eye4工房番外編
地街の灯
<モノクロームそして無声映画の名作>
制作を続けていたジオラマが完成しました。
タイトルは「街の灯」、1931年に制作された、言わずとして知れたモノクロームかつ無声映画の名作です。

ベースサイズは20cm×16cm、1/64スケールの小さなジオラマです。
シーンとしては、映画の冒頭、主役のチャップリンと盲目の花売りの女性が出会うシーンです。
こういうジオラマができあがったのも たまたま二人に似た1/64スケールのフィギュアを見つけたおかげです。


最近の1/64は多種多様なフィギュアが3Dプリンターでつくられていて、なかなかに楽しい。またモールドも細かくて、ちゃんとつくってあげたら、結構見栄えがします。
但しご覧のフィギュアは身長が28mm、顔の長さは3mmぐらいしかないので塗装は難しいです。


表通りから少し奥に入ったところで二人は偶然に出会います。
映画には銀杏並木はなかったのですが、これはより素敵なシーンにするために考えた演出です。作品制作にあたっては、リアルであることに徹するより、自分は
楽しくなる方を選びます。原作のイメージは損ねない限りは許されることだと思う。


街の灯
盲目の花売りの女性が通りにいて、チャップリンは花を1本だけ買ってゆく、そのとき彼女の手がチャップリンの手に触れる。
後日チャップリンは盗みを働き、そこで得たお金をすべて彼女に渡し、服役してしまう。
数年後、刑期を終えたチャップリンは、街の一等地に花屋を構えた彼女と再会する。彼女はチャップリンからもらったお金で目を治療し、花屋として成功していたのだ。
だが盲目だった彼女には、恩人であるチャップリンのことは分からない。これで終わりかなと思ったときに、あっという展開が・・・。
初期の短い作品だけど、自分の大好きな作品です。(1931年製作 86分 アメリカ 原題はCity Lights)
美しさの中には、必ず哀しみがある
この言葉はチャップリンの名言の一つです。この記事を書いていて思い出しました。チャップリンの映画は基本的に喜劇なわけですが、その作品の底流には、哀しさや儚さ、
そして人間の弱さのようなものが常にあったように思います。
そしてこの名言をはじめて耳にしたのは、かつての映画番組「月曜ロードショー」を見たときでした。このとき放送された作品は「ライムライト」で、その放送終了後に現れたのが
映画評論家の荻昌弘さんでした。
いつもは視聴者が知りたい情報や、作品としての特徴をきちんと解説して終了するのですが、このときはたった一言でした。
「今日は何も言うことがありません。
美しさの中には、必ず哀しみがある、チャップリンの言葉です。」
<モノクロームの映画をジオラマにする>

いくつかあるジオラマのアイデアから選んだ次の作品は「街の灯」、上のフィギュアはいずれも1/64スケールです。
さて、これを作品にするにあたって、いくつか解決しなくてはいけない問題がある。いちばん大きな問題は、まずは材料がそろうかどうかです。上のフィギュアは半袖の
ワンピースなのだけど、映画のなかで盲目の女性が上に着ているのは、長袖の上着です。1/64でこれを修正するのは手間だな、でも他に良い感じのフィギュアがない。

あと背景になる街角には、塀が連なっているのですが、これをいちからつくるのも難しい。
あれこれ探していたら、こんなものを見つけた。(TEMU 1169円)
但し、入手したのは良いけれど、このキットのスケールは1/35です。それでもなんとかフェンスだけは使えそう。これでも一歩前進です。フェンスがあるだけで、かなり
時間短縮できる。
あとは1/64スケールの街灯も欲しい。
こうしてひとつひとつ必要なものを集めながら、構想をかためてゆく。
さて、この街の灯という作品は、喜劇王チャールズ・チャップリンが監督・脚本・主演を務めた不朽の名作なのだけど、ご存じの通りチャップリンは昔懐かしいモノクームの
無声映画として完成させています。
1930年代、映画の世界ではトーキー化とカラー化がすすみつつあった。
この波にあえて逆らった理由は、もちろん作品として、その方が相応しいと考えたからに違いないのだが、もしかしたらジオラマの場合にも、それが当てはまるのではないか、
とふと思った。

これは先日完成させた、廃墟となったガソリンスタンドのジオラマです。(1/64スケール)
そのまま画像をモノクロームにしてみました。このアイディアどうだろう?
無理かどうか考えているところです。

