eye4工房番外編
渋田川
5月の個展に向けて、おそらく新作としては最後のジオラマになるだろうと思われる作品作りに取り掛かりました。
こちらは伊勢原市の上谷地区を流れる渋田川です。ご覧の通り3月も終わりになると土手をいちめんの芝桜が覆いつくす風景を見ることができます。
600mほど続く芝桜の花道は90年ほど前に、この地区に住まわれていた方が、奥多摩から持ち帰ったものを植えたところから始まったと言います。
そして今ではたくさんの方々がこの芝桜の道を保存しようと頑張っている。
この芝桜の植えられていないところでも、いろんな花が植えられていたり、自然に生えてきたりでとってもきれい。そして澄んだ水面を散った桜の花びらが
流れてゆく様も清々しい。
集落の端にある「なかの橋」です。ここを境目にして今度は桜並木が続く遊歩道になる。
ここのところ毎年のようにここを訪れています。大げさかもしれないけれど、なんか生きててよかったみたいな気分になる。
ところがこの二年はというと、この景色を楽しむことができていない。 昨年は新型コロナの影響で、毎年行われていた芝桜祭りは中止、それでもすでに
育てられ始めた芝桜だけは開花していた。今年はというと、上のようにとても寂しい状況です。
でも こういう状況だからこそジオラマの中でこの風景を再現したい。
1 まずは画像をもとにジオラマ化する部分を決め、配置を決めます。
スケールは1/72、20cm×25cmのなかに、雰囲気を壊さない程度に様々なものをぐっと凝縮して配置したいと思っています。中心となるのは前出の「なかの橋」、
昭和9年に架けられた雰囲気のある橋です。
いつもはジオラマベースに直接、線を引いて配置を決めてゆくのですが、結構立体的なジオラマになるので、今回は設計図のようなものを描くところから作業を
始めています。
ポイントになりそうなのは、まずはV字型になった川と土手で、これは基本的に5mm厚のスチレンボードで組み上げる(A)。
川に下りてゆく階段も大切なアクセント、ここは土手にくぼみをつくり段差をつけるという工作をしなくちゃいけない(B)。
最大の難関は昭和9年につくられた橋で、緩やかなアーチを描いていてけっこう制作の難易度は高そう、ここはスチレンペーパーの組み合わせで切り抜けるしか
ないな(C)。
2 型紙をスチレンボードの上に置き、ピンを使ってその
配置を写してゆく。
3 ベースになるのはスチレンボード、これを型紙に
従って切断し組み立ててゆく。
4 細かな起伏は分割したスチレンペーパーを組み
上げ、多面体で表現します。
ベースの地形ですが、図面からスチレンボードを切り出す作業から始めます。1枚しか図面がないので、これを型紙として切り取ってしまうと、あとが困る。だから
スチレンボード上に型紙を置いてポイントポイントに画鋲を刺し、その痕跡をガイドに切り出すことにします。
それを 発泡スチロール専用接着剤で組み上げるのですが、 25cm×20cmのジオラマだったらスチレンボードだけでも十分な強度が出ます。合板を使った方が
更に強度は高いですが、作業性や正確性を考えるとスチレンボードの方が上です。
実際の細かな地形などは1mm~2mmのスチレンペーパーを細かく切って貼り付けてゆきます。慣れは必要ですがカット&トライを繰り返せば、この程度には仕上がります。
地形のつくり方としてよく紹介されているのが、丸めて固めた新聞紙の上に粘土を盛る方法とか、発泡スチロールを積み重ねて削ってゆく方法ですが、その正確さ、軽量、
材料を最小限にするという意味では、この方法が現時点でベストだと自分は考えています。
5 川に下りてゆく階段は丸太で作られているので、
ここは直径1mmのプラ棒を切断して形をつくる。
6 橋はやはりスチレンペーパーの組み合わせ。写真
から表サイズを割り出してパーツを作ります。
橋は緩やかなアーチがかかっているので、それは軽く湾曲の癖をつけた2枚のスチレンペーパーを張り合わせることで再現した、意外に簡単です。
あとは写真の寸法から橋脚や柱のサイズを割り出し、1mm~5mmのスチレンボード、スチレンペーパーから切り出してゆきます。 一つつけてはその乾燥を待ち、さらに一つつけては
の繰り返しです。だいたいこういうものって一気に片付けると痛い目に合う。
2日がかりで完成した橋、我ながら上出来です。建築模型としてならこれでもいけそうですね。
7 スチレンペーパーのつなぎ目をモデリングペーストで埋め、乾いたら全体にジェッソを塗る。
8 完全に乾燥したら、起伏がなだらかに連続していないようなところに、軽量な粘土を薄く盛って修正します。
スチレンペーパーはそのままだと粘土がつきません。だからジェッソを塗る、塗ってしまえばあとは何でもついてくれるようになります。
