asumi のリメイク

パール塗装とか補色塗装を試してみる




 この asumi は制作初期の作品ですが、けっこう可愛く仕上がって自分ではお気に入りです。ただ今見ると技術的に今一つだなって思えること路があって、
今回リメイクすることにしました。
 とりあえず次の画像がリメイクする前の asumi です。







 制作したときの設定は13歳、フェイスは思っていたとおりに仕上がっていて、今でも十分にいけるかな。ただ関節やボディラインについては修正の必要ありです。
 今回はボディを中心に全体的に見直してゆく予定ですが、ただ今回は目につく問題点を修正するだけではなく、パールと肌色の補色であるブルーによる塗装を試して
みたいと思っています。
 また今回は新しい塗装方法の解説のほか、実は新作をつくるより難しいリメイクの方法についてきちんと解説をしたつもりです。


1 ベースの製作

 まずはウイッグを外し、ゴムを抜いて完全にばらばらにします。



 それがこんな状態。ゴムは1010年以上たっているのにもかかわらず、まだちゃんとテンションがあります。ゴムの品質も上がって、もうよっぽどのことがなければ、
劣化は考えなくても良いのかな? (自分の場合にはテンションは低めにしてあるけど)
 こまごまとすべてを解説していると時間がかかるので(リメイクに半年以上かかっている)、おおまかなポイントをまずはざっと解説します。


   A 腰関節をつくりました。
   


   B ネオジムマグネットを追加してスタンドなしで立たせることのできる機能を追加しました。
   


   C ヘッドを2分割できるようにして、アイの交換が簡単にできるようにしました。
   


   D マグネットピアスなどが取り付けられるように、耳に鉄くぎを埋め込みました。
   


   E 負担のかかりやすい首ジョイントの受けをエポキシパテに置き換えました。
   


  F 破損しやすい手足と肘のパーツはレジンに置き換えました。
   


 とまあ、こんな具合に現在の最新仕様のオリジナルドールと同等の機能を持たせました。
(これでだいたい2か月ぐらいかかった)



2 ボディラインの修正ポイント

 まずはどうやってきれいにボディラインを修正してゆくかです。基本は削って盛る、それだけのことなのですが、これが新作以上にリメイクの方が
難しかったりする。というのは完全乾燥した粘土や、樹脂塗装した粘土にはなかなか新しい粘土が馴染んでくれないからです。

 

 細くしたいところは削る足りないところは盛る、このときの粘土には2〜3%程度の木工ボンドを混ぜると良いでしょう。樹脂塗装した部分はそれでも
取れやすいので、盛るところの樹脂塗装は完全に剥がした方が良いです。
point1 異素材との接着や強力に一体化させる必要があるときには、水溶性の接着剤を粘土に練り込む。


1 肩の関節部分を成形しています。肩がのラインが
 スムースにつながるよう乾いたところで削ります。
2 整形した部分が乾いたら、モデリングペーストを
 全体に塗ります。
3 乾燥した後に削りと磨きを入れて、きれいに
 形を整えます。

 なぜここでモデリングペーストを使うかというと、粘土は樹脂塗装の膜に比べればとても柔らかいので、このあと削りや磨き
を入れると粘土の部分だけが先に落ちてしまうからです。モデリングペーストは粘土の表面を硬くしてくれる働きがあります。

point2 表面を固く仕上げるにはモデリングペーストを使う
 モデリングペーストと粘土をブレンドするという方法もありデス。ブレンドの割合を変えて素材の硬さを同じにしてやると、作業は
やりやすいです。

   4 全体に薄めたモデリングキャストを塗布する。
   

 モデリングキャストはパジコ社の製品ですが、粘土上に塗布すると粘土が締まって固くすることができます。

 このままだと色の違いがあって、逆目の段差があってもなかなか分かりません。また白いままだと細かな傷の存在にも
気づきにくいです。


5 今度は全体にジェッソを塗ってゆきます。一度に
 厚塗りせず、2〜3回で仕上げます。
6 気づいた凹凸にモデリングペーストを塗り、乾
 いたところで磨き、平坦化してゆきます。

 なぜここでジェッソなのかというと、ジェッソには粘着成分が含まれていて、樹脂塗装した部分でもなんとか食いついてくれるからです。
一方でその分、磨きに対してはやすりやペーパーを目詰まりさせやすいという欠点もあります。
 画像にはありませんがレジンパーツもこのジェッソで処理をしておきます。そうすれば粘土のパーツとこれ以降同様に処理を行える
ようになります。
point3 ジェッソで下地をつくると、ほとんどの塗料が同じように扱えるようになる。


7 モデリングペーストに少量のリキテックスカラーを
 加えてベースになる肌色塗料をつくります。
8 これを全体に2回ほど繰り返して塗り、完全に
 乾燥させます。
9 乾燥したら全体に400番程度の布やすりを
 かけます。凹凸があればもちろん修正します。

