新作ドール akane の制作記録 2

10年かけてやってきたことのまとめです




 前回は基本的な造形が完成したところです。あとは軽く磨き上げてペイントすれば終わり・・・ということなら簡単なのですが、透明感のある
よりリアルな肌を表現しようと思って頑張ろうとすると、実はここから先の方がずっと手間のかかる工程になってしまいます。また粘土という
素材の特性上、それなりに表面を強化してあげないと実用性の低いお人形になってしまうので、ここにも注意をはらう必要があります。



5 下地の仕上げ
 とりあえず表面をなめらかにして、下地塗料をきれいに塗り上げてゆきます。時間をかければかけるほど仕上がりは良くなります。お洋服を
着せるのが前提なら、顔と手足だけ完璧にという考えもあるでしょうが、水着を含めていろんなものを着せたいというのであれば、全身くまなく
つるつるに仕上げてゆきます。
 この時点では紙ヤスリで仕上げたままになっているので、まだまだ細かなキズや凹凸が残っています。ただ粘土に含まれる繊維成分によっ
てそれが見えにくくなっています。自分の場合、その繊維によるケベ立ちを押さえ、更に表面を硬化させるために薄く水に溶いたイージースリップ
(現モデリングキャスト)を塗布することにしています。



    52 イージースリップを水で5倍程度に希釈したものを
     スポンジに含ませて全体に塗布します。
    





 乾くとこんな感じになります。それまで見えなかった微細な凹凸がはっきりと出てきます。



53 水で柔らかく練った粘土をヘラで刷り込むように
 して凹部に塗り込んでゆきます。
54 乾いたら240番の布ヤスリで磨いてゆきます。
 前回ご紹介したように、ここも7分磨きです。
 





 この作業を3回ぐらい繰り返し、ヤスリを徐々に細かなものに変えて磨き上げます。仕上がりはこんな感じです。
 下地が荒く整ったところで今度は下地塗装に入ります。イージースリップで多少固くなったとはいえ、粘土なので表面は
キズがつきやすいです。瑚粉で真っ白く仕上げる方法もアリなのですが、自分の場合には扱いの簡単なモデリングペー
ストをベースにしています。



    55 モデリングペーストをベースにして、リキテックスで着色した下地塗料をつくります。今回は
     3%ぐらいのアンブリーチドチタニウムと1%ぐらいのライトポートレイトピンクを混ぜています。
    

56 水を加え塗りやすい濃度に調整し、全体に塗って
  ゆきます。
57 3回ほど塗った後、240番の布ヤスリを全体に
 かけて磨きます。

 この下地塗料の良いところは、モデリングペーストの硬さのおかげでヤスリがけができるという点です。この作業を繰り返すことで、
色づけと同時に粘土にはない強度を得ることができます。

58 塗り重ねの回数が増したら、水を多めに混ぜて
 うすく塗るようにします。
59 ある程度の面積があるところなら、指で広げて
 行く方が効率の良いこともあります。
60 最後は400番ぐらいの耐水ペーパーで磨き、
 仕上げゆきます。



 この作業を行っている最中、ひざ下のパーツにヒビが入っているのを発見しました。原因は著しく接着面の面積が小さいことが原因
だったようです。この場合小さなヒビに塗料を塗り込んでごまかすのは逆効果で、むしろヒビの部分を大きく削り、瞬間接着パテと粘土
でしっかりとした接着面をつくった方が良いです。

A まずはヒビの入った部分を切削して拡大します。
 その後ここに瞬間接着パテを流し込みます。
B 瞬間接着パテが乾く前に粘土を詰め、乾燥を
 待って下地塗料を塗れば、あとは通常通りです。



 この下地塗料は濃度が高いので、厚塗りすることでボディラインの修正をすることもできます。ただ一方で、塗りすぎると細かな部分の
ディテールが失われてゆくという欠点もあります。指先やフェイスはほどほどにしておきます。


    61 鋭角なカッターやデザインナイフで手足の爪のディテールを彫り込んでゆきます。
    



 このあと全体の色調を整えてゆきます。ペーパーのかかりぐあいで、若干の色調の違いが生じるからです。用意するのはモデリング
ペーストの代りにホワイトを使った上塗り用の塗料です。この塗料は下塗りしたものと全く同じ色調に調整をしておきます。

62 モデリングペーストをホワイトに置き換え、色調を
 同じにした塗料を用意します。(Wと書いてある方)
63 水性アクリルカラー用の薄め液をこの塗料に加
 えて希釈し、全体に吹き付けてゆきます。



 これで下塗りが完了しました。きちんと仕上げれば、どのパーツも艶のない一様な肌色に仕上がるはずです。このまましばらく放置して
完全乾燥させましょう。



今回使用したもの:モデリングペースト、リキテックス、布ヤスリ(120番、240番)、
            耐水ペーパー(400番)レジンなど
今回の作業のために購入したもの:リキテックス(700円)、布ヤスリ(100円×2)
累計  7,400円
今回の作業時間=10時間 累計  26.0時間





