nao のリメイク

                  唯一作ったことのある男の子を変身させる



<14年前につくった男の子>



 女の子の着せ替え人形はこれまでたくさんつくってきたけど、実は1体だけ少年のドールをつくったことがあります。


nao (オリジナル球体関節人形 47cm 2007)

 こちらは14年前に撮影したときのもので、「注文の多い料理店」というタイトルがついている。粗削りだけど、気合が入っている。もしかしたらいちばん人形作りを
がんばっていた時代かもしれません。

 いたずら好きな弟分をつくってあげようと、少し小柄に仕上げています。身長は47cm、市販の1/4スケールの洋服が着せられるようにボディの方は設計してあります。
 でも球体関節人形としては8作目、14年も前の作品なので、細かなところの完成度は今一つ。写真に撮っても、アップには耐えられないかな。だから今度はこの子を
現在の知識と技術で作り変えてあげようと思う。




ポイントになるのは、
A 貼り付けタイプのヘアーからウイッグに変更。同時にヘッドをアイの交換できるタイプに改良。
B 胴の部分を上下に分割し、腰関節をとりつける。また肘関節は二重関節にする。
C 破損しやすい手足のパーツはレジンキャストのものに置き換える。
D 全体にネオジムマグネットや鉄のビスを埋め込んで、マグネット仕様に変更する。
 (マグネットピアスがつけられたり、鉄の柱などを頼りに自立できる機能などを追加)


 これらの作業を行った後、若干のボディラインの変更を行い、最終的には肌の表面に透明層を形成して仕上げてゆきたいと考えています。
ばらばらにしてみました。



 よく頑張って作ってあるけど問題は少なくない。
 まずはちゃんと自立し、ポージングに困らないような関節に仕上げてゆくことが必要だなと思いました。
 この人形を作った頃って、自分がドールイベントやヤフオクに出品する少し前の頃なので、「売れる」とか「見栄えの良い」といったものより、自分が見て
「きれい」「可愛い」「かっこいい」みたいなものが優先されていたように思う。だから仕上げや精度は今一つなのだけど、ただ逆に魅力的に感じる部分もある。

 その後の数年間は売る目的で人形をつくっていた時期があって、そこから少し違う方向を向いてしまっていたのかもしれないな、そんなことを思ったりしました。
 結局、創作人形のブームも知らないうちに過ぎ去ってしまって、あれだけムキになって時間を費やしていたのは、いったい何だったんだろうってことになるんだ
けど、その時には分からなかった。
 やっぱりいちばん良いのは、自分がつくりたい作品や空間を素直に表現するってことですね。




 この作品を、今自分の持っている技術でつくりなおす。まずは手足と肘のパーツをレジンのパーツに置き換える。(型はオリジナル)
 粘土のままだと、遊んでいるうちに必ずと言ってよいほど、手足のパーツは折れてしまう。自分の場合には粘土だけでつくるという
こだわりはないです。

 リメイクのポイントの二つ目は関節の精度を高めることです。どうしても昔つくった人形は関節の完成度が低くてポージングに安定性がない。
関節に少量の木工ボンドを塗り込んで粘土を薄く延ばしぐりぐりとならしてゆきます。
 肘は単関節だったものを加工して、二重関節に置き換える。二重関節の肘パーツもレジンです。



 もともとはなかった腰にも関節を追加します。
 ひざの関節は球体でなく、楕円体の関節にします。これで膝が変な方向に回ってしまったりすることがなくなる。




 ひととおり関節を作り直して、再びテンションゴムでパーツを結びます。ゴムの長さはつなぐ距離の80%ぐらいです。
 関節をちゃんとつくれば、テンション低めでもポーズは安定し、摩耗も少なくなるので関節は傷みづらい。

 ときどき思うのは、なんで世のなかに出回っている人形は女の子が圧倒的に多いんだろうってことです。そして一方で、GIジョーに始まる
アクションフィギュアの方は男の子が多い。
 人形遊びの中で、人はこういった人形やフィギュアを知らず知らずのうちに分身として見ているのかもしれないな。
 空想の世界の中で子供たちは、自らがヒーローやヒロインになった世界を想像する。そしていつしかそういう想像をするのをやめてしまって、
大人になってゆく。
 そして自分が今やっていることも、もしかしたらずっと昔遊んでいた時の延長線にあるのかもしれない。





