再現する分野」が生まれ、そこに「情景」という言葉が使われるようになって現在に至ります。

 この情景というのは決まりきった主役をぽんとそこに置けばよいというものではないので、様々な脇役が必要になります。当然のことながら手間やコストがかかります。
 制作場面では「基本、あれば買う、なければつくる」で進行し、日ごろから「何か使えそうなものがあればストックしておく」というのが習慣になってきます。
 実際、ちゃんとした脇役があると思わず面白いものができます。屋台、工事現場や修理工場の機械などのセットなど、どことなく人間臭いものを見つけたときには忘れずに
買っておきます。
 ストックの種類が多くなると、それに比例してイメージの幅もひろがる感じです。



 今回使うのは1/24スケールの「信号機セット」です。
 フジミからはこのほかにもコックピットクルーや整備用具、道路標識など、自動車関連のキットがいくつか発売されていて、結構使えます(いずれも1/24)。
 この信号機のキットは単品でなく、自動車用×2、歩行者用×2の4台が1セットになっている。これでちょうど横断歩道のある交差点が表現できます。販売価格は3000円
ぐらいなので、内容を考えればお得かもしれません。


1 基本、説明書に従って、信号機を製作します。この
 あたりは説明の必要なし。

 制作は基本的に説明書どおりにすすめます。組み立てに難しいところはなく、仮合わせも不要です。
 そしてある程度組み立てたところで塗装をします。

問題は信号機のライトそのものかな。反射率の高いアルミシートが使われているけど、当然のことながら「信号機」として考えたら光量不足です。もしリアルな交差点をつくりたいのなら
LEDを内蔵させた方が良いです。
 今回は全く光らせることは考えていません、もうすでに使われなくなった信号機としてジオラマ素材の一つにします。

 あと交差点名は「自衛隊前」「二交機分駐所前」「第二交通機動隊前」からの選択なのですが、それでは少し味気ないので「桜ヶ丘」というパネルを自分でつくって貼り付けました。





<ドールハウスキット>
 次に組み立てるのは1/24スケールのドールハウスです。
 中国製でお値段は2000円ちょっとだったように思います。

 

 これがその中身です。  大きさは一辺が10cm程度なので、リアルな空間だと4畳半という感じかな。ここにベッドを含めた一部屋の内部が再現されます。 時々パーツ不足が
あったりするのですが、もう買ってからしばらく経っているので、もうクレームはつけられず、その場合は自作するつもりです

2 基本的な制作は説明書に従います。但しスケール
 感に書けるものは作りません。

 基本は説明書に従うものの、スケール感の足りないもの、雰囲気に合わないものはつくらずに代用品を置いたり、作り変えたりします。
 それでもゼロからつくるよりは楽ができるので、活用させていただいています。



 説明書は細々としたものからつくるように指示しているけど、絶対にこれは逆で大きなものからつくって全体像を把握しておいた方が良いです。
 家具は木の板に木目を印刷した紙を張り付ける必要があるのだけど、自分の場合には、まずは木工ボンドを木の板の上に少量おき、更に水を一滴たらして全体に伸ばします。
 これがきれいに完成させるコツかな。

 ベッド、机、本棚が完成したのでレイアウトしてみました。
 窓については一体成型でリアル感がないので、引き戸に改めています。 もともとリアルなジオラマをつくる目的でつくられた商品ではないので、スケール感のないところは
いくつかあります。

3 次は小物類を追加します。かなりの数がキットには
 含まれています。
例によって縁が湾曲します。 9 混合液が固まる前に、形を合わせたアクリル板を
 落とし込みます。

 配置が決まったので、このあと細部のつくりこみに入ります。
 まず作っているのは椅子、加工された木製のパーツを組み合わせてボンドで固定し、上に綿を含んだ布を被せてゆきます。(画像左)

 基本、キットに含まれるもので使えるものはそのまま使います。
 画像中はギターとラジオ、木製パーツの上に模様の印刷された紙を張り付けてつくってゆくのですが、ここできれいに作るには少しコツがある。
 印刷された紙をギータ―の形に切り抜いて張り付けると、必ずその紙の厚さの部分だけ白い部分が出てしまう。(白い印のところ) ここを細い筆で色を補ってやると見違えるほど
良くなります。

 画像右はキットに含まれるビニルレザーと金具で完成させたバッグです。
 問題なのはその素材です。ビニルレザー(人工皮革)というのは経年変化ですぐにぼろぼろになってしまいます。ここは悲しい思いをしないために、水で薄めたジェルメディウムに
浸してから乾かし、表面を保護します。見栄えは少し悪くなるけどやむをえません。

 

 なんだかんだと細々作り続けた結果です。
 ペン立て、PC、ラジオ、ゲーム機、あとは本が14冊。
 ブックスタンド、整理箱2、フォトスタンド、クッション4、それにギターとバッグ。

 この手のキットは中国製のものが多いのだけど、最近のキットはよく考えられていて、「こういうものを飾っておくことはないでしょ」みたいなものは少なくなって、ジャンクボックスに
直行するものは少なくなりました。
 今回唯一パスしたのは壁を飾るパネルです。ここは主役を生かすものに変える方が良いだろうと思いました。

 