7 コーティングとメイク

 下地が完成したらメイクして終わりというドールがほとんどだと思いますが、自分の場合にはここから更にコーティングという手間のかかる
作業に入ります。着色とクリアー系の塗装を交互に行い、透明感のある肌を表現します。

64 まずはすべてのパーツに高耐久ラッカースプレー
 のつや消しクリアーを一様に吹き付けます。
65 次に上塗りに使った塗料に少し赤みを加えたもの
 を膝や肘、指、そして陰になる部分に吹き付けます。





 画像の左がその作業を終えたもの、右側はまだ塗装を終えていないものです。ナチュラルなボディメイクをしようと思うと、微かに色が
ついているぐらいの方がよりリアルに仕上がります。



66 更に高耐久ラッカースプレーを吹き付けています。
 乾燥を待って更に2回、たっぷりと吹き付けます。
67 今度はスポンジヤスリ(中目)を使って丹念に全体
 を磨きます。
 細かなところは耐水ペーパーを丸めて磨きます。


68 微細な埃の混入は避けられません。見つけたと
 ころで取り除きます。
69 作業が終了したら、OAクリーナーなどで、全体の
 汚れなどを拭き取ってゆきます。

 透明感のある仕上げのためにクリアー系の塗装をするのですが、欠点としては塗装膜に紛れ込む埃がどうしても目立ってしまう
という点があります。だからこれを丹念にとってゆく必要があるのですが、作業としてはともかくこれが面倒。部屋の掃除をする、暗い
色の服や毛羽立ちやすい服は着ないなどの準備も必要です。
 それから最後にOAクリーナーを使っていますが、パーツについた汚れのおもな原因は自分自身の手の汚れや油などが主なもの、
ですから作業の前には手を洗うということもとっても大切です。
 以降は素手で扱うことはせず、布や手袋などでパーツに汚れが移らないようにして作業をすすめます。
 経験上、綺麗なお人形をつくるために最も大切なことの一つは、
きれいな環境をととのえきちんとした服装で作業に望むことだと言
えます。

70 オレンジや赤などのクリアー系ラッカー塗料で
 ボディメイクをしてゆきます。
 

 画像にはありませんが必要に応じてエアーガンを使います。


71 通常の塗料を使って、更にアクセントを追加して
 ゆきます。

    72 爪などの細部はこんな感じで仕上げました。
    



 何か似たような工程が繰り返し出てくるので、ここでいったん整理しておきます。

               ↑ 上層
仕上げメイク ≒0mm  
ウレタンクリアー 無色 0.3mm  
ラッカー塗料 ≒0mm  
ラッカー塗料 ≒0mm  
高耐久ラッカー 無色 0.2mm  
濃いめの肌色 ≒0mm  
高耐久ラッカー 無色 0.1mm  
上塗り塗料 0.1mm以下  
下地塗料 0.2~1mm  
イージースリップ ≒0mm  
粘土層 3~5mm  
              ↓ 下層

 こんな感じで下層から順に作業はすすんでいて、残りはウレタンクリアーと仕上げメイクのみになりました。
 ご覧いただくとお分かりのようにクリアーの塗装膜は合計で0.6mmです。(実際にはヤスリで磨いているので0.5mmぐらい)
そしてこの透明層にサンドイッチされるように着色膜があります。
 なぜこんな感じにしているかというと、まずは膝や肘、指など関節のある場所は血液が集中して流れているところなので、
ここは必ず赤みが強く出るところです。これを①で表現しました。(完成後に見ることのできる層ではいちばん深い)
 一方、毛細血管は深い層から表面に向かって流れ出てくるので、これを②③で表現しています。画像では撮し切れませ
んが、お尻や太股、頬といったところを中心にエアーブラシで細く、うすく丹念に毛細血管の流れを表現しています。
(完成後は透明層のなかで浮いているように見える)
 ④の仕上げメイクは眉毛や睫なのでこれは透明層の上に描かなくてはなりません。
 それほど塗装膜は厚くはないですが、こんな感じで立体的な表現を加えています。

 ウレタンクリアーのコーティングの前にフェイス部分のプレメイクを済ませておきます。このメイクはヘッドパーツの仕上がりを
確認するためのものです。

73 毛細血管の浮き出ているところ、陰になるところに
 軽くエアーブラシで赤みを加えました。
74 ラッカー系塗料のライトブラウンで眉毛をごくうす
 く描きます。
  75 ダークブラウンでアイホールを強調、二重まぶた
 も描きました。

