eye4工房番外編

瞑想



<瞑想>

 次の個展「情景のなかの人形たち 11」では、「祈り」をひとつのテーマとして展開する予定で、その企画のメインとなる3つの作品のひとつが、古代エジプトのアヌビス神
の前で瞑想をする女性をジオラマにした作品です。
 スケール1/24、大きさは1cm×12cm×19cmというコンパクトな作品です。






 アヌビス神は黒いジャッカルの頭を持つ、古代エジプト神話の冥界と死者の神です。ミイラを作り、 死者の魂を審判の場であるオシリスの元へと導く案内者、そして死者の
心臓と正義の女神マアトの羽を天秤にかけ、魂の善悪を測る儀式を司る。



 こちらのアヌビス神はSheinで購入したデスクトップの置物です。(761円 ) 但し購入してそのままというのでなく、5日ぐらいかけてあちこち手直ししました。ゆがみを直し
姿勢を変え、小物類を追加、塗り直しはほぼすべて。



 こちらの主役は Thingiverse から3DデータをいただいてK10という格安の3Dプリンターでつくったボディと、TAMIYAのキャンパスフレンズⅡの予備ヘッドを組み合わせて
つくったハイブリッドなフィギュアです。






 瞑想とは心を静めて日常の雑念を手放し、自分の内側に意識を向ける心のトレーニング です。ストレス軽減や自律神経を整える効果もあるという。



「なぜアヌビス神の前で瞑想なのか」
 アヌビス神と繋がることは、 過去の解放、浄化、そして人生の正しい方向性を見つけるための深い内省をもたらすとされ、瞑想を深めるためのアイテムとして、
アヌビス神の像などを祭壇や目の前に置くことで、よりエネルギーを感じやすくなるそうです。





<K10でプリントしたフィギュア>
 ずっと以前に3Dプリンターの購入経験はあるのだけど、その頃は精度が低く使い勝手も良くなくて、結局はほとんど使わずじまいでした。ところが最近はかなり
進化しているようなので、久々に購入してみることにしました。



 こちらがEasyThreed の K10 という熱溶融タイプの3Dプリンターです。大きさはわずか155mm×175mm×210mm、重さはアダプターなしで900g、机の上に置いても
邪魔にならない。初心者向けの製品とは言うものの、基本的な機能はすべてそろっていて6752円、ただ精度の方は今ひとつでした。
 早速 Thingiverse から3Dデータをいただいて、お試しでプリントしてみます。

1 K10を使って瞑想する女性のフィギュアをプリント
 アウトします。

 指はなんとか再現されているけど、目や鼻、口といった顔のパーツまでは厳しい。メインでは使えないけど「その他大勢」なら使えるというレベルかな。
顔の表現は今ひとつだけど、このボディは利用したいと思いました。


 ここは迷うことなくヘッドを交換しました。ヘッドはTAMIYAの キャンパスフレンズ 2 のキットに予備で入っていたものです。接着にはエポキシパテを使いました。
 あとは失われたモールドを補います。ただ補うだけだとつまらないので、更にエポキシパテで筋肉を追加して、これ以上ないという感じのマッスルボディにまとめて
ゆきます。
 微妙なカーブについては、タミヤパテにMr.カラーの薄め液を加えて柔らかくしたものを塗って、乾いたところでリューターで整形してゆきます。
 最初の段階ではプリンターでつくられた層構造の段差が目立つ。光造形の3Dプリンターだとこういうことはないのだけど、熱溶融のプリンターでは必ずこの段差が
できる。だからこの「パテ塗り」はどうしても避けて通れない。


 更にタミヤパテを薄め液で溶いたものを筆で塗り、リューターのビットを砥石に変えて磨きます。
 正面は小顔で可愛い感じですが、後ろ姿は相撲かラグビーをやっていそうなマッチョな仕上がりです。でもこのアンバランスさが結構良い。





<アヌビス神の置物>
 さてこれを主役にしてどのようなシーンをつくるのか、最近ではAIにお願いすると何でも答えてくれるのだけど、それではいずれ人間の想像力は退化してしまうに違いない。
 あらためて主役の引き立て役として選んだのが市販のアヌビス神です。(761円 Shein) ジオラマの根幹は模型をつくることでなく、自分のイメージした空間を再現すること
なので、自分はあるものは遠慮なく利用させていただくことにしています。そしてなければつくる、ただそれだけのことです。

