大山詣り





2021.12.30
 今回のお散歩旅は、江戸時代には全国から毎年20万人が訪れたという、大山詣りの道をたどる旅です。場所としては平塚北部から、伊勢原市の
大山ケーブル麓駅あたりまで、おおよそ10kmぐらいを歩きます。



2021.12.30 THU 天気:晴れ
8:55
 今回の旅は小田急線の鶴巻温泉駅にある延命地蔵尊からスタートします。まわりは主に住宅街と小さな商店街、遠くに田んぼといった感じの、
一見よくある地方都市といった感じです。



 こちらがその延命地蔵です。高さ3mを越える大きなお地蔵様で、江戸時代の中期に江戸の商人が米寿の祝いを記念し、私財をなげうって造立したもの
といわれています。なぜここに江戸の商人がお地蔵様を建てたのかというと、この時代にはいわゆる大山詣りが盛んに行われていたからだと考えられます。
 大山とは神奈川県の丹沢大山国定公園のいちばん東側にある信仰の山で、大山詣りにやってくる人々は江戸からだけでも10万人(当時の江戸の人口は100万人)、
全国では20万人以上と言われています。


 

 すぐ近くには樹齢600年の立派な大ケヤキ、右側はいかにも村の鎮守様といった感じの落幡神社。ほかにも古くて立派なお寺もあったりするので、この
鶴巻温泉に立ち寄る人はかなり多かったと思います。


 

 住宅街にある灯篭の礎石、大山を訪れる人が多かった夏場に灯を灯し続けていたと伝えられます。
 右は田んぼの真ん中にある道標で、「右 大山」と書いてある。



 江戸からのルートはいくつかあったようですが、おそらくはそのいちばん南側からのルートが、今回歩く平塚から鶴巻、そして比々多を経由する古道です。




9:25
 できるだけ曲がりくねった細い道が古道である可能性が高いので、googleマップでできるだけそれらしいところを歩き続けると、ときおりこんなタイムスリップ
したかのような風景に出会える。
 こちらは串橋というところの諏訪八幡神社(創建等は不祥)。なぜかここだけ電柱が木製というのも趣があって良い。



 向かいの妙蔵寺はこれから向かう大山の末寺であったと推測されるお寺で、創建は平安末期に遡る。
 普通に車で新しい道を走ってしまうと気づかないけど、探せば大山詣りの面影や、もっと古い時代のものもまだまだ残っている。




 表通りに掲げられている看板、高山とは伊勢原市長、黒岩とは神奈川県知事、通称この通りは「謝罪ストリート」というみたい。




9:45
 国道246号線にかかる歩道橋から大山方面を望む。少し開けたところからは、きれいな三角形の山容が良く見えます。

 

 国道246号線と交差するあたりから先が、旅人を迎える茶店などが並んでいたところだと言われています。この細い道が昔はたくさんの大山詣りの人々で
賑わっていたわけだ。
 左手にあるのは「御菓子司新店」という和菓子の老舗で桔梗モナカが名物です。自分たちも買いました。

 

 ちょっと先にある「吉川醸造」、お酒の銘柄は雨降と菊勇、しっかりとした味わいのある良いお酒を造っています。
 そしてお散歩旅のまだ序盤だというのに「雨降 かすみさけ」を買ってしまいました。帰ってから飲んだのだけど、微炭酸で爽やかな甘み・・・、あ、お正月用に
取っておけばよかったと、飲んでしまってから思った。 (今回のお散歩旅は12月30日のこと)
 ちなみに「雨降」とは今向かっている大山の別名で阿夫利山とも書きます。
 とりあえずこんな感じで、大山詣りの人たちもたくさんのお土産を買ってしまったんだろうね。


 

10:05
 こちらは比々多神社です。大山そのものをご神体として、神武天皇の天下平定の際に建立されたものと伝えられています。もしこれが事実であるならば
建立は紀元前655年となり、比々多神社は東日本では最古の神社ということになるそうです。
 そして神社の裏側には古墳と縄文時代中期のストーンサークルがある。
 そもそもこの場所では、縄文時代より大山を信仰する原初的な山岳信仰があって、ストーンサークルはその祭祀遺跡だったと考えられているみたいです。
それが本当なら神社の起源は1万年前に遡ることになるのですが、ちょっとすごすぎるかも。



 この周辺は古代から何かとても神聖な場所だったみたいですね、それだけは間違いない。




 少し進むと新東名の工事がすすめられている。ここではちょっとした違和感のようなものを感じざるを得ない。
 もし皆さんが新東名の伊勢原あたりを通ることがあったら、橋脚の周辺にはとっても古い歴史のある地域があるってことを、ちょっとだけ思い出してほしいかも。
このあといくつもの観音様やお地蔵様、道祖神、古墳などを眺めながら大山に向かいます。





 

