eye4工房番外編

ひまわり



<そしてウクライナ>


 自分の制作した人形を単独で展示するという選択肢もないわけではないのですが、自分の場合には何かのシーンのなかに置いて撮影したくなります。
 こちらの意図するシーンのなかに置いたとき、ニュートラルな表現であった人形が、何らかの表情を持つように感じられることは多いです。そしてまた
人形自体の存在感も増します。



 こちらは先日リメイクが完了した rena です。今回はこの人形のための展示用背景をつくります。
 この人形については、ずっとロシアのウクライナ侵攻の時期と並行してつくっていたこともあって、できれば平和を祈るようなテーマで展示を
まとめてみたいなって思うようになっていた。
 この人形はもともとクールガールというアクションフィギュア(発売元はタカラ 1/6スケール)の影響を受けてつくった球体関節人形なので、
以前は戦闘服のようなものを着せていた。でも、この状況ではそういうシーンを作りたいとは思わない。




 制作の合間にいろいろメモを取りながらイメージを膨らませました。簡単なところでは、青と黄色の2色の背景の前に立たせる(ウクライナの国旗)
というのもありかなとは思いましたが、そういう直接的なものはメッセージにはなり得ても、ジオラマ作品としての重みはない。
 ウクライナという国のことで自分が印象的に思い出すのは、往年の名作映画「ひまわり」のオープニングとエンディングに出てくるいちめんのひまわり畑
です。
 ただ作品としていちめんのひまわり畑を再現するのは無理があるので、少し知恵を絞ります。



 最初に用意したのはこれだけ、みまわりの造花(@250円×3)、100均で買った9mm径の角材(@110円×3)、同じく板材2種(@110円×4)です。
 全体としては白い塀の向こうにひまわり畑がひろがるようにまとめたい。


1 角材を組んで塀の枠をつくります。これはひまわり
 のスタンドにもなる。
2 板材を幅5cmほどに切って、これを枠に張り付けて
 ゆきます。
3 角材に穴をあけて、ここにひまわりの造花が差し
 込めるようにしました。


   4 ひまわりのがくと葉っぱを着色します。
   

 ひまわりの方はそのままだと、いかにも「造花ですよ」という安っぽい感じになってしまうので、まずは葉やがくの部分をMr.カラーで着色しなおし、
高耐久ラッカースプレー(艶消しクリアー)でコーティングします。




 人形の方は西欧系の顔つきなので、ウクライナの女性を演じてもらうことを考えました。
 そこでウクライナの民族衣装なを調べてみましたが、代表的なのは幾何学的な模様の入った白地のブラウスに赤いスカートの組み合わせ
といった感じです。そしてお祭りのような場面ではそれに加えてたくさんのアクセサリーを身に着ける。
 ただ残念ながらそういった1/3スケールのドール服はないし、その生地すら見かけません。
 そこで予定としてはイメージの近い既成の服を着せ、少し多めのアクセサリーで雰囲気を補うことにします。(上の画像)





<雨に濡れた地面>
 1/3スケールのドール用となると、やっぱりそれなりの大きさになるので、4.5畳の自室は作業スペースを確保するのがやっとという感じです。
 そこで塀の方はいったん片付けて、今度は雨に濡れた感じに仕上げようと思います。

5 雨水のたまるようなところは彫刻刀で彫を入れ、
 やすりで磨いておきます。
6 砂を混ぜて土を再現した塗料を全体に3回ほど
 塗ってゆきます。
7 3回目の塗装の直後に、鉄道模型用のバラストや
 小石をランダムに置いてゆきます。

8 小石やバラストがまだ浮いているような状態なの
 で、4回目の塗装で固定します。
9 KATOのリアリスティックウオーターを使って、水た
 まりを再現します。

 塗料その他の詳細は次のような感じになります。



 土を再現する塗料ですが、リアルに仕上げるには厚みを持たせなければいけない。レシピとしては、人形制作用の粘土(ラドールプレミックス)を
ペット用のトイレ砂を1:1で混合し、筆で塗ることができるぐらいに水を加えます。(ドロッとした感じ)  あとはアクリル絵の具で地面らしい色をつけ、
少量のジェルメディウムをここに加えます。
 ジェルメディウムを加えるのは食いつきをよくするためで、もし粘土と砂だけだとボードから剥離しやすいです。
 毎回毎回こういうものをつくっているけど、市販の手に入りやすいものから、実物の質感に近いものを作りだすって、とっても大切なことです。
A この下地塗料をベースボードに塗って乾かす。これを2回繰り返す。



B 3回目の塗布のあと、乾く前に適宜小石を置く(鉄道模型のバラスト等)。
C このままだと小石はすぐ落ちてしまうので、下地塗料をサラサラ程度にまで水で薄めて小石を固定する。
D 下地塗料が乾く前に、今度はペット用のトイレ砂を更に撒いて表面をざらつかせる。
E 乾いたところでもう一度薄めた下地塗料を塗り、今度はトイレ砂を固定する。
 これで小石混じりのリアルな地面が完成します。




