eye4工房番外編

農民組合精米所



<なぜここに共同の精米所があるのだろう>

 先日のお散歩旅で南足柄を巡ったのですが、実はそのときとっても素敵な風景に出会いました。
 見た瞬間に、次のジオラマのテーマはこれだなって思いました。



 南足柄は豊富な湧水があちこちを流れるようなところで、ここもその一つです。サッポロビールとか富士フィルムなど、周辺には名の知れた
企業がたくさんあるのだけど、やっぱりこういう豊富な水を求めてここに工場をつくったんだろうなあって思う。
 ちなみに景色の中央にあるのは精米所です。その名も「竹松農民組合精米所」。



 川のほとりにあることから、その昔は水車が動力であったに違いないです。もちろん精米だけでなく、いろんなものをついたり磨いたりしていたんだろうと思う。その横には
ご覧のような小さな堰があったりして、昔はきっとここで野菜とかを洗ったり、スイカを冷やしていたんだろうなあ。
 だからおそらくここは地域の中心的な存在で、長い間には様々な出来事があったに違いないです。ジオラマっていろいろな考えがあると思うけど、やっぱりドラマ性のような
ものは必要だと思う。



<ベースをつくります>
 風景を何枚かの写真に収め、ジオラマのアイディアを練る。自分の作品のスタンