eye4工房番外編

ケルトクロス



<簡単ジオラマシリーズの第2弾>

 前作「ティータイム」に引き続いて、簡単ジオラマシリーズの第2弾です。今回はリアルな石や地面について、どうやってつくるのかを解説します。
また全体の配置や構図についても考察を加えます。



 

 早速、最近お得意の屋外撮影です。
 見通しのきく、近所の公園の小山の頂上で撮影してきました。



 カメラは Panasonic の DMC-TZ85、絞り優先モード(F8.0の最大値)、LEDで影を弱める工夫をしています。
底面が10cm四方しかないので、低アングルで近寄って撮影です。これ以外は画像合成などをするしか、リアルな写真は撮れません。



 逆光というのはあまり好まれないのだけど、こうやって撮影するとなかなか良い。ぱっと見ただけなら、本当にモデルの女性がいるように見えるかも。
 画像にある鳥はセキショクヤケイといってニワトリの原種です。そして日本にもこの原種に近いものがいて「東天紅」というそうです。東天紅は長鳴鶏の一つで国の
天然記念物に指定されています。
 日本神話の天岩戸伝説では、天照大御神が洞窟に隠れこもったとき、神々は宴会をして気を引きます。その時、長鳴のニワトリを鳴かせたとあり、それが東天紅
だったという説があります。

 だからね、最後の画像でいうとケルトクロスとセキショクヤケイ、そして空と雲、そういったものは古の頃より変わっていない。ただただ変わってきているのは、スマホで
電話している人間のみ。人間の人生なんて、長い歴史のなかではほんの一瞬です。
 小さいけれど、こういう象徴的な意味をこのジオラマに持たせたつもりなんだけど、どんなもんでしょ?




<フィギュアの制作>
 今年になって、初心者の方にも分かっていただけるような、いちばんシンプルなジオラマ作りをやろうということを決めたのですが、こちらはその第2弾としたいと思います。
 制作にあたっては、ごく基本的なところまで解説して、初心者の方にも分かっていただけるような記事にしたいと思っています。

 

 使用するのはマスターボックスの Kate という1/24 のフィギュアです。以前にamazonで1000円以内で購入したものですが、結構値上がりしているみたいで、今は2090円
という値段がついてました。
 3Dプリンターのものとは違って、細かく分割され、塗装がやりやすいように配慮されています。

1 フィギュアの下地をつくり、基本的な塗装を行い
 ます。



 基本、型抜きされたものは、中性洗剤の入った水につけて洗うところからスタートです。  基本はできるだけ組み立ててから塗装に入る。但し組み立てすぎて、塗装がやりにくくなってはいけません。  できてしまった隙間はパテで埋めます。  フィギュアの塗装は基本的に肌の部分から行います。  まずは肌の部分にMr.カラーのNo.111キャラクターフレッシュを塗り、GX113つや消しクリアーを吹き付けます。  そのあと人間用のチークと細めの綿棒を使って、肌の部分に変化をつけます。血液の多く流れる所には赤系、陰になるところにはブラウン系といったところです。  1回ではうっすらとしか色はのらないので、再びGX113つや消しクリアーを吹き付けて、再度チークをのせます。



 次は最近で回り始めたアクリル絵具の希釈液というものを使います。(海外通販、Amazonにも扱いはある)  アクリル絵の具を希釈液に少量溶いて、眼や唇の部分に流し込む、するとこの部分のモールドが強調されて自然な感じに仕上がります。
 ここは水性の模型用塗料でやってももちろんかまいません。  この2つの塗装でここまで仕上がります。やり直しはあるかも知れませんが、何度か経験すれば、誰でもここまでたどり着くと思う。  あとは眉毛、瞳、唇を描けば、最低限の顔の塗装が完了します。
 眉、瞳、唇を描いた。そしたら撮影して、拡大して見る。  問題点を確認したら修正します。  3回ほどの微修正を施したら、更に少しずつ組み立ててゆきます。


 塗装に必要なものは塗料の他に、ネールアート用の細筆、デザインナイフ、めがねタイプの拡大鏡、そして細い綿棒です。  筆は海外通販で1本50円ぐらい、筆は調子の良い期間の短い消耗品なので、自分は安いものをこまめに取り換えて使っています。デザインナイフは細かな塗料のはみ出しをかき取るために使います。ルーペはこのほかに机に置くタイプのものもありますが、自分はこちらの方が、明るく立体的に見えて、圧倒的に使いやすいと思っています。




