オリジナルドール chie のメイク
ドールボディとヘッドのバランスについての考察




   先日完成した chie はオリジナルドールとしては32体目
となります。最初の頃は試行錯誤でつくっていて、最後に
アイとウイッグをつけてはじめて可愛いかどうかが分かる
みたいな感じだったけど、最近になってようやく「先の見え
るような」人形作りができるようになってきたと思います。
 今回は chie の微修正を行いながら、可愛い人形に近
づけてゆくとはどういうことなのかをお伝えしてゆきたいと
思っています。もちろんこれはあくまでも自分の考えなの
で、異なった考えをお餅の方もおられるかとは思います
が、そこはご容赦下さい。

 さて右が先日誕生した chie ちゃんです。制服姿で1週
間ほど過ごしましたが、遊んだり撮影したりしているうち
に、こうした方が良かったな、と思う点がいくつか出てきま
した。
「眉毛が細すぎたな。」「もう少しメイクにメリハリがあって
も良いかな。」「全体としてボディに対してヘッドが大きく見
えてしまうな。」
といったところです。
 
時間をおく、というのはとても大切なことです。だいたい
完成した時って、ちょっとした興奮状態にあるから、自分
自身が良いものと信じ込んで欠点に気づかないことが多
いです。
 では実際に修正を始めてみましょう。
 



1 メイクによる修正
 まずはお断りしておきますが、メイクによる修正ですから、おのずとその範囲にも限界があります。
ですからそれ以前の造形過程において、ポイントポイントで修正を加え、完成度を高めておくことは
絶対に必要です

 使うのは自分の場合にはMr.カラーです。基本色はリキテックスですが最終的なメイクでは色数も
多く、微細な塗装に向いているのでいつもこれです。
 安いパレットに少量ずつ取り分けて使っています。
    

 溶剤はすぐに乾燥してしまうので、それを遅らせるのに使うリターダーです。カラーののびも良くなる
ので、薄め液に少量混ぜて使います。
    

 そして最後に筆、メイク用に濃色用のもの(黒)と淡色用のもの(赤)を用意しています。特別高い物
は使っていませんが、使いやすくて本当に細い睫毛を1本1本描くことのできるものは、割合として5本
に1本ぐらいかな。
    

 こちらがメイクを手直ししようとしている chie ちゃんです。作品の善し悪しを冷静に客観的に判断する
にはお人形のことを良く知っている知人にでもコメントしていただければ良いのですが、自分の場合にも
そんな都合の良い人はいません。
 ですから必ず最初に
写真を撮るようにしています。一つ間に入るものがあると不思議なことにそれまで
分からなかった欠点や、思いがけない特徴が見えてきたりします。
 そして大きなモニター上でどういった部分に手直しを加えるか検討してゆきます。
    

   1 まずは口元に深いピンク色を1mmほど差し込みます。こでだけで口元がききりと
    しまった感じになります。
    

   2 二重まぶたの窪みを強調します。具体的にはブラウン系の塗料で0.5mmぐらいの
    細さの線を書き入れてゆきます。息止めます、緊張します。
     このあたりは筆の善し悪しとトレーニングですね。
   

    ここで上の画像で左右の目を比較します。自分には左眼の方が形が整っているよう
   に思えました。その大きな理由は二重まぶたのラインと上のアイラインの関係です。
   右目はもう少しこの間隔が狭くても良いと判断しました。

   3 そこで右目の上のアイラインを強調し、二重瞼のラインとアイラインの間隔が狭くな
    るようにしました。狭めた間隔は0.5mmぐらいかな。
   

    このとき、右目を左側に合わせるだけでなく、より狭く濃く強調してみました。今度は
   右目の方がより好ましい方向にまとまりました。この場合、二重と上瞼の間隔を狭める
   という修正が正解だったことが分かります。