 ここで再びいろいろなポーズを取らせてみる。可動範囲が制限されていたり、動き過ぎたりするってことがあれば、調整しなくっちゃいけない。



 膝関節は少し直立ポーズがとりにくかったので、ホールをやすりで拡大する。こんな感じで、基本はテンションゴムでつないだまま可動域を
調整します。逆にホールを小さくするのであれば、瞬間接着パテあたりを使うとスムースにことは運びます。
 完全に調整が終われば、直立するのはもちろんのこと、横に向けってもポージングが崩れないようになります。




 ポージングさせながら今度はボディラインの確認をしてゆきます。別にこのままでも悪くはないのだけど、全体として華奢な感じなのと、関節部分を
もう少し絞ってメリハリをつけたいなと思いました。
 まずは腰回りに粘土を盛ってボリュームを出すことにします。記入された印は盛る粘土の量で、+2と書いてあれば2mm粘土を盛ることを意味します。
逆にー3とあれば3mm削ることになります。
 こうやって様々なポーズをとらせながら、ボディラインの調整プランを練ってゆきます。
 削るのはカッターその他の道具を使えばよいのですが、盛るためには下地塗料をいったん塗らないと、表面のコーティング剤が邪魔をして粘土が
くっつかない。今回の下地塗料はモデリングペーストを主剤にして、ジェッソを5%ほど混ぜ、更にリキテックスで肌色に着色したものです。
 あとはこれを塗りやすい状態まで水で薄めて塗る。これでごく普通に粘土を盛ることができるようになります。
 作業が一巡したら再び様々なポーズをとらせながら、削るところと盛るところをピックアップしてゆく。2巡目の作業は関節部分を絞り、メリハリある
ボディラインに仕上げてゆくのが中心です。




 3巡目は太ももからお尻あたりまでをメインにラインを整えた。こうやってみると、どこに手を加えたのかがよくお分かりいただけると思います。
 球体関節人形は、まずは固定ポーズの人形を作ってから切断して関節をつくるという方法が主流のようですが、こんな感じで先に関節をつくってから、
ボディラインを整えるという方法もある。
 一長一短はあるのかもしれませんが、ポージングを意識するのであれば、先に関節を完成させておく方が、自然なボディラインの人形をつくるには向い
ていると思います。



<フィールドライン>
 さてボディラインの修正は感覚的に行っているだけでなく、一応理論的な裏付けもあります。
 これは以前にも出てきたフィールドラインのおさらいからです。この考えは自分が何年か前に考案したもので、ドールのバランスを場の拡大と縮小で
説明しようというものです。



 上は akane という3年前につくったオリジナル球体関節人形で、現時点では自分のつくったドールの完成形の一つです。
 横に引かれている黄色いラインをフィールドラインと呼び、ドールのボディラインを説明する上での空間軸のようなものです。この akane の場合には
標準に近いのでストレートなラインです。




 こちらは2年前にリメイクした ayana という作品です。
このDOLLは手足が長く、頭部の小さめなモデルのようなボディラインのを持っています。それを表現すると上の画像の黄色いラインのようなイメージになる。
つまり標準より下方を大きく拡大して表現していますよ、という意味です。




 今リメイクが進行中の nao です。これはボディラインの修正がある程度すすんだ状況で撮影しています。
 今回のリメイクの目的の一つは、実はこのフィールドラインの考えで男の子のボディラインを考えてみるということでした。男の子と女の子は10歳ぐらい
になると、明確にボディラインの違いが出てくるのですが、女の子を基準に考えると、男の子は腰回りが小さく、そこから肩に向かって幅が広くなる、そして
頭部の大きさにはあまり違いはない。これを女の子を基準にしてフィールドラインに表現すると上のような感じになる。

 今回はフィールドラインを連続させるという考えのもとに、太ももに粘土を盛り、お尻は削って、バランスがとれるように腰回りを調整した(背中側に粘土を
盛った)という作業をしています。




 上半身です。フィールドラインは肩の部分で最大になり、頭部に向かって標準の幅に戻ってゆく。上の画像のように上側に向かって収束してゆくような
イメージになります。その関係でこれに直交する水平線(黄緑色)は下に凸になるように湾曲する。
 この黄緑色の線はこの画像上の水平線をイメージするもので、自分はこれをレベルラインと呼んでいます。だからこの線に対して平行ならノーマルな
状態、外側に上がっていれば吊り上がった状態ということになります。
 これを意識して、アイホールや唇をレベルラインに平行な状態(やや吊り上がった状態)に微修正しました。