 細かな作業を続けていて身につけた構えです。 「ぶれない」ということがとっても大切で、両肘を膝に固定し、左右の小指薬指二本を押しつけて全体として三角形をつくる。これが最もぶれにくい方法です。  このときは床に座って作業してますが、テーブルの上なら、肘はしっかりとテーブル上に固定します。  ちなみに自分はあまり机の上で作業は行いません。  机の上で作業していて、細かなパーツを落としてしまい、紛失したことが過去に何度もある。床ならばポロリと落としてもお目の前に落ちているはずです。

 

 1/64に比べたら、ずっと大きいので塗装はやりやすい。1/35のフィギュアに「目を入れる」という作業は断念する人も多いでしょうが、このスケールならなんとかなるでしょう。  ひととおりカラーを塗りおえたら、GX113つや消しクリアーでトップコートします。衣類部分には「あらめラフ」を添加してざらっとした質感を、そして手にした黒いバッグは半つや消しに仕上げて革の質感を出します。  ここのところ1/64の作品が多くなってたけど、こちらはある程度大きな範囲を描写して、景色そのものを作品にするという作品に向いている。  一方でこちらの1/24はフィギュアを主役にして、それを引き立たせる演出を加えるような作品に向いていると自分は思います。ではその演出とは何か? それはまた次回と言うことで。





<ケルトクロス>
 次はこちらのフィギュアを引き立たせる演出や背景を考えなくてはならない。おそらくはこれが作品作りのポイントになるところです。  もちろん普通に「街角や公園で電話をかけている」でも悪くないですが、せっかくなら何か特徴のある景色の中に置いてみたい。  自分が最初に思いついたのは「ケルトクロスのある風景」です。  ケルトクロスはアイルランドを中心とした、ケルト文化が色濃く残っている地域に見られるもので、ケルト系キリスト教の特徴的なシンボルであり、ケルト美術の主要な一部ともなっている。  でも我々日本人だと墓地や教会のモニュメントというより、アクセサリー類の方がなじみがあるかも知れません。  形としてはラテンクロスとサークルを合体させたような形で、実際にはキリスト教以前の青銅器の時代から存在していたらしい。  その多くには複雑なケルト模様も彫り込まれていたりするのですが、工作が難しいので、今回は中央部分に少しだけ標すのみにしたいと考えています。  まあそうしないと島津藩のマークに見えてしまう人もいるかと。(そんなわけないか)

2 スタイロフォームを素材としてケルトクロスをつくり
 ます。

 スケッチしたあと、これをスタイロフォームに書き写します。(上の画像)  ジオラマ素材の中で、概形を作るのに用いられるものとしては、密度の低い順に、発泡スチロール、スチレンボード、スタイロフォーム、粘土、レジンなどがありますが、今回のような石のモニュメントならば、それなりに強度と精密さが必要になるので、スタイロフォームの選択がベストだと思う。  最初のカットに入ります。  線引きを添えて上からカットするのが一般的だと思いますが、それをやると間違いなく失敗する。まずは横から見て面に対して直角が出るようにカッターの刃を入れます。次に上面側を引いて切り、次に下面側を切る。そして再び横から見て中央部分を切りすすめる。あとはこの繰り返しです。   最初のカットが終わったところです。直線部分が出ていないように見えますが、このぐらいならヤスリがけで修正できます。斜めカットになるよりはましです。  


あとはデザインナイフやリューターなどで形を整えてゆきます。  カットが終了したら、布ヤスリの120番と240番で表面を整えます。  大きな傷や裂け目はモデリングペーストで埋めます。モデリングペーストはいくつかのメーカーから出ていますが、肉痩せと強度の点からリキテックスのものを自分はおすすめします。  スタイロフォームを加工してケルト模様を表現するのは不可能に近いので、エポキシパテを使って簡便なものをつくります。  硬化したところでこれをとりつけます。これで知る人が見たら、ケルトクロスだということが分かると思う。  そして最後に、そもそもなぜケルトクロスを選んだのかというと、一つにはこれを置くことでアイルランドという場所が特定できるという点、そして彼女の持つスマホとケルトクロスという紀元前のものが同居しているという点があります。  今の世の中、いつどこに旅行したとしても、すぐに現実とつながってしまう便利さと不自由さ、そんなものを表現できたらいいなって思ってます。





 ここから質感を整えつつ、塗装を行ってゆきます。
 塗装の基本的な考え方は、まずは色の三属性を整えること。三属性とは1 色相(色合い)、2 彩度(ビビッドであるかくすんでいるか)、3 明度(明るさ)のことです。
これは基本的に塗料で行うことになります。
 自分の考えでは、ジオラマや模型ではこれに加えて質感が問題になる。これは。4 表面の状態(ざらつきや光沢感)、5 透明感(透け具合)、6 反射率(金属感)
という感じかな。

