オリジナルドール kanako のリメイク




2018.01.25
 こちら kanako は10年前に制作したオリジナル球体関節人形で、自分の制作したもののなかでは特にお気に入りだったもの
です。gallery にも多く登場した代表作のひとつです。
 たださすがに10年前というと関節の精度や仕上げなどの点で、今見ると見劣りするところも・・・。そこで今回、現行のドールが
持っている標準的な機能を備えさせ、さらに全体的な造形の見直しや関節部分の修正を行って、最新作に見劣りしないドールに
つくりかえてゆこう思っています。

 



 こちらのお人形、出番は減ったとはいえ、なかなか良い感じ。
 ボディのボリューム感はなかなかの迫力です。



1 最新機能への更新
 初期の頃のお人形なので、ヘアーやアイは固定、マグネットでヘッドを簡単に開閉できる機能もついていません。まずはこれを
更新してゆきます。

1 まずは貼り付けていたヘアーを取り除き、ヘッドを
 額の部分で上下に切断します。
2 切断面に木工ボンドをたっぷりと塗り、粘土をまず
 は薄く貼り付けます。
  3 さらに多くの粘土を盛って整形してゆきます。おお
 むね8mmぐらいヘッド上部の厚みを増しました。



 ウイッグより、固定式のヘアーの方が生え際がリアルで表現方法としては間違いなくベターです。ただウイッグが交換できると、
いろんなシチュエーションに合わせることができて、遊べるという点ではこちらの方がベターです。このあたりは一長一短ですね。

 いったん乾燥してしまった粘土は、たとえ同じ種類の粘土であっても簡単には粘着しません。
接着剤を塗る、または粘土自体に
練り込むなどの工夫が必要
です。



4 乾燥したところでリューターで穴を開け、5mm径の
 ネオジムマグネットを埋め込みます。
 



 これで簡単にウイッグやアイ、睫の交換が可能になりました。
 ただこれで終わりというわけではありません、できてしまった段差の修正が必要です。

 

 いったん表面処理を施してしまうと簡単に粘土はくっついてくれません。市販のパテで修正するのが一般的なのかと思いますが、
自分の場合にはモデリングペーストと粘土(ラドールプレミックス)を混ぜたものを使っています。



 こちらはパテほどの粘着力はないものの、粘土を含んでいるので削りやすくヤスリがけしやすいという利点があります。粘土の割合を
変化させることで、硬さやヤスリのかけやすさを調整することもできます。
(通常はモデリングペースト1に対してラドールプレミックス3ぐらいの割合)
 こういった
材料や素材の組み合わせって、作業効率を大きく変化させるので、常日頃からもっと良いものはないかと考えています。
この組み合わせを見つけたのは最近なのですが、劇的にリメイクはスピードアップしました。



5 モデリングペーストと粘土を混ぜたものを全体に
 塗って乾燥させます。
6 全体を240番ぐらいの布やすりで磨いて仕上げて
 ゆきます。
  7 少しずつカッターナイフを入れて切断面を出して
 ゆきます。

8 エッジ部分については、どうしても欠けてしまうの
 で、混合粘土を少量上乗せして修正します。
 



 欠けた部分に粘土をつけるって以外に難しいです。修正した部分はどうしてももろくなってしまうので、もう一度欠けてしまうということもしばしば。
こんなときにもモデリングペーストを混ぜ込んだ粘土は便利です。適度な粘着性と硬さがあります。

 次に首の関節部分を改め、簡単にヘッドを脱着できるようにします。



9 M字形に加工した2mmのアルミニウム線をヘッド
 の下部に埋め込みます。
10 完全乾燥後、ホールを加工してここにフックが
 引っかかるような工夫をします。
 



 次は全体をマグネット仕様に改めます。

11 耳たぶの部分に直径2mmほどの穴を開けている
 ところです。
12 ここに鉄製のビスを埋め込み、表面を混合粘土で
 覆います。
 

 こちらの目的はマグネットピアスが取り付けられるようにすることです。このほかにもマグネットのアクセサリーや衣装が取り付けられるよう、
バストトップ、脇腹、腰など全部で10カ所にビスなどを埋め込んでいます。



