球体人形の制作(発展編)
How to make a doll?

 こちらは「球体人形の制作・改良編」です。第1シリーズの制作講座をお読みになってない方は、まずはそちらで人形制作の概要をご理解下さい。
 このシリーズは前回以降の制作で得たノウハウをまとめたものになっております。

                        2 人形の複製


●2008.04.05 天気:晴
 桜が満開です。転勤と年度末の忙しさで、撮影旅行は3週間ぶりです。
桜の下で酒を飲んで騒ぐなんてことは趣味ではありませんが、ちょっとだ
けうらやましいです。
                   ▲小田原市内


3 複製型の作成
 人形制作も、1日1時間の作業では2〜3ヶ月に1体がいいところ。
これだと「ちょっとためしにやってみようかな・・・」なんてことができ
ません。考えた末、naomi の制作途中で各パーツの型をとり、その
複製がつくれるようにしました。
 右はSDのnanaちゃんですが、製造方法は原型からシリコンの型
をとり、この型にレジンを流し込んでつくっています。今回はこのうち
型どりまでを自分でやってしまおうというわけです。比較的安価で
大きな設備も必要ないので、個人レベルでも十分に可能です。また
いわゆるガレージキットの世界ではずっと以前から行われてたので、
道具や材料も入手も簡単です。

 今回は自分の人形を複製するので問題はありませんが、他人の
作品や市販の製品を複製するのは、いわゆる「海賊版」の製造とな
り、販売すれば法的な問題を生じることになりますのでご注意くだ
さい。


1 今回の主役のシリコーンゴムです。必ず硬化剤とセ
 ットで販売されています。
2 少量のシリコーンゴムを容器にとり、硬化剤を添加
 します。
3 よくかくはんします。おおむね1分ぐらいかな。



4 今回は原型になるものを保護するために。少量の
 シリコーンゴムで保護皮膜をつくります。原型が粘土
 でなく、プラスチック等ならこの手順は不要です。
5 片面に1mm程度の皮膜ができればOKです。
 
6 気温によって違いますが、おおむね半日から1日で
 硬化します。


7 側面にシリコーンゴムが垂れています。
8 デザインカッターでなめらかにカットします。


9 シリコーンゴムを流し込む型を原型にあわせてつくり
 ます。写真はブロックタイプのもので、volks等で販売
 しています。
10 型に油粘土を詰めてゆきます。厚さは1cm以上欲
 しいです。
11 シリコーンゴムの皮膜をつけた方を下にして原型を
 おきます。シリコーンゴムの皮膜がないと油が粘度に
 染みこんでしまいます。


12 シリコーンゴムの境界線にあわせて再び油粘土を
 盛ってゆきます。このとき原型と油粘土の面が直角に
 なるようにしてください。
13 型抜きをイメージしながら粘土を盛ります。
14 作業が終わったら油粘土にいくつか鉛筆等でくぼ
 みをつけてゆきます。型ずれをふせぐためです。


15 作業が終わったら、ブロックを更に積み重ねてゆき
 ます。
16 バリアコートを用意します。これはシリコーンゴムが
 張り付いて離れなくなるのを防ぐものです。シリコーン
 ゴムの皮膜がなければ、次の手順は省略できます。
17 粘土とシリコーンゴムの皮膜の境界線を中心に
 吹き付けます。写真は吹きつけですが、手塗りでも
 OKです。


18 このうえにシリコーンゴムを流し込みます。
19 ひっくりかえして油粘土をとりはずします。
20 粘土の粘着性が高くきれいにとれませんでした。
 以前使っていた粘土はきれいに剥がれたのに・・・。

21 竹べらできれいにしました。そのうえでシリコーン
 ゴムの保護膜もはずします。
22 バリアコートを塗ったあとに、シリコーンゴムを流し
 込みます。
23 かたまったらブロックをはずします。このブロックは
 何度でも使えます。


24 型から原型をはずします。緊張の一瞬、きれいに
 型ができてるかな・・・・。
25 うまくできました。こんな感じですべてのパーツを
 シリコンで型どりします。

 シリコーンゴムは安いもので1缶(2kg)2100円程度、今回は8缶使用しましたので、それだけで16000円以上使っています。
この型にそれだけの価値があるかどうかは型の使い方次第です。ここから先の活用方法として3つほど考えました。
 @さらに内型をつくってレジンを流し込む・・・SD等の市販のレジンキャストドールと同じものができます。最も大量生産できる。
 Aパジコのイージースリップを流し込む・・・・簡易的な方法でビスクドールができる。イージースリップの値段がちょっと高い。
 B粘土を内側からはり付けてゆく・・・・・・・・乾かすのに時間がかかり、大量生産に向かない。でも粘土なのでとっても安い。
さて私はいったいどれを選ぶでしょうか?
回答は次回ということで!




