eye4工房番外編

成田の樹



<小田原を散歩していて出会った風景>

 小田原をお散歩していて興味深い景色を見つけました。今回はこれを1/64スケールのジオラマにしました。



 場所は小田原、市内を流れる酒匂川の東岸、田んぼの真ん中に巨大な樹がぽつんとありました。
 そもそもは巨樹だったものが何かしらの原因で倒れ、でもそれで枯れてしまわず、しばらくして残された部分からいくつもの枝が出てきて今のような形になったのだと、
自分には見えました。
 そしてその奇跡のような様が、地域の人には神の宿る樹に見えたのかも知れません、だから今も大切にされて、ここに残っている。



 樹の南側には高さ40cmほどの石が立てられ、その手前には紐でつながれた2本の木。そして団子のお供え物とお賽銭が散らばっていました。
 2本の木と紐の組み合わせは、ここから先が神域であることを示すもで、簡易な鳥居と思えば良い。こちらも欠かせないアイテムなのでつくることにします。



 例によって、富士山の見える現地までこのジオラマを持ってゆき、樹が隠れるようにジオラマを構えて撮影してみました。
 上の画像ではフィギュアと田んぼ、樹がジオラマで、それより遠方に写っているのは実際の景色です。但し実物の樹が完全に隠れることはなかったので、あとで部分的に
GIMPで修正を加えています。



 反対側に回り込んで撮影しました。
 逆光になるとよりリアルに見える。こういう写真は小さなセンサーのカメラで絞りをmaxにして撮影するのがポイントです。

 こジオラマの大きさは底面が31cm×31cm、高さ18cm。ベースボードは角材とスチレンボードからつくり、そのあとファイバーとパウダーを雑ぜてつくった「草の元」を
根元周辺にまぶして草原を表現しています。
 樹は木材とエポキシパテでまずはかたちをつくり、オランダドライフラワーにフォーリッジクラスターを取り付けて枝と葉を再現しています。



 添えられているフィギュアは大きく見えるかもしれませんが1/64スケールで制作しているので、フィギュアの身長は28mmと26mmです。

 今回はこの場所に3回行って撮影しています。
 1回目は最初の2枚の画像で、これを元にして水の入った田植え前の景色を想像してジオラマをつくりました。2回目は次の2枚の画像で、完成後に富士山を入れてジオラマを
撮影しました。
 でもこのときは5月の中旬で田んぼに水は入っておらず、水鏡状態の景色は撮影できませんでした。






 そして3回目、今度は水の入る時期を教えていただいて撮影に向かいました。
 実は2回目の撮影のときに、この田んぼを所有し、樹の生えたこの一角を管理している方に、たまたま現地で出会うことができました。
 聞けばこの一角の所有者は別な場所に住んでいて、自分は草刈りなどの管理を任されているだけだという。だからここがどうしてつくられたのか、所以や由緒などは
分からないとのことでした。
 結局、謎は謎のままでした。
 これだけの存在感があって、googlemap にさえ存在しないというのも、本当に珍しい。



 こちらは再びジオラマ画像です。
 謎は謎のままなのだけど、ここが祈りの場であることは間違いない。



 その祈りの場に2体のフィギュアを置いた。
 小さな祠の前で二人が何を語り祈っているのか、それはこのジオラマを見た人に感じ取ってもらいたい。そこまで自分が語るのは野暮というものでしょう。
 このジオラマは8月に予定している個展では、中心的な作品のひとつとして持ち込む予定です。





<制作の準備>
 最初にこの景色を見たとき、すでにジオラマにすることは決めていました。だから最初の段階で詳細な写真を多数撮っておきました。

 

 大きな樹の下には小さな石の祠がある。



 独立した参道もある。



 反対側に出ると、高さ40cmほどの石が立てられ、その手前には紐でつながれた2本の木。そして団子のお供え物とお賽銭が散らばっていました。
 2本の木と紐の組み合わせは、ここから先が神域であることを示すもで、簡易な鳥居と思えば良い。とするならば、こちらはすでに神社の形態を整えていて、向こうに見える
大樹こそが、ご神体ということになります。



   1 主材の結果から、ジオラマの設計図をつくります。
   


 こういうジオラマでは図面作りは大切です。google map に記載はないけれど、航空写真のレイヤーをかけると、その存在は一目瞭然で、ここから図面を起こすことは
容易です。上の画像は google map を元にしてつくった平面図です。
 樹から鳥居、そしてまわりの水田まで表現するとなると、実測で50m四方程度再現できれば十分ですが、それは換算で78cm四方になる。さすがに大きすぎ。
 また樹の生えている五角形の部分は短辺が15m、高さ20mほどで、これはそれぞれ23cm、31cmに換算できます。ジオラマのサイズとしては適当ですが、五角形の部分
だけ再現したのでは、広い水田の中にあることも分からないし、鳥居もないので、それがご神体であることも分からない。