13 首の裏側には直径5mmのネオジムマグネットを
 とりつけます。
 

 金属のフックやポールなどがあれば、この部分がしっかりとくっついてくれます。これでスタンドなしで立たせることができます。





2 レジンパーツへの換装
 手足の指先は転倒などでどうしても破損しやすい傾向にあります。過去にはワイヤーなどをなかに通すなどの工夫をしていましたが、
それでもトラブルは発生します。

 

 そこで現在では強度の高い、レジンキャスト製のパーツに置き換えてしまいました。黄変の問題はありますが、しっかりと塗装することで
カバーすることができます。(製造過程は別のページをご覧ください)

    14 シリコーンの原型にレジン(ウレタンキャスト)を流し込み、
     手足と肘のパーツを取り出します。
    





3 問題箇所の補修と修正
 ここまでで基本的なパーツはすべてそろったわけですが、大きな問題を抱えているパーツや、大幅な修正が必要なもいくつかあります。



 粘土パーツは基本的に型から抜き出して接合しているのですが、その接続面は弱く、この場合も経年の影響かヒビが入ってしまいました。
瞬間接着剤を流し込むという方法もありますが、ここは根本的に修理してしまった方が良いでしょう。



15 ヒビの入った部分にナイフを入れ、ここに瞬間接
 着パテをたっぷり流し込みます。
16 そのあとすぐに前出の混合粘土をしっかりと埋め
 込んで形を整えます。
 

 なお現在ではこのようにヒビが入るということはほとんどないです。パーツを接合する際には、半乾燥させたパーツの接合面に、瞬間接着パテ
をたっぷりと塗って接合しているからです。このようなヒビというのはけっこう頻繁に現れるものですが、それには接合の方法を見直すことが最も
大切なことかと思います。



 あとは関節部分のつながりの問題です。がたつきや形状がつながっていないなどの問題があります。これらは多分に技術的な問題です。
(かんたんに言えばあまり上手でなかったってことです)

 

 一般に球体関節人形という言葉を使いますが、自分の場合にはすべての関節が球体というわけではありません。膝に関して言えば横方向には
回転しないように断面が楕円形をしています。



17 側面を平らに削りました。これが横方向の回転を
 止める工夫です。
18 緩かった関節の受けの部分に混合粘土を塗り
 ます。
  19 ここに先ほど加工したパーツを組み込み、何回か
 動かしてみて摩擦で凹部を整形します。

20 膝頭が厚いので削ります。ここは少し削りすぎ
 ぐらいがちょうど良いです。
21 多めに削ったあと、ここに再び混合粘土を盛り、
 換装したら240番の布やすりをかけます。
 



 足首や手首の関節が大きいので全体としてすべて、小ぶりに整形し直します。

22 最初はふくらみのある形状でしたが、まずは全体
 としてストレートになるように削ります。
23 その上に混合粘土を盛りつけ、乾くのを待って
 布やすりをかけます。
 



 ここでモデリングペーストを入れていない普通の粘土で作業をするとどうなってしまうのか?
 下の画像で黄色はもともとの粘土、赤はウレタンなどの表面の保護層、青は新たに盛った粘土です。

A 盛ったところ                                   B 削ったところ
 

 粘土を盛った後、サンドペーパーなどで磨きを入れるのですが、ウレタンなどの表面の保護層は新たに盛った粘土などより強度があり、
そのままペーパーがけすると必要以上に削れてしまいます。ですからあえてモデリングペーストを加えて固くしているのです。





