UVレジンでドールアイをつくる <光の入り方の問題> これまで長く市販のグラスアイをたくさん所有して、そのなかから自分のドールにもっとも合うものを探すということを行ってきましたが、個展の際、 あるいは屋外の撮影では、思いがけず光の入り方が足りなくて困っていました。 そこでこの際はUVレジンからオリジナルアイをつくるということにチャレンジすることにしました。 aimi 左が市販のもの、右がオリジナルアイ chie左が市販のもの、右がオリジナルアイ 最初は試行錯誤でしたが、だんだんとポイントになることが分かってきたので、今回改めてその制作方法を公開したいと思います。 <ドールアイの基本的な考え方> まずはドールアイの基本的な構造についての解説からです。 こちらは人間の眼球の大まかな断面図です。ピンクは瞼、茶色は虹彩、黒は水晶体で、虹彩に遮られていないところが瞳孔になります。 いわゆるドールアイ(グラスアイ)は人間の眼球を模したものに他なりません。ただいくつか違う点がある。 1 まずドールの場合には目を大きめにする(この方がかわいく見える)のが一般的なのですが、そうすると眼球自体が大きくなりすぎて邪魔になるので、小型化しているのが 普通です。 2 人間の瞼は厚みが3mm程度でしょうか、たとえばそれを1/3スケールのドールに当てはめると瞼の厚さは1mm、でも強度の問題もあるので、そこまで薄くはできない。 そのままだと奥まったところに虹彩や瞳孔が沈んでしまうので、中央部分の膨らみを大きくするという修正を加えます。 一般的なドールアイの構造はこのようなものが多いです。またこのような傾向はスケールの小さなグラスアイに顕著だと思う。 3 こうなると光が奥に届くことが難しくなるので、その分ドールアイは人間の目より虹彩を明るい色合いにしていルことが多いです。 4 中央の透明部分が厚くなると屈折角度が大きくなって、瞳孔の黒い部分に収束しやすくなる。黒い部分からは光が反射しないので、やはり瞳は暗く沈んでしまう。 従って更に小さなスケールのドールでは虹彩部分まで明るくした方が良い。 ここまでが自分の整理した人の眼球とドールアイの違いです。 より自然でリアルな人形にしたいと思うのなら、人間に近づければ良いと考えました。まずは瞼を薄くする、自分の場合にはすべて1mm以下になるように改め、光が 入りやすいようにしました。また睫は瞼の裏でなく、瞼の下につけることも効果があります。 それでもまだ瞳が暗く沈んだ感じだったので、一回だけ1/3ドール用のオリジナルアイを作ったことがあります。 自分の作るドールは1/3スケールだけど、1/4スケールなみの小顔ヘッドなので、どうしても従来のグラスアイに合わない部分があると感じていたので。 それがこちらの断面図です。瞼はギリギリまで薄くしてアイを前に出す。虹彩はプリンターで印刷して中央に黒い瞳孔を盛った。結果として光は入りやすくなったのですが、 プリンターで印刷した虹彩は深みがなく、角度によっては一様に光を反射するという欠点が出てきました。 そしてアイの取り組みはしばしの中断です。 2024.8の個展中も人形への光の当て方には気を遣いました。そして最終日、片付けをしながらふと思いつくことがありました。 アイディアは次ノの通りです。 虹彩は色素を混ぜたUVレジンでつくる。徐々に中央から流し落とせば濃淡も作ることができるに違いない。 これで虹彩と瞳孔の深みが出て、妙な反射もなくなるはずです。 <ドールアイの制作> 試行錯誤で何度か製作してみて何となく基本的な設定のようなものが分かってきました。例として karen という手作りのオリジナル球体関節人形での取り組みを解説 します。 身長54cm 2015年制作、2017年リメイク、素材はラドールプレミックス、その他、市販のウイッグやグラスアイなど。 久々に箱から出してみたら、表情がちょっとつまらなさそうに見えました。 今見るといろいろと問題はあるのですが、やはり最大の課題はドールアイで、まずはこれを作り直してから、全体のリメイクに入ろうと思います。 1 まずはシリコンの型に粘土を押し込んで眼球をつくります。 人形のアイホールから計測して直径は15mmがベストと判断しました。目の大きさ(アイホールの幅)が10mmの場合、1.5倍の15mm程度の直径が適切です。 2 光軸の調整のため裏側にはプラモのランナーを取り付けました。これがあるのとないのでは、調整のやりやすさにかなりの違いが出ます。 3 虹彩と瞳孔をつくります。 右側が虹彩でプリンターであらかじめ模様を描いています。直径は6mmでこれは眼球の直径の60%にあたります。もしリアルなドールやアクションフィギュアなら50%程度、 アニメチックなものなら70%ぐらいが良さそうです。 左側は瞳孔部分で虹彩の直径の半分の5mmとしています。この2つに厚さ0.5mm程度になるようにUVレジンをのせて、まずは表面のコーティングします。 4 瞳孔を黒で着色し、虹彩の上にのせます。 そして何回かに分けてUVレジンを盛って硬化させ、全体を2.5mm程度の高さになるよう仕上げます。これは瞳孔部分の直径の80%程度です。 