 

 数あるストックの中から2体のフィギュアを選びました。ただ腕が折れてしまっているのが残念です。

 

 左は使用する予定の1/64フィギュアの画像を、実際の風景サイズに換算して合成したものです。おおよそ樹高は12mほどで、かなりの大きさの樹だということがお分かり
いただけると思う。
 そこで少し小ぶりにしようと考え、全体をとりあえず3/4の大きさにしてみることにしました。この場合、合成画像では人間が4/3倍に大きくなることを意味する。
 右画像のように、これでも人間に比較して樹は十分に大きいので、このバランスでつくっても違和感はないと判断しました。



 あとは少しずつ切り詰めていって、平面図に寸法を書き入れます。
 ベースサイズは300mm×312mm、樹高は140mm、五角形の面積:水田の面積=1:7、そして片隅に鳥居と石の祠が収まります。ポイント2つは押さえました。



 そして今度は平面図を元にして、横からの画をスケッチをしてみました。
 多分、実物の「成田の樹」を見たことのある人でも、「うん、こんな感じだった」と頷いてもらえると思う。もう少し言葉を加えると、おそらく実際の風景をそのまま縮小すると、
間延びしてしまって、かえってつまらなくなったと思う。経験上、少し密度を高めてやるぐらいの方が、バランスは良くなります。





<ベースボードを作る>

   2 角材と5mm厚のスチレンボードでベースボード
    を組みます。
   


 ベースボードの大きさは最終的に32cm×30cmに確定、図面をもとにして、まずは板目紙に道や樹の生える1段高いところを写し取って切り抜きます。(左画像)
 次に板目紙を型紙にしてスチレンペーパーを切り抜き、予定した厚さになるまで重ねます。(中画像) これを右画像のようにベースボードに貼り付け、できた隙間をモデリング
ペーストで埋めたら、基本的な地形はできあがりです。

 基本、平坦な田んぼなので、ここまでは簡単です。
 さてここで考えなくてはいけないことがあります。それは季節や時間帯、天候といったものです。これらによって景色は全く違うものになる。
 自分はこの景色がいちばん美しく見えるのは、5月初旬の田植えの直前だと考えました。水田に水が入り、巨大な樹が鏡のようになった水面に映っている。もちろん天気は
穏やかな快晴です。


3 着色を行ってから、透明レジンを流し込んで水面を
 表現します。

 まずはコンクリートの縁の部分をグレーで着色してから、田んぼの土の部分を塗ります。(左画像) まずはモデリングペーストを着色します。水が入った状態なので
色合いとしては暗めのブラウン、またざらつきが必要なので、ここに例によって「あびっこサンド」を雑ぜます。

 レジンが外に漏れないようにするには、PPシート(ポリプロピレン シート)で縁をつけるのが普通なのですが、深さ2mmに満たないので、今回は簡便に100均で売って
いるPPテープで代用しました、これなら簡単です。
 あとはパーツのつなぎ目やPPテープの縁などにUVレジンを流し込んで硬化させます。(中画像) こうすると本格的に透明レジンを流し込んだときに漏れを防止できるし、
つなぎ目に気泡がたまってしまうことが防げます。

 レジンの流し込みは説明書に従います。硬化するまでは埃がかぶらないように、上をカバーしておくことは、絶対に必要です。
 硬化したら、縁の盛り上がりをカッターで削りヤスリで磨く。(右画像)



 今回は特につるつるにしたかったので、更に表面にクリアーを吹き付け、コーティングポリマーで磨きました。





<植物表現>
 次はこの五角形の中に木を生やしたいところですが、今それをやってしまうと樹そのものが邪魔になって、作業に支障が出てきそうです。
 そこでいったんは盛り上がっている地面部分をスチレンペーパーに写し取って、別パーツとして完成させることにします。

4 地面部分や参道、道といったところを最初に仕上げ
 てゆきます。

 ベースボードの側面とコンクリート部分をグレーに塗ってから、パーマネントマットバーニッシュを塗って仕上げます。(左画像) パーマネントマットバーニッシュは
仕上げ材のメディウムで表面保護の役割があります。
 参道部分は緑色の人工芝シートが貼られていました。農道部分は例によって着色したモデリングペーストに同量の「あびっこサンド」を雑ぜた塗料で塗ってゆきます。
(中画像) 農道は塗料が乾く前に「あびっこサンド」を更に振りかける。このとき道の端の部分にまかないようにすると、湿った感じが出てリアルに仕上がる。
 また参道にはまばらにパーマネントマットバーニッシュを塗ってから「あびっこサンド」を撒いておきます。(右画像)