10:50
 途中、小さいのだけど、とても立派な社の前を通りかかりました。
 こちらは比比多神社(子易明神)といい、創建は天平年間(740年前後)。子宝安産の守護神を祀る神社は日本ではけっこう稀な存在なのだそうです。


hitomi (TBLeagueS45のヘッドをリメイク 26cm 2020)





 古い狭い道に並行して、通行量の多い新道も通っている。
 でももちろんそちらを歩くつもりはない。曲がっている道を選ぶのがお散歩旅の常識です。


 

 諏訪神社とその前から見た風景です。少しずつ上り坂が急になってゆく。
 ここで通りの右手の家でお掃除をしていた方から、「休んでゆかれますか?」と声がかかった。何でもこちらでお接待をされているそうで、親切なおもてなしが
とても有難かった。
 このあたりは普通、バスや自家用車で通過してしまうようなところなので、歩いてみなければこういう出会いもないんだろうなと思いました。




 こちらは大山阿夫利神社参道三の大鳥居です。
 大山は、丹沢大山国定公園のいちばん東にあり、美しい三角形の山容から、古くから庶民の山岳信仰の対象となっていました。また大山は別名を
「雨降(あふ)り山」ともいい、雨乞いの神ともされて農民の信仰を集めてもいたそうです。
 山頂には巨大な岩石を御神体として祀った阿夫利神社の本社があり、中腹には多くの人々が参拝に訪れる阿夫利神社下社と大山寺がある。
 江戸時代までは古代山岳信仰と修験道、仏教などが統合されるような形で独特の信仰の山として繁栄していたんだそうです。




 この道自体が何百年もの歴史を持っている。
 道沿いに残る玉垣や道標など、同じように江戸時代の参詣者も見ていたに違いないです。



 大山は戦国時代には軍事的には一大勢力となっていて、初期の江戸幕府の脅威でした。そこで徳川家康は敵対していた大山の勢力を解体、ほとんどの
僧侶や山伏、その他山中の住人たちを下山させました。
 彼らはその後、大山の麓に居住し、「御師」として布教活動を行うとともに、宿坊や土産物屋の経営をするようになりました。更に彼らは江戸など各地に出向いて
布教活動を行い、その後盛んに「大山参り」が行われるようになったということです。


 

 道を歩いていると「先導師」という看板などをときおり見かけることがある。これは明治以降の神仏分離に伴って、御師(神職)に与えられたあらたな称号で、
今はこの先導師という呼び方が一般的です。
 先導師は檀家(参拝者)を迎えて自分の家に宿泊させ、参拝祈祷の便宜を図り、檀家はお礼として初穂を納める。この宿坊機能が今に残る先導師旅館で、
今も50ほどの宿が営業を続けているそうです。



 何か紆余曲折があって今に至っているわけだけど、少なくとも江戸時代までは一大宗教都市のようなところだったわけです。




 こちらは良辨滝。755年の大山寺の開山によって良辯僧正が入山、最初に水行をおこなった所と伝えられます。
 江戸時代にはこの場所がたびたび浮世絵などの題材となっていたそうです。
 実はこの少し上にバスの終点と最後の駐車場があって、ほとんどの人は今日ご紹介したところは素通りして大山に向かう、なんてもったいないんだろう。




 ここがそのバスの終点です。トイレや観光案内所もここにあります。
 参道はこの先に続き、その両側にはお土産屋や食事処が連なる。名物は大山コマと大山豆腐といったところ。そして多くの人は400m先の大山ケーブル駅を
目指します。
 でも自分たちのお散歩旅は大山詣りの玄関とも言えるこの場所で終了です。「知らなかった大山」を知ることが目的だったので、これで十分かと。



 鶴巻温泉から歩いて3時間半、距離9.6km、最後の上りはちょっときつかった。
 帰りはバスを利用、伊勢原駅までほんの15分ぐらいでした。




 実際の江戸時代の大山詣りだと、その日は宿坊に泊まって翌朝まだ暗いうちに登り始め、阿夫利神社下社で御来光という感じでしょうか。朝日が正面に見える
相模湾から登る様はなかなかの絶景です。
 江戸からやってきた大山詣りはここからが後半戦、参拝を終えたら少し遠回りですが、まずは平塚の金目観音まで南下し、そこから江の島を目指す。途中、鎌倉、
金沢八景を経由して帰路につくというのが人気だったそうです。
 そうすると江戸からなら、最低4泊ぐらいはしたいところだね。江戸に住む人の10人に1人がこういう旅をしていたっていうんだから、江戸時代ってもしかしたら今の
自分たちより豊かだったんじゃないかって思ったりする。
 新型コロナ終息までに、あと何年かかるのかな?



2022.01
camera: Canon Powershot G9X Mk.2 / graphic tool: SILKYPIX Developer Studio pro 7 + GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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