eye4工房番外編

浮島稲荷神社



 先日「森の神社」が完成したので、さっそく次の作品にとりかかります。このコロナ渦のなかで遠出することもできず、最近はご近所の
お散歩ばかり。でもそのおかげで、こんなにたくさんの素敵な場所があるってことも分かってきた。



 そしてたくさんお散歩してきたなかで、次にジオラマをつくるならこれって決めていた景色がありました。
  それがこの平塚市北部にある浮嶋稲荷神社神社です。真冬だとご覧のように丹沢の山々を背景にして殺風景なんだけど、暖かくなれば
こんもりとした小さな森のような感じになる。今、神社の周辺は畑と利用されているのだけれど、少し前までは田んぼとして利用されていたようで、
昔なら田植えの少し前なら、広大な水面に浮かぶ浮島のような感じだったんだろうと思う。そして秋、この浮島全体が彼岸花で赤く染まる。これが
この浮嶋稲荷神社のクライマックスです。



 制作にあたって現地取材しました。片っぱしから写真を撮ってきたのはもちろん、ネット上からも古い写真やドローン映像も入手した。5月の個展に
間に合わせるつもりなので、彼岸花の風景が得られたのも大きい。
  いろいろ考えて、作品の季節設定は9月の終わり、大雨の降った翌日、浅く水の張った畑に浮かぶ彼岸花の神社をつくろうと思います。
 現在参道はコンクリート舗装されていますが、これも少し前の未舗装状態を再現しようと思います。時代とともに少しずつ風景が変わってきているようですが、
このあたりの設定がいちばん美しいに違いないと思いました。


   1 ヒノキ材と5mm厚のスチレンボードからつくります。あとは写真を参考に直接設計図を
    ボード上に書き込んでゆく。
   

 ジオラマのベースは248mm×200mmです。ヒノキ材と5mm厚のスチレンボードからつくりました。なんでこのサイズになったかというと、最初につくったジオラマが
Nゲージで、そのサイズが744mm×200mmだったから、ちなみに744mmとはKATOの最も長いレール248mmの3倍の長さです。
 コンパクトに収納したり輸送しやすくするためには、作品のサイズは統一されていた方が良い訳で、それ以来248mm×200mmが基本サイズになったというわけです。


2 2mm厚と1mm厚のスチレンペーパー、厚紙などを
 使って高低差やあぜ道、畝などを表現します。
3 部分的に流し込み接着剤を垂らして溶かして荒らし、
 起伏をつける。
4 モデリングペーストで隙間を埋め、ジェッソ塗る。
 その上にさらに粘土を持って変化をつけます。


  5 茶色のアクリル絵の具で表面を着色。タミヤのテクスチャーペイントのダークブラウンを
   全体にのせます。
   

   7 NOCHの草を再現するための繊維と各種パウダーで、水没してしまうところに生えている
    背の低い草を再現します。
   


 今回はこの後、透明エポキシ樹脂の流し込みを行い、神社が水面に浮かんでいるかのような表現を行います。
 作業には樹脂そのもののほかに、計量用の電子天秤などが必要になります。

8 ジオラマの周囲にテープを貼り、透明エポキシが
 流れ出ないようにしてから 流し込みを行います。
9 表面張力で湾曲した部分を削り取り、KATOのリア
 リスチックウオーターで修正を加えます。

 透明エポキシは扱いが難しいところもあるので説明書をよく読むこと。あと全体を3回ぐらいに分けて流すと失敗が少なくなる。


   10 完全に固まったところで樹脂が浸透しすぎたところにパウダーをまいて修正する。
    (ごまかす)
   

 透明エポキシって浸透性が良すぎるので、ある程度扱いには慣れが必要です。
 とりあえずこれで水浸しになった田んぼと畑ができました。





 

 次は小島に建てられているものをつくる。このジオラマを製作するにあたり、現地に行っていろいろな方向から写真を撮っているので、
まずはこれをもとにして簡単な設計図をつくります。


11 スケッチに従って、つまようじをベースにして灯篭を
 つくります。
12 土台部分は1mm厚のスチレンペーパー、他にも
 手水舎をつくった。





 次は鳥居です。コンクリートでできた比較的新しいものです。
 この神社の創建は何時だったのか、そしてどういう所以でここにあるのか、その詳しいことは分からないけど、近くに道祖神のようなものがどんと
畑の中にあったりして、もしかしたら昔から祭事が行われるような場所だったのかもしれない。


   13 柱とスチレンぱーぱーを組み合わせ、その上から厚紙で
    挟み込むようにして鳥居を作ります。
     
出来上がった3つを組み合わせてみました。



 