5 最後に眼球部分に直径6mmの平坦な場所をつくって光彩をのせます。 そして全体にUVレジンを薄く塗って硬化させ、コーティングすれば出来上がりです。 組み込んだところです。これまでのものより瞳は一回り小さくなりました。 でも光線の入り具合が良くない。 そこで瞼の部分をリューターで削って薄くし、光が入りやすいようにします。多くの場合、厚さは1mm程度、人間の瞼の厚みはおそらくは3mm程度でしょう、だから1/3スケールの ドールだとこの値が自然です。 適切な深さにおさまると、横から見たときに虹彩部分が瞼の裏側の深さに一致します。 ここが最大のポイントで、市販のドールの場合でも、ほとんどの場合、ドールアイは奥まったところにいってしまうので、この調整はやった方が良いでしょう。 同時に光軸の調整も行いました。 見栄えが全然違います。 ほんのちょっとのことで、全く違う仕上がりになってしまうのが人形作りの怖いところかな。 <ヘッドのリメイク> このまま終わりにしても良いのですが、更に良くなりそうな感じがするので、この画像をもとにPC上でシミュレーションを行います。作業に用いるのはGIMPというフリーの アプリケーションです。 アイを適切なサイズのものに交換したら、目の周辺の修正すべき点が見えてくる。 A 眉毛の形、特にアーチのかかり方が左右で違う。 B 目の大きさが左右で違う、明らかに向かって右側が大きい。そこで目尻側を少し内側に寄せる。 C 左側については目頭を少し下げて伸ばし、目尻は少し外側に広げる。 右画像はシミュレーション結果です。調整は実物で言うとすべて0.5mm以下ですが、それだけで表情もかわってきます。 次は目以外の部分をシミュレーションします。 D 左右の眉毛の長さを調整します。 E 鼻先が少し尖りすぎているので丸みを持たせる。 F 口が少し傾いていて左側がやや低いので修正。 こちらの変更もシミュレーションして確認します。 一つ一つの変更は微細ですが、それを何回も繰り返すうちにがらっと見栄えが変わります。 方向性が確認できたので、実際に作業を行います。 左画像はプランに沿って、AからCの修正を行ったところです。右の目尻を縮小するには瞬間接着パテを使います。 右画像はDからFを修正したところです。EとFはやはり瞬間接着パテを使います。 削りを入れたところ、瞬間接着パテを盛ったところは、元の色が残っていないので、Mr.カラーのGX113つや消しクリアーの吹き付けを行い、人間用のチークやシャドウを 綿棒にとって着色します。 とりあえず修正の1巡目は完了です。 次はフィールドラインの検証です。 一般的にドールは可愛く見えるということで、目を大きくつくる傾向にあります。自分の造るドールも市販品ほどではないけれど、やや大きめのバランスに なっている。 それをフィールドライン(*)で表現すれば、画像のように下に収束する形になります。(*:詳細はこちら→http://eye4.org/page560.html) さて空間が下に向かって収束するということはそれに直交する水平方向も湾曲した形になります。これを自分はレベルラインと呼んで、黄緑色の線で表しました。 だからこのドールの場合には、すべての顔のパーツが外側に向かって垂れさがってゆくのが標準ということになります。(簡単に言えばタレ目であるほうが自然に見えるということ) この段階での最初の修正したのは唇です。 フィールドラインの考え方に従えば、口は標準よりも小さめにつくった方が良いので、若干長かった唇の左側を瞬間接着パテで埋めて、少し小さくしました。 あらためてヘッドをボディに取り付けて修正プランを練ります。ここから先はPC上でシミュレーションをしてから作業に入ります。 A ドールアイの光軸が左右で違う。右側の光軸を上げて左に合わせる。 B 目の横の長さが左右で違う。左目尻を中央に寄せて右に合わせる。 C レベルラインに従えば、もう少し左眉は外に向かって下げ気味の方が良い。 AからCの修正を画像上で加えました。 D 向かって左の眉を少し太くして右側に合わせる。 E 瞼の目頭側の厚みがありすぎる感じがあるので、少し削る。これは画像上ではやや暗くするという修正になります。 F 左のアイラインを整える。 右画像はDからFの修正を加えたところです。 一つ一つの修正は微々たるもの。完成度を50%から90%にするのは分かりやすくて簡単なんだけど、95%を越えたあたりからどんどん難しくなって、実物とイメージがつながらなくなります。 リューターにより削りを入れたので、肌が荒れてきた。これは再塗装が必要なレベルです。 表面を均一化するために、いったんドールアイや睫毛を取り外しました。 リューターで削りを入れた部分は特に荒れが目立ち、全体に白っぽくなっています。(白の矢印) そこで瞬間接着パテを薄く盛って、まずは丹念に磨きを入れて凹凸を消します。 その上から艶消し剤を混ぜたMr.カラーのNo.111 キャラクターフレッシュを吹き付け、更にまわりと同じ色合いのテークやシャドウで色を整えます。 