 さてそれではこれらをレイアウトしてみます。
 このキットは2000円ちょっとで手に入れたものなのだけど、材料を集めたり加工したりの手間を考えたら、やっぱり使った方が楽だと思う。Aliexpress の方が安いけど、日本の
amazon にも扱いはあります。

 でもねえ、やっぱりこれだけだと密度が足りなくて生活感のようなものまでは出てこない。ここはもう一頑張りしてリアルな空間に仕上げたいところです。
 もちろんそれだけ時間がかかってしまうのだけど、中途半端なものは作りたくないので。


   4 隣室につながるドアと机に一輪の花を追加しました。
   

 このキットを内部だけ表現したドールハウスにするつもりはないので、まずは隣室につながるドアをつくります。
 とはいっても板目紙でそれらしいものをつくり、壁に貼り付けるだけですが。

 机の上が寂しいので、ペーパーフラワーのキットを使って花を1輪だけつくります。
 細かいことですがこれだけで雰囲気が変わります。生活感が出てくる。
 あとは寂しいので何もなかった壁には、田代島に行った時の写真などをプリントアウトして貼り付けてみました。

 このキットは一辺が10cm程度の直方体で、床と奥の壁、左の壁の3面だけが表現されていて、他の3面は素通しです。これでは落ち着かないので、机の前は丸窓付きの
壁にしました。

4 屋根と壁を追加します。必要に応じてブラインドや
 カーテンなどを追加します。

 正面はキットに入っている透明なプラバンをそのまま巨大なウインドウとして使います。
 天井は当初普通の屋根にするつもりでしたが、そうすると暗くなりすぎて室内が見えづらくなる。そこで天井も透明プラ板を使うことにします。(画像左)

 ただそうすると部屋はまるで温室、もしここに住んでいたら、冬は良いけど夏は困るでしょう。
 ということでロールスクリーンを取り付けて「必要な時には広げられますよ」という感じにします。もちろんこちらもダミーで、ただ単に紙を丸めただけのものです。
 あとはスチレンボードからそれらしくエアコンなどをつくってみました。(画像中)
 こういうことを整えてゆくと、だんだんと実際に生活できそうな空間になってゆく。

 あとはカーテンもやっぱりほしいね。正面の大窓にはブラインドを再現します。
 もちろんキットにはないので、これらも自作です。(画像右)


   5 追加で外観も整えます。まずはプラ板を使って、左窓に小さなバルコニーのようなものをつくってみた。外壁自体はモデリングペーストを硬めの筆にとり、たたくように塗ってざ
    らっとした感じを出しています。
    

 とりあえずの完成画像です。
 次に照明を追加します。点灯させると良い感じ。

 ベースになったのはキットなのだけど、構想としてはこのあとこれを中心にしてほかの部屋までつくって、一軒の家まで拡張するつもりです。
 ということでとりあえずこの階のレイアウトなどを考えてみた。



 今出来上がっているのは左側のリビング&ベッドルーム、そこに生活上最低限の居住スペースとしてのキッチンとシャワールームを追加し、右端にベランダをつけようと考えています。


6 キッチンやシャワールーム、ベランダなどを追加
 製作します。

 レイアウトが決まったところでスチレンボードをカットして組み合わせてゆきます。(画像左)
 スチレンボードには無垢のままのものと、紙張りしてあるものの二種類があるけれど、こういうときには多少高くても紙張りタイプの方が強度も高く、見栄えも良いです。

 画像中は上から見たところです。設計図とは左右の関係が逆になってしまったけど、LED照明の配線もこの段階で済ませておきます。
 ドアにはそれらしくドアノブとキーロックを取り付けた。壁は筆にモデリングペーストをとって、たたくように塗るとそれらしく仕上がります。

 フェンスは透明プラ板とプラ棒からつくりました。(画像右)

7 キッチン内部やシャワールームをつくります。但し
 完成後はほとんど見えなくなるので表現は最小限。

 ドアは閉めたままにするつもりだから、内部の表現は必要最小限にとどめます。外から見えてしまうのは明り取りの丸窓だけなので、その周辺だけを軽く整えます。
 自作したのは、まな板、ふきん、ペットボトルに入ったオリーブオイルと炭酸水、ガラスの皿といったところです。



 ドールハウスって、やり始めるときりがない。
 屋根を取り付けて、とりあえずこの階は完成です。  





<生命維持のためのプラント>
 スケールのドールハウスキットをつくったところで次の製作に入ります。水没した空間で生活するには、宇宙船に似た昨日を持つ生命維持のためのプラントが必要になる。次は
これを作りあげようと思う。

8 特別にモデルがある訳ではないので、ジャンクパ
 ーツ等で其れらしく作ります。

 主要なパーツは1/32スケールのボストーク1号という、人類初のソビエト連邦の有人の工衛星です。もうソビエト連邦なんて知らない若者も多くなったと思う。こちらは買ったのは
良いのだけど、今一つ夢のあるシーンが思い浮かばなかったので放置されてました。
 ちなみに茶色っぽいパネルは以前に自分で作った太陽光パネルです。(画像左)