 男と女の間には深くて暗い川がある、というのでなく(ちょっと古いか)、少しだけY染色体上の遺伝子がフィールドラインをいじっているだけ、というのが
自分のたてた仮説です。今回、ちゃんとした男の子が出来上がったら、最終的にそれを証明することになるとも思えませんが、遺伝学的に言えばY染色体
が男の子の特徴を出すために存在するというのは事実です。




 こちらはリメイク前の画像です。今回は丸みをもった、柔らかいボディラインに仕上がったのがお分かりいただけるかと思います。



<下地作りと塗装>
 造形が終わったら、下地をつくってゆきます。(これまでと同様なので、できるだけ簡便に書きます)
 ちなみに自分はパジコのプレミックスとプルミエを半々で混ぜた粘土を使っています。他の粘土でも同様な作業は可能かと思います。

1 粘土の盛りと布やすりでの磨きを交互に行って、表面を平坦化してゆく。
 造形が終わったと言っても、表面の凹凸はかなり残っているので、この作業は必須です。コツとしては「盛りすぎない」「磨きすぎない」ということです。もしたとえば
磨きだけで平坦化すると、せっかくつくったボディラインが細くなりすぎてしまう。だから盛りも磨きも6分~7分ぐらいのつもりで交互に繰り返す。そうすると当初の
ボディラインを保つことができます。あとはラインが整ってきたら布やすりの番手を100番からだんだん細かくしていって最後は240番ぐらいで磨く。

2 パジコのモデリングキャスト(旧イージースリップ)を水で薄めたものをスポンジにとって全体を磨きます。
 この作業を行うと表面の毛羽立ちが抑えられ隠れていた細かなキズが見えてくるので、粘土で修復します。再び布やすりでの磨きを繰り返すとつるつるになる。
あとモデリングキャストには粘土の表面を固くするという効果もあります。

3 モデリングペーストにリキテックスなどの水性アクリルで着色した下地塗料を塗ってゆきます。(上の画像)
 第一回目の塗布ではここに少量のジェッソ(5%ぐらい)を混ぜます。ジェッソは必ずしも必要ではないけれど、塗料の食いつきが良くなり、隠ぺい性もあるので、
特にリメイクの場合には入れた方が良いでしょう。
 この作業を3~5回ぐらい繰り返しますが、ジェッソが含まれていると、その粘りで磨きにくくなるので、ジェッソの含有量は状況を見て減らし、3回目以降は混ぜない
ようにします。

4 塗り終わったら、240番の布やすりで全体を磨きます。




5 仕上げにもう一度下地塗料を塗り、中目のスポンジやすりで仕上げます。
 自分の場合にはこの作業を上半身のパーツから始めて、少しずつ全体に放射状に仕上げるようにしています。特に関節部分の調整は慎重に行います。作業が
進む中、ネオジムマグネットを首の裏側に取り付けた。こうすると金属部分があればスタンドなしで壁などに立たせることができます。
このほか鉄のビスを耳たぶ、バスとトップの他、全部で10ヶ所に埋め込んでいます。これでマグネットピアスなどが簡単に取り付けられるようになります。




手足と肘はレジンパーツに置き換えています。これらについては粘土のパーツとは違う下地作りを行います。
1 中性洗剤でパーツを洗う。

2 中目のスポンジやすりで全体を磨く。(塗料の食いつきをよくするため)

3 全体にジェッソを塗る。

 ここまで行えば、以降は下地塗料がしっかりと固着するようになるので、以降は粘土のパーツと同じように扱うことができます。また下地塗料は切削が可能なので、
5回程度の塗布を終えた後、デザインナイフで爪のモールドなどを切り出します。
 最初につくったときも少し考えたのですが、おちんちんはつけないことにします。かわりにここにもネオジムマグネットを1つ埋め込んでおく。邪魔になったりすること
もあるし、下手につけて破損するのも面倒だし、必要になったらつければいいやってことです。(これまで必要になったことは、結局1度もなかった)
 下地作りと言っても、ときおりこまかな造形をやる必要もあるので手間がかかります。この下地作りだけでだいたい3週間ぐらいかかった。
(1日1時間ぐらいの作業だけど)