 通常とは異なって、まずはモデリングペーストを主材とした塗料をつくります。モデリングペーストは仕上がったときにつや消しのざらっとした仕上がりになります。
 ざらっとした仕上がりには、
A ティッシュペーパーを表面に貼る。
B 塗料に砂を混ぜる。
C モデリングペーストを塗る。
D つや消し剤を添加する。
 などの方法があり、上に行くほど効果は高い。またこれらを組み合わせることで、更に塗装に変化をつけることができます。

 今回は表面の整った石のケルトクロスなのでCの方法を使います。

3 ケルトクロスをモデリングペースト入りの塗料で
 着色してゆきます。

 モデリングペーストはやや隠蔽率が低いので、10%ぐらいのジェッソを添加し、ここに少量の黒を雑ぜてライトグレーの色合いに整えます。(左画像)
 これに水を添加して筆で塗ってゆくのですが、粘性が高いので刷毛目が出やすいので注意します。右画像は土台部分を塗装しているところですが、右側が
筆を横使いしたときで、これでは石らしくならない。筆を立てて使い、上から落とすように塗ると、適度な起伏ができてそれらしくなります。



 僅かな起伏があって、マットな質感に整いました


 ただこれでは「新品のケルトクロス」になってしまうので、経年変化をつけてゆきます。
 まずは最初のライトグレーの塗料に少量のブラウンを雑ぜて、土台部分に塗り、上にゆくほど少しずつ塗料を水で薄めてゆきます。要するに土汚れのグラデーションを
つけるわけです。
 これが乾いたところで土や砂が残りやすいところに、パーマネントマットバーニッシュを筆で塗って「あびっこサンド」を撒きます。


 次は水汚れ、雨だれの表現です。大気中には煤煙や火山噴出物の微細な粒子が含まれていて、長期間屋外で放置されたものは間違いなくこれらの汚れがつきます。
 アクリル塗料でチャコールグレーをつくり、ぎりぎりそれと分かる程度に水で薄めます。(黒だと強すぎる)
 左画像はこれを筆にとってケルト模様の部分に染みこませるように塗って、模様を浮き彫りにしているところです。このあと雨が流れ落ちそうな所に、何度となく塗料を
塗って雨だれを表現します。
 右画像は最初の塗料にホワイトを加えて、ぼかし筆でドライブラシして輪郭を強調します。角や端っこの部分は経年変化で白化しやすい。これで更にリアルになります。



 本日の仕上がりはこちら、見ただけではスタイロフォームとは思えないでしょう。
 ポイントは1回で塗装を済ませようとしないこと、薄く少しずつ繰り返して行うのが失敗しない秘訣です。



<ベースボードと構図>


4 ベースボードを組み、質感を出しながら地面の
 塗装を行います。

 ベースボードの制作には、いろいろと流儀があるようですが、自分は角材とスチレンボードだけでつくることが多いです。軽量であれば扱いも簡単で、この大きさなら
強度的にも十分です。
 一つ注意があるとすれば、スチレンボードには2種類あって、スチレンむき出しのものと、表面に紙が貼ってあるものの2種類がある。このうち紙張りしてあるものの方が
強度はあるのだけど、水分を含んだときに収縮することが多いので使わない方が良いです。

。塗装についてですが、今回は平坦な地面を想定しているので作業は簡単です。
 用意するのは、このブログで度々登場する下地塗料です。モデリングペーストを茶色に着色して、同量の「あびっこサンド」を雑ぜたものです。
 この塗料を筆で塗ることができる程度に水で薄めてベースボードにたっぷりと塗ります。そしてこれが乾く前にインスタントセメント(砂入り)を上からまいてゆく。たった
これだけで誰がなんと言おうと「土にしか見えない地面」になります。

 このままでも良いですが、必要に応じてMr.カラーを吹き付け、赤土だったり、少し湿った感じの地面に仕上げることも可能です。
 注意事項としては、本来インスタントセメントは、よく練ってから使うものなので、このままだと表面がやや弱いです。したがってすべての作業が終わったところで、たっぷりと
高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーを吹き付けておきましょう。

 あとはベースボードの縁にチャコールグレーを塗る。黒は強すぎてかえって目立つ。
 ここまでくるとジオラマ作品として一応のかたちにはなる。 「スコットランドかアイルランドの墓地に一人の女性がやってきた。」  こういうストーリーのようなものを語ることが
できる作品が、自分は良いと思っています。







<構図について>


A 上の配置はベースボードの真ん中に、フィギュアとケルトクロスをそのまま置いた場合です。安定感はあるのだけど面白みに欠ける。写真ではこのパターンを「日の丸構図」
 といって、意図的な場合は別として、できれば避けた方が良いとされています。



B こちらは中心からケルトクロスをずらし、フィギュアをその側面に置いた場合です。ケルトクロスの土台、主役の視線、ベースボードの角度的な関係は平行、もしくは直角の関係に
 なっています。これもまた面白みに欠ける構図です。