 昔はアメリカ vs ソビエト連邦の世界の2強があって対立が激しかった。でもソビエト連邦は世界経済の流れを読めずに没落してしまった。
 今のプーチン政権はあのアメリカに対抗できる強国を復活しようとしているわけ。個人の理想や欲望を国家の目標としたとき、必ず戦は起こる。客観的かつ中立的なAIがあるのなら、
もう政治はAIに任せてもいいかもしれない。AIが結果を予想してたら、ちゃんとそのリスクを計算してウクライナ侵攻は起こさなかっただろうし、おそらくはハマスも襲撃事件を起こさな
かったように思う。

 太陽光パネルがあるので大型充電池と配線も準備します。(画像中)
 あとは真鍮の金網で落下防止の柵や消火器、その他をもろもろを用意してデカールを張り、それなりの感じに仕上げる。(画像右)
 特にモデルがあるわけではないから、ここはイメージする力が試されます。



 出来上がったのはこんなもの。発電や飲料水確保のため、いわゆる生命維持のためのプラントです。人工衛星って生命維持が第一の目的として作られている。





<交番>
 ジオラマづくりには3種類あって、実際のシーンを極力忠実に再現するもので、映画で言えばドキュメンタリーのようなもの。もう一つは史実や事実に基づいてはいるけれど、
これをベースにしてストーリー性のある空間を再現するもの。そして3番目が完全なるフィクションです。
 でも自分の考えではフィクションはファンタジーになってはいけない。そこにはきちんとした自然界の摂理が存在し、登場するものに整合性がなくてはいけないと考えています。
だから難しい。

 前回完成させた生命維持のためのプラントについても、完全に空想のもので終わってしまったら説得力がないので、落下防止の柵や消火器、点検のための扉、注意事項を
書き込んだデカールなどを張り付けて、「そう、こういうものって将来つくられることになるかもしれない」と思わせるようなものにしないとだめだと思う。
 特にモデルがあるわけではないから、ここはイメージする力が試されます。



 このあとさらにいくつかの構造物を追加して、全体を新旧2つの空間を1つにまとめるという構想で作品を製作しています。
 これまでに造ってきた部分は近未来をイメージした上層部分で、ここからは現在の空間を再現する下層部分をとなります。そしてその中心は交番です。

9 スチレンボードで交番の概形をつくります。外壁は
 モデリングペーストを筆でたたいて質感を出します。

 材料はスチレンボード、ちょっと大きめの作品になりそうなので、軽量化をはかって、少しでも経費も節減したいところ。
 つなぎ目や段差はモデリングペーストで埋め、このあとジェッソを塗ればほぼフラットに仕上がります。
 はめ殺し窓のすりガラスは、単純に透明なプラバンをスポンジやすりでこすってつくりました。

10 アルミサッシや通気口といった外装、そしてポス
 ターなど必要最小限の内装を追加します。。

 アルミサッシはプラ棒と透明プラ板からつくる。出入口を仕上げて大まかな形は整いました。
 でもまだやることはたくさんあります。先ほどの話で言えば、作品としての説得力を増すためには、KOBANのロゴと徽章、エアコンの室外機と配管、配電盤、通気口等々を
追加し、あとは内部をどれだけつくるかにかかっていると思う。

 

 シンプルな外観でも「人がいるところ」は単なる箱ではおさまりません。
 そしてこれをつくりながらうすうす感じているのは、交番だけではまだまだ密度が足りないということ。





<ベースボードをつくる>
 やっと背景となるおもな造形物4つが完成しました。これらの配置を考えて、次はベースボードをつくります。



 資材の無駄を出さないために(時間短縮にもなる)、ぎりぎりのサイズを出したら、ベースは31cm×31cm、高さは50cmぐらいになりそうです。
 最下層は交番と信号機、鳥居といった特別に変わったものはない。

11 基本的には角材とスチレンボードからベースを
 つくります。

 ベースボードをつくる材料を探しに100均に行ったら便利グッズを見つけました。角材などを組み立てるときに使うコーナーの固定具です。これがあるときっちりと直角が簡単に出る。
 ただ安いだけでなく、100均でこういった独自のアイディア商品を開発したのならかなりありがたい。

 パネルサイズは31cm×31cm、今回はかなりの重量物になりそうなので厚みのある角材を使い、コーナーは木材で補強しました。

 

 カメラを持って取材に出かけます。
 そしてイメージに近い交差点を選んで撮影します。道路や歩道は排水のことを考えて、通常は真っ平らに作りません。道路や歩道は傾斜があったり湾曲していたりする。

 ちなみに取材に行った時には、少しでも参考になりそうなアイテムがあれば撮影して帰ってきます。その画像が参考になるのはもちろん、これをGIMPなどのアプリで修正して
プリントアウトすれば、そのままジオラマのパーツになることもある。

12 取材の結果をジオラマに表現します。まずは起伏を
 再現し、素材の質感を出す作業をします。

 まずは路面から、左画像で青く示したところが排水溝に流れを導くための傾斜です。

 次にモデリングペーストをチャコールグレーに着色して、「浴びっこサンド」を混ぜたものを塗り、更に浴びっこサンドをまきます。(画像中) これが乾燥したところで、再度上から
チャコールグレーを塗ると丁度よいザラつきの路面ができあがります。

 点字プレートは実物を撮影してプリンターで出力したものを、そのまま使います。
 縁石の部分は型に流し込まれて作られたコンクリートで比較的平坦な表面になっている。ここはグレーにフラットベースの「あらめ」を混ぜて再現するぐらいが丁度よい。(画像右)