 次は塗装になります。基本はリキテックスのチタニウムホワイト、アンブリーチドチタニウム、ライトポートレートピンクをおおむね90:7:3ぐらいの割合で調色したものを
使います。この色合いはMr.カラーのキャラクターフレッシュNo.111とほぼ同じで、作業後のレタッチにはMr.カラーの方が使えるというのも何かと便利です。

1 基本色をまずは全体に塗り、乾いたところで更に上塗りする。これを3回程度繰り返す。

2 基本色にごく少量のブラウン系の塗料を加えたものを、水で薄めに溶き、これを陰影となる部分に塗ってゆく。(上の画像)人間の肌は透明感があるので、光の当たらない
 ところやしわのより安いところは、色素の関係でやや暗く見えるのが普通です。ただ画像からは茶色を混ぜた部分がほとんど分からないと思います。でも結果的にそのぐらい
が自然です。

3 基本色に少量の赤+オレンジの塗料を混ぜたものを関節部分に塗ります。関節部分は血管が集まるところなので赤っぽく見える。

4 全体につや消しウレタンクリアーを吹き付ける。

6 Mr.カラーのクリアーレッド+オレンジで関節周辺や肘膝、バスとトップなどの赤みを調整する。*) いったんウレタンクリアーを吹き付けるとリキテックスでの着色はできな
 くなる。赤みを増したといってもこの程度、これもよく見ないと分からない。塗装にコツがあるとすれば、ともかく薄く少しずつ重ねてゆくことだと思います。
 まずは関節部分を中心に肌の仕上げを行います。関節部分は塗料を盛りすぎると動かなくなり、足りなければ不安定になる。そこで最終的な緩さの調整をこのつや消しラッカー
スプレーで行ってしまうというのが、自分のやり方です。

7 関節部分をスポンジやすりで磨く。

8 関節の緩さを確認しながら、ちょうど良い厚みになるまで、吹き付けと乾燥を繰り返す。

9 関節の調整が終わったら五体それぞれをつなぐ短かなゴムを用意してつなぎます。こうすればこれ以降は関節部分に塗料がかかってしまうのをある程度防げます。 

10 再び高耐久ラッカーを吹き付けます。乾燥したら更に塗り重ねる、その繰り返しです。

 透明な塗料での吹き付けで注意したいのは埃の混入です。どんなに注意していても塗装膜に入り込むので、乾燥した段階で各パーツをチェックしてこまめに取り除く。
地味なんだけどこの作業が大切です。後になって汚れが見つかると、そこを削り取って最初からやり直すなんてことにもなりかねない。
とこかくこの工程は1種間ぐらいかけるつもりでやらないと良い結果は出ません。

 

 これが基本的な塗装を終えた状態です。レジン製のドールなら、ここでやっと素体が出来上がったという段階かな。



<コーティング>
 このあと最も忍耐の必要な段階に入ります。まだまだ肌の質感、特に透明感のようなものがないので、ここから半透明な塗装膜をつくってゆきます。



 そしてこの作業で使う塗料が、高耐久性ラッカースプレーのつや消しクリアー、そしてMr.カラーのクリアブルー、クリアーレッド+オレンジを半々にブレンドした
ものです。
 このあたりの塗料で透明層を形成しながら、血液の流れる肌の質感を出してゆきます。工程がちょっと複雑なので、こんな表にまとめてみました。



 一番下が粘土層で、順に上に行くにしたがって上層の塗装になります。今の段階は下から6番目、右の数字は吹き付ける回数になります。
だから全体では30回ぐらいの塗装を繰り返すことになります。
 そして塗装の都度、塗装膜に混入した埃とりを行い、ときおりスポンジペーパーの磨きを入れたりする、だから短時間では終わらない。

 


 つや消しクリアーの吹き付けを2回ほど行った後、クリアーブルーの吹き付けを行います。溶剤で薄めて極力、細吹きにする。表現としては分かりにくいでしょうが、
第二次世界大戦中のドイツ軍の夜間戦闘機の迷彩のような感じです。
  何でここでクリアーブルーなのかというと、オレンジ系の肌の塗装に対して青は補色(混ぜると黒になる)の関係にあり、塗装に深みのようなものが出てくる。
人形だけでなく、絵画の世界でも中世以降ずっと行われてきた手法です。(絵画では黒を使うことが多い)

