eye4工房番外編

遠藤原「雪景色の門出」





<遠藤原>

 「風の谷のナウシカ オームとナウシカ」(1/20スケール)のジオラマ制作も終わったので、次のジオラマのテーマを探すことにした。
 基本ジオラマをつくるって言うことは、まずはそこに再現したい何かがあって、そこから一部の空間を切り取り、自分の能力でそれを
再現できるかどうかってところがポイントになってくる。
 やっぱり今再現したいのは、田舎の懐かしい風景だなあ・・・。
 そしてよくお野菜を買いにゆく、平塚の遠藤原のことを思い出した。



 

 丘陵地帯を切り開いてつくられた広大な畑。ところどころにきれいな花。そして歴史ある集落。
 どこもそれなりに画になるのですが、切り取り方が難しい。これらすべてを表現するのなら、たとえ1/150のNゲージサイズでも1m四方は
欲しいところです。
 悪くはない、悪くはないんだけど制作には1年かかっちゃうかもしれない。いや何十軒という家をつくり、フィギュアを配置すると、もっとかかる
に違いない。



 そこで考えたのが、全体ではなくこの地域を代表するような雰囲気のある場所を選んで再現することです。
 こちらは集落の中心に続く細い農道で、片側にはご覧のような蔵、そして道を挟んで反対側には畑という場所です。ここだったら、生活感のある
風景を再現できるような気がするし、何か演出したくなるドラマが生まれそうな気配もある。





<製作>

   1 ベースボードを角材と5mm厚のスチレンボードから
    つくります。
   

 早速、この農道周辺をジオラマにすべく、ベースづくりに入ります。大きさは20cm×11.5cmと、これまた極小です。
 ベースボードを組み上げるときには100均で購入したハタガネが役に立つ。それにしてもよくこの値段で販売できるな・・・。




 画像を見ながらいろいろと考える。秋、収穫の時期、紅葉が始まる、農閑期、秋祭り、いろいろとイメージは膨らんでくる。
 今回はそれらのなかからポイントをいくつか選んで、この小さい空間に再現してゆこうと思う。だからイメージとしては100%リアルな空間というより、
「昔どこかで見た風景」という感じかな。
 スケールは1/72、そして今回もまたプライザーのフィギュアにお世話になるつもりです。

2 画像を見ながら、イメージをスチレンボードの上に
 表現してゆきます。
3 スチレンペーパーで起伏をつくり、段差は表面に
 モデリングペーストを塗ってなだらかにする。
4 2mm厚のスチレンボードから蔵をつくっているとこ
 ろです。扉は開閉可能にするため別パーツです。

 現地で撮影した何枚かの画像から、ベースボード上に何をどう配置するか検討します。そしてこの蔵の簡単な設計図もつくりました。
 蔵そのものは2mm厚のスチレンペーパーをカットして組み立てます。扉の取っ手は手芸用の金属パーツから、窓枠は0.5mm径のプラ
の角材からつくります。

5 窓や扉があるので、少しだけ蔵の中にありそうな
 ものをつくって配置してみた。
6 屋根をつくっています。こちらも角材とスチレン
 ペーパーが材料です。

 こうやってみると、完成しちゃうと蔵の中のものはほとんど見えなくなる。だったらつくらなくてもいいんじゃないのって声も聞こえてくるけど、
こういうところは自己満足50%、気づいて感動してくれる人への期待度50%でつくっています。

7 プラ棒にエポキシパテを巻いて、木でできた昔の
 電柱をつくります。
*) こうやってコロコロ転がすようにパテを巻いてゆ
 くときれいに巻けます。

 あともう一つの構造物というと電柱で、これは2mm径のプラ棒にエポキシパテを巻いてつくりました。実物はもっと複雑な形状をしているのだけど、
ここは素朴な感じのものが似合うと思って脚色しました。




 とりあえずこの2つだけをベースボードに配置してバランスを見ます。
 うん、良い感じ。
 で、ここで思ったのですが、このまま真っ白いベースのままで作業をすすめても良いかなと。もともとは秋の風景で仕上げようと思っていたのですが、
雪の積もった朝の風景を想像したら、更に良い感じに仕上がりそうな予感がした。



8 雪の積もった丸みを帯びた感じを出すために少量
 の粘土を盛って起伏をつけました
9 変化をつけるため、草を表現するファイバーを撒く
 ことにします。何種類かブレンドするのが良い。
10 糊を塗り、上からスタティックアプリケーターに入
 ったファイバーを撒きます。

11 変化をつけるために、少量の糊をファイバーに付け
 て、今度は細かなターフを撒きます。
12 ドライフラワーのなかから、背の高い草に見える
 ものを選んで所々に接着します。
13 Green Stuff World の灌木を長さおおむね3cmに
 切りそろえ、接着剤でまとめて垣根をつくる。