 歩道はAと同様、ブラウンに着色したモデリングペーストに浴びっこサンドを混ぜたものを塗ってゆきます。(画像左)

 次に土の部分です。ここもこげ茶色に着色したモデリングペースト+浴びっこサンドを塗り、それが乾く前に砂や砂利をまいて土を再現します。(画像中)
 慣れてくると、あっという間にリアルな地面が再現できます。
「質感」というのは造形の先にあるミクロな部分の仕上げだと思います。たとえば簡単に言うと、ブラウンの塗料にどんなに大量のフラットベースを混入しても、絶対にリアルな土には
ならないということです。

 アスファルト上の白線は厚みのある塗料なので、モデリングペーストにジェッソを少量混ぜたものをまばらに塗って再現してみました。(画像右)
 人の通るところは特に劣化や摩耗が進みます。完全に乾燥したところで、100番ぐらいの布ヤスリをかけて「荒れ」を再現しました。

 参考になるかどうかは分かりませんが、自分はこうやって地面を表現しています。
 色の方は後でどうにでもなるので、自分の場合にはともかく「質感の表現」を最優先に考えて制作しています。





 現在最下層になる交番周辺が完成したところです。
 悪くない、悪くないのだけど奥行きがない。いろいろ考えて背景になるものを追加することにしました。

 前景となる信号機、中景としての交番、そして背景としてこれから神社を追加します。シンプルなジオラマの良さはありますが、やはりある程度の大きさとなると作品に奥行きが
ほしくなる。それから交番そのものが現代的なものであるので、少し古い感じのものを追加してあげると、時代的な奥行きも出てくるというわけです

13 鳥居をつくって神社の参道を表現します。雰囲気を
 出すために石仏や水神を追加します。

 新興住宅地より、やはりある程度歴史ある街並みの方が、自分としては面白みを感じます。
 ただ神社の本殿までこのスペースに入れることはできないので、その鳥居と短い参道のみを表現します。

 100均で買ってきた丸棒やスチレンボードから鳥居をつくる。ネット上から写真を拾い集めてきて、できるだけつくりやすいものを選びます。この程度のものなら設計図なしで1日
あれば形になります。(画像左)

 これだけだと単純すぎるので、参道には水神や道祖神、道標といったものを配置します。これで時間の経過といったものが感じられるようになるはずです。
 基本形は発泡スチロールでつくります。
 次に2枚重ねのティッシュペーパーを1枚にはがし、これらのものにのせて水で薄めた木工ボンドを上から塗ります。そしてこれが乾く前に「浴びっこサンド」(ペット用の砂)を上から
パラパラと撒く。そして乾燥すれば、もともとが発泡スチロールとは思えない、ざらっとした質感が出ます。(画像中)

 参道に配置する石畳は2mm厚のスチレンペーパーからつくります。
 でもこなままカットすると何が何だか分からなくなるので、この直後、各破片に整理番号を記入しておくことにしました。
 結果これがやはり正解で、ぴったりとベースボードにおさまりました。(画像右)



「昔からある神社の前に、あるとき新しい道と交番ができて参道がふさがれた。」
 そういう時間経過が見て取れる。これをつまらないことと考える人は多いかもしれませんが、こうやって古いものの趣は少しずつ新しいものに置き換えられてゆくわけです。


   14 質感を整えながら鳥居や石の造形物を塗装してゆきます。
    

 水神はグレーに塗って、それが乾く前に更に浴びっこサンドを撒きます。
 その後、濃いめのグレーで全体を塗り、少しずつ明るい色に変えながら塗り重ねてゆく。そして最後は艶消し剤を多めに添加したライトグレーでドライブラシします。最後に
乾いたところで水神の文字をデザインナイフで切り取りました。(画像左)
 こういうものって1回の塗装では重厚感や風化した感じは出ません。一般的には暗めの色合いからスタートすると良いです。

 次は今度は鳥居の塗装です。こちらも本来の赤でなく、まずは暗めの茶色から色付けをスタートします。
 ここも更に重厚感や素材そのものの奥行きみたいなものを出したいのなら、補色となる緑を下塗りするという方法もあります。見た目の色合いがより深みを増します。
 塗装が風化した感じを出すために、赤を薄く溶いてまばらに塗ってゆきます。
 続いてオレンジ系の塗料でドライブラシして、そのあとチャコールグレーを薄く水で溶いて雨だれの感じを出します。あとは全体につや消しクリアーを吹き付けて塗装の
調子を整えれば完成です。(が同右)



 日本のどこかにある新旧が混交した街の一画ができあがりました。





<組み立て>
 できあがったのは作品の最下層で、このあとパーツを組み合わせて上に伸ばしてゆくことになります。



 全体をつなげるために大きな支柱をつくることにします。こちらがそのイメージをスケッチしたものです。

15 全体をつなげるための巨大なコンクリートの支柱
 をつくります。

 支柱の材料は100均のスチレンボードです。このあたりは高い材料でも100均でも全然差は出ません。だから軽量で安いものを選びます。グレーのパイプは水道用のもので、
DIYのショップで買いました。
 交番の赤いサインは忘れ物、これがないと雰囲気が違うので追加しました。