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●2008.04.29 天気:晴
 桜が散って、一面の若葉の季節。
 どっちかというと全てが生き生きしていて、この季節のほうが好きかな。
人形写真を撮るにもベストな季節です。1/3サイズの人形にぴったりの
小さな花が咲くのもこの季節ですから。
                   


●以下の内容は08/04/29に公開した内容を、08/05/29に書き換えたものです。


4 人形の複製
 シリコーンゴムによる型どりが済みました。基本的にはこのなかに
何かを詰め込んで固めれば、同じものができる仕組みです。
 それはレジンでも、粘土でも、石膏でも何でもいいですが、どうやら
パジコのイージースリップだけはだめです。調べてみたら石膏の型に
粘土の水分を吸収させることで固まる素材のようなので。






 SD等、市販のドールと同様にレジンを流し込むこともできます。た
だ、ゴムを通すスペースとしてさらに内型をつくり(右写真のピンクの
部分)、レジンを流し込む注ぎ口と経路(緑色の部分)、余ったレジンの
排出口(黄色の部分)を加工する必要があります。今回はチャレンジし
ませんので、興味のある方はガレージキット製作方法のHPを訪れて
みてはいかがでしょう。





 今回私のとる方法は粘土を内側からはり付けてゆく方法です。
乾かすのに時間がかかり、大量生産に向かないけど、一番簡単で
確実な方法と思ったのですが、実際にはけっこう大変だったりして。
 使うのはおなじみラドールと、最近発売されたラドールプレミックス
です。
ラドール 伸びがよく、最も造形しやすい。また乾燥後の収縮も同タイ
プの粘土のなかでは最小。ただし単独ではもろく、心材が必要。

プレミックス 以前に紹介したプルミエと上記のラドールを混合したも
の。プルミエには非常に軽量で強度も高いという特徴がありましたが、
一方で、乾燥後の収縮が大きいこと、再接着が難しいなどの問題が
ありました。2つの粘土を混ぜることで、それぞれの特徴を生かすこと
ができます。(同時に両者の欠点も少し出てきてしまう訳ですが)








頭部
 使用する粘土はプレミックスのみ。粘土の厚さは4mm程度、中空構造にします。

1 頭部、手足など小さなパーツやこまかな造形のある
 部分はすべてプレミックスでつくります。
2 柔らかく練ったあと、最初にこまかな造形に押し込み  ます。
3 詰めおわったら、さらにしっかりと上から圧力をかけ
 ます。

4 カッターではみ出した部分を切り取ります。
5 同様に頭頂部もプレミックスをつめてゆきます。
完全に乾燥させます。条件にもよりますが、湿度50%程度の室内で1週間ほどかかりました。



胴体部分
 使用する粘土はラドールプレミックス。関節部分で直接ほかのパーツと摩擦する部分はプレミックスで、一般的な部分はラドールでと、使い分けをします。
粘土の厚さは4mm程度、中空構造にします。

1 まずは型の入り組んだところ(凸部分)にプレミックス
 を詰めてゆきます。
2 関節部分(可動部分)も同様にプレミックスで覆って
 ゆきます。
3 同様に上部の腰関節もプレミックスで覆ってゆきま
 す。

4 上下の関節部分を覆い終えたら、今後はラドールを
 厚さ4mmにのばして使用します。
5 中間部分をラドールで覆います。そして縁を切り取っ
 たら乾燥させます。 
6 乾燥の最中、ときどき内側から圧力をかけてあげる
 と、歪み防止になります。

7 同様に上体部分もつくります。  

この段階では、まだ裏側はつくりません。形状の違いから乾燥速度が違うからです。
湿度50%程度の室内で2日おいたところで、縁だけが乾燥した「半乾き」状態になります。このタイミングで裏側をつくります。



8 下半身の裏側には関節部分がありませんので、
 すべてラドールでつくります。
9 厚さ4mmでつくりましたが、表側と干渉がありそうで
 す。
10 そこで表側を軽く押しつけ、形状を合わせます。
 必要に応じて粘土を切り取ったり足したりします。

