eye4工房番外編

驫木駅



 今年の夏に行った五能線の旅、やっぱりいちばん印象に残ったのは驫木駅かな。前面は日本海、近くには民家が1軒のみ、
秘境というわけではないけれど、とても印象に残る駅で、また夕日の名所としても有名です。



 今回はこの駅をできるだけ忠実に再現してみたいと思います。但しいくら小さいとはいえ、海岸から駅の入口まで再現するとそれなりの
大きさになってしまうので、駅以外については縮小、簡略化したいと思います。そして最終的には20cm×50cmの手頃な大きさにまとめたい
と思っています。



1 ベース部分の造形

  通常、ベースボードの上の起伏は発泡スチロールやスチレンボードを大まかに切って貼り、その上にプラスタークロスや粘土を盛って
形を整えてゆくのですが、それだとどうしても重くなりがちで、また細かな起伏も再現しづらいです。そこで今回は2mm厚のスチレンペーパー
を細かく切ったものを組み合わせ、多面体で地形を表現することにします。


1 30mm×6mmの角材を組み合わせてフレームを
 つくります。
2 5mmの厚さのスチレンボードをこの上に張り合わ
 せます。段差は海岸との高低差になります。
3 段差にできた隙間は厚紙で隠します。これがその
 まま海岸線の護岸になります。

4 細かな位置関係を確認のうえ、KATOの248mmの
 レール2本をボンドで貼り付けました。
5 写真を参考にして、2mmと3mmのスチレンペーパー
 でホーム部分をつくったところです。

 考えた末、駅の前にある民家は省略することにしました。


6 道路の高さに合わせて3mm厚のスチレンペーパー
 を立てます。
7 2mm厚のスチレンペーパーを切り、道路や地形
 そのものを多面体で組み立ててゆきます。

 こちらが仕上がったところです。



 多少時間はかかりますが、この方法だと微妙な起伏も正確に表現できます。そして何より軽量で、仕上がってしまえば
強度的にも十分です。


8 角のできているところにモデリングペーストを
 塗り、必要に応じて少量の粘土で変化をつけます。
9 リキテックスカラーで全体を下塗りしたところです。
 地面はブラウンとグレーを混ぜた色合いです。

10 いちばん細かなバラストをまいているところです。
 海岸なので赤さび色のものがぴったり。
11 まき終えたら全体に霧を吹き、そのあと薄めた
 ボンドをスポイトで落とします。
12 乾いたところで、車両の走行に支障がありそうな
 バラストを落としてゆきます。

 次は駅のホームをつくります。写真を見ると驫木駅のホームは短く狭いのですが、白線やコンクリート、アスファルトの補修跡が
細かく入っていてけっこう複雑です。またホームの五所川原寄りは、水抜きのためのコンクリート製の側溝を積み重ねてつくっている
ように見えます。

13 ホームの五所川原寄りは側溝の積み重ねられた
 状態をプリンターで印刷し、貼り付けました。
14 白線や舗装の色違いなどは、丹念にマスキング
 して表現しました。
15 細かな砂をホーム周辺にまいているところです。
 固定は薄めたボンドで行います。

 ホームはこれで完成です。なんとなく全体像が見えてきたかな。



 実際は海岸までの距離はもっと遠く、その間にはテトラポットが大量に積み重ねられている場所もあるのですが、今回そこは省略、
縮小することにしました。
 でもまあ実際、ここを訪れたことのある人でもテトラポットの存在に気づく人はほとんどいないでしょうし。





 次に海岸をつくります。



 使用するのは砂、細かなバラスト、砂利といったところです。こういうものは何種類か手元にあった方が良いね。あればあるほど
表現の幅がひろがる。


16 全体に細かな砂をまき、水で薄めたボンドで固定
 します。
17 適宜、細かなバラスト、砂利などをおいてゆき
 ます。固定はスーパーフィックスがベスト。


 次に日本海を表現します。



 基本は少量の青と緑のリキテックスを混ぜたリアリスティックウオーターで平らな水面をつくり、その上にKATOの「さざ波」で
凹凸をつくるという形になります。


18 縁をマスキングテープでつくり、着色したリアリス
 ティックウオーターを流し込みます。
19 流し込むリアリスティックウオーターの着色を徐々
 に薄くしながら、複数回これを繰り返します。
20 乾いたところで「さざ波」で凹凸をつくてゆきます。
 白波を立てるところは特に厚めにします。

21 モデリングペーストで白波を表現します。ここも
 写真が参考になります。

 リアリスティックウオーターはともかく乾きにくいです。完全に流動性がなくなるまで半月かかります。必要に応じて
扇風機などを使って乾燥させましょう。あとヒケ(乾燥にともなう体積の減少)も大きいので、一度に完成させようと思わず、
しばらくしたらやり直すぐらいのつもりの方が良いと思います。