 このまま真っ白な風景として仕上げるのもアリですが、草で変化をつけると更にリアルになる。
 ここで登場したのはスタティックアプリケーターという道具です。静電気を発生させ、ファイバーを立たせて草原に見立てるための道具です。
amazonで3000円台、中国から直接取り寄せるとだいたい2000円ちょっとで手に入ると思います。

 草むらの作り方はこんなところです。
1 草の根元になるところに(雪の積もらないところ)、タミヤのテクスチャーペイントを塗って土を再現する。
2 乾いたところで上から糊を厚めに塗り、上からスタティックアプリケーターでファイバーを撒く。
 ファイバーはおおむね5mm~10mmの比較的短いものを数種類混ぜて使っています。ファイバーには15mmぐらいの長いものもありますが、きれいに
立つのは10mmぐらいまでで、それ以上長いと寝てしまうものが多くなる。
 但しこれだけだと、つんつんしたものばかりでリアルに見えない。そこで次のような変化を加えます。
3 ボンドを水で薄めたものを、草の表現を加えた部分にさっと塗り、上から枯草色のターフを振りかける。
4 ストックして植物素材のなかから、穂ある植物に見えるものを選び、これをところどころに接着してゆく。

 リアルな空間をつくるためには、できるだけ多くの素材をそろえておいて、その中から適当なものを選んで使うというのが、やはり基本です。



 ちょっと良い雰囲気に仕上がった。
 但しこのままでは少し寂しい感じもするので、アクセントになりそうな小物類を追加することにします。


   14 ストックしておいた材料から、お地蔵様や
    道祖神などをつくります。
     

 実はこの場所にこういったものは置かれていないのですが、雰囲気重視で追加します。実際、集落のあちこちに置かれていので、この場所を
知る人でも違和感を感じることもないでしょう。
 素材となるのは1/150のフィギュア(amazonでは100体で1300円ぐらいで売られているもの、かろうじて人の形をしているというレベル)、あとは
エポキシパテを丸めてつくる。

   15 あわせて雰囲気を盛り上げるようなアイテムを制作してゆきます。
   

 左下はエポキシパテでつくった干柿。このほか地面に転がっていそうなものをジャンクパーツから作りあげる。
 ちなみに右上の柿の木はオランダドライフラワーを加工して枝をつくり、これを1本にまとめたものです。




 これをジオラマベースに配置したのが上の画像です。お地蔵様は道の脇に配置します。このあたりは集落の外れにあるので場所的には
ぴったりの感じです。
 このジオラマは積雪した状況を表現しているわけですが、ここからは方角を考慮して作業をすすめたい。リアルというのは本物に近いという
意味と、ある種の説得力のある表現だと思う。
 画像では右側から光を当てていますが、この方角が南になります。(赤い矢印)


   16 透明なランナーをライターの火で引き伸ばして、つららの表現を追加します。
   

 つららができるのであれば、もちろん北側、透明なランナーを加熱して屋根から垂らす。


   17 モデリングペーストとタミヤのテクスチャーペイントで雪を表現します。
   

 現状は紙粘土むき出しの状態なので、雪の表現を加える。
 北風にのって雪が舞い降りてきたというイメージでモデリングペーストを置いてゆきます。風を受ける側は多めに盛り、反対側は少なめ。

雪の表現については3種類の素材を使うことを考えました。
1 モデリングペースト  白い石灰質の画材で扱いやすく、比較的に安価。べたっとした感じなので、水分を多く含む雪の表現ならそのまま使える。
2 タミヤのテクスチャーペイント「粉雪」
 主材料はモデリングペーストと同等だと考えられるが、細かな石英砂のようなものが多く含まれ、粒子性を感じる
3 KATO「深雪」KATOからは様々な素材が出ているけど、これは輝きを持つファイバーを含んでいる。太陽光の当たるゲレンデならこれがベスト
でしょう。
 自分としては雪がようやくおさまった静かな朝をイメージしたので、ひととおりモデリングペーストを塗った後、テクスチャーペイントを表面に塗り
重ねて雪の粒子感を出すことにしました。
 しんとした感じ、そして少し震えの来そうな空気の冷たさが感じられたらいいな、と思ってつくってました。




 そして実際の遠藤原というところはというと、もちろん太平洋側なのでほとんど雪などは降りません。
 他の地方同様、昔はけっこうな降雪もあったようなのですが、近年は全く雪を見ない年もある。




<フィギュア>
 とりあえずこれにてジオラマベースは完成、いよいよ主人公の制作にとりかかることにします。
 自分としてはこのジオラマを、大正から昭和の初期にかけてのイメージで作りあげてゆこうと考えています。

   18 プライザーのフィギュアを加工して二人の子供をつくります。
    

 ストックしておいたものの中から、HOゲージ用のものを2つ選んだ。
 いずれもプライザーの製品ですが、男の子の方は腕の形状がイメージと合わないので、他のキットのものを流用することにしました。
エポキシパテで接合部分を成型し直した後、凧などの小物類を追加、着色して完成です。
 もう一体はお使いに出かけた和服姿の女の子で、こちらも袖などをエポキシパテで成型して着色しました。