76 適当なグラスアイとウイッグを取り付け、全体の
 バランスを見ます。
 

 ここで特に問題がなければプレメイクは終了です。
 ここから先はウレタンクリアーによる最終的なコーティングになります。



 2液混合のウレタン塗装は自動車の塗装にも使われるもので、塗装膜は市販されている塗料のなかでは最も強いものの
一つでしょう。油や酸にも強く、この上にラッカー系塗料でメイクしても下地が侵されない。だからメイクが失敗したら薄め液
でふき取ることもできます。
 但しいくつか欠点もあります。
1 扱いが難しい(特に硬化液の保存)
2 エアーブラシの頻繁な清掃が必要
3 高価である
 以前は透明層の形成をすべてこの塗料で行っていたので、ものすごく大変でした。今ではその半分の過程を高耐久ラッカー
スプレーに置き換えたのでずいぶん楽になりました。



77 まずはまんべんなく、ごく薄くつや消しウレタンク
 リアーを吹き付けます。
78 埃の混入を見つけたら、乾いたところでデザイン
 ナイフなどで取り除きます。

 ここでポイントがいくつか・・・
1 1回目の吹きつけはごく薄く行います。ウレタンコートは下地を侵すため、いきなり厚塗りするとボディメイクどころか下地
 塗装まで流れたり、ひび割れたりします。2回目以降は普通に塗装して大丈夫です。
2 つや消しは最大量の1/2ですすめ、最後だけ最大量にします。(つや消し添加剤の節約)
3 2液混合タイプは化学変化で硬化します。通常はこの硬化に24時間かかるのですが、自分の場合には完全硬化を待たずに
 6~12時間間隔で再塗装をしています。これは完全硬化させてしまうと、上層のウレタンコーティングが剥がれる可能性がある
 と思っているからです。

    79 最初は関節部分を中心に吹きつけを行い、ちょうど良い具合に(ぴったりに)なったところで、
      腕や足単位でくみ上げます。
    

 パーツをまとめることでウレタンの節約にもなるし、関節がきつくなりすぎるということもなくなります。

80 このあと何回か吹きつけ作業を行い、そのたびに
 丹念に埃を取り除きます。
81 透明層が十分になったと判断したら、スポンジ
 ヤスリ(細目)で磨きます。
82 最後の1回はつや消し剤を最大量にして吹きつけ
 を行います。





 最後だけは24時間の完全硬化を待って組み立てを行います。



83 手製のゴム引きを使ってゴムを通してゆきます。
 落下事故のないよう、必ず床の上で作業します。
  84 上半身も同様にゴムをつなげてゆきます。手袋を
 すると滑りやすいので注意が必要。

 できた。



 今回の作品は関節がうまく調整できているようで、すぐに自立しました。ちょっと良い気分です。



 最終的な段階にいよいよ入ってきました。次はヘッドに取り付けるアイとウイッグを選びます。

 

 こういったもののストックは多ければ多いほど良いですね。自分の場合には高価なものをそのつど選んで購入するのでなく、
安価でそこそこのものを大量にストックしています。

    85 まずはアイのサイズ選びです。左から小・中・大、このヘッドにはやや小さめが似合うと判断しました。
 



    86 やや小さめなアイを並べてみて、いちばん感じの良かった(イメージに合っている)のがこのグレーでした。

 



    87 この組み合わせにいちばん似合うウイッグ選びです。濃いめの方が良さそうです。
 

 最後まで候補に残ったのがブラウンとブラックだったのですが、最終的にはこの組み合わせになりました。



 きっとこの組み合わせを選んだのは、イレーヌ・カーン・ダンベールを先日見た影響かもしれません。このあたりは
多分に感覚的なものだから。

88 マジックテープを適当な大きさに切り取って、ヘッド
 に貼り付けます。
89 ウイッグがやや緩めだったので、今回はひっぐ側
 にも貼り付けました。

    90 ヘッドに取り付けてみて、ウイッグの位置を調整
      します。今回はカットなしでも大丈夫でした。
    



 さて次はいうよいよ最終的なメイクとなります。薄化粧でナチュラルに仕上げたので変化が分かりにくいです。

91 頬に赤みを加え、目頭から瞼の部分に軽くライト
 ブラウンを吹き付けて陰影を強調しました。
92 アイラインをダークブラウンで強調、口は奥まった
 ところに薄めたレッドを流し込みます。
93 睫と下眉毛を描き込みます。唇はレッドからピンク
 のグラデーションで変化をつけます。

94 アイをいったん取り除き、ボンドで睫を貼り付けて
  ゆきます。
 

    95 改めてアイを取り付けました。最後に唇のつやを
      出せばヘッドの完成です。
    



  

とりあえずヘッドの画像だけご紹介です。
全身の画像はこちらから入ることができます。但し衣類は全く身につけていない状態ですので、その点ご注意下さい。
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今回使用したもの:リキテックス、耐水ペーパー400番、スポンジヤスリ、マジックテープ
            ウイッグ、グラスアイ、睫、高耐久ラッカースプレー、ウレタン塗料
今回の作業のために購入したもの:スポンジヤスリ(400円)、マジックテープ(100円)、
            高耐久ラッカースプレー(1000円)、ウレタンクリアーつや消し剤(2500円)
     
累計  11,400円
今回の作業時間=13時間 累計 39.0時間





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