 次は草原の表現かな。けっこうボリュームがあるので大変そう。でもまあ、tomix のキハ48 五能線が発売されるまで
あと1月以上あるので、焦らず作業をすすめたいと思います。










 ベースが出来上がったので、ここから先、はまずは草木の表現を行い、各種ストラクチュアを設置してゆきます。但し今回は
実在する駅の再現ということで、市販のパーツを流用することはほとんどできず、写真を見ながらその一つ一つのストラクチュアを
つくりあげてゆくことになります。





2 植物を植える

 まずは駅周辺の草木からです。こんな感じでうっそうとしたササや低木に覆われていました。これをそのまま再現するのは難しい
のですが、手持ちのパウダー類を駆使して、雰囲気だけでもそれらしく整えてゆきたいと思います。



 再現する順番としては、まずは低層から順に背の高い植物を再現してゆきます。

22 地面を覆う枯草を茶系のパウダーをブレンドした
 ものでまずは再現します。
23 最も背の低い草をグリーン系のパウダーで再現
 します。固定はすべて水で薄めた木工ボンドです。
24 低木類をフォーリッジクラスターで再現。接着は
 ホビー用ボンドです。

 ここまでやると、何となくちゃんとした地面ぽくなるかな。リアルなレイアウトでなければこれで切り上げても良いぐらいですが、
今回これはまだまだ途中経過、絵画で言えば鉛筆の下書きといったところです。



 実はフォーリッジクラスターなどのスポンジ系のものって、ここに樹がありますという印みたいなもので、自分からすると少しも
リアルじゃないです。この先、下書きの出来上がったキャンバスに作品を描くようなつもりで、順に植物表現を加えてゆきます。


   25 コースターフのようなパウダー類、ミニネーチャーシリーズ、オランダドライフラワー
    こういったものを追加して仕上げます

 この作業は「何処に何を」というものではありませんが、写真を参考にして想像力を巡らし、少しずつ「それらしく」仕上げてゆきます。
気分としては本当に絵を描いている感じです。うっそうとした感じが出てきて、実際にこんな草むらがあるよなと思えたところで作業は
完了です。





3 駅舎とその周辺

 次は駅舎になります。同じストラクチュアが販売されているわけではないので、スクラッチビルドすることになります。

 

 この夏にここを訪れたとき、次に制作するならこの駅だろうなって思ったので、たくさん写真を撮ってきました。特徴としては
この板張りの外壁でしょう。

26 2mm幅に紙を細く裁断し、厚紙に貼り付けて外壁
 をつくります。
27 写真からサイズを割り出し裁断します。窓やドア
 の枠は別途厚紙を切り出して接着しています。
27 塗装した後に窓やドアを接着。窓は0.2mmの透明
 プラ板と極薄のブラ棒からつくっています。

 このあたりはものすごーく細かな作業が続きます。正直、もうちょっと精度良く仕上げたかったけどだめだった。窓は汚れちゃうし、
ドアは傾くしで、自分の技量不足に泣きです。

 

28 実際に駅で撮影した画像を元にして1:150サイズ
 の各種案内表示をプリントアウトします。
29 これを実物どおりの位置に貼りつけ付け、壁を組
 み立てます。

 ベンチなどの内装も、きれいじゃないけど取り付けました。ただ完全に組み立てたらほとんど見えなくなっちゃった。
でもこれはよくあること。



30 天井部分にLED電球を追加します。通電テストは
 この段階でやってしまった方が良いでしょう。
31 天井となる厚紙にはアルミホイルを貼りました。
 光漏れ対策です。その後取り付けと塗装。

 本当は雪下ろしの足場が屋根上についているのだけれど、これをきれいに表現するのは困難だと思って省略しました。
いずれ良い方法が見つかったら、取り付けます。

32 真鍮線で外壁を伝う水道パイプとトイレの換気
 パイプをつくります。
33 これらを取り付け、更に配電盤などを配置して、
 レイアウトに取り付けました。

   34 最後に軽くエアガンで汚し塗装を加えて、駅舎は完成です。
   



 続けて駅周辺に配置されていた小物類を配置してゆきます。今回は資料になる画像がたくさんあるので助かります。

 

35 こちらはKATOの電柱。これをベースに、上のよう
 な形に作り変えてゆきます。
36 照明には極小のLEDを加工して取り付け、実際に
 光るようにしました。

 LEDは極小のものをアマゾンから入手しました。まずはキットの照明部分の下側を削り、ここにこのLEDを取り付け、その上に直接UVレジンを垂らして
固めるという、荒業を使っています。



37 KATOのガードレールを追加。あと壁面に雨だれ
 の跡を表現しました。



   38 無線機器の入ったボックスを追加、あとホームと駐車場の逆目にある柵も取り付けます。
    

 いつも悩むところがこの電線の表現です。あった方が良いかなと思うのですが、リアルスケールだと直径は0.1mm程度。やってやれないことは
ないと思うけど、絶対にいつか切ってしまいそうなので、今回もやめました。