 これをベース部分に組み込みます。
 シミュレーションは事前にしていましたが、ぴったりとはまって一安心です。



 その上につくっておいたドールハウスを乗っけます。
 とりあえず無事に乗っかって良かった。ちゃんと支柱はつながったし、バランスが悪くて傾くこともない。
 ベースは31cm×31cm、高さは60cm、あえて不安定な印象の作品をつくりました。この時点でも迫力のある作品になりそうが感じがします。


   15 劣化した雰囲気を出しながら塗装を行います。
   

 作り始めてからもう半年以上、やっと形になってきました。
 塗装は支柱からです。御覧のとおりグレーの濃淡をつけて塗装します。湿っている状況を想定しているのでベースに近いところは濡れたように色濃く、上の方は乾いて白っぽい、
そんなイメージです。
 筆塗りのままだと刷毛目が目立つ、艶消しのグレーを全体に吹き付けて落ち着かせ、コンクリートの質感を出します。一番上のドールハウスは壁をピンクベージュ、屋根を艦底色
で塗る。ここは一切の汚しや、経年劣化の塗装は施さない。上に行くほど純化されているというのが、このジオラマのコンセプトです。

 ドールハウス以外が全部グレーだと遠近感がなくなるので、パイプはチャコールグレーで。ジョイント部分はここに緑の塗料を追加して仕上げました。
 基本自分は黒を使いません。黒は目立たないという意識をお持ちの方は多いと思うけど、純粋な黒は著しく強い色で、情景の中では極めて目立つ。自分は劣化した黒がリアルな
状況に近いものと考えていて、少量の白や茶色を混ぜることがほとんどです。
 物理学的に言えば黒は色でなく反射率0%の物体で、実際そのような物体は世の中にブラックホール以外は存在しません。

16 各階層を結ぶための簡易エレベーターと通路を
 追加しました。

 縦に4階層あるようなジオラマなのでつながりをつけないといけない。
 どうするかというと簡易エレベーターでつなぐ。最初から構想があったわけではないけれど、架空のイメージをジオラマにした場合には、その空間内で物語を完結させないと、
架空であることがすぐにばれてしまう。

 

 塗装が一通り終わったところで汚しを加えます。アクリル塗料のチャコールグレーやダークブラウンを水で薄めて、シミや雨だれを表現します。
 自分はお散歩が好きで、市街地では地面を見ながら歩く。そしてそこで見たことがここに生きる・・・ということかな。



<ボート>
 交差点の風景、交番、ドールハウス、そしてなぜか生命維持の装置などを高さ45cmほどの支柱でつないだところで、今度はボートをつくる。
 水没した都市ではこれが欠かせない。

17 おもちゃのボートをもとにして、一人乗りのモーター
 ボートをつくります。

 まず用意したのはお風呂で遊ぶおもちゃのボート、本当にゼロから作り始めても良いのですが、イメージに近いものがあれば使ったほうが早い。
 すべて手作りであることにはこだわらない、最短コースであることによって時間的余裕が生まれ、それが良い結果につながると思う。



 色々と追加したり加工して、とりあえずこのジオラマに使えるような状況に近づけました。シートやハンドル回りはプラモから移植、籠は手作りです。
 ここで冷静になって、あともう少し手を加えます。
A 船舶である以上、何か名前なり、コールサインなるようなものがほしいかな。ここはストックしておいた デカールから探しました。
B 乗組員が水中に落下したとき、捕まるロープは小型船舶では必要です。
C 収納スペースは濡れることがないように幌を取り付けました。
D 透明なフードを取り付けてみました。
E エンジンを止めたとき、オールは必要です。
 このあたりは実物がどうこういうより、シチュエーションからから考えて、こういうつじつま合わせが必要ですねという感じです。



 でも、おかげでちゃんとした感じに出来上がった。

18 簡易クレーンを適当なジャンクパーツの組み合わ
 せでつくります。

 ボートのメンテナンスを行うには水から持ち上げる必要がある、そういうことで簡易なクレーンを追加しました。

 

 ボートはこのような位置に収まります。
 こういう雑多で細かな作業の積み重ねが、最終的なリアルさをもたらすような気がします。
 言い換えればこの小さな空間内でのつじつま合わせが完璧であればあるほど、その作品としての説得力は増すということ感じかな。





<温室と倉庫その他>
 このままでもいけそうな感じはあるのですが、まだまだジオラマとしての説得力が足りない。人間が生活してゆくためにはまだまだ様々なものが必要です。
 交番の上にはまだまだスペースがある。ここが何も使われていないというのはむしろ不自然です。

17 PPシートとプラ棒から温室をつくり、そこに植物を
 置きます。

 ポロプロピレンのシートとプラ棒をカットして植物を育成するハウスをつくります。ポリプロピレンのシートはそのまま使うと透明度が高すぎるので、適度にスポンジやすりを
かけて透明度を調整します。(画像左)

 プランターは板目紙とスチレンボードでつくり、タミヤのテクスチャーペイントで土を表現しました。
 植える植物はTEMUで購入した植物が中心です、50個で500円少々。それほどリアルじゃないけど、ハウスのなかの植物としては、これで十分でしょう。(画像中と右)

 この作品は水没した都市空間を再現するものです。だからここに生きる人はある程度、自給自足の生活を強いられることになります。空いたスペースがあれば、そこで野菜
などの育成をするというのは、ごく自然な流れだと思う。