   4 そこでこれに合わせて左のアイラインも強調します。こちらは0.3mmぐらいアイライン
    が上にきた感じです。
   

 本当に熟練した職人ならともかく、左右で違いがあるのはごく当たり前のこと。でもただそれを「歪み」と考えて
左右対称にそろえるだけではもったいないです。差異を一歩すすめて修正する意識を持ちます。
 このほかにも、たとえば人差し指と中指とか、わざと複数のヘッドを同時につくってみたりとか、その差異から良
い方向を探してみるのは有効です。
 思えばみんな均一のパーツになったら発展はありませんよね。作品が同じようになってきたなと思ったら、積極
的に変化を加えてみるのも手かもしれません。このあたりは試行錯誤です。
 話は変わりますが、生物の進化の過程では突然変異によって様々な種が生まれるそうです。そのなかで優れ
た形質を持つものが環境に適応し生き残るというのに似ているね。
多様性こそ進化の原動力らしいです。



   5 下瞼の外側に睫毛を追加して書き込みました。(画像ではほとんど分からない)
    目が少し大きくなったような感じがします。
   

   6 目頭と目尻に深いピンク色を強調します。このあたりの修正って、ほんとに0.1mm
    のレベルで行うので、ぱっと見では分からないと思います。
   

 修正の各段階でも撮影は行います。好ましい方向に修正しているつもりでも、そう思いこんでいることって
よくあります。基本は中央を基本にアングルと上下左右に変化させて9枚。理想を言えばライティングを変化
させてあと9枚。
(下の画像は左上方のライティングで9枚、これに右上方からのライティングの9枚も加えると良い)
 アイとの相性や位置調整もこの撮影方法のおかげでよく分かります。

   7 こうやってみると、若干左眼に入るキャッチライトが弱いです。理由はアイが少し奥まった位置にある
    ということ。早速ちょっとアイホールを削って左眼の位置を前に持ってくることにしました。
      

      

      

   8 眉毛が細めなのは最初から意識していたことなのでこの段階で調整します。右目、左眼の順に目頭部分に
    眉毛を書き足しました。
     

   9 きりりとした表情は良いのですが、優しさも欲しいので眉の目尻側を下げることにしました。幸い自分のドールは
    ウレタン塗装で表面を保護しているので、薄め液で眉毛だけを消しとることができます。

    10 あらためて眉を描き直します。最初は薄目の塗料で様子を見ながら書き加えてゆきます。このときも左右で差異
     があったら、より好ましい方向で反対側を強調することを意識します。
     

   10 左眉が濃くなり過ぎてしまったので、デザインナイフで掻くようにうすく修正します。
    します。

   11 パステルで頬にピンクを、目尻にブラウンをごくわずかに足してゆきます。でも画像
    からはほとんど分からないでしょう、このあたりはニュアンスといって良いかもしれま
    せん。
    

 どぎついメイクはしない、あくまでもナチュラルな仕上げを目指しているので、お化粧はこれだけです。
やり方としてはパステルをナイフで削り、出てきた粉を綿棒でこすりつけるだけです。つや消し塗装をして
いるので、パステルはそのまま馴染みます。
(耐久性を求めるなら上からつや消し塗料をスプレーしても良い)
     

    12 最後にあらためてウイッグの長さの調整をします。下の画像は櫛をかけて切りそろえて
     るところ。この娘、額を隠すとちょっと大人っぽくなるね、ここで新たな発見。
    

 ということで修正が完了しました。
 細かな修正の積み重ねなので1つ1つの作業でがらっと変わることはないですが、最初と最後を比較するとその大きな
変化があらためて理解できます。

                          完成画像                                                  最初の画像

     

 これまで32体のオリジナルドールを制作しましたが、自分の腕を上げるには新作をつくるよりも、リメイクするときの方が
勉強になってきたような気がします。
 もっと可愛くするにはどうしたらよいかを考え、今ある人形の長所をのばして欠点を修正してゆくわけですから、間違い
なく人形を見る目は鍛えられます。
 リメイクでお人形も自分も成長します!