 今回は「雨上がり」のシーンを再現したい。だから水に濡れた感じや水たまりも表現することにします。
 KATOの「リアリスティックウオーター」が手元にあったので、今回はこれを利用することにしました。(水を再現するためのメディウムは他にもあるので、
ここはお好みで良いと思います)
 リアリスティックウオーターを水で3倍程度に薄め、黒のアクリル塗料をごくわずか加えます。これは濡れた部分は少なからず暗く見えるので、それを
再現するためです。
F 窪んだところにはこれを何回かに分けて流し込み、水の浮いた感じを出します。
(大量に流し込むと固まらないので要注意、必ず乾かしてから次の流し込みに入る)
G 筆にたっぷりとリアリスティックウオーターを含ませ、そのほかの部分にも染み込ませてゆく。その量に変化をつけることで、地面に濃淡ができてより
リアルになる。(上の画像)
 今回の作業は結構うまくいって、自分的には満足です。


10 塀は白のアクリルで塗装後、先ほどの下地塗料
 を薄く塗って土汚れの感じを出します。
11 ひまわりを配置して茎を曲げ、全体が同じ方向を
 向くように調整します。




 塀と地面の塗装が終わったところです。
 とても地味作業なんだけど、こういうことをしないと、決して思った通りの空間にはなりません。


   12 ちょっと足りない感じだったので草を追加します。
   

 ここからちょっとだけアクセントになるものを加えてゆきたいと思います。
 amazonで売っていた50本1000円の雑草を追加しました。
 こちらはおもちゃっぽい出来だったので、例によってMr.カラーで着色し直し、高耐久ラッカースプレー(艶消しクリアー)でトップコートしています。



   13 壁に落書きをします。
   

 描き加えた壁の落書きは John Lennon & Yoko Ono の Imagine。
 書き損じたら完全にやり直しなので、少々緊張しながら1時間かけてマジックで書きました。





<完成画像>
 ということで、ほぼ1ヶ月はどかけてモデルドール rena のための展示用背景が出来上がりました。



 ウクライナというと往年の名画「ひまわり」の舞台になった国で、自分としては地平線の遥か彼方まで続くひまわり畑が思い出されてしまいます。
 このひまわり畑の上に青い空がひろがっていれば、それはまさにウクライナカラーなのですが、彩度の高い青の背景を使うと、どうしてもおもちゃっぽい
感じになって、落ちつきがなさそう。
 また雨上がりのシーンを演出したいので、澄んだ青空というのも具合が悪い。
 それでもどこかに青を使いたくて引っ張り出してきたのが1/3スケールのビニール傘です。少々安っぽい出来ですが、実物同様ちゃんと開くこともできます。
これを人形にもたせてウクライナカラーを演出しました。





 当初は民族衣装というのも考えていたんだけど、いろいろ着せ替えているうちに、シンプルな白のワンピースがこのシーンには合っていると思った。





 
ひまわり畑に囲まれた小道を歩く。
 
激しく降り出した雨に、僅か十数m先も見えなくなる。
 
だがその雨とて永遠に降り続くわけもない。





 
実際、あれほどひどく降りしきり、強く傘をたたき続けた雨も30分とたたずに止んだ。
 
そして静寂な時間。





 
私たちの上には、ただ空があるだけ。





 
そして陽光が大地に差し込んだ。









rena
 オリジナル球体関節人形 54cm 2006 mod.2022  主材料は粘土(ラドールプレミックス)、その他市販のウイッグ、グラスアイなど。
 塗装はリキテックス、Mr.カラーなどで着色した後に高耐久ラッカー及びウレタンでコーティング。
 16年前につくったこの人形は、つい1ヶ月ほど前にリメイクを完了したばかりです。





 今、全国の映画館で往年の名作「ひまわり」の再上映の動きがひろまっているんだそうです。
 こちらは第二次世界大戦のロシア戦線に送り込まれたイタリア兵とその妻を主人公にした映画で、ヘンリーマンシーニの印象的な音楽とともにご存知の方は
多いと思います。
 私にとってもそれは同じで、とても壮大で美しく、そして心にずしんとくる話でした。
 そのオープニングがいちめんのひまわり畑なのですが、それはウクライナの広大な平原で撮影されたものでした。この映画を繰り返して見るとき、そのオープ
ニングのひまわり畑がひろがるシーンを見ただけで涙が出そうになる。

 黄色いひまわりと青い傘はウクライナ国旗のカラーから
 白い壁の落書きはジョン レノン&ヨーコ オノのイマジンの歌詞
 激しい雨が止んで陽光が大地に降り注ぐというストーリーは世界中の願い

 ウクライナでは理不尽な戦いはまだまだ続き、それ以外の様々な地域でも紛争が続くような状況ではありますが、自分自身としてはこういう作品を通して
平和を願う気持ちを伝えたいと考えました。



2022.05
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100  & Panasonic LUMIX GX8 + M.ZUIKO DIGITAL 12mm-50mm  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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