eye4工房番外編


BUTTERFLY

夜明けの蝶たち



<床の間に置けるジオラマがつくりたい>

 築300年の古民家での個展を目前にして、何か床の間に置いて似合うような作品はないかと考えてみました。
 そして思いついたのが、昨年制作したジオラマで使用予定だったバットマンシリーズのフィギュアのこと。これに羽をつけて蝶の妖精に仕立てられないかな。
その思いつきから、作品作りは始まりました。






 そして完成したものがこちらです。床の間に置いても違和感がない。






この情景のキャプションとしては、

 
虫たちの住む小さな世界
 春の終わりのある日、静かに夜が明けてゆく
 つゆに湿った景色のなか、蝶たちはじっと羽が乾くのを待っている。


という感じかな。






 水滴はUVレジン、湿った感じはKATOの「さざ波」で表現。
 小さな蝶はネイルアート用のものです。
 植物は100均などで得られる造花やジオラマ用として販売されているものを何種類か組み合わせてつくっています。





<蝶の妖精をつくる>

 

 左画像は昨年制作したV2「これは神ではない ましてや悪魔でもない それはすべて人のなかにある」という作品で、このイメージは往年の映画の名作「猿の惑星」の第2話から
生まれたもの。右画像は当初、登場させる予定だったフィギュアですが、紆余曲折があって主役交代となってしまいました。

 

 何か次の作品で、うまく使いこなせないかなと思っていたところで見つけたのは、こちら36枚484円(TEMU)の蝶の壁飾りです。
 これをフィギュアの背中にエポキシパテで取り付けて、蝶の妖精をつくったら、ちょっとファンタジックな作品ができるに違いない。実際フィギュアに合わせてみたら、
ジャストフィットでした。



 蝶の妖精なので、背景は花を咲かせた植物やキノコ類からつくる。第一段階として選んだのはこれだけで、12個192円から4個238円というお値段です。



   1 作品の大まかなイメージをスケッチします。
   

 材料がそろったところでイメージをスケッチしてみました。
 崖の上の小さな空間に花を咲かせた植物やキノコがひしめく、そこにちょんと座り込んだ蝶の妖精を置いてみるというものです。もちろん架空の世界なのですが、
たまにはこういうものも良いと思う。

2 フィギュアと市販の蝶の壁飾りを組み合わせて、
 蝶の妖精をつくります。

 まずは壁飾りの余白部分を切り落とし、高耐久ラッカースプレー つや消しクリアを吹き付けて、反射を落ち着かせます。
 悪くはないのだけど、模様が雑な感じなので少し筆を入れてみました。(左)

 昆虫の羽というのは真っ平らでなく、葉脈のように固く厚みのあるところがあります。この凹凸をつけないとリアルな感じにはなりません。そこでKATOのさざ波を
使って、この筋状の厚みのある部分を描いてゆきます。(中)
 フィギュア本体の背中にはエポキシパテで羽を取り付ける部分をつくり、最小限の表現として黒い伸ばしランナーで触角を追加しました。(右)

  

 とりあえず蝶の妖精ができあがった。



<スタンドをつくります>
 次は背景となるスタンド部分をつくります。植物が密集して生えている感じを出すのがポイントになると思う。

3 使用する植物の質感を整え、色を自然な感じに
 整えてゆきます。

 蝶の妖精なので、背景は花を咲かせた植物やキノコ類からつくります。
 まずは作業に入る前にバリを取って、磨きを入れます。(左)
 一つ一つに型抜きしたときの癖が残っています。ヒートガンを軽く当てながら形を整えます。(中)

 次は中性洗剤で洗って乾かす。そのあと高耐久ラッカースプレー つや消しクリアを吹き付けて下地を整えます。これをしておかないと表面に塗料を塗っても
すぐに落ちてしまいます。(右)



 ご覧のように着色していない状態では、もろに樹脂でできているなって感じの派手な色合いです。
 そこでMr.カラーを使って、全体の彩度を落としながら着色してゆきます。基本的にはグリーン系塗料に白を少量入れると、雰囲気が良くなる。あと根元周辺には
茶系の塗料を混ぜてやると、よりリアルになります。
 そして着色が終わったら、全体にMr.カラーのGX114でトップコートし、艶を整えます。
 こういう植物がたくさん出回っているのは嬉しいことだけど、ジオラマで使えるようにするには結構手間がかかります。

4 発泡スチロールやスタイロフォームからベースを
 つくります。

 ベースは発泡スチロールとスタイロフォームからつくります。
 そしてこのままだと塗装作業がやりにくいので、ティッシュペーパーを1枚にはがしてベース上にのせ、上から水で溶いた木工ボンドを染み込ませます。こうすると
強度が増すだけでなく、水性の塗料が塗りやすくなるし、粘土もはがれにくくなる。



 プランに沿ってスタンドを取り付けます。
 上と下は分割可能でコンパクトになる、搬入搬出のことを考えるとこういうところはちゃんと考えないといけません。

5 バランスを見るために、まず最初は最小限の植物
 配置を行います。

 とりあえず第一段階の植物を配しました。
 基本的な考え方は生け花と同じです。もし生け花の達人だったら、もっと見栄えの良い作品ができるだろうなって思いながら作業をしています。