18 まだスペースに余裕があるので、板目紙を使って
 物置をつくります。

 板目紙で物置を追加しました。農具やボートの整備用具を収納するのに必要だと思いました。
 角の部分はスチレンボードをカットして直角を出す、これがいちばん簡単です。



 引き戸に取っ手などを取り付けて塗装すれば、それなりにこういうものが存在しそうな感じに見えます。


 これで交番の上のスペースが埋まりました。
 こうやって見るといちばん上の住居スペースに空間があるので、次はここを埋めます。

 

 100均で売っていたヤシの樹、塗料のキャップ、そして高さ調整のためのスチレンボード、これで鉢植えのヤシの木をつくります。
 ヤシの樹はそのままだといかにも安っぽい塩ビの感じなので、一旦中性洗剤で洗ってから軽く塗装し直して、Mr.カラーのGX114つや消しクリアーで調子を整えました。

 ここでとりあえずいったん整理します。
 最下層には交番と神社の鳥居、中層は水や電力を供給する生命維持のプラント、一番上に居住のためのスペースがあります。
 ここまでは調整のため、あるいは演出を追加するために、まだ各パートは固定せず分割可能となっていました。でもこのままだと水没させるのが難しいので、下半分は
固定することにします。



 こちらは最終調整の結果です。
 最も古いのはAは神社の鳥居、正方形のベースに対して少し角度を持たせている。現代を表現しているのがBの交番と歩道で、鳥居と参道を遮るような角度で配置した。そして
上層の居住スペースにつながるCの台座もこの交番に対して少しだけ角度を持たせています。
 狭いスペースではありますが、時間経過を意識して、少しずつ新しいものが過去を打ち消すような配置にします。  

19 机といす、日よけの傘、本、つりの道具など、
 生活感を出すための小物を追加します。

 人間が生活していると、雑多なものがどんどん増えてくる。だからそういったものを再現してゆくのが「リアルな空間」を感じさせる一つの方法となります。
 雑誌は実物を縮小コピー、傘は1/24スケールのレースクイーンのお姉さんが持っていたものを流用しました。



 最上層の居住スペースに照明はあったのだけど、更にLEDを追加することにしました。これで中層や下層にも光が当たる。
 良い感じです。
 でも個展は明るいスペースで行うので、皆さんにはご覧いただけません。完全にこれは自己満足の部分です。





<水没させる>



 こちらが現状です。最下層には交番と神社の鳥居、中層は水や電力を供給する生命維持のプラント、一番上に居住のためのスペースがあります。このまま説明なしだと、
この作品の意図が分からないと思う。
 最初からこのジオラマは、演出として下層部分に透明レジンを流し込んで、水没した状況を再現しようと思っていました。

 温暖化の問題があちこちで悪い影響を及ぼしつつある現在、海水面上昇による陸地面積の減少の危険性が増しつつあると言われています。
 実際、近年で最も暖かかった時代は今から6000年ほど前の縄文時代だったと言われています。現在に比べて海水面は2~3mほど高く、平野部ではこの時代には海だった
ところも多い。そこに上流から河川によって運ばれてきた土砂によって、現在の沖積平野が形成された。

 自分の考えでは、今もし海水面の上昇が急激な勢いで起こったとすれば、海岸に近いところではまずは湿地がひろがるようになり、河口付近では汽水の湖ができあがるのでは
ないかと考えた。
「どうやったら人は汽水の湖で生活できるのか」
 それを考えて思いついたのが今回のジオラマだったわけです。そして1年近くかけてこのアイディアを形にしてきました。



 画像はクロモやマツモに似た柔らかいプラスチックの植物です。あちこち探してやっと見つけました。(見つけるのに一ヵ月かかった)
 大きさは25cm×25cmの大きさで1299円と779円、TEMUから購入したので通常値段と特別価格でこれだけの差がつく。
 別に水中の植物表現はなくてもジオラマはつくることができますが、作る限りは今回はできるだけ「美しい」風景にしたいなと、ずっと思っていました。

20 水中に諸脱植物を選んで固定し、レジンを流し込む
 準備をします。

 ご紹介した植物をメインにして、変化をつけるために3色のライケンと水生植物に見えるものをストックに中から選んだ(左画像)。

 最下層に植物を配置してゆきます。
 例によって種類ごと色ごとに「不等辺三角形」を意識します。「規則正しく」とか「等間隔」になんてのは絶対だめです。ストックしてあった植物はアクセントに、ライケンは隙間埋めに
ぴったりでした。(画像中)

 クリアーレジンを流し込む準備です。レジンがくっつかない最も身近な素材はPP(ポリプロピレン)だと思います。
 100均で買ってきたPPシートを底面の大きさに合わせてカットし、念のためにシリコンスプレーを内側に吹き付けてから両面テープでベースボードに固定します。
 角の部分はPPシート同士をPPテープでつなぎ合わせます。(画像右)

21 まずは隙間をUVレジンで埋めてから、2液混合型
 の透明レジンを流し込みます。

 これでクリアーレジンを流し込む準備は整いましたが念には念を入れます。
 今回は大量にレジン液を使います。漏れがある可能性は十分にあります。だからまずはPPシートとベース、またはPPシート同士の接合部分に粘性の高いUVレジンを流して固めて
しまいます。
 こうすればほぼ100%漏れは起こらない。(画像左)