なぜこういうことができてしまうのかというと、ここには秘密があって、自分のつくってきたオリジナルドールの基本塗装(最も明るい部分)はMr.カラーのNo.111と同じ色合いにリキテックスを調色してあるからです。 だからNo.111を吹き付けると、基本状態にいつ何時でもリセットできるわけ、便利です。 あとは全体にアサヒペンの高耐久ラッカースプレー つや消しクリアーを何回か吹き付けて、最後はMr.カラーのGX114 つや消しスーパースムースクリアーを吹き付けると、しっとりとした 均一な肌に仕上がります。 高耐久ラッカースプレーは塗膜の強度が高くて表面保護の効果があるのと、さらには塗膜自体に厚みを持たせることで肌に透明感が出てくるので自分はよく使用します。 いよいよここからが最終段階の調整です。 A 眉毛が左右で微妙に異なるので修正します。具体的には向かって左側を外側に延長します。 B アイを入れ直しましたが、向かって右側のアイの光軸が斜め外側にずれているので直す。 C 正面から光をあてたとき、口のなかが明るく見えてしまうことがあるので、やや濃いめピンクを流し込んで引き締めます。 AからCの調整は迷うことはなかったので、そのまま修正を実行します。 ここから先は、いわゆる人間の場合だとお化粧のレベルになるので、失敗がないようにPC上でシミュレーションします。 D 目を大きく見せ、立体感を出すために茶系のシャドウを入れます。 E 赤みを差し込むところは頬の高い位置と下顎。 こちらがそのシミュレーション結果です。メイクの方向性に間違いのないことを確認しました。 そのうえで、最後に全体を引き締めます。顔のパーツの端っこのところは、特に印象深いポイントになるので、ここを修正あるいは強調する。 F 左目の目尻側は少し濃いめに強調、目頭側は右下に延長、右目の目頭側は濃いめに強調、目尻側は外側に延長。 G 口はフラットな感じに仕上がっているのですが、例のフィールドラインの関係で下向きに引き締めた方が自然。 すべての修正をPCでシミュレーションした結果が右画像です。やっと意図したイメージができあがった感じです。 シミュレーション結果を設計図にして、最終的なメイクを施します。 アイラインの修正はMr.カラーで行いますが、それ以外の部分は人間用の化粧品を使いました。Mr.カラー薄め液をほんの少しだけ含ませたネイルアート用の細筆にチークをとって色をおく。 そして全てが終わったらMr.カラーのGX114を吹き付けて定着させます。 最後は睫毛を取り付けます。裏側に貼り付けるのが主流のようですが、自分は上瞼の下側に貼り付ける。こうすればドールアイが奥まったところに行ってしまうのを防げます。 とりあえずの完成です。 少なくとも1週間ぐらいは眺めていて、これ以上の改良点が見つからなければ本当の完成です。それから観察の1週間の間にもう一つやりたいこともある。 ここでちょっとだけ演出を加えます。 自分のつくるドールには耳の部分に鉄釘が埋め込んであって、マグネットピアスが簡単につくようになっている。これまでは市販のマグネットピアスを利用してきたのですが、 どうしてもオーバーサイズになってしまいます。 そこでドールアイ同様、ピアスも自作してしまおうと考えました。利用したのは1000個で100円しないネイルアート用のストーンとUVレジンです。たまたまTEMUで見つけたけど、 ネイルアート用のものって使えるものが多いです。 直径3㎜、厚さ1mmのネオジムマグネットにこのストーンをのっけて、ゴム系の接着材でつなげて、あとはUVレジンでコーティングするだけです。 一気に10セットぐらいつくりました。 リメイク完了後の karen の全身画像です。 ヘッド以外の部分は、今回は手を加えてません。ただコーティングをやり直して、つやを整えただけです。 ピアスもジャストサイズです。 今のところ室内で見た限りはOKです。 あとはきっちりと思ったようにアイに光が入るかどうかで、これは様々な光の条件のなかで撮影して確認することになります。 <撮影テスト> 秦野 健速神社ほか 小田急線の「東海大学前駅」から歩いて30分ほどのところにある健速神社、本殿の建立は1636年と伝わり、秦野市内では最古のものです。 こちらの神社の見どころは高台から見た眺望の良さと、周囲を取り囲む巨大な樹木で、樹高が20mを越えるものもある。 帰り道、東海大学を通ったらメタセコイアが真っ赤でした。 お見事。 花菜ガーデン ドールアイを自作する試みもこれで3体目だけど、今回も自作ドールアイの効果はやはり抜群で、きっちりと光彩の奥まで光が届き、キャッチライトした瞳が輝く。ドールを自作する ならば、やはりそれに合ったドールアイを自作すべきだと確信に至りました。 人形やフィギュアって、やはり家に置いといて、たまに鑑賞するものではないように思う。 自然光にあててみて、輝き、そして時として別な表情を見せるのが楽しいです。 2025.01 camera: Panasonic DMC-GM1 + 12mm-32mm / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10 サイトのトップページにとびます |