 幅は2mほどしかないのだけれど、社殿は実にきちんとつくられています。
 このように全体がコンクリートで70cmぐらいかさ上げされているのですが、おそらくは湿気対策なんだろうと思います。
地べたに置くと湿気がこもって腐ったり、白アリにやられてしまうのは間違いないです。

14  社殿本体をつくります。素材は5mm厚のスチレン
 ボードとスチレンペーパー、厚紙です。
15 実物の画像をプリントアウトしてそれをカット、スチレ
 ンペーパーを芯にして賽銭箱もつくります。

 賽銭箱は3mm×2mm×2mmの大きさ。こういうものってつくっておかないと「なんで賽銭箱がないの?」って子供に聞かれることが
あるので手を抜けない。


   16 最後にMr.カラーで着色、最後に鈴につながる紅白の綱としめ縄を取り付けた。
   

 塗装はジェッソの下塗りから始まって、まずは濃いめの色で全体を塗る。そしてやや明るく調色した塗料で塗り重ねてゆく、そして最後に
ダークグレーでシミや雨だれ、白っぽいつや消し塗料でドライブラシ仕上げをする。ざっとこんな流れです。
  単色塗りだと深みがなく、完全におもちゃに見えてしまうので、ここは頑張りどころです。
 最後に鈴につながる紅白の綱(鈴は見えなくなるのでつけてない)、そして鳥居にはしめ縄を取り付けた。これだけでぐっとリアルな感じが
してくるのは不思議です。


   17 とりあずベースボードの上に置いて位置合わせをします。(接着はしない)
   

 雰囲気は出ているかと思いますが、よくよく画像をチェックしたら、実物よりもこのジオラマの方が境内はやや狭めなのでした。
  このあと神社の周りに植物を植えてゆけば完成なのですが、このジオラマ自体のストーリーがまだちょっと整理できていない、さてどうするか・・・。



 

 次はこのジオラマベースに様々な植物を配置してゆくという作業になります。
 実物を見て最初思ったのはどうして畑の中なのに「浮島」なんだろうなってこと。おそらくはその昔、このあたりはいちめんの田んぼで、
田植えの時期には水面に浮かぶ小さな神社に見えたのだと思う。ただ時代を経てコメの供給が過剰になってくると、畝が作り直されて
次第に畑に作り替えられていったんだろうなって想像する。
  まわりを取り囲む樹々のうち最も背の高いものは桜、そして秋になると彼岸花で境内はいちめん覆われる。
 このジオラマを作りはじめるとき、この風景がいちばん美しくなるのは、彼岸花に飾られた小さな島が水面に浮かんでいるような感じなんだろう
なってイメージした。そう、季節としてはもちろん秋、大雨が降って水浸しになった大地、神社の周りをたくさんの彼岸花が覆う・・・。これしかない。
  こういう風景は現実には見られないかもしれないけど、ジオラマに再現したいのは、自分がいちばん美しいと想像した瞬間です。


   18 地上部分にまずはタミヤのテクスチャーペイントを塗り水面との境界線にパウダー類をまきます。
   

  水面の反射がいいね。ここにいろんなものが写り込んだら素敵です。


19 草丈5mmほどのジオラマ素材を植えこんでゆく、
 もちろん彼岸花の見立てです。
20 変化をつけるため、右側はやや荒れた感じにし
 ます。こちらは100均のジオラマ素材です。
21 段差やつながりの悪いところは、パウダー類を
 いくつか混合したものをつめて違和感をなくします。

 秋の風景と決まれば話は早い。Amazon でいちばんそれらしいジオラマ素材をみつけた。(799円)
 これを神社の境内に貼り付けてゆく。もちろんこれだけじゃリアルな感じは出ないので、100均で買ったナチュラルモスマットとフェイクモスシートという
ジオラマ素材をちりばめて、それらしい草むらを作ります。 この2つは草丈5mmと3mmの緑色の繊維からできていて、これをランダムに配置してゆくと、
1/72スケールの空間ではそこそこリアルな感じに仕上がります。もはや自分にとっては必需品です。

   22 更にいくつかのパウダー類や繊維を少しずつまきながら、秋の草原を全体として再現します。
   

 背に低い草などは鉄道模型で使われるパウダー類にNOCH社の繊維状のパウダーを混ぜて表現をする。枯れた草や作物、まだまだ青みの残る植物、
背の高い低い、そういったものをこのパウダーや繊維の配分を変えて表現してゆく。 (接着は水で薄めた木工ボンド)
 この作業って、色の薄いところから始めて少しずつ重ねてゆく、何か水彩画を描いているみたいだなって感じました。