 準備したクリアーレジンはA液、B液合計で約8Lという量、こんなに大量のレジンを使ったことなんか、これまでないです。
 お値段も安くはなくて、8000円近くしました。
 でもベースが30cm×30cmもあるので、計算上はこれだけ使っても、水深は5cmから6cmにしかならない。
 たまに潜水艦のジオラマなどを見ることがあるけれど、あんなのつくったらレジンだけで軽く10万円ぐらいはかかっちゃうんじゃないかと思います。

 今回はクリアーレジンを着色しません、水中の植物の色をきれいに見せたいからです。
 交番の入口は透明なプラバンで仕切られているので、あらかじめ天井に穴を開けてそこからレジンを流し込む、それが終わったら外側、そんな感じで流し込みが始まりました。
 レジンは固まるとき発熱して収縮する、気泡が入り込む可能性は増しますが、1回に流し込む量は400mLにします。
 朝と夕方流し込むとして5日間かかる計算です。
 ここで失敗すると1年近くかかった制作が無駄になる。緊張の5日間が始まりまし

22 流し込みの途中、魚を作って封じ込めます。最後は
 端っこの処理をして作業は完了です。

 1日目の作業に並行して魚をつくります。
 材料は尾びれが0.3㎜厚のプラバン、その他のひれは省略、胴体はエポキシパテ、つなぎ目は瞬間接着パテで埋めます。体長1.5cmのものを5匹作る。
 そのままだと倒れてしまうので0.2mm厚の透明プラバンを接着して塗装します。イメージとしてはアジとかそんなところ、汽水域を想定しているので、ある意味何でもよい。
大切なのは魚に見えるかどうかです。(画像左)



 2日目の作業が終わったところで魚をUVレジンで水面に固定し、3日目の作業に入ります。
 御覧のように、ちゃんと泳いでいる感じが再現できました。

 すべての流し込みが終わったらPPシートを剥して、盛り上がった縁の部分を削ります。やすりがけすると艶消し状態になるので、ここでKATOのさざ波を筆で塗ってやると、
きれいなクリアーに整います。



 予定通り5日間ですべての流し込み作業が終わりました。4Lも流し込んだけど、ベースが30cm×30cmもあるので最終的な水深は6cmほどでした。8000円かけて6cmか・・・、
やっぱり高くつく。
 しかも気泡があちこち、ごみの混入も多数で上出来とは言えませんが、とりあえずは形になった。





<植物表現>
 次の作業は植物表現です。背の低い植物から作るのが基本、だからまずは地衣類(苔)からです。
23 地衣類の表現から始めて、少しずる背の高い
 植物を配置してゆきます。

 まずはジオラマパウダーとターフを3種類混ぜて、水で薄めた木工ボンドを塗ったところに撒く。



 1巡目の作業はこんな感じです。
 ここから始まってもっともふもふにしてゆきます。



 背の低い植物から少しずつ大きな植物を植えてゆく。このあたりは水辺に植物が繁茂し、最終的には森林になってゆく過程を意識すると良いと思う。
 岩にいきなり樹木は生えない。表面に苔が生え、一方で岩が風化して砕けて石や砂になってゆく。そしてもっと大きな植物が生えるような栄養と水分を含む寝床が、次第次第に
できあがってゆく。

 2巡目は更に大きな粒子のコースターフを加えて再度同じ作業をします。
 平坦なところや引っ掛かりのあるところは、栄養分が蓄積されやすいので、より多めのターフを盛ってゆきます。



 3巡目の作業では下にたれる苔のようなようなものを追加(20gで263円 TEMU)、更にツタのような植物を這わせます。(TEMU お値段はなんと2円)



 最後に花の咲く植物を追加したら、全体が森のようになりました。





<フィギュア>
 ここでいよいよ主役の登場です。
 パッケージなどすでになくなっているけど、ガールズインアクションのブリジットかと思う。1年近く前にこのジオラマを作り始めたとき、ストックしてあったキットの中からこれを
見つけて「これしかない」と思いました。

   24 イメージに合わない部分を修正します。
    

 イメージに合わない部分は修正を加えます。ジオラマは高温多湿のイメージなので履いているつなぎは膝丈にする(A)。膝の形状やしわが気になるので修正(B)。
 上を向いているのに横髪が下に垂れていなくて不自然(C)。唇の形状が左右対称でない(D)。向かって左目が吊り上がりすぎ(E)。横髪、後髪に比べて前髪が短すぎる。(F)
 あとはプラン通りにパテをもって削る、微細な修正は瞬間接着パテで行います。

25 人間用の化粧品を使ってメイクを行い、最後に
 Mr.カラーで輪郭を描きます。

 塗装はいつもの通りで肌からです。
 いつもはMr.カラーの111キャラクターフレッシュの塗装からですが、今回は日焼けした感じがほいしいので、タンとレッドを少量加えています。
 あとは必要に応じてMr.カラーのGX113を吹き付けながら、人間用のお化粧品などを使ってメイクしてゆきます。
 もちろんこのままではぼやっとした仕上がりなので、今度はメイクに芯を入れるつもりで筆を入れます。



 こちらが仕上がったところです。
 最後はMr.カラーのGX114を吹き付けて調子を整えます。衣類部分は更にフラットベースの「粗目ラフ」を少量添加すると良いと思う。