映画は大都会の片隅、脇道の歩道から始まります。記憶には何か樹木があったような気がするので、とりあえず紅葉しかけたメタセコイアに似たジオラマ用の樹木を発見し、
さっそく取り寄せました。(3本で1052円)
そして届いたパッケージから取り出した状態が右側、葉は押し潰れて塊になっていた。これをほぐして枝振りを整えたのが左側、1/24スケールなら使えないことはないけど、
いかにせよ1/64では荒すぎてリアルではない。
1 銀杏の木をつくります。

それではと、リアルな樹木を作ってみようと思い立った。
幹は手芸店などで売られている白化した根っこです。(B 名前は知らない)
ここに自立するようにエポキシパテを整形して「根」をつけます。(A)
あとはオランダドライフラワーを適当に切って、幹に差し込んでゆきます。(C)
ポイントになるのは枝の付け方です。木の種類によってその枝振りは違います。銀杏の場合には、(ここは予定変更、モノクロームの映画なので、何の樹なのかは分からない)
下の方の枝は横に伸び、上に行くほど上向きに枝は伸びます。
枝をつけ終えたらMr.カラーで吹き付け塗装を行います。
オランダドライフラワーはデリケートなので、劣化を遅らせるためにも、そのあとで高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーを吹き付けてトップコートします。
用意したのはコースターフです。これを枝につけてゆくのですが、いきなり糊スプレーを吹き付けて上から撒くと幹やリアルにはならないし、コースターフも無駄になります。
様々な方法があるとは思いますが、自分は細かな枝の先端に筆で木工ボンドを塗り、そこに少しずつコースターフをつけるという手間をかけます。こうすれば幹にコースターフ
がついたりすることもなく、リアルに仕上がります。
葉っぱがある程度の密度になったところで、本格的に糊スプレー(今回はPLUSの事務用)を吹き付けて、コースターフを撒きます。これを3回ぐらい繰り返すと、上のような
ボリュームのある銀杏が完成します。
こういうもの買うと1本で1000円ぐらいはしちゃうかも、でも手作りなら100円もかからない。

ジオラマの背景を構成するパーツに目処がついたので、今度は全体の配置を考えます。
車の通る大通りがあって(D)、そこから脇道が延びている(E)、ドラマはこの脇道の歩道で始まります。先ほど完成させた銀杏はノの背後に置きます(F)。

次はこれを図面化します。必要なベースボードの大きさは20cm×15cm。登場人物は先ほどの2人のほかに、通行人4名が確定、今その人選をしているところです。
映画はモノクロームなんだけど、今回は色数を絞って銀杏の黄色が印象的な作品にしたいと思っています。
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2 角材とスチレンボードで、ベースをつくってゆき
ます。 |
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図面に従ってベースボードをつくります。まずは角材を組んで、100均で入手した治具を使って枠を組み上げる。
枠ができたら5mm厚のスチレンボードを貼る。角に補強材を入れたら結構頑丈です。
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3 スチレンボードをとメタルパーツを組み合わせて、
塀をつくります。 |
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塀の部分は、基本的に5mm厚のスチレンボード、1mm厚と2mm厚のスチレンペーパーを使って組み上げます。
強度が必要なときには0.5mm厚の板目紙を使います。フェンスは市販されていたキットからエッチングパーツのみを流用させていただいた。

歩道部分は路面より少し高いので、2mm厚のスチレンペーパーで再現する。
大まかではありますが、2日間でベースボードが形になってきました。
こういう広範囲なベースボードを作らなくても、もっと狭いスペースで、この「街の灯」のオープニングシーンは表現が可能です。 たとえば二人を配置するだけなら、
1/35スケールでも5cm四方あれば十分かと思う。
それをもっと小さな1/64スケールで、しかも20cm×15cmの範囲で自分が表現する理由は、二人のおかれた状況を表現したいからです。
「ひろい世界のなかで、忘れ去られてしまいそうな二人」、そういうニュアンスが伝われば良い
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4 ベースボードの塗装を行います。映画にはない
横断歩道も描きます。 |
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マスキングテープを使って横断歩道を表現しようとしています。でもこれは映画的にいうと「不要なもの」です。映画のシーンに横断歩道はありません。
映画では自動車が左側通行しているので、ロケ場所は英国あたりではないかと推測しています。もしかしたらこの映画の作られた1930年頃、英国には横断歩道のマークが
存在しなかったのかも知れません。
でももしここに横断歩道を描かなかったら、「描くのを忘れてる」と見る人は多いと思う。だからここは現代の常識を優先させます。
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5 歩道部分の模様など、必要に応じてプリンターを
活用します。 |
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歩道の模様は基本的にプリンターで出力したものを使います。
使えそうな実際の歩道の模様を写真に撮って、たとえばGIMPというフリーのグラフィック アプリケーションを使えば、簡単に真上から見た画像が作れます。
接着にゴム系の接着剤を使うのは絶対です。間違って木工ボンドなどの水溶性のものを使うとインクが滲んで台無しになる。
あとはつや消しクリアーでトップコートしておけば耐水性が増して安心です。