11 ちょっと乾いたらフエルトを置き・・・。
12 ・・・軽く上に重しをのせます。歪み防止です。

13 同様に上半身も作業をすすめます。
14 ここも上と同様です。
次の作業のタイミングは裏側部分の表面が乾き、型から外しても大丈夫になったときです。決して完全乾燥まで待ってはいけません!
おおむね1日後でしょうか。



15 表側に水を加え柔らかく練ったラドールを塗り、
 その上に裏側をのせます。
16 完全乾燥してないので、微妙な力加減で押しつけ
 ます。
このあと型から外し、完全乾燥に入ります。2日ぐらい必要かな。



脚部分
 使用する粘土はラドールプレミックス。関節部分で直接ほかのパーツと摩擦する部分はプレミックスで、一般的な部分はラドールでと、使い分けをします。
粘土の厚さは4mm程度、中空構造にします。最も歪みが出やすいので要注意です。

1 関節部分(可動部分)も同様にプレミックスで覆って
 ゆきます。
2 胴体と同様、中間部分をラドールで覆います。
3 縁部分の修正をしています。

4 こんな感じで、内側に向けて「ひれ」ができるように
 手を加えます。歪み防止になります。
5 裏側も同様に作業します。乾燥の早さに差がないの
 で、同時進行でもOKです。  
6 表裏に干渉がないかどうか確かめます・・・。

7 表と裏を軽く押しつけ、形状を合わせます。
 必要に応じて粘土を切り取ったり足したりします。
8 膝下部分も同様に作業してください。
2日後ぐらいには型から外せます。ここでも作業は完全乾燥まで待ってはいけません!



9 表側に水を加え柔らかく練ったラドールを塗り、
 その上に裏側をのせます。
10 完全乾燥してないので、微妙な力加減で押しつけ
 ます。 
この後、完全乾燥を待ちます。3日程度でしょうか。



腕部分
 使用する粘土はプレミックスのみ。これは粘土の厚さを、ややうすく3mmとするため強度が必要と考えたからです。
当然、さらに歪みが出やすくなります。

1 関節部分にまずはプレミックスを詰めてゆきます。
2 ここは中間部分もプレミックスです。
3 すべてに粘土を詰め終えたところです。

4 かるく力を加えて、修正します。
このあと乾燥に入りますが、時間的には半日でも十分でしょう。

5 型から外せる程度に乾燥すれば十分です。(説明の
 ため、ここでは型から外していますが、その必要はあ  りません)
6 裏表の接着面に柔らかく練ったラドールを塗ったら
 型ごと押しつけます。 
7 型を外せばこのとおり。



手足
 使用する粘土はプレミックスのみ。途中での乾燥過程はありません。

1 片側にプレミックスを押し込みます。
2 もう一方にもプレミックスを詰め・・・。
3 接着面に柔らかく練ったラドールを塗ったら・・・。


4 上から押しつけます。
5 型をはずせばこのとおり。
6 手の方も同じように作業してください。
あとは乾燥させるだけです。



これで型どりの作業が完了しました。
効率よく、計画的に作業して一週間ぐらいかかりました。




1 このあと接合面のバリをとり、隙間部分に柔らかく
 練ったラドールを詰めます。
2 同様にひび割れ部分も補修します。









このあと、更にペーパーで磨きをかけ、下地づくりを行い、穴あけ加工をしてゆきます。
(制作「本体の制作」編を参考にしてください)






ところで、この製作には問題が多かったです。
最初の頃は、製作方法を何回か見直してみましたが、ももやスネのように細く長い部分は、どうしても歪みが多くでてしまいました。


粘土は乾燥するにつれ収縮してしまいます。
 これを克服するには粘土選びと型に詰める方法、そして組み合わせのタイミングが大切のようです。
私も5回ほどり返してようやくコツが分かり始めたところです。

 時間短縮については sara をつくったときには80時間近くかかっていましたが、今回の型どり以降にかかった時間は20時間弱ですので、
おおむね1/4で済むことになります。1日1時間の作業でも2週間程度でなんとかなりそうです。これなら実験的な作品も軽い気持ちでつくれそうです。
ということで、当初の目的はある程度達成されました。


このあとは「発展編・塗装」に進む予定です。