eye4工房番外編

J-DOLL Old Arbat のリメイク



<人の持つ視覚的な能力は高い>


 人間を含めた動物の目というのは、同族を見分けるという意味ではとても優れた能力を持っている。目が2つ、鼻と口が1つずつというのは
皆同じなのですが、ちゃんと誰だ誰だか見分けられるし、何万人もいたって自分の子供はちゃんと探し出すことができるでしょう。それどころか
ちょっとした顔の筋肉の動きで、ちょっとした心境の変化も推測してしまうほどです。
 がしかし、その能力の高さが災いして、人形作りにおいてはマイナスに作用することもある。
 つまり顔を認識するというのは極めて本能的なものなので、その違いを正しく理解して言葉として表現することは意外なほどに難しいのです。



 上の画像は自分のオリジナルドールなのですが、左が以前の状態、右側が現在の状態です。ウイッグの色が違うというのもありますが、
自分としては明らかに右側の現在の方が可愛いと思っています。そしてその違いは何なのか言い当てられる人は少ないと思います。
 正解は睫毛の形を整え口元に少し赤い色を差し込んだことです。
 人形づくりをしばらくやっていると、必ずこういうことがある。たとえば、可愛くしたいのにどこをどうしたらよいのか分からないとか、何か
偶然にも可愛くなっちゃったけど、その理由は分からないとか。同じように、失敗したくないので、たとえば有名な作家さんの作品を真似した
のに、何か違うとかその状況は様々です。
 人形づくりでポイントになるのは手先の器用さというのもありますが、それ以上に見たものを正しく認識すること、そしてどのように改善
するかをイメージしてして、それが再現できることの方が重要なように思えます。それが最近自分にも少しだけわかってきた。




 こちらはもう10年以上も前に販売されていたJ-DOLLの Old Arbat という1/6スケールの人形です。J-DOLLは珍しく手のかかった入れ目タイプの
人形で、世界の有名な通りをイメージしたOFが着せられていた。がしかし、おそらくは製造原価が高かったことやmomoko あたりに販売面で勝てな
かったこともあって姿を消してしまいました。
 ただ根付いたファンは未だに多いのか、程度の良い中古品などが4万円ぐらいの値段がつけられて販売されていたりする。
 自分自身はJ-DOLLを40体以上所有しているのですが、最近はあまり出番がない。さりとて売りに出すつもりも全くないので、さてどうしたものかと
考えた。
 自分は人形そのものをコレクションアイテムとして考えておらず、遊ぶための道具として考えている。だったら出番の少ないお人形に手を加えて
あげるのも良いかなと思った。
 基本、J-DOLLは発売された数十種類とも同じ原型を使っていて、素体の色やメイクを変えて特徴を出している。だから可愛くないなって思ったもの
でも、やりようによっては好みのものに変えられるはずです。




 こちらが全身の画像、人形としては頭が一回り大きい感じです。黄色い線はフィールドラインと自分が名付けた拡大縮小のイメージを再現したものです。
 首を境目にして、一気に縮尺が変わってしまう感じがあって、それが違和感として感じられる。



 それを連続させるためには顔の下半分が胴体にスムースにつながるよう、縮小した表現にすればよいということになる。
 さらに上に発散してゆくようなフィールドラインになるので、水平をイメージする緑の線は湾曲した形になる。(これがレベルライン)
 だから目や眉毛はむしろ少し垂れ気味な方がニュートラルということになる。



 ということでまずは吊り上がった眉毛をやや垂れた感じにする(A) 唇をやや縮小する(B) さらには頬に影を入れて(C)顔の下半分を
小顔に整える。というリメイクプランを立ててみた。



 これらの修正をGIMPというフリーのアプリケーションを使って再現してみました。いきなり作業に入るより、こういうシミュレーションをしてから
やった方が絶対に良いと思う。
 そしてこういうシミュレーションを何度か行うことで、必ず人形を見る目は進歩すると思う。





 ということでいよいよ作業にとりかかります。と思ったら、手首がぽろりと落ちてしまった。
 ここがJ-DOLL最大のウイークポイントで、このような破損は自分の感じだと10体に1体ぐらいの割合で起こる感じです。ここはすぐにエポキシ系
の接着剤で修理します。




 眉毛は削ってMr.カラーで引き直し、唇の形はデザインナイフで整える。



 顔の下半分を小さく見せるためには塗装する必要がありますが、これは人間用のチークやシャドウを使って行います。実はこれが一番簡単で
失敗がない。
 綿棒にチークをとって薄く塗り、上からつや消しクリアーを吹き付けて固定する。不足があれば更に塗り重ねるといった感じです。
 ここでアイにまでつや消しクリアーがかかってしまうと面倒なので、マスキングはお忘れなく。






 終わったら、外に持ち出して様々な角度や光線でDOLLを観察し、撮影する。
 人間というのは見えているようで見えていないことが多いです。完成後に撮影してみると、客観的に判断ができて、さらにどこをどうすればよいかが
見えてくる。
 この角度だと少し悲し気な感じというか、眉間にしわを寄せている感じがする・・・。




 そして次のリメイクプランです。
 眉間が狭くなっている感じがあるので、眉毛の間隔を外側に広げる(A) 口元に暗めの塗料で影を入れて微笑んでいる感じにする(B)下睫毛を少し削って
(短くして)目尻が下がった感じをあらためる(C)  まあ、こんなところかな。



 これらの修正をコンマ2mmぐらいのレベルで行います。最終調整で大切なのは眉毛や目頭、目尻、といった部分の「引きはじめとその終わり方」かな、
最初と最後の微妙な傾きの変化が全体のイメージを変えてしまう。
 メイクが終わったところで、追加で眉毛を取り付けてみることにした。  入れ目タイプのドールだと、こういうことができるのは嬉しい。




 これが完成した画像です。
 そのままお散歩のときに持って行って撮影してみる。






 光を変えて、いろんなシーンで撮影してみて、必要ならまた手を加えるという繰り返しです。二度の修正で少しまあるく、優しい感じになりました。




 雨が上がって、遠くに虹が出ていた。  人形って成長するものだと思う。



2022.03
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100 & Canon PowerShot G9X Mk.2 / graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



サイトのトップページにとびます