<完成画像>

 基本的に情景というものは、現実かあるいは自分の想像したシーンを切り取って、立体として再現するということをしています。この部分については、2次元と3次元の違いはあるものの、絵画や写真、あるいはCGと変わることはないと考えられます。  違いがあるとすれば立体であるがゆえに、空間的な密度が高くなって手間がかかること、そして一方でそれがゆえに様々な要素を取り入れることができるという点にあるかと思います。
 今回特に力を入れたのが時間経過です。ある一瞬のシーンを切り取ったものでありながら、その一瞬のなかに様々な時間経過が感じ取れるように工夫したつもりです。
 逆に言うとこの作品は見る人にも、少々の観察力と集中力を要求しているところがあります。



 少し難しいことなのですが、最初まずはここに神社があり、次は交番がそれを遮るように建てられ、水没し、再び家が建てられ、次第に緑に覆われて、そういったポイントになる
事象が時間経過とともに正しい順番に並べることができないと、この作品は理解していただけないと思います。
 つまりこの作品は一瞬を切り取ったものだけど、そこにはこの場所で起こった出来事が把握できるように、様々なものが重ねられ、そして上塗りされているのです。

「街が水没してほとんどの人はここを離れた。そんなとき長い柱が立てられて、そこに1DKのツリーハウスがつくられる。」
 もはや交番はこの家の土台でしかない。あわせてソーラパネルや水の浄化装置といった生命維持機能持ったプラント部分が大きな存在感を持つようになる。
 基本的には古いものから造り始めて、その上に新しいものを重ねる、または上塗りするを繰り返しています。



 水没すれば植生も変わる。汽水域という前提でそれらしいビニル製の観葉植物を中心に植えてみました。もちろん魚も泳がせる。こういうところに怠りが合ってはいけない。
 このあたりは現実の汽水の植物よりずっと明るくきれいに仕上げています。
 この作品は「結果として奇麗な景色」に仕上げるのがポイントだと思いました。奇麗だからこそ緊張感が出てきます。
 地面部分も時間経過に沿ってつくっています。まずは土の地面をつくり、歩道やアスファルトを表現し、レジンを流し込んで水を表現する。そしてその過程の適当な段階で植物と魚の表現をする。



 そして水上での移動手段としてボートも用意しました。これがないと、人が生きてゆくには何かと困る。やはりあった方が説得力が増します。
 完成後はほとんど見えなくなるけど、細部もつくり込みました。
 写真撮ったら分かります、それでよいと思う。
 つりの道具やバケツといった小物を置くことで生活感や現実感は増します。
 架空の世界であるからこそ、想像力を働かせます。
 こうやって、このシーンの直前に置かれたものを増やしてゆく。こうやって次第に時間経過のようなものが理解できるようになるわけです。



「そして今、浅く水に沈んだ地面からツタのような植物が伸びてきて建物に絡み、また水分の補給を受けた苔類が全体を覆い始めている。」
 おそらくは何もしなければ数年で建物自体が植物に包み込まれてしまうのではないか。そのように見えるように演出したつもりです。
 そして植物の表現で最後に行ったのは花を咲かせることでした。


 最初のうち、植物表現は水中の水草だけで良いと考えていましたが、放置されたところは例外なく植物に覆われてゆく。時間がある程度経過すれば地衣類だけでなく、それを寝床にして
小さな種子植物やシダ植物も根付くに違いない。



 ふと思った、本当に都市が水没したらどうなってしまうのだろう?
 皮肉なことに「人間活動が縮小すれば二酸化炭素排出量は減少し、相対的に植物の領域は拡大して二酸化炭素の吸収量は増加する。」
 本当に都市部まで水没すれば地球温暖化は止まるかもしれない、でもその時こそ人類は滅亡の道を歩んでいるような気がする。
 温暖化の影響が顕著になりつつある現在、いずれ温室効果ガスの発生を抑える方向に全世界が取り組むことになるでしょう。
 それが早いか、遅いか。あるいは大災害が先か、気付くのが先か。今はそういうレベルの状況になっていると思う。



*)ここから先は個展会場でのキャプションです

交差点
 一部の人間を除けば、地球温暖化はすすみつつあり、単に「暑くなる」というだけでなく、激しい気象現象と災害をもたらすというのは常識になりつつあると思う。
 歴史ある街並みが現代的な街並みに置き換わり、それが更に気候変動によって水没してゆくというストーリーで製作をすすめてきました。
 こういう場合、多くの人々は標高の高いところに移住すると思いますが、何かの思い入れがあったり、何か事情があってここに住まなければならなくなったらどうするか?
そんなことを考えていたら、こういう作品になりました。



 河口に近いところなので、ここには汽水域の浅い湾ができあがった。彼女はそこで生きてゆくために必要な電気や水、食料の一部を確保し、足りないものがあればボートで
たまに買い出しに行く。
 一日の仕事が終わり、缶ビールを傾ける この黄昏時が至福の時
 彼女は慣れ親しんだこの街を離れず、希望して旧市街地の監視員として残ることにしました。人々がこの街に戻ってくることができる日まで、彼女は地域の巡回や様々な
メンテナンス、観測作業などを行うことになっています。



2024.09
camera: Panasonic DMC-GX9 & 12mm-32mm  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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