ドールのメンテナンス 4 黄変の修復



  人形遊びそのものは、他人に迷惑をかけるわけでもなく、とても平和なものではりますが、時に悲しいことが起こったりする。よくあるのが、
落っことしたりして傷がついたり、汚れたりすること。
 あと、どうしようもないのが人形そのものの黄変です。特にこれはレジンキャストされたドールでは無視できません。どんなに無黄変をうたって
いたり、UVカットスプレーを吹きかけても、少しずつ黄色や緑色の色合いに樹脂が変化してゆく。
 この変化はおもに紫外線によってもたらされるので、安易に外に連れ出すことはできないし、室内に置いても少しずつ進行する。これが10万円
を超えるようなお人形だと、とっても悲しい。
 自分もスーパードルフィーほか、何体かのキャストドールを持っているけど、もうずっと暗いところに保存していて、たまに眺めるぐらいにしている。
 キャストドールの良いところは、特に塗装をしなくても、透明感のある美しい肌の質感が出せることなんだけど、この黄変の問題があったので、
自分はキャストドール制作には手を出さず、ずっと粘土のお人形を作り続けてきました。
 ただドールイベントのときには、オリジナルドールだけだとなかなか元が取れないので、レジンキャストした1/6スケールのオリジナルヘッドを販売
していたことがあった。




 こちらがそのオリジナルヘッドでオビツのSBHボディと組み合わせています。
 実はこのヘッドは特別なもので、イベントの時に知り合ったある方が興味をお持ちになり、自ら仕上げて下さったものです。いわゆるサフレス仕上げで、
樹脂そのものの透明感を生かすことができます。但しサーフェーサーをかけていないので、もろに紫外線の影響を受けてしまう。




 外に連れ出すたびにどんどん黄変がすすんで、画像処理のアプリケーションの修正ではどうにもならなくなった。この色合いになるまで、外に連れ出した
回数は4回だけ、これではあんまりにも可愛そうなので、修復してあげることにしました。
 黄変は表面だけなので削って磨くという対処の仕方はあるのだけど、それでは一時しのぎになってしまいます。
 そこで今回はこのヘッドを全塗装しなおします。通常、自分のつくるドールヘッドはすべて同じ工程を経て完成させています。



1 下地作り



1 まずは全体に白のサーフェーサーをしっかりと吹き付けます。これで黄変した樹脂は見えなくなるし、今後更に黄変が進行することもなくなります。
2 ボディの色合いに合わせて、Mr.カラーのno.111 キャラクターフレッシュをベースに調合した塗料で全体を塗装します。(上の画像)


 

3 この塗料にブラウンを混ぜたもので陰影を、また赤を混ぜたもので頬や唇を塗ります。この作業にはエアーブラシが必須です。
 エアブラシにはボトルのついた吸い上げ式でなく、吹き付け量やその範囲を調整できるタイプのものの方が良いでしょう。



2 コーティング

 

4 このままだと塗料がすぐに落ちてしまうので、数回に分けて厚めのコーティングを行います。またこのコーティングによって、塗装によって失われた
樹脂の透明感を、完璧とは言えませんが取り戻すことができます。
 コーティングに使うのは、現時点ではアサヒペンの高耐久ラッカースプレーのつや消しクリアーがベストです。自分の場合にはこれを粘土で作った
オリジナルドールでも使用しています。
 透明な膜は1回の吹き付けで、だいたい0.1mmぐらいの厚みになると思います。これを全体に5回ぐらい吹き付けると、その効果が分かるようになります。
(関節部分は動かなくなってしまうので回数は控えめの3回程度にします。)
 もしこの修復をスーパードルフィーあたりでやるとなると、スプレー1缶では足りなくなるかもしれません。




 このあと理想的には、1回だけでも構わないので、つや消しウレタンのコーティングを行うのがベストです。
(2液混合タイプのものを取り寄せるか、スプレー缶タイプのものもある)
 ウレタン塗料は自動車の塗装にも使われるもので、関節部分の摩耗にも十分に耐えられる強度があります。更につや消しの効果も抜群で、例えるなら
すりガラスのような仕上がりになる。またラッカー系塗料にも侵されないので、次の塗装に失敗したとき、短時間なら溶剤でそれを落とすことができる。
 こういう様々なメリットはありますが、高価で扱いづらい一面があって、万人向けとは言えません。だからウレタンについては、理想ということで、一般には
この工程はカットしても良いかと思います。



5 ここに更にMr.カラーのつや消しクリアーUVカットを吹き付ければ、基本塗装は完了です。
 この塗料にも、缶タイプのものとボトルのものがありますが、おすすめはボトルタイプの吹き付けです。つや消し量をコントロールできるのと、部分的な
吹き付けができるというのがその理由です。



3 メイク

 

6 眉毛やアイラインなど細部を描き直します。ここは難しいのですが、しっかりと持つ側の手首を固定し、描く側の薬指をヘッド上に支点として置くのが
ポイントかな。まずはぶれないことを意識するのが大切です。(上の画像)

 

7 このあと人間用のチークやシャドウで、メイクの足りない部分を補います。そのままだといずれメイクは落ちてしまうので、固定のため、最後につや消し
クリアーを吹きつけます。
 入れ目タイプのヘッドの場合には、吹き付けのときにはアイを外しましょう。



 これでヘッドの全塗装が完了しました。
 ちなみに今回は小さな1/6ドールヘッドのみでしたが、1/3のキャストドールでも同じことができます。過去、黄変させてしまったドールをこの方法で修復した
経験もあります。確かに樹脂独特の透明感は多少失われてしまうのですが、おおむね満足のゆく仕上がりにはなると思います。






2020.09
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 &Canon Powershot G7X & Panasonic GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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