6 質感を整えながら、ベースを着色します。そのあと
 地衣類の表現を追加します。

 さてここからベースの塗装に入ります。
 茶色に着色したモデリングペーストに「浴びっこサンド」を混ぜた下塗り塗料を塗ります。(左) そしてこの塗料が乾く前に、上から「浴びっこサンド」を撒きます。
 これだけで、ちょっとリアルな土表現が完成します。

 次は苔類の表現です。今回はターフを主な材料として使います。但しKATOあたりの細かなものでなく、直径が1mm程度のもので、今回はTEMUで手に入れた。
感じとしてはターフとコースターフの中間的な粒子感です。(中)
 これを撒いた後に緑の敷物をちぎって取り付ける。(右)



 基本的な考え方としては、
A ベースボードの上面部分は植物の生育環境が整っていると考えられるので、先ほどのターフに更にファーバーを加えたものをたっぷりと撒きます。接着にはKATOの「草原糊」を使います。
B 側面下面は苔も育ちにくいはずなので、ターフのみのものをまばらに撒きました。



 2巡目の作業が終わったところです。なんとなく形が整ってきた。

7 更に植物や地衣類を追加して、その密度を高めて
 ゆきます。

 ようやく形は整ってきたけど、植物が生い茂る空間としては、あまりにも密度が足りません。
 3巡目の作業としては植物の密度を増す作業が中心となります。
 再度、手持ちの植物から使えそうなものを選び、下処理を行います。(左)

 ただやはりまだ「隙間」が見受けられるし、華やいだ感じも欲しいので、さらに小さな植物を追加します。画像中に写っているもので、左側はよくあるドライフラワーです。
TEMU や Aliexpressで200個で200円台というお値段のもの。右側は最近見かけるようになった極小の花、ファイバーでできた草の上にドライフラワーが取り付けられた
ものです。確かにリアルなんだけど、20個805円と少々お高い。(TEMU)
 天然素材のものは何かしらの表面保護をした方が良いのですが、水分を与えると、ドライフラワーは花を閉じてしまう性質があるので、ここはMr.カラーのGX113を、薄め液で
3倍ぐらいに薄めたものにつけて、乾かしてから使います。

 

 左が作業前、右が作業後です。これらを隙間を埋め込んだことでと一気にリアル感が増します。

   

 多くはこれで良しとするでしょうが、自分の場合はまだここから手を加えてゆきます。見たところ植物がつながりなく生えている感じで、全体として一体感がない。
また根元部分が露出しているのは見栄えが良くない。そこで「馴染ませる」作業をします。
 Aは隙間埋めのためのフォーリッジクラスター、目立った隙間にまずはこれを埋めます。
 Bはターフとファイバーを3種類ずつ混合したもので、主に密集した部分に撒いて隙間を埋めます。
 Cはターフのみ3種類混ぜたもので、乾燥して植物の育ちにくそうなところに使います。



 3種類を使い分け、少しずつ隙間を埋めて全体を馴染ませてゆきます。地味なんだけど、この作業を1週間ぐらいかけてやると、もふもふのリアル感十分な空間ができ
あがります。
 あとは背の高い植物を中心に、全体の形を整えます。葉の裏側など目立たないところにゴム系の接着剤を塗って、植物同士を張り付けて固定します。こうすることで型崩れ
もしにくくなります。



<最終調整と演出の追加>
、あともうちょっとで完成です。フィギュアを固定したところで 「完成」と言いたいところだけど「まだまだ」です。形はととのったけど、まだできることがあるかもしれない。
そう思って作品をしばらく眺める。
 作品としての安定性や壊れにくさはどうか。追加できる更に良い演出はあるか。季節感や時刻、天気、風の有無や温度などなどを配慮して、さらに完成度を高められる
要素はないかを考えます。

8 全体のバランスが良くないので、土台部分を重く
 頑丈にします。
9 早朝を表現するため、水滴を追加し、ベースに
 湿潤な感じを与えます。

 制作を続けるうち、どんどんジオラマの上部が重くなって不安定になってきました。
 ここは転倒の可能性もあるかと考えて、底面に角材を張り付けて拡大し重くする。これでかなり安定感が増しました。(左)

 植物が密集しているということで、季節は春から夏の感がある。そして無風。
 では時間帯は?
 イメージとしては、まだ蝶たちが飛び立つ前、ようやく夜が明けた頃。それがこの作品に相応しいと考え、UVレジンをところどころに垂らして固め、露に濡れた感じを出す
ことにしました。(中)
 さらに湿潤な空気感を出すために、情景の下方部分にクリアーをほんの少し吹き付けて湿り気を与える。さらに朝露が滴りそうなところには水で少し薄めたKATOの「さざ波」を
しみ込ませる。するとじわっと水分がにじみ出る感じが表現できます。(右)

10 ネイルアート用の蝶のミニチュアを追加し、更に
 全体の質感を整えます。

 左画像は翼長1cm程度のネイルアート用の蝶です。これを蝶の妖精のまわりに置くことで、更にファンタジックな空間になります。

 そしてもう一度全体を見渡すと、湿った感じの表現を加えたことで、苔表現のもふもふ感が若干下がってしまっていることに気づきました。ここはもっとボリュームがあった方が
良い。
 そして全体に隙間なく苔表現を追加して見栄えを整えます。
 もうこのぐらいで良いかな?



<完成画像>

















2025.03
camera: Panasonic GX9 +ZUIKO 12-50mm  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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