下地が乾燥したところで橋の下と川の部分をまず最初に仕上げてしまうことにします。橋を組み上げてしまうと、ここには手が届かなくなるので。
9 リキテックスのグレーを橋の下に塗り、乾いたところ
で雨だれや土汚れなどを描き加えてゆきます。
10 川底にはまずダークグレーを塗り、ブラウン系の
塗料で濃淡を付けながら塗り重ねる。
11 その上に小さなドライフラワーや鉄道模型用のパウ
ダー類を薄めた木工ボンドで固定してゆく。
それほど正確というものでもないけれど、透明レジンさえ流し込めば藻や川底の汚れがそれらしく再現できます。
12 透明レジンは少し濁った色に着色し、2回に分けて
流し込み作業を行います。
13 硬化した後、今度はKATOの「さざ波」を筆にとり、
少し振動させるようにして波の起伏をつけます。
。
流し込む透明レジンはそのまま使わない。まずは薄い緑に着色、ここに少量の赤を少し混ぜてやや彩度を落とします。
今回、透明レジンは2回に分けて流し込みました。1回で決めようとするとなぜかうまく行かないことが多い、まずは少量の透明レジンを流し込み、具合を見て残りを入れる
というのが賢い方法です。
14 路面の表現を行います。最初に質感を出し、次に塗装を行う。
路面は3種類あって、色だけでなくそれぞれ質感にも違いがある。右の県道はアスファルトで、そのまま何もしないでグレーで着色。橋の上は風化のすすんだアスファルトなので、
塗料を塗る前にペット用の砂+モデリングペーストを水で薄めたものを塗り、ざらつきを出しています。歩道は砂利が混じったコンクリートなので、着色を終えたあと、さらにこの上に
水で薄めた木工ボンドを塗り、ペット用の砂をまいて砂利が混じっている表現を加えています。
15 最後につや消し塗料を多く添加したタンを吹き付け
て荒れた感じを出します。
16 マスキングして白線をジェッソで書き込みます。
わざと掠れている感じにするのがポイント。
塗装はすべて同じグレー系なんだけど、質感の再現を行うことで時間j経過のようなものや、深みみたいなものが再現できます。
このあたりはぜひ時間をかけて行いたいところです。
さてここからは土手にお花畑を再現してゆきます。
2年前の渋田川の風景です。ちょうど芝桜祭りが行われていました。
桜と芝桜の風景が300mほど続いて、けっこうたくさんの人が訪れていた。
今回再現するのはこの集落の外れにある「なかはし」のあたりです。 もちろん芝桜はきれいなのですが、少し離れたこのあたりには、ご近所の方の植えたいろいろな
花や野草が可憐に咲いていて、自分はこちらの風景にも心動かされました。
17 全体をこげ茶色でまずは着色、道路との境目の
部分にテクスチャーペイント「草カーキ」を塗ります。
18 WOODLAND の FIN-LEAF FOLIAGE という樹を
ベースにして垣根をつくります。
路面との境界線には小動物用の砂と鉄道模型用の茶色のパウダーを混ぜたものを用意し、砂や土がたまりそうなところ(コンクリートの縁やくぼんだ所)に水で溶いた
ボンドで固定してゆくとさらにリアルになります。
垣根のつくり方ですが、WOODLAND の FIN-LEAF FOLIAGE という樹の元のようなものを、まずは細かくして帯状に成型します。そしてそこにKATOの糊スプレーを吹いて
緑色のパウダーをまぶす。これで生垣に近いものができあがる。
19 土手の植物の中心になるのは100均で手に入れたナチュラルモスマットとジオラマシートなどです。
これを適当な大きさに切り分けて土手に固定してゆく。
20 お花の表現はあちこちらら取り寄せたジオラマ素材に頼ることになりますが、これをごく自然に
配置する」というのがなかなか難しい。
とりあえずひととおりメインになる植物を配置したところです。 民家のある右側にはお花畑、県道の通る左側は自然な草原をつくりました。
ただこのままではリアルでも何でもない。
21 様々なパウダー類を混ぜ合わせたもので、その隙間を
うめてゆく。
使用するパウダーは鉄道模型用の明るい緑のパウダーと緑色のターフ、NOCH社の草原を表現するパイルを混合したもの。これらの配分やら色合いを変えながら少しずつ
隙間を埋めてゆきます。これで一気にジオラマが自然に見えてくる、もうで魔法のパウダーと言っても良いぐらい。
22 そして最後にKATOの桜の樹を1本立てます。
これでひとまず土手のお花畑の風景ができあがりました。
ただまだまだ完成度は低くて、出来としては60%といったところです。リアルな空間に見せるためには、更に手を加える必要がある。
リアルな演出をする小物類を追加してゆきます。
春先の「なかのはし」の風景です。集落の入口にあって標識や柵などの人工物があちこちに取り付けられている。
23 柵や車止め、標識などを、プラ棒、プラ板、真鍮線、金網といったものからつくります。