 これをメロメロと薄く吹いてゆくと、何となく静脈の流れるようなニュアンスも出てくる。またつや消しクリアーを吹き付け、今度はクリアーレッド+オレンジでメロメロ
塗装を行います。

 

 見ての通り、ちょっと見ただけでは分からない、近づいて固視すると見える程度が丁度良いです。
 全体としては血液の流れを意識して、関節や膝肘、内股からお尻などの赤みを帯びているところに多めに吹き付けています。あとは全体に透明感が出るまで、
つや消しクリアーを吹き重ねてゆきます。
 つや消しクリアーの吹き付けを10回以上終えたところで、おそらくは透明層が0.5mmぐらいの厚みになっていると思います。ここまでやると、やっと肌に透明感の
ようなものが出てくる。

 クリアーの吹き付けが終わったところで、Mr.カラーで仮メイクを行います。薄く唇やアイホール、眉毛など必要最小限のメイクを入れてみて具合を見ます。
 手足の爪の輪郭を描くのもこの段階です。このあと保護効果の高いウレタンのコーティングを行うので、永久的な着色はすべてここで行ってしまいます。



 仮メイクが終わったら、艶消し材をたっぷりと添加したウレタンクリアーを吹き付けます。
 ウレタンは自動車の塗装にも使われるほど塗膜が強いので、傷に対する保護効果が高まります。またびっくりするほどきめ細やかでしっとりとしたつや
消し効果が得られるのもありがたい。
 デメリットは2液混合で吹き付け可能な時間が短いことと、器具の洗浄に手間がかかること。それから塗料自体のお値段が高く、入手しにくい、きれいな
つや消しが得られる一方で汚れがつきやすくなるなど、いろいろある。
 でも使いこなせば透明感のある肌の仕上げには欠かせなくなります。




<メイク>
。最終的なウレタンによるコーティングが終わって、透明感のあるきれいなつや消しの肌が仕上がりました。



 あとはメイクと組み立ての工程を残すのみです。
 細部に手を入れます。たとえば爪にピンク色を入れてクリアーでつやを出す。そしてすべてのパーツを点検して組み立てる。

 

 造形しちゃうと破損したりするので、あえてつくってなかったおちんちんですが、ないのも可愛そうなのでつくってみました。
 で、どうせなら、ちゃんとしたものをつくろうということで、こうなった。マグネット仕様なので、必要のないときには別のところに収納しています。

 さて、最終工程で最も時間がかかるのは、やはりヘッドパーツの仕上げだと思う。この作業だけでお人形の雰囲気ががらりと変わるので、
ここはぜひとも時間をかけたいところです。
 やることは3つあります。いろいろ考えはあると思いますが、自分としては次のような順番で仕上げてゆくのが良いと思う。

1 アイを選ぶ
 ・まずは瞳のサイズを選ぶ、次に色。最後に特徴的なアイの中から合うものがないか試してみる。
 ・アイの大きさに合わせてアイホールを調整する。

2 ウイッグを選ぶ
 ・まずは色を選ぶ、次に長さ。最後にウエーブとか、特徴のあるもののなかで合うものがあるかどうか試す。
 ・必要に応じてお湯パーマとカットを加える。

3 メイクを行う
 ・軽くメイクしてみた画像をPCに取り込み、それをもとにメイクをシミュレーションする。
 ・シミュレーションをもとに実際にメイクを行う。
 ・最後にUVカットのつや消しクリアーを吹き付けてメイクを固定する。

 こういったことは創作人形に限らず、スーパードルフィーをはじめとする様々な市販ドールでも同じようなことをすると思うので、参考になるかもしれません。



 アイとウイッグの選択についてです。お伝えするのはあくまでも自分の考えですが、手順や選び方って、整理がついていないと延々と悩み続けることになる。



 ではまずアイの選択からです。基本的には高価なグラスアイをそのために買って使うより、たとえ安価でも様々なサイズや色、タイプなど多種多様なものの
なかか選んだ方が結果として良いです。

  