塀に色をつける。フェンス部分は金属なのでプライマーを塗る。すると渋めの銀色になって、イメージにぴったり。従って上塗りはなしです。
塀本体は白く着色して、全体を組み立てました。

前もってつくっておいた銀杏の木を仮配置しました。
背景をモノトーンに近い感じでまとめて、銀杏の黄色を際立たせる。このまま登場人物もグレーや茶色に近い色合いで仕上げると、全体がレトロ感のあるモノクロ映画の
世界ができあがる。これが自分の色的な構想なわけです。
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6 標識などの小物類を製作します。これがあるだけで、
印象がかなり変わります。 |
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さてここから先は小物類を取り付けます。
1/64というスケールは、小スケールであるが故に、比較的に広範囲まで表現できることになります。だからすべてをリアルにしようとすると、とても大変なことになります。
だから自分としては、人の視線の落ちやすいところに集中してリアルな再現を行うことにしています。おそらく今回のジオラマで言えば、フィギュアとこの標識、街灯と言う
ことになります。だからここは手が抜けない。
標識はプリンターで印刷しますが、大きさを少しずつ変えて、最も具合の良いサイズのものを選ぶと良いでしょう。仕上がったところで、MrカラーのGX113つや消しクリアー
でつやを整え、トップコートします。
塀の柱部分は仕上がりが荒い、そこでモデリングペーストをたたくように細かく塗って質感を整えてゆきます。このとき使うモデリングペーストは樹脂成分の多いものでなく、
大理石の粉末が入ったリキテックスのものが良いです。

ベースボードの側面はチャコールグレーに塗り、これから配置するフィギュアのステージとしてふさわしい感じに仕上げました。

フィギュアを選んで仮配置します。
大通りにたくさんの人が行き交い、そこから枝分かれした路地の一角にチャップリンと盲目のヒロインがいる。感じは「街の灯」のオープニングそのものかな。
<フィギュアの製作>
今回の登場人物は6人、主役の2人と、通りすがりの4人という人選です。
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7 いつものように肌の部分から塗装に入ってゆきます。
薄い色を重ねるのが基本です。 |
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まずは脇役の4体を完成させる。
いつもどおり塗装は肌の部分からです。まずは肌の部分にMr.カラーのNo.111キャラクターフレッシュを塗り、GX113つや消しクリアーを吹き付けます。そのあと人間用の
チークと細めの綿棒を使って、肌の部分に変化をつけます。血液の多く流れる所には赤系、陰になるところにはブラウン系といったところです。
1回ではうっすらとしか色はのらないので、再びGX113つや消しクリアーを吹き付けて、何度かこの作業を繰り返します。(中画像)
そのあと焦げ茶色のアクリル絵の具を、最近で回り始めたアクリル絵具専用希釈液で薄めて、極細筆で眼や口にさっと塗る。いわゆる「墨入れ」をしてモールドを
強調するわけです。
このほか髪の生え際などに、差し込めば輪郭を強調できたりします。水性なので失敗したら拭き取れば良い。
もちろんここは水性アクリル塗料でもエナメル塗料でも良いと思います。(右画像)
ここで仕上がり具合を確認するために撮影をします。頻繁に撮影することはとっても大切です。現状を冷静に判断できて、修正すべき箇所も明確になります。
あとはGX113つや消しクリアーを吹き付けてここまでの塗装を定着させます。
 
あとは顔以外の部分の塗装に入ります。
めがねタイプの拡大鏡をかけ、ネールアート用の細筆で塗装をすすめます。筆は海外通販で1本50円ぐらい、筆は調子の良い期間の短い消耗品なので、自分は安い
ものをこまめに取り換えて使っています。
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8 ヒロインについては、そのまま使えないので、少し
ばかり修正を加えます。 |
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次に主役の2人ですが、ヒロインの方に少し手を加える必要がある。
ヒロインの服装は半袖のドレスですが、劇中では黒い上着を羽織っている。ということで、タミヤパテを盛り付けて上着のモールドを形成します。
ついでなので、乾くのを待つ間に大きめの花籠をエポキシパテでつくってみた。(右側) あとは花を模した市販のテクスチュアを盛り付けたら花籠は完成です。