4 ボディラインの修正
 他にもラインがきれいに出ていないな、平滑感が欠けているな、みたいな部分は多々あります。そこは切削と混合粘土の盛りつけで
順次仕上げてゆきます。話としては短いのですが、気が付いたら修正、また修正、更に修正・・・と続けてゆくので際限はありません。



 画像としては1枚だけですが、この修正に費やした時間は少なくないです。
 かくしてようやくのこと、塗装前のDOLLパーツが一通りそろいました。結果としてすべてのパーツに手を加えています。







5 下地づくりから基本塗装
 まずはレジンパーツの下地づくりからです。型抜きしたパーツにはところどころに気泡が残っていたりして、そのまま使うことは
できません。

24 気泡は穴を大きくこじ開けてから、瞬間接着パテ
 で埋めてゆきます。
25 この処理が終わったところで、400番の耐水ペー
 パーで磨いてゆきます。

    26 このパーツに少量の水を混ぜて延ばしたモデリングペーストを
     塗ります。

    

 以前はこれをジェッソで行っていたのですが、ジェッソって粘着成分が多く入っているので、あとでペーパーがけしづらいです。
 これで乾燥してしまえば、このレジンパーツも他の粘土製のパーツとほぼ同等に扱うことができるようになります。



    27 モデリングペーストをベースとして、リキテックスを混ぜ、ベースカラー
      を調合します。
    

 このときの配分はよく覚えておきましょう。再度塗料をつくる必要があったときに困りますから。
 あとここでもモデリングペーストを混ぜていますが、これはパーツへのくいつきを良くするためと、パーパーがけしやすくするためです。更に
ジェッソを加えると粘りもましますが、逆に削りにくくなります。このあたりは好みかな。
 基本的に塗料としてホワイトは加えていません。



28 適度に水を加えて延ばした基本塗料を全体に
 塗ってゆきます。
29 3回ほど塗ったところで細かなサンドペーパーで
 磨き、平滑感を増します。
 


 下地塗装をすると、新たな修正点を発見することもあります。こんなときにはもちろん作業を遡ります。

 





 手足の部分はテンションゴムを取り付けるため、別の作業を行う必要があります。

30 金ノコで縦に切り込みを入れ、できた溝を磨き
 ます。
31 この溝と交差するように、直径2mmの穴をドリル
 で開けます。
32 この穴に通す直径2mmのアルミニウム線を加工
 しているところです。

33 穴にアルミニウム線の軸とゴムをつなぐひもを
 通します。
34 ひもの先端に直径1.5mmのアルミニウム線を加工
 してつくったC型の金具を取り付けます。
  35 穴を混合粘土で埋め、糸がひもがゆるまない
 よう、接着剤で処理して完了です。



 このあたりでヘッドの仕上がり具合も確認しておきたいところです。

36 アイホールを直径12mmのアイサイザーで調整し
 ているところです。
37 アイを入れ、鉛筆で眉を入れて具合をみます。
 もちろん気に入らなければ修正します。

 フェイスの修正はもちろん時間をかけて行いました。メイク段階での修正も可能ですが、鼻を高くするとか唇の位置を変える
などということは難しくなりますので、ここで存分に行っておきます。

 

 とりあえず下地が出来上がりました。全体のまとまりをみるために、いったん組み立ててみると良いでしょう。





6 塗装と表面コーティング
 透明感のある肌の表現をするために、クリアー系の塗料を多用します。ただクリアー系の塗料はどうしても埃などの混入が目立ちます。
ですから埃などが舞うことのない
きれいな環境で作業を行いたいです。
 着色については、今回は作業性をあげるためプラモ用の塗料で仕上げています。

38 高耐久ラッカースプレーのつや消しクリアーを
 まんべんなく吹き付けます。
39 埃の混入を見つけたら、乾燥してから取り除くよう
 にします。。
40 吹きつけ作業を2回ほど繰り返したら、全体をざっ
 ペーパーがけします。