 お分かりのように、作品は現代でなく明治の終わりから大正あたりをイメージしたものになる予定です。
 本当はもっと緻密に仕上げたいところだけど、身長が2cmしかないとなかなか顔の塗り分けまでは厳しいです。でもジオラマが完成する
までには、もう少し手を加えると思う。


19 真鍮線を加工し、ハンダでつなぎ合わせ、リヤカ
 ーのフレームをつくります。
20 車輪はプラ棒とプラペーパーでつくります。車輪
 は直径5mmのパンチで抜きました。
21 リヤカーに乗せる予定のタンスやケースなどを
 スチレンボードからつくります。

 次のフィギュアの制作に入る前に、少し大きなアイテムをつくらなくちゃいけない、大きいと言っても2cm×3cmの大きさのリヤカーですが。
まずは0.5mm径の真鍮線をハンダでつなぐ、これが今回一番難しい作業かも。



 2日がかりでここまできた。最後にちょっとだけ雪を荷物にまぶしてあげると雰囲気が出てくる。



22 プラーザ―のキットから3体を選び、イメージに合
 わせてカットし、成型する。
23 造形の基本はポキシパテ。できてしまったキズ
 などはタミヤパテで平滑化する。

 子供二人に続いて、主役になる3人の大人をつくります。着色済みの市販品などないから、プライザーのホワイトフィギュアをベースにして
作り変えることにします。身長は2.1cmから2.2cmぐらい、ほぼ1円玉の直径に等しいです。
 こいうときに使用できるものというと、このプライザー社の製品か、またはミリタリー関係のプラモのフィギュアということになるいと思う。
 自分がよく水着姿のプライザーを使うのは、老若男女、様々な人物がパーッケージに入っていることと、基本、裸に近いので、ポーズを変えて
パテで形を整えるという作業がやりやすいからです。



 Mr.カラーで着色したところです。真ん中のお姉さんは花嫁姿、文金高島田のつもりではあるけれど、そこまでの再現はなかなか難しい。あとは
母親と兄の3人がこのジオラマの主役です。
 もうここで完全にネタバレしてしまったけど、今回は少し前の時代の嫁入りの日を再現しようとしているわけです。
 雪の降った翌日の婚礼なので、揃って黒い長靴というのが塗装のポイントかな。



 あとは兄のフィギュアをリヤカーと接着する、実はこの作業が大変難しかった。もちろんこれは夜逃げとか引っ越しとかではなく、嫁入り道具の運搬です。


 

 完成する一歩手前で、全体を見直す。
 電柱には片側だけに雪がついているような表現を加えた。こうすると昨夜少し吹雪いて、どちらから風が吹きつけたかが分かる。
 集落の外れのお地蔵様、なぜか5つしかつくらなかったので、一つ追加して六地蔵にした。




<完成画像>

 こうしてめでたく新しいジオラマが完成しました。






 雪の止んだ日、昼からの挙式と披露宴に向けて出発する家族を主人公にして制作してみました。時代はおおむね大正から昭和の初期と
いったところをイメージしています。
 このころ、地方では嫁入り先で挙式や披露宴が行われることが多く、ときおりこういった風景を見ることができたようです。
 先頭には新婦とその母親、そして嫁入り道具を満載したリヤカーを引く兄、そしてそれを見送る集落の子供といった登場人物を配置してみました。




 嫁ぎ先に向かう途中、一行は集落の外れにある六地蔵とお稲荷様の前を通る。その存在に気付いて歩み寄る新婦。
 おそらくは次の瞬間、彼女は手を合わせ一礼して立ち去る。
 心によぎるのは新しい生活に喜びと少しの不安といった感じかな。

 ジオラマサイズは25cm×12cm、スケールは1/72,フィギュアの身長は2cm程度という、かなり小さいジオラマです。




 父親亡き後、一家を支えてきたのはこの兄。今は黙々とリヤカーを引く。
 フィギュアはプライザーのホワイトボディを利用、リヤカーや荷物は真鍮線やスチレンボードから制作しています。このほか地面や建物なども
基本的には手作りしています。







 つららや生垣、電柱についた雪などが、このジオラマのポイントで、「寒そうだな」って感じていただければ、制作者としては嬉しいです。



 やっぱり蔵の中は何も見えなくなっちゃった。



 見送る子供たち、いつもと違うお姉さんの姿にきっと驚いたに違いない。









今現在、こういう嫁入り風景を見ることはできないと思いますが、ちょっと前まではこれが当たり前だった。
よく見る「ぽつんと一軒家」を見ていてこのシーンを思いつきました。




 モデルにした実際の遠藤原の道です。
 もしかしたら昔、この道でもジオラマのような風景が見られたのかもしれないね。





2022.01
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Canon PowerShot G9X mk.2  / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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