実物とは形状が若干実物とは違いますが、そこは作りやすさ優先で作業をすすめます。
標識は写真をプリントアウトしたものと真鍮線で、車止めは2.5mm径のアルミ線でつくります。金属に着色する場合は事前にプライマーを塗ります。
ジオラマづくりはいろいろ面倒なことが多いですが、その一つは材料集めだと思う。雑多な材料を数多く備えておかないと対応できない。だから数年に
一度しか使わないようなものを、ダンボールに大量にためておくってことが常態化する。ちょっと面倒、 ただこういうものを追加することで、俄然リアルな
感じになってくる。
24 取り付けた後に、サビや塗装の風化の感じをそれらしく加えました。
あと川の表面には軽くボンドを塗り、わざと桜の花びらをたたいて落として、流れゆく桜の花びらを表現しています。
25 道祖神などをスチレンペーパーとエポキシパテで造形します。
なぜ集落の外れの「なかのはし」あたりを選んだのかというと、道祖神なのかどうかも分かりませんが、このような神様が橋のたもとに祀られていたから。
26 橋同様、グレーやブラウンを塗り重ねて、歴史を経た感じに仕上げます。
こういうものがあると、やっぱり説得力のようなものが増します。
さていよいよ主人公の登場です。 この作品を作るのと並行して1/72スケールのアイテムを探していたのですが、そこで見つけたのがこの isetta という超小型の
乗用車のミニカーです。とっても可愛い。
実車は1953年から1955年にかけてイタリアでつくられていたもので、その後もあちこちでライセンス生産されていたもののようです。やる気満々でまずはこのミニカー
を分解、合わせるのはやはり1/87スケールのプライザ―のフィギュアです。
27 そのままでも見らないことはないですが、内装ではシートをピンクに塗装、シートベルトやカバン、本などを追加しました。
またオープントップになるので、屋根は畳んだ状態に作り変え、日本の軽のナンバープレートも追加しました。
28 フィギュアは手足を切断してエポキシパテで成形、瞬間接着パテでラインを整えて塗装しています。
isetta に乗せると、ちょうどオープントップから体を乗り出す感じに仕上がります。
さてここまでくれば、背景にこちらを配置してジオラマは完成です。
ジオラマの大きさは20cm×25cm、基本的にはスチレンボードの組み合わせで大まかな地形をつくり、粘土などで表面を成型しています。川自体は透明エポキシを流し込んで表現しています。
主役はホンウエルの1/72スケールのミニカー isetta です。
実車は1953年から1955年にかけてイタリアでつくられていたもので、その後もあちこちでライセンス生産されていた。まるでこのジオラマのためにあるみたいで、とっても可愛い。 このスケール
だと、ちょうど直径2cmの1円玉の上にのる。
合わせているのは1/87スケールのプライザ―のフィギュアで、エポキシパテと瞬間接着パテで成形しなおしています
ある心地よい春の日、1台のisettaが渋田川にかかる「なかのはし」に通りかかった。
奇麗な風景に、運転していた彼女も身を乗り出す。
植物はNOCH、WOODLANDなどの市販品や100均で購入したものを組み合わせて表現しています。
一番目立つ桜はKATOから販売されているもの。これを糊を薄く塗ったベースボード上で、あえてたたいて花びらを散らし、自然い散り始めたかのように表現しています。
橋は「なかのはし」と名付けられていて、昭和初期に建設されたものです。
この橋から下流にむかって、満開の桜並木が続く。
一方、上流に向かっては地域の方々が育てる芝桜の絨毯が続く。
上の画像はこのジオラマをつくるしばらく前のものです。
土手の芝桜は地元の方々のボランティアによるもの。毎年この渋田川では芝桜祭りが開かれ、多くの人々がここを訪れていた。そもそもは昭和45年ごろに(故)鈴木健三氏が
奥多摩から芝桜を持ち帰ったのが始まりとされ、それが愛好会などの発足により、今では600mもわたって彩られるようになったと聞いています。
しかしながらこの新型コロナの影響で、昨年今年と芝桜は植えられることなく、土手はとっても寂しい状況でした。
せめてジオラマの中では咲かせてもいいんじゃないかな、そう思ったのがこのジオラマをつくるきっかけでした。
2021.05
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Canon Powershot G7X / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10
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