4人と同様に作業を進めました。とりあえずの仕上がりはこんな感じです。

フィギュアを仮配置してみました。映画のオープニングと同じ位置です。でも主役2人地味な服装と言うこともあって、目立たな過ぎる。このままでは何のジオラマなのか
分からなくなります。
実は当初より秘策が2つほどあって、最後の演出としてそれを追加します。
一つ目は画像下に写っている黒いボトル「真・黒色無双」です。(光陽オリエントジャパン 100ml、2545円)
一般的な黒色アクリル塗料の可視光域の光吸収率が94~98%であるのに対し、こちらは99.4%だそうで、見かけは完全につやの消えた黒、たとえて言うなら燻したときの煤汚れ
みたいな感じになります。

これを二人の上着に塗ってみました。
光を反射せずに真っ黒。空間に出現したブラックホールみたいと言ったら、褒めすぎかも知れませんが、派手な色を使う方向とは真逆の意味で目立ちます。
右画像は同じ条件でつや消しの黒い塗装をしたフィギュアです。服の質感を出すために、Mr.カラーのGX113つや消しクリアーに No.188フラットベースあらめ・ラフを
添加してトップコートしていますが、こちらはつや消しであるが故に、少し白っぽく見えてしまう。
明らかに両者は異なります。
9 演出として落ち葉を巻きます。

銀杏の表現で使ったコースターフを更に細かく刻んで、二人の周囲に撒きます。接着にはパーマネントマットバーニッシュを使います。
パーマネントマットバーニッシュは本来はトップコート用のメディウムなのですが、粘着力があるのでこういう場面でも使えます。しかも乾けば、透明なつや消し層に
なるので塗装を変化させることもありません。

歩道から始まって、銀杏の木の下にも広げてゆきます。
お分かりいただけたと思いますが、自分はここに二人のための「黄色いステージ」を用意したわけです。並木に銀杏を選んだのも、実はこの演出を加えるつもりだったからです。
鮮やかな黄色い銀杏の中に、沈み込むような深い黒、やりたかったことが形になりました。
<完成画像>

こちらの画像はジオラマを近所の公園に持ち出して撮影しています。
外で撮影することのメリットは、景色を借景として活用できること、そして晴れた日であれば影がちゃんとできて、リアルに見えると言うこと。


これを見て、1/24か1/35スケールぐらいに感じる人も多いと思う。
でもれっきとした1/64で、フィギュアの身長は平均28mmしかないです。
一方で影が落ちることで、フィギュアの正確な形状がわかりにくくなるというデメリットもあるのは事実です。また紫外線による劣化も気になります。
こういう撮影方法を積極的に取り入れるようになったのは最近のことですが、なぜこれまで太陽の下に持ち出さなかったのか、それは「模型は室内で
楽しむもの」「ジオラマは極力正確につくって、その姿形が分かりやすいように、極力陰をつくらないようにして撮影する」という常識のようなものにとら
われていたからだと思います。
はっきり言えば、模型雑誌にあるような撮影方法が最も正しいと信じて疑わなかったのだと思う。
でもそういう画像は、カタログにある写真と何ら変わらない。
正しいのは、自分の思うシーンをより効果的に演出することだということに、ようやく気づいたわけです。


実際の映画にはなかった銀杏の演出を加えたのは、これをやりたかったからです。全体をモノクロームにして「黄色の一色残し」、GIMPなどのアプリで簡単にこれができる。
そのうえで画像を斜めに傾けて印象的なシーンにしました。

黒という色は自らが主張するような色ではない。でもでもこういうこの配色だと、チャップリンと花売りに女性の着ている黒い上着が深く沈んで逆に目立ちます。

ジオラマとそれを撮影した写真は全く別物、別な作品だと考えて良い。
そしてどちらももっと自由であって良いと思う。自分のイメージした空間が再現できるなら、それは立体作品でも、写真でも、あるいは絵画や動画でも良い。そう考えたら、
もっともっと面白いことができるような気がします。
2026.03
camera: Panasonic DMC-GX8 M.ZUIKO DIGITAL 12-50mm / graphic tool: SILKYPIX
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