 この作業を3回通り行えば、おそらくとてもなめらかなボディパーツが出来上がると思います。
 このモデリングペーストをベースにした塗料は魔法のような塗料で、切削や磨きが可能です。こまかなキズもこれを使えばすぐに
きれいになります。


   10 同じレシピでモデリングペーストのかわりに通常の
   ホワイトを用いた塗料で仕上げ塗りします。
   



 ここでいったん組み立ててみて、関節の具合やバランスなどを確認しておくと良いでしょう。



 これでベース塗装が完了しました。ここも時間のかかる工程で、また2か月ぐらいかかっちゃいました。



   11 マッドジェルメディウムに少量のパール粉を
    混ぜた塗料をつくり、各パーツに塗ります。
    


 これは肌に透明感を出す工夫です。透明感というのは、内部にすすんだ光が奥の方で反射したときに感じられるもの。
だったら塗装の最初の段階で反射層をつくってしまうというのもありかと、そう思ったわけです。
 結果としてはまだこの段階では良く分からない、ただずいぶん全体が白くなっちゃった。
 あとこの塗料は埃が尽きやすく、紛れた埃を取り除くのも大変なのでやり方はもう少し考えた方が良さそうです。


   12 透明層をつくるために高耐久ラッカースプレー
    (つや消し)を塗ります。
   

 この作業に使える塗料としては後述の高価なウレタンクリアーもあるけれど、手軽さを考えたらもう選択肢はこの一択です。
基本的にまずは5回ほど吹き付けを繰り返します。





13 5回ほど吹き付けを繰り返すと、モールドがかなり
 甘くなってくるので、削りなおしを入れます。
14 クリアーオレンジとクリアーレッドを適宜混ぜ、
 かなり薄めた状態をつくります。

   15 白くなりすぎたので、これを濃淡の銚子をつけながら全体に吹き付けます。
   

   16 今度はこれをやや濃いめに調整して膝や肘そして毛細血管のあつまるところに
    吹き付けてゆきます。
   


17 更に赤をやや濃いめに調整し、エアブラシを細く
 絞って血管の表現を行います。ただ今練習中。
*)こんな感じに仕上がります。
  (ちょっと分かりにくいかな)


18 タン系の塗料を薄めたものを陰になるところに
 吹き付けてコントラストを高めます。
19 ハイライトとして目立たせたいところにはホワイトを
 吹き付けます。

   20 このままだとすぐに塗装が落ちてしまうので、すぐに
    高耐久ラッカーを吹き付けます。
   

 高耐久ラッカーの関節部分の吹きつけはこのあと2〜3回ぐらいで終了です。吹き付けすぎて関節がはまらなくなっても
困りますから。




   21 3回ぐらい吹きつけを行ったら、スポンジヤスリで磨きを入れます。
   

 この作業は磨きは平滑さを高めるために行いますが、完全に磨ききると下層が見えしまい、意味がなくなるので注意です。
 感じとしては上のような状態がベストです。7割ぐらいにやすりがあたって、のこりはそのまま。この7分磨きが経験上、
最も効率がよいです。

 ここから一気に完成まですすむつもりでしたが、せっかくなのでここでもう一工夫しようと思います。肌色の補色(混ぜ合わせて黒やグレーに
なる色。反対色)は青ですが、これを程良く使いこなそうと思います。

   22 クリアーブルーを溶剤でうすく溶き、これを平坦な
   感じになってしまっている部分にムラに吹きます。
   

   こちらがその結果、左が作業前、右が作業後。
    

 こうやって写真にするとほとんど差がないけれど、実物を見るとけっこう違う。深みというか、奥行きのようなものが出ます。
 こういう補色による塗装というのはけっこう昔からある技術みたいです。中世の多くの絵画はカンバスをいったん真っ黒にしてから
色をつけ始めていたというし、現代の写実絵画の世界では肌色を置く場所に緑から青の下塗りをする人も多いそうです。もちろん
そういうことをされる創作人形作家もいます。
 この補色による塗装は、本来は下地塗装の次に行うのが普通みたいですが、この段階で軽く吹き付ける方法でも効果はある
みたい。でもこれって分かるようにやったらダメだね。何となくニュアンスのようなものが変わるぐらいがベストです。



23 再び高耐久ラッカーの吹きつけと磨きを繰り返し
 ます。埃をとるのがともかく大変。
24 全体に透明感が出てきたら作業は終了です。
 3日間ぐらいかけて完全乾燥させます。

 これで長かった高耐久クリアーの吹きつけ作業も終了です。10回以上は吹き付けたかな? ほぼボンベ2本を使い果たしました。
場所によって違いますがこれで表面に0.5mm〜1mmぐらいの透明層はできたと思います。
 次は中間的なメイクの段階に入ります。