 さてここで最初に戻って、修正点の3つについてあらためて確認しましょう。
「眉毛が細すぎたな。」・・・・・濃くしました
「もう少しメイクにメリハリがあっても良いかな。」・・・・・アイラインや口元にアクセントを加えました
「全体としてボディに対してヘッドが大きく見えてしまうな。」・・・・・?

 実は3番目の修正については特に直接の修正は加えていません、でも明らかに引き締まった小顔に変化しています。こ
れはどういうことなのか次のパートで解説してゆきたいと思います。



2 フィールドライン

 世の中には様々な種類のお人形が存在しています。
 でも市販されているDOLLの場合には、どれもその体型
やボディとヘッドのバランスが異なっているのにもかかわら
ず、魅力的な製品に仕上がっています。
 人が可愛いと感じるのはどういう場合なのか、頭の大きな
ブライスも小顔で8等身のPhicenも魅力的なのはなぜなの
か、そういったことを考えているうちに一つの結論が自分な
りに見いだせたのでお話ししたいと思います。

 まずDOLLはヒトガタなわけで、美しくバランスのとれた人の顔について考えてみます。
 整った顔立ちというのであれば、基本的な関係は良く知られているところで、美術書なんかにも
出ています。
 まず目の位置は顔の長さの半分、下の図で言うとCはABの中点。鼻の下端はCBの中点もしく
は若干CDの方が小さめ、口はDBを2:3に内分する位置、目の幅は目の間隔とほぼ同じ、図で
言うとFGとGHは等しい。こんなところでしょうか。自分の場合もこの関係は意識して制作していま
す。
    

 ちなみに面白い話があって、過去に犯罪者の顔写真から統計を取り、最も悪人らしい人間の顔を
合成したら、ごく普通の顔、いやむしろどちらかと言えば整った顔立ちになってしまったんだそうです。
 福笑いでも同じ、美形といわれる人間のパーツの位置がちょっと変わっただけでおかしな顔になる。
つまり「カワイイ」の絶対的な条件はバランスがとれていること、突出したものがないことと考えられま
す。
 おそらくこれは人間の本能的なもので、整っている顔かたちが健康的に見えて、それを自分たちが
望んでいるからだと思います。
 彫刻や工芸の世界ではおそらくこのあたりが基本ですが、これをDOLLにそのままあてはめることは
できません。ではどういった理論的な補足が必要なのかを考えてみました。



 このあたりはボディとの関連で説明してゆきます。
 自分のつくるDOLLはファッション誌に出てくるような整った体型を理想としています。リアル系と呼ん
で下さる方も多いです。そのうえで市販のOFを着せることができるようにしたいと思ったので、結果と
して8等身でSDボディをやや細身にしたようなボディラインをもっています。
 下の画像は左が aimi の素体完成時の画像です。特別な造形はせずに美しいヒトの体型を時間を
かけて表現したつもりです。ただDOLLの世界では圧倒的にヘッドは大きめにつくるのが主流なので、
SDあたりから比較すると、ヘッドが一回りから二回り小さいです。
そこで画像編集ソフト(GIMP)で頭部だけ10%ほど拡大し、画像的にボディにとりつけてみたのが右側
です。

                  aimi                                頭部を10%拡大

     

 黄色い線は拡大したイメージを表す線で、これは首から上の空間をちょっと大きくしたよという意味です。
 頭部を10%拡大すると割合としてSDの小顔ヘッドサイズになるのですが、ちょっと上が重すぎる感じで、
バランスはむしろ悪くなります。
 なぜかな?