2 市販のアヌビス神の置き物を図分のイメージする
 ものにつくり合えます。

 自分がイメージしたものと相容れない部分がこのフィギュアにはあるので、そこは修正が必要です。
 最も大きな問題は杖にある。今回は10cm四方の小さな作品にするつもり、それなのに主役、アヌビス神、更には杖の先の金色の鳥の頭まであって、
視線が交差しすぎる。(A)
 また古代エジプトで、こんなにまっすぐな木の棒があるのも不自然。(B)
 地面に開けられた杖を刺す穴も不要です。(C)
 更に視線という意味では、主役があぐらをかいて地面にいるわけで、アヌビス神の視線が上に向けられすぎている。(D)

 1/48よりも小さなスケールなら、こういうことは気にしなくて良いですが、1/24以上や1/35でも瞳を入れるつもりなら、視線については意識しないといけない。
さもないと制作の意図が見るものに伝わらなかったり、作品自体に矛盾を生じたりすることもあります。
 そこで迷うことなくアヌビス神の顔半分を切り落とし、エポキシパテで下向きに取り付け直す。できた隙間はMr.カラーの薄め液で柔らかくしたTAMIYAパテで
埋めます。


 瞑想に入った主役のフィギュアをアヌビス神が見下ろす。黄金の鳥は取り去って、流木とエポキシパテでつくった槍に置き換えます。改めて並べてみるとまだまだ
問題はある。
 整形不良なのか、アヌビス神が傾いている。(E)  考えた末、台座自体にエポキシパテを盛ることで、傾きを修正しました。
 アヌビス神のモールドがところどころ消えていて、リューターによる修復が必要。(G)
 台座の色が黒とゴールになっていますが、ここはピラミッドをつくる赤茶色の石灰岩を模して塗り直した方が良いように思う。(F) 参考までに言うと、古代エジプトの
ヒエログリフ(象形文字)は、石灰岩という柔らかな石質だったから、容易に刻むことができた。

 刻まれたヒエログリフですが、まずは全体を茶色で塗装します。そしてその上から、溝を避けるようにして着色したモデリングペーストを置いてゆきます。更には少量の
あびっこサンドを所々に撒いて変化をつけます。

 

 塗装を落ち着かせるため、薄くつや消しのゴールドをドライブラシしました。あとは溝に墨入れをして、ブロンズ(青緑)のラインを入れて変化をつけました。
 目は少し細くして、何かを見つめているような感じになおします。


<フィギュアの塗装と最後の調整>
 再び主役のフィギュアに戻ってこちらを完成させます。

3 目を閉じた状態に変更し、人間用の化粧品を多用
 しながら、フィギュアの塗装を行います。

 まず目を見開いた状態では「瞑想」にならないので、瞬間接着パテを薄く塗り瞳を埋めてしまいます。(画像左)
 フィギュアの塗装に入ります。基本的に肌の部分から行います。まずは肌の部分にMr.カラーのNo.111キャラクターフレッシュを塗り、GX113つや消しクリアーを
吹き付けます。
 そのあと人間用のチークと細めの綿棒を使って、肌の部分に変化をつけます。血液の多く流れる所には赤系、陰になるところにはブラウン系といったところです。
 今回は美白系で薄化粧にするつもりです、そこで目や唇と行ったところは極細筆にMr.カラーの薄め液を染みこませ、少量のチークをこれにとって仕上げてみました。
そして眉は人間用のアイライナーを使って描きます、アイライナーは極細のものを使えば0.3mmぐらいの線も描けるし、いろんなカラーが出回っているのでけっこう
便利です。


 ウエアを着せ髪を塗る、これで作業は一巡しました。あとはこうやって写真に撮って確認し、再び手を加えてゆきます。正直まだまだ荒い感じです。

4 ベースボードを塗り、演出として敷物と線香を追加
 します。

 並行してベースボードをつくる。角材とスチレンボードからつくったベースに、アヌビス神の台座と同じ色合いの塗料を塗ります。この塗料はモデリングペーストを
アクリル絵の具で着色したものです。
 ゴツゴツした地面に直に座ると痛いに違いない。そこで端切れを適当な大きさに切って洗濯のりをスプレーし、アイロンがけする。フィギュアにはこの上に座って
もらいます。
 最後はエポキシパテでつくった線香立てです。線香には揺らめく一筋の煙。精神を集中するためのアイテムです。