C 単独で中心に置かない、登場するものの関係が平行や直角にならない、このあたりのことを意識すると、構図としての面白みが出てきます。こちらはケルトクロスを中心からずらし、
 ベースボードに対して傾きをつける。そしてフィギュアの視線もまた他のアイテムと平行の関係にならないよう配慮しました。





<追加の演出>
  だいたいほぼ完成というところまできてから、自分は最低1週間ぐらい、毎日1,2回ほど作品を眺めて過ごすことにしています。そうすると、ときどき思いがけないアイディアを思い
ついたりします。

5 少し殺風景なので、ファイバーを使って植物表現
 を追加します。
6 政局やケイを追加します。キットはTAMIYAの家畜
 セットを流用します。

 まず思いついたのは植物表現です。土があればよほどの乾燥地帯でなければ、多少の雑草があるのが自然です。そこでケルトクロスの縁のいちばん水分のありそうな所に、
小さなファイバーの雑草を置いてみました。

 このままだと展示しても素通りされてしまいそうな作品なので、一工夫してみることにしました。
 登場させるのはニワトリです。TAMIYAの家畜セットのなかにニワトリのつがいがあるので、これを利用します。ただしこちらは1/35スケールなので、そのままだと小さすぎる
感じです。
 ニワトリはもともと東南アジアに生息していましたが、その肉が美味だったので、かなり古い時代に人間が家畜化して世界中にひろまっていった。そして改良を重ねてかなり
大きな体つきになり、あまり飛べなくなってしまったという。
ですがそのニワトリの原種がまだ自然界には生息していていることを知りました。名前はセキショクヤケイと言って、やや小ぶりな体つきでちゃんと飛ぶことができる。夜などは
他の動物に襲われないよう木の上で眠るそうです。
 早速写真を入手して、同じように色をつけ始めました。


 こちらが完成したところです。ご覧のように雄はかなり派手なカラーリングです。
 雌の方は、オランダドライフラワーで巣を作り、その上にのせてみました。



 巣と雌はケルトクロスの穴の中に、そして雄はてっぺんに固定しました。
 「よそ者がやってきたので、何かされないか警戒している。」そんな感じです。





<完成画像>


 

ケルトクロス
 完成画像です。背景となっているのはケルトクロスで、十字架の中心に太陽の象徴として円を配した、アイルランドなどのケルト文化圏のシンボルです。全体としては
キリスト教とケルトの太陽信仰が融合したデザインで、4つの先端は「大地・水・火・風」の要素を表すとされる。
 でもこれだとカタログの商品説明の写真と何ら変わらないので、少しばかり撮影に工夫を加えます。


 

 こちらはどうでしょう。印象が変わってこの10cm四方の空間内に入り込めたような感じになります。
 個展の時にはたくさんの方が撮影されてゆくのだけど、ときどき「もっと目線を下げた方が良いですよ。」とアドバイスすることがあります。上から俯瞰的に撮影すると、
ミニチュアがミニチュアにしか見えないことがほとんどです。
 「カメラの目線は主役の目線と同じ」というのが撮影の基本のような気がする。

 実はもう一つ違いがあります。それは照明の問題です。最初の2枚は室内灯に加えて、LEDライトをあてて、極力影ができないように撮影したものです。それに対して
跡の2枚はLEDをあえて斜め左上方からあてて影をつくって撮影しています。時間帯で言えば、午前10時ぐらいのイメージです。迫力があってリアリティーが増します。
 補助光としてのLEDは影のコントロールや、画像としてのコントラストを調整するものと考えて良いです。
 一般的にはと、カメラの目線とLEDの光線の方向は一致させない方が良い。同じ理由でカメラの内蔵ストロボは使わない方が良いです。





A こちらはフィギュアの正面から光を当てたもの、全体がフラットに見える。



B LEDを左斜め上方からあてて、額の下や頬、顎などに少し影ができるように調整しました。こうするとちょっと立体感が出てきて、「かすかな笑顔」を浮かべて
 いるようにも見えます。



C こちらは右上方からLEDをあてて、カメラアングルもやや上方から見下ろす感じにしてみました。こうすると、「ちょっと嫌な感じのする電話がかかってきている」みたいな
表情に見えます。

 先日、飯田にある川本喜八郎人形美術館に行ったのだけど、「三国志」や「平家物語」の撮影では、あえて人形を非対称につくり、こうやってライティングやカメラアングル、
人形の操作などで、様々な表情を出す工夫をしていたことを知りました。とっても勉強になりました。75mmの大きさの人形でも、こういう工夫は間違いなく効果がある。



2026.04
camera: Panasonic DMC-GX + 12mm-32mm  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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