41 Mr.カラーのno.121、122フレッシュをベースに調合
  し、赤みのあるところに吹き付けます。

 吹き付けるのは膝や肘などの関節部分や指先など、それから陰になりやすいところにも吹き付けて、
コントラストをつけてゆくと良いと思います。



42 爪を描いてゆきます。こちらも模型用の塗料を
 使っています。
43 これらの作業が終わったら、再び高耐久ラッカー
 スプレーを吹き付けます。
44 5回ほど吹き付けたら、再度全体をペーパーで
 軽く磨きます。

 高耐久ラッカースプレーの吹きつけを繰り返すことで表面強度が上がり、透明感のある肌の仕上がりになってゆきます。
 さてこれでいよいよ作業も終盤と思っていたところでトラブルが発生! 左太股のパーツを落としてしまいヒビが入って
しまいました・・・。
 嘆いていても仕方ないので、作業を遡って修復です。

A ヒビを瞬間接着パテで埋める。 B 全体をきれいに磨く。   C これまでの手順に従って再塗装する。

 これまで何回も経験した
トラブルのうち、いちばん多いのは落下や転倒です。
 これを防止するためにどうしたらよいかを考えたのですが、作業は床に座って行う。クッション材を敷くという2点を守ることに
しました。
 でも今回はたまたま撮影のためにテーブルの上に置いてあった状況で、クッション材のないところに落下してしまいました。



 一手間かかったけど、修復は完璧です。



45 次は2液混合、透明ウレタンクリアー(つや消し)
 を吹き付けてゆきます。(全体に3回)
46 爪などについては、Mr.カラーのクリアーを塗って
 つやを出します。
 

 以前は透明層の形成をすべて透明ウレタンで行っていたのですが、ウレタン塗料は扱いが難しく高価なので、最近は最終仕上げのみに利用
することにしました。
 ただその効果はすばらしく、高い強度があり油や酸にも侵されません。(自動車の塗装に使われるぐらい)





7 フェイス部分の仕上げ
 ボディの仕上げと並行してフェイス部分のメイクも進行させます。いちばん大きな修正点はアイ周辺の調整です。

47 左右でアイホールに差異があるので修正します。
 盛る作業は瞬間接着パテで行います。
 

 ここでの基本的な修正方針はフィールドラインの理論(4つのドールヘッドの修正編参照)に従います。今回は上に収束してゆく
大人っぽい感じにまとまる予定です。



48 アイ周辺に陰を入れ、アイラインと二重まぶたを
 描きます。
 

 ここでの作業は模型用塗料にリターダーを加えて行っています。もちろん練習によってこの作業は上達してゆきますが、良い道具
がないと技能も生かせません。思い通りのラインを描ける筆って本当に10本に1本ぐらい。



49 まずは眉毛と唇をざっと描き、バランスをみながら
 全体を整えてゆきます。
 

50 ウイッグを乗せ、睫をつけて少しずつ作業を進行
 させます。
 

 作業は少しずつ時間をおいてすすめるのが基本です。そしてときおり
撮影してみるのは客観的な判断をするにはとても大切
なことです。リアルタイムで見ている画は、どこか願望というか、先入観のようなものが入っているのか、欠点が見えていなかっ
たりすることが多いです。



 こうやって昨年末のドールワールドリミテッドに向けて完成させたはずの kanako なのですが、画像にしてみるとなんとなく
しっくりとこないところがあって、それ以降もちょこちょこといじったりしていました。それもまあ、やっと今になって思った感じに
仕上がったので、とりあえずリメイクは終了です。



 このあとアイと唇をまた修正しました。派手さが押さえられて落ち着いた感じに仕上がったと思います。
 ここからが本当の完成画像です。







 





 













 とりあえず完成と書いたんだけれど、これから先、何年か経つとまた気になるところが出てきてリメイクしちゃうのかもしれません。
それは際限がないというのか、可能性は無限にあるというのか・・・、でもベストを探し続ける作業はやっぱり楽しい。



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