 さていよいよ樹の部分にとりかかります。



 見た目は高さ1mほどの盛り土の上に生えている感じです。

5 中央の膨らんだ部分の形状を整えをます、このとき
 湾曲部分を修正しないといけない。

 この盛り上げは、スチレンペーパーの上に発泡スチロールを重ねて表現します。これをカッターと布ヤスリで整形したのが真ん中の画像です。
 この上に粘土を重ねて更に細かく形状を整えたいところですが、直接だと剥がれ落ちてしまうので、まずはジェッソを塗り、その上から粘土を重ねます。問題は粘土に
収縮性があることで、乾燥すると右画像の矢印の方向に反ってしまいます。
 だから乾燥してゆく過程で、無理矢理に反対方向に指で引っ張って修正します。結果ヒビが入ってしまいますが、これはやむを得ないでしょう。



 次はある意味主役ともいえる中心の大きな樹をつくることにします。
 樹は鉄道模型やジオラマ用につくられた市販品もあります。Amazonあたりだと、高さ10cmのものが5本入って1000円ぐらいかな。でも決して出来は良くなくて、手を加えないと
使えないし、そもそも今回のような高さ17cmの広葉樹など見たことはない。最近では海外通販でも大きめの樹が売られていたりします。こちらも試しに購入したのですが、
はっきり言って「外れ」でした。

 基本、自分の場合には「あるものは買う」「なければつくる」なので、今回のこの作品を完成させるためには、何としてもリアルな樹をつくらないといけません。
 こつはあるものの、作り方はそれほど難しくはないです。

6 手芸用の白化した根っこをベースにして、オランダ
 ドライフラワー等で樹をつくってゆきます。

 中央のベースに、手芸店で売られている白化した根っこを何本か立ててから塗装を行います。あとあとMrカラーでトップコートすることを考えて、幹の部分はMr.カラーで
着色しました。
 まずはフラットアースで全体を塗り、そのあとこれにチャコールグレーを加えたものを、横方向の筆遣いでまばらに塗り、濃淡の変化をつけてゆきます。
 地面の方は、例によって着色したモデリングペーストに、同量の「あびっこサンド」を雑ぜてつくった土表現のための塗料を塗ります。


 太い幹まではこれでOKですが、小枝の表現には一工夫が必要になります。
 リアルな小枝の表現には、オランダドライフラワーを使うのが一般的かと思いますが、日本のお店だと大きな枝20房ぐらいで3000円から4000円ぐらい、一方海外通販だと
800円ぐらい。
 問題は海外通販のものの質で、小箱に大量に詰め込まれて圧縮され、ぺったんこの状態で届きます。(左画像の右側) このままでは使えないので、いったん水に浸けて
少しずつほぐしてから乾かす。すると完璧ではないけれど使える状態にはなります。(左画像の左側)
 天然素材のもの、特に植物は水を加えることで元に戻ろうとする性質があることを知っていると、何かと使えます。

 次は小枝を取り付ける幹の部分にピンバイスで穴を空け、あとは適当な大きさに切ったオランダドライフラワーをボンドで取り付ければ良い。(右画像)
 そしてここが大切ですが、接着剤が乾いたところで、たっぷりと高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーを吹き付けて、トップコートします。自然素材のものは放置しておくと、
紫外線や酸化の影響でもろくなってゆくからです。


 葉っぱの表現として使うのはフォーリッジクラスターです。異なったメーカーから何種類かででいるのですが、自分は海外通販で比較的柔らかめ軽めのものを探して入手
しています。
 フォーリッジクラスターは細かなスポンジ素材を着色して固めたものですが、これをまずは薄く剥がすように広げてゆきます。そしてこれを大きさまちまちの状態で、全体に
まばらに取り付けてゆきます。大きな塊をつけたら、今度は小さめに切ったフォーリッジクラスターをアットランダムに取り付けて、全体の密度を高めます。



 ひととおり葉っぱの表現が終わったところです。  自分で言うのもなんだけど、ちゃんとした自然な樹に見える。この大きさの樹木がもし市販されていたら、3000円ぐらいしても
おかしくないと思います。



 とりあえずは形になったけど、写真とは明らかに印象が違うので、手直しすることにしました。



 今回の主役はこの樹そのものなので、手直しできるのであればできるだけやっておきたい。


 
A まずは少し密度が足りないところがあるので、これを補う。
B フォーリッジクラスターの粒子が目立つので、これを弱めるためにスプレー糊を吹き付けて暗緑色のターフを撒きます。
C 下に垂れるように伸びた枝がいくつかあるので、これを表現します。