 とりあえず適当なウイッグをかぶせて、デフォルトで入れていたパープルのアイを入れ直してみた。違和感などなく、それなりに似合っていると思う。
 それよりも小さなグリーンのアイ(左)と大きめのグレー(右)を入れて画像に撮って比較する。
今回はやや小さめの方が断然良かった。瞳は少し大きい方が可愛く見えるという話は時々聞きますが、やはり限度というものがある。あまり大きいと瞳の奥に
まで外光が届かず、瞳が暗く沈んでしまうことになります。
 また正面から光を当てるだけで判断するのもアウト。画像は正面やや上方からの光ですが、正面から上下左右60度ぐらいの範囲でも瞳の奥まで光が入る
ようにするのが理想です。

  

 サイズ的なものがはっきりしたら、今度は色を変えてみる。
ここでは3種類の画像しか出していませんが、実際には10種類ぐらいで比較しました。彩度の高いものは派手で明るい感じになるけれど、リアルな雰囲気に
持っていきたいときには違和感を感じる。淡いものは瞳の奥にまで光が届きやすいので、大きめのアイをどうしても使いたいときには有効です。
 但し正面からの印象は薄れる傾向にある。ここまでの結果からすれば、デフォルトのパープルか小さ目のグリーンかな。

  

 ウイッグの方ですが、長さはあとでどうとでもなるので、基本は色選びです。男の子ってこともあるけど、黒、あるいはチャコールグレーぐらいが良い。
試しにブラウン系のものも使ったけど似合わない。




 ここまででとりあえずウイッグは黒で確定、アイは暫定的に小さ目のグリーンにに決めて作業を続けます。



 アイが決まったら、アイのサイズに合わせて瞼の裏側を極力薄く削る。
 これは先ほどの話にもあったように、少しでもグラスアイの奥まで光が届くようにするためです。人間の場合、瞼の厚さって2~3mmぐらいかな。これを
1/3スケールに当てはめると1mm以下の厚さにしなくちゃいけない。
 もし瞳が暗く沈んだ感じになって困っていたら、瞼を薄くするか、睫毛を細く短いものに変えるとよいと思います。
 あとアイの選択肢として、こちらの淡いグレーを残すことにした。瞳孔がブラウンでちょっとインパクトがある。メイク次第で化ける可能性がると思った。





 こちらは1月前の無塗装状態の nao です。イメージとしては12歳ぐらいの少年のイメージでつくっています。こちらは前に説明したフィールドラインと
レベルラインを書き入れたものです。
 レベルラインが湾曲しているので、以前にも述べた通り、目や眉毛、口といった顔のパーツは外側に向かって、やや吊り上げて配置しています。




 このレベルラインを意識しながら、上の画像をPC上で加工しメイクのシミュレーションをしてみました。最低限のものしか描かれていなかった状態から、
アイラインを強調、眉毛を太く書き入れ、口元や頬にメイクを加えてみました。



 こんな感じで外側に向かってやや吊り上げる感じで表現するのが、男の子の基本的な造形やメイクだと自分は理解しています。




 今回試してみたかったことは、このフィールドラインを上に向かってほんの少し発散する方向でメイクできないかということ。つまりボディラインとのつながりで
考えるなら、少し女の子よりの仕上げをするということです。基本は男の子の造形なんだけど、最後にこういうニュアンスを加えたら、少し危ないような感じになって
面白いかと・・・。



 変更点は眉毛の角度や目尻の方向性、口元などです。



 さっそくPC上でシミュレーションしてみました。顔のパーツはもはや動かせませんが、眉毛やアイラインは、外に向かって下に流れるような感じにまとめ、
頬から顎にかけてはシャドウを入れて、顎を小さく見せるようにした。
 あと頬も赤くしたけど、これはやりすぎかな。
 ちょっと女の子に振りすぎたとは思いますが、こちらの方が優しい感じにまとまるのは明らか。これを少し抑えた感じで、実際にメイクすることにしました。




 こちらはメイクを終えた実際の画像です。シミュレーション画像よりおとなしく、ナチュラルメイクで仕上げたつもり。使ったのはMr.カラーと人間用のチークや
シャドウです。まとまりは悪くないけど、あとは髪の毛を何とかしなくっちゃね。