 

 フィギュアの方も塗装作業の2順目が終了、良い感じに仕上がってきました。





<完成画像>
 作品が完成したとき、その作品を画像データとして保存するのはごくごく普通のことだと思う。そして撮影するなら、できるだけちゃんとした写真として残したい。



 前半の完成画像のうちの1枚です。工夫なしに撮影しているように見えるかも知れませんが、これはこれでいろいろと配慮しています。
 まず背景として用意したのは黒のパネルで、これ以外の色は考えられない。主役がうつむき加減なので、顔を照らすために正面から弱くLEDライトを当てる必要がある。

 カメラは PanasonicのDMC-GX9と12-50mmズームの組み合わせで、絞り優先モードにしてF22まで絞りきって撮影しています。そうしないと全体にピントが合わない。
ミニチュア撮影ではピント選択が大切です。  また主役の目線に合わせて撮影することも基本で、上から俯瞰的に写すといかにもミニチュアって感じに写ってしまいます。
 そしてRAWで撮影してsilkypicsで現像、GIMPで最終的な補正をして、やや暗めの画像に仕上げてあります。
 こういうことに興味のない人には何のことか分からないだろうけど、ミニチュアを雰囲気出して撮影するのは少々のコツと知識が必要です。



 何もしないで普通に写すと、たとえばこんな感じになります。
 違いは一目瞭然で、アヌビス神に迫力が感じられないし、漂っていた緊張感のようなものも無くなる。

 作品の実物を展示するときも、同様にいろいろな配慮が必要なのですが、これもまた難しい。
 人形やジオラマを展示する個展をこれまでに10回ほど開催したけれど、背景や照明についてはいつも悩ましかった。明るい色の壁、影のできないフラットな照明、
なかなか思ったような空間がそこにつくれない。

 絵画や彫刻などのアート作品であれば、2mの距離があっても、ゆっくり歩きながら鑑賞はできる。しかし、ことミニチュアに関して言えば、立ち止まって近づいて
もらわないと分かってもらえない。 よほどのアイキャッチャーがなければ、入場者の多くは作品の前を通り過ぎていってしまうと思う。

 さて次のテーマです。前回の個展から積極的にやり始めたのが、作品そのものに加えて、最良の空間を整えてそこで撮影した画像も展示することです。これを
はじめてから、明らかに反応が変わりました。
 そしてやるのであればより印象的な画像作品をつくりたいと考えるようになりました。



 今回この作品では、真っ暗な部屋でLEDのスポット光を当てて、暗くしんとした空間を作りあげます。それがこの作品を思いついたときの最初のイメージです。
 矢印のものがそのLEDで、ポケットサイズなのだけどなかなか便利、ひとつ持ってバッグに吊り下げておくと良い。



 RAWで撮影し、silkypics で現像するところまでは同じです。
 でもこれだとアヌビス神の存在が分かりにくい。



 そこでGIMPでアヌビス神の上体部分を範囲選択して、その両眼が見える程度まで明るく補正します。(元は前と同じ画像)
 これで暗闇の中で輝く眼に、見る者の視線が向かうと思う。何か得体の知れないものが背後の暗闇にいる。






 あとは同様に、何者かが背後に存在することを印象づけながら、画像を整えてゆきます。
 フィギュアの背後から立ち上る線香の一筋の煙が良い感じです。加えて良かった。






 影があると迫力とリアル感は間違いなく増します。
 画像だけだと、これが高さ4cmのフィギュアには見えないと思う。






 次の個展ではこの写真(おそらくは最後の2枚)をプリントして、アイキャッチャーとしてジオラマの近くに展示することになると思います。
 もちろんこれは入場者の足を止めるのが目的ではあるのですが、この「ジオラマを撮影した画像」自体も独立した作品としての価値はあると思います。



2026.07
camera: Panasonic DMC-GX9 & 12mm-60mm  /  graphic tool: GIMP 3.2 + Ichikawa Daisy Collage 10



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