25 全体に軽く400番ぐらいのスポンジやすりで軽く
 磨きを入れてゆきます。
26 唇、鼻孔、アイホールの縁、二重まぶたなどに
 筆を入れてゆきます。
27 手足の爪の表現を行います。このほか、バスト
 トップや耳穴など必要に応じて筆を入れます。


 次はウレタンによる表面コーティングです。二液性のウレタン塗料は個人が入手できる塗料の中でも最も強度の高いもので、車の
塗装にも使われるほど耐久性があります。
 ただ問題なのは用機器具の洗浄が大変で、扱いが少し難しく、コスト的にやや高価になってしまうと点にあります。

28 基本的には説明書の通りに2液を混合し、つや
 消し材は上限まで添加します。
29 塗装はおおむね3回、4時間程度の間隔をおいて
 行います。

 なぜ完全乾燥させないかというと、このウレタン塗料は化学変化を起こして硬化するため、変化後は溶剤を用いても溶けることは
なくなります。すると重ね吹きしても、上層に塗装膜が乗っかっただけの状態になってしまいます。(剥がれる可能性あり)
 ということで完全に硬化する前に重ね吹きを行います。


   30 2日間待って硬化が完了したら組み上げます。
    テンションゴムは念のため新しいものに交換しました。
   

 きちんとパーツを仕上げると、ゴムのテンションはそれほど上げなくても、こんな感じでポーズが決まります。もちろん自立もできます。
全体のバランス、正確な関節の仕上げ、軽量な粘土の使用、こういったところがポージングの完成度を高めるポイントだと思います。

 ここでヘッドだけ取り外して最終的なメイクに入ります。

31 描くのは眉毛と睫です。基本は薄めの塗料で
 少しずつ描き足してゆくことです。
32 全体が整ってきたところで、頬にピンク、目尻目頭
 にブラウン系の塗料を軽く吹きつけます。

 ここでのメイクって立体感を出すぐらいのつもりで、あくまでも軽くナチュラルに仕上げます。(濃いめのメイクはいつでもきるので)
仕上がったらMr.カラーのつや消しをさっと吹きます。



33 手芸用ボンドで上睫を取り付けます。ボンドが
 乾いたらダークブラウンで色を縁の色を整えます。
34 ウイッグをかぶせて全体のバランスを見る。必要
 に応じて筆を加える。

 ちょっと長く複雑になってしまいましたが、このお人形の仕上げ工程と層構造はこんな風にまとめられます。
 いちばん下の粘土層から順に・・・、
1 粘土層(ラドールプレミックス+プルミエ)
2 モデリングキャスト(粘土の表面を硬くする)
3 下地剤(モデリングペースト+リキテックス、磨いたり多少の造形も可能なオリジナル下地塗料)
4 塗料1(リキテックスでつくった肌色)
5 塗料2(ジェルメディウム+パール粉)
6 ラッカーコーティング(シリコン変性高耐久ラッカースプレー)
7 塗料3(頬や唇など、色合いの異なる肌を表現)
8 ラッカーコーティング(シリコン変性高耐久ラッカースプレー)
9 塗料4(クリアーブルーによる補色塗装)
10 ラッカーコーティング(シリコン変性高耐久ラッカースプレー)
11 塗料5(眉毛や睫毛、その他アクセントになるものを描きいれる)
12 ウレタンコーティング(つや消しと表面保護)
13 塗装6(最終的なメイク)
14 塗装7(Mr.カラーつや消しクリアー)
 なんかいろいろやってたら、こんな多層構造になっちゃいました。昔は粘土で造形して色を塗り、つや消しトップコートを吹き付けて終わりって
感じだったので、この人形のリメイクはほとんど新作をつくるのと同じぐらい手間がかかっちゃうわけです。






 パールの輝きとかクリアブルーの色合いのようなものはほとんど感じないです。他の人形と比較したとき、ちょっと肌の感じが違うなって
感じる程度です。これで良いと思います。






 このままだとナチュラルすぎるので、画像作品として残すならパステルでほんの少し色味をつけることになるかと思います。
近くちゃんとしたお洋服を着せて写真を撮ることにします。




 昔は球体関節人形や創作人形のブームのようなものがあったけど、今はもう特にこういったスタンダードな粘土製の人形を
つくっている人は本当に少なくなったと思います。
 ヤフオクで数十万円の値段の付いていた時代があっただなんてもう信じらんないね。
 自分の場合には10年以上かけてこのレベルになったけど、完成度が高まるにつれて落札価格が下がり、時給換算で200円を
切ったところで販売目的の製作はやめました。でも好きなものを手放すことがなくなったので、その分ほっとしています。




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