 ウイッグは一回り大きいものでしかも外側に広がるような癖毛、だからこれをお湯パーマでまとめてゆくことにします。
 自分はそのために特別な道具は使いません。沸騰からやや温度を下げたお湯を少しずつ垂らし、その直後にタオルで抑えてカーブを整えてゆく、その繰り返しです。
ただ使うポットはコーヒーを入れるときの、口の細いものが良いね。 乾いたら適宜ヘアーをカットします。ウイッグの被さり方で顔の形が変わってしまうので、気に入らな
かったらお湯パーマは何度でもやり直した方が良いです。顔の輪郭をまとめるイメージは普通の卵型です。



 とりあえず第一段階は終了です。かわいい男の子というか、ボーイッシュな女の子。でもどこかに本当に居そうな感じ、それが良いんです。




 これをPCに取り込んでじっとしばらくながめていると、修正した方が良いかなと思われるところが出てくる。
 実物そのものをながめて判断すると、どうしても思い込みや先入観のようなもの、あるいは本能的な判断が働いて冷静に見ることが出来なくなる
ことがあるように思う。ここはPCに画像を取り込むことでより客観的な判断ができるので、ポイントポイントでは必ず行っておきたいところです。
 そして再びシミュレーションです。
 気になる点は3つあります。向かって左側の眉毛がやや薄く、理想のラインよりやや吊り上がっている(A)。右側のグラスアイの視線を少し上に
向けたい(B)。シャドウやチークはもう少し濃くても良いかもしれない(C)。



 これはPC上で修正のシミュレーションを終えたところです。自分の場合、この修正にはGIMPという画像処理のアプリで行っています。大きな修正では
ないので劇的な変化はないけれど、ちょっと全体として落ち着いたかなという印象です。
 シミュレーションをもとにして実物を修正します。
 そして最後につけまつげを上瞼に貼り付ける。一般には瞼の裏側に睫毛を張り付けますが、これだとその分グラスアイが奥に行ってしまうので、
自分は瞼の上の縁に上向きに貼り付けます。ちょっとしたことですが、瞳の奥にまで光が届くようにするためには、必要な配慮です。



 さてこの段階で「化けるかもしれない」と思っていた薄いグレーのグラスアイを入れてみたら、こちらの方が似合っている。
 アイホールを微修正してアイを入れ直します。ここから先はPCに画像を取り込んでシミュレーションしても、変化が微細すぎて画面上では分からないので、
気になる点を見つけたら自分の観察力を信じて微修正するという繰り返しになります。

 このあと手を加えたのは5か所ほどになります。
頬に0.5mmぐらいの不自然な窪みがあったので、これを埋める(A)。
鼻の脇の部分のモールドが甘くなっていたので、深く掘り直す(B)。
鼻の左側に微かなふくらみがあるので削る(C)。
鼻下の縦のくぼみを削り直す(D)。
下唇がやや左右に大きい感じがするので削る(E)。

 

 この段階で埋めるという作業が必要になったときに使うのが、瞬間接着パテという素材です。固まると半透明の薄いピンクになるので具合が良い。
厚さが0.5mmぐらいまでなら下地が透けて見え、ペーパーをかけてしまうと修正箇所に気付かないぐらいです。
 ここまでの作業はさらっと進んだように見えちゃうかもしれませんが、実際にはじっくり観察しては少しいじっての繰り返しで、何日もかけてここにたどり
着いています。こうして気になる点がなくなるまで作業を続ける。



 一夜明けてこのヘッドの前に座ったら、ドキッとした。何か見つめられているような感じがしたので。
 もう修正点もなさそうなので、これで完成かな・・・。





 さてこちらは14年前の当時の完成画像です。これがどれだけ変わったかは以下の画像でご確認ください。







nao
オリジナル球体関節人形 47cm 2007 mod.2021
主材料はラドール、その他ウイッグ、グラスアイなど。塗装はリキテックス、Mr.カラーなどで着色した後に高耐久ラッカー及びウレタンでコーティング。




 サイズ的には volks の MSD などと同等の1/4スケールなので、同サイズの市販の洋服を着せることができます。
こちらは自分が14年前に制作した唯一の男の子の人形です。





 今回のリメイクのポイントは関節の精度を上げたことと、全体的に柔らかい感じのボディラインに見直したこと。そして最後に少しだけ女の子のようなメイクで仕上げたことです。
何か少し危ういような感じに仕上がりましたが、これも意図したことではあります。





























2021.11
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm  / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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