23 基本はwoodlandの樹木をばらばらにして使う。
 1本ある桜はオランダドライフラワーの切り貼り。

24 ジオラマ糊スプレーを吹いて、その上からグリーン
 のパウダーをまく。
25 余分なパウダーを払い落としてからジオラマに
 設置する。

 次は境内を囲む林を作ります。市販品をそのまま使うとリアルさに欠けるので、ジオラマ糊スプレーを吹いてグリーンのパウダーを振りかけます。これで
ちょっとだけリアルになる。
 この糊スプレーは初めて使ったけどとても便利。便利なんだけど広範囲に糊がまき散らされるので、あまり部屋の中でやりたくない。お掃除大変。




 ちょうど部屋に西日が差し込んだので、逆光で撮影してみた。実物もそうなんだけど、逆光の方が雰囲気出る感じです。
 拡大するとリアルじゃないって言われちゃいそうだけど、1/72という小スケールであることを考慮すればいい線だと思う。
 そして今、参道はコンクリートで舗装されているけど、やっぱり土のままの方がジオラマ的にはいいね。ほかにも多少違うところはあるのだけど、
このジオラマは一昔前の景色として完成させるのが良いだろうと思う。時代としては大正、もしくは昭和初期といったあたりかな。
 だから主人公もこの時代にふさわしいものを選ぶ。



 手元にあったたくさんのHOゲージ(1/87)のフィギュアから選んだのがこちら、どちらもプライザー製で、子供の方は水着姿の未塗装です。
 1/87スケールですが、日本人は西洋人よりやや小柄なので、大きさとしては1/72ぐらいに当てはまる。


   26 市販のフィギュアをベースにして、和服姿の親子につくりかえます。
   

  まずはデザインナイフで削りを入れて、エポキシパテで着物の裾や袖を形作る。微妙なラインは部分的に瞬間接着パテを盛って磨き、スムースに
ラインがつながるようにする。身長2.2cmと1.3cmしかないので工作と言ってもこのあたりが限界です。

   27 サーフェーサーを塗って磨き、平坦化したあと塗装をします。
   

 基本は顔の部分から塗装を始めます。このジオラマには白の和服が似合いそうなんだけど、白一色だと何か宗教的な感じになっちゃう。そこで適当な
柄を筆で書き入れてお揃いの浴衣と甚平に仕上げてみた。
 あとは背景にこのフィギュアをセットすれば完成です。





浮島稲荷神社
(神奈川県平塚市岡崎 小田急線「鶴巻温泉駅」から徒歩15分ぐらい)













 ジオラマサイズは25cm×20cm、ベースは木材とスチレンボード。
 起伏はスチレンペーパーに粘土を盛って成型しています。




 フィギュアはいずれもプライザ―製のものを加工して仕上げてあります。




 春、境内に1本ある桜が満開のときに訪れた。
 背景は丹沢大山国定公園の山々といちめんの田んぼです。



 神社や鳥居はスチレンペーパーなどによるフルスクラッチ。水面は透明レジンの流し込み。
 植物はNOCH、WOODLANDなどの市販品や100均で購入したものを組み合わせて表現しています。
 実物の写真を縮小して3mm×2mm×2mmの大きさの賽銭箱もつくりました。正面に書かれている文字は「心」。









「浮島稲荷神社 平塚」で検索を入れると、結構な数でその記事がヒットする。観光地という訳ではないのですがパワースポットとして知られていて、
思ったより訪れる人も多いみたいです。またネット上ではドローン撮影した画像なんかもUPされています。




 ただ現実にはこの作品は今を正確に再現した作品とは言えません。前にも書いたけど秋になって同じ風景が見られるということはないでしょう。
 今回の作品はリアルなものというより、自分のイメージした空間を表現することを目的に制作しています。
 今は周りは畑になっちゃってるけど、ちょっと前までは大山丹沢の山々を背景にした水田の中の小さな神社だったんだろうな・・・。そしてそこから
すすめて、今回は自分のイメージするいちばんきれいな時代や季節を選んでみた。







 季節は秋、3日続いた雨も上がり、ようやく秋の日差しが降り注いだ。若い母親と娘が何日かぶりで浮嶋神社を訪れる。
 降り続いた雨のために増水し、神社はまるで湖に浮かぶ小島の上に建っているかのよう。そしてその境内は彼岸花であふれていた。


  ジオラマってリアルよりイメージ、忠実な再現より思い出をよみがえらせられるような作品の方が作っていて楽しい。



2021.04
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Canon Powershot G7X  / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



サイトのトップページにとびます