D 根元からは、小枝やツタ、その他の植物が巻き付いた感じがあるので、ツタ植物を模したやテクスチャーなどを使ってこれを再現します。
F そして最後に全体を馴染ませるため、再度スプレー糊を吹き付けてから暗緑色のターフを撒きます。

 こういうのって、ものは違うけど水彩画と一緒です。少しずつ色を重ねていって全体をまとめる。1回ですべてを決めようなんて思わないことです。

 左画像は樹をベースボードに固定しているところです。次に隙間を粘土で埋めてから、着色したモデリングペーストを塗ります。そしてそれが乾く前に「あびっこサンド」を
更に振りかける。このあたりの流れはいつもの通りです。
 次は草の表現です。水田に水の入る4月の終わりから5月を想定しているので、色合いとしてはやや淡い緑、そして草丈もそれほどではないはずなので、長さ2mmほどの
いちばん短いファイバーを主材として使います。この細かなファイバーだけだと、明らかな密度不足になるので、ここに黄緑と緑のパウダーを雑ぜます。(中画像)
 この場合、いつものスタティックアプリケーターを使うと小回りがきかないので、KATOの「繁茂・深雪ボトル」で静電気を発生させながら、少しずつ草原をつくります。(右画像)

 ちなみにこの日は雨、静電気が発生しにくい日だったので、試しにファンヒーターから出た暖かい空気を吸わせながらシェイクしたら、かなり効率よく静電気が発生しました。
この方法って、結構使えるかも。



 水田に水が入ったばかりの春の景色です。
 こういうものをつくるときのコツがあるとすれば、実際の景色より少しだけ美しくつくることだと思う。嘘になっちゃいけないんだけど、たとえて言うなら脳裏に焼き付いた
イメージを再現してあげるっていうのが、心に響きやすい気がします。





<フィギュア等の追加>

7 祠や鳥居などの付属物、そして主役のフィギュアを
 整えます。

 この樹の下には小さな祠があります。もちろんこれは重要なアイテムなので、つくらないといけません。
 そこで3Dプリンターのお世話になることにします。Thingiverse から3Dデータをいただいてきて、最近買ったK10でプリントしてもらいました。Thingiverse には250万点もの
データがあるので、大概のものは入手できる。とてもありがたい。
 底面は5mm四方、とっても小さいけどグレーに着色してからドライブラシすれば、結構それなりに見栄えがします。6752円で買ったK10、結構役に立ちます。



 樹の下に配置する。そのあとファイバーとパウダーを雑ぜてつくった「草の元」を土台周辺にまぶして、草原に馴染ませます。



   

 樹の南側には高さ40cmほどの石が立てられ、その手前には紐でつながれた2本の木。そして団子のお供え物とお賽銭が散らばっていました。
 2本の木と紐の組み合わせは、ここから先が神域であることを示すもで、簡易な鳥居と思えば良い。こちらも欠かせないアイテムなのでつくることにします。

 材料は木材、エポキシパテ、伸ばしランナー、オランダドライフラワーなどです。



 これらを配置します。このまま完成と言っても良いのだけど、自分は多くの場合、人形やフィギュアを主役としておきます。


 登場するのはこの二人、TEMUで購入したのだけど、梱包が悪くて女性の腕が折れていました。(返金してもらった)
 これをなんとかつなげて主役にします。フィギュアの塗装は基本的に肌の部分から行います。まずは肌の部分にMr.カラーのNo.111キャラクターフレッシュを塗り、
GX113つや消しクリアーを吹き付けます。
 そのあと人間用のチークと細めの綿棒を使って、肌の部分に変化をつけます。血液の多く流れる所には赤系、陰になるところにはブラウン系といったところです。
 次はグレーのアクリル絵の具を希釈液で薄めて眼や唇の部分に流し込む、するとこの部分のモールドが強調されて自然な感じに仕上がります。
 筆入れしたのは唇のみ、このぐらいが1/64スケールだと自然な仕上がりになる。
 衣服を塗ったあと男性の方には小さなデカールを貼ります。簡単に変化をつけることができるし、リアル感も増します。
 ひととおり作業が終わったらGX113つや消しクリアーでトップコートします。衣類部分には「あらめラフ」を添加してざらっとした質感を与えます。














2026.06
camera: Panasonic DMC-TZ85  /  graphic tool: GIMP 3.2 + Ichikawa Daisy Collage 10



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