 今度は頭部を基準として足下に向けて10%連続的に縮小してみました。

                  aimi                              足下に向けて10%縮小

     

 足が短くなって安定し、頭の重い感じはなくなりました。一方で足が短くなって子供っぽく、カワイイかわいい
感じが出てきます。このボディバランスはありだと思います。ピュアニーモあたりはこれに近いように思います。
 これもヒトの本能的なものかと思いますが、成長するにつれヒトの等身は3から6~8まで変化してゆくわけで、
等身を下げることで幼さ、可愛さをヒトが感じるようになるものと思います。



 この修正は足が短くなって全体に幼くなってしまうのですが、フェイスだけあどけない感じにするにはどうす
るか、それが下の画像です。
 拡大縮小のフィールドをバストラインから上に向けて徐々に拡大し、頭頂部で10%拡大しています。

                  aimi                      バストラインから頭頂部に向けてゆるやかに10%拡大

     
    (ヘッド部分を拡大)
     

 頭頂部に向かって拡大しているので、いわゆるヒトの基本形は外れてしまいました。目の位置はヘッドの中心
になく、口も目とほとんど同じ大きさ、でもちゃんとバランスが取れています。
 目が大きく口が小さいという、一般的なキャスト製ドールの基本はここにあると思います。実際、こうやってみる
と、小顔のSDに近づいたように思います。もしかしたらこういうヘッドをつくったらSDボディにもつけられるかもしれ
ません。
 ここで黄色い線を、拡大縮小する空間を表現する線ということでフィールドラインと名付けることにしました。
 ヘッドのラインはボディに続くラインを予想させます。ほおがぽっちゃりしている人はその延長線上にあるボディ
を想像させ、たとえ痩せていても太めに思われがちです。一方で、小顔の人は細めのボディを予想させますが、
実際は全く逆だったりすることがあります。

 さて話は戻って chie の修正点の3番目、
「全体としてボディに対してヘッドが大きく見えてしまう。」
 これはどうやって改善したのかを解説します。
 このような違和感はフィールドラインがつながっていないことが問題だと考えました。ですから上の画像と同様に
ヘッドの上部を大きく見せることでボディとつながるようにしました。眉を太く、下睫毛の追加、アイラインの拡張など、
修正点のほとんどが目から上の部分の強調だったのはそのためです。
 相対的に頬はやせて見えるようになり、フィールドラインは下に向かって収縮しボディに滑らかにつながるようにな
りました。
 以前だったら、顔が大きい→とりあえず頬を削る→目が大きすぎるのでアイを小さなサイズに変更→アイが合わ
ないのでアイホールを縮小・・・、と泥沼にはまっていたかも。フィールドラインを意識することで正しい修正の方向
を見つけやすくしてくれるのでは、と思います。

 それから、完成度の高いドールもしくはヒトそのもののフィールドラインを実際に操ることで、様々な新しいDOLLの
アイディアが生まれるのではないかとも思います。
 たとえばあどけない表情を残しつつも、足が長く洗練された雰囲気の美しいDOLL。オリジナルフィギュアの世界で
よく見かける作品の雰囲気はこんな感じかな。

                  aimi                      足を長くしてウエストを絞る、頭部は上に向かって解放

     

 今現在では、バランスのとれたDOLLを作り上げてゆくルールの一つとして、
美しいフィールドラインを連続
させる
ことが極めて大切であると確信するようになりました。
 前々からこのようなことは感じていたし、そのようなニュアンスのことを話される方もいたのですが、具体的
なフィールドラインという考えを導入することで、とても明確に説明できるようになったと思います。今現在、
横方向のフィールドラインやフィールドラインそのものの形状についても整理しようと考えています。
 いまだ理論的には未完成の部分もあるので、できればどなたかのご意見を伺いたい気もします。お気づき
の点やアイディアなどございましたら、ぜひご連絡下さい。
 オリジナルドールを試行錯誤で作り始めてもう10年、自分のやり方に間違いはないと確信したのは2回目
です。1つは吉田先生の解説本2冊を拝見したとき、もう一つは aimi .と chie の制作からこのアイディアを
得た今回です。









 かわいい・・・。
 (親ばか)