39 駅名表示は、0.5mmの真鍮線と実物の写真から
 プリントアウトしたものを組みあわせて作りました。

40 線路を挟んで反対側にある乗り場案内、更に
 停車位置マークなども同様に制作します。

41 ホームの両端にあるミラーは真鍮線とプラ板から
 スクラッチしました。
42 全体のバランスをとるために、左側にオランダドライ
 フラワーからつくった雑木を追加しました。

   43ホームにベンチを設置、さらにその前には2本の丸太を立てました。
    

    

    この丸太は1つが海岸の解説、もう一つは日時計になっています。いちおうそれらしく仕上げたつもりです。



44 線路にサビの表現を加えます。茶系の塗料を吹
 き付け、そのあと上面だけヘラで塗料を落とします。

 ということで駅周辺の風景が完成です。



 部分的に縮小したり省略したりしてるけど、それらしい雰囲気はちゃんと遺っているかな。



 照明をつけてみたら、これがなかなか良い感じ。季節こそ違うけど(多分冬だった)中井精也氏の写真にこれに近いものがあった
ような気がします。



 そして今回選んだフィギュアはこれだけ。



 イメージする季節は夏の終わり、夕暮れを待つ二人と二匹、家路につくおじさんといった感じです。

45 フィギュアを全面的に再塗装して仕上げています。
 二人は自動車でやってきたという設定。
46 駅舎を挟んで反対側には二匹のネコ、一匹は塗り
 変えて雌猫にしたつもり。

 あとは五能線の車両を置けば完成というわけなのですが、頼りにしていたTOMIXの五能線は発売延期。だから今回は
仮の完成ということで作品をご覧ください。



 このシーンのストーリーは考えてあるのですが、基本、この二人は(もちろん二匹のネコも)五能線とは無関係。じゃあ何で
ここにやってきたのか、それはちゃんとした完成写真のなかで解説したいと思います。





4 車両と組み合わせる

 年末も本当に押し迫った時期になって、ようやくのことTOMIXの五能線車両が発売になりました。忙しい時期だったので、
年が明けてからの組み立てです。

47 説明書の通りに足回りやアンテナといった細かな
 パーツ、シール等を貼り付けます

 完成車両を購入したのに「組み立て」というのも変なのですが、アンテナ類や足回りの細かなパーツやシールといったところは
購入者が取り付けることが多いです。

 

 経験者ならご存知かと思いますが、これらのパーツの取り付けや貼り付けは、ものすごーく難易度が高いです。だから失敗したときの
ことを考えて、メーカーも予備パーツなどを同梱しています。
 パーツ類の紛失がないように、箱の中で作業するのは必須。ピンセットで挟んだときに飛んでいってしまうこともよくあるので、できるだけ
低い位置で作業を行い、ピンセット自体にも先端にゴムテープなどを巻くという工夫も必要です。
 こういうノウハウがないとうまくゆかないし、もし自信がなければ、難しいところには「手を加えない」というのも選択肢の一つかと思います。





 とりあえず無難に作業を終えて車両は完成です。これから五能線のレイアウトに組み込んで撮影します。
 レイアウトの大きさは50cm×20cmで、五能線の3両編成がぴったりと収まる大きさです。



 今回の作品は、実際に驫木駅を訪れたときに撮影した画像から図面を起こして制作しています。とりあえず駅舎とプラットフォームは
できる限りリアルに、周辺はこのサイズに収まるように縮小や省略をしています。



 小さなレイアウトではありますが、その分ベンチとか、手前の案内版、照明など細かな部分まで作り込んでいます。



 ここで最後にちょっとだけレイアウトの解説というか、イメージしたシーンのを説明したいと思います。

 2018年8月の終わり、暑さも少しだけ和らぎ、午後も遅い時間帯になると少し海風が涼しく感じる季節になってきました。
 ここは五能線驫木駅。18:33発深浦行きの上り普通列車がやってきました。



 観光シーズンを終えたこの季節、この駅に乗降客はありません。




 ホームにいた二人もなぜかこの列車を見送ります。








 その列車を見送ると、あたりは再び静けさを取り戻しました。




 そして日没。
 この驫木駅からの風景がいちばん輝くとき。




 
少しずつ星が輝き始める頃、二人は満足したように家路につきます。





 五能驫木駅って夕日の名所として有名なんだそうです。(昨年の夏に行ってみたらそういう解説があった) これまでどれだけの人が夕日を眺めて行ったのかな?
 この駅舎自体もけっこう昔からあったみたいで、吉永小百合の主演映画のロケ地として使われたこともあるようです。いろんなドラマがあったに違いないと想像する
一方で、日本海に面したこんな風雪の厳しい場所で耐えぬいてきた駅舎自体も、ちょっとだけけなげに思えました。



2019.01
camera: Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm & CASIO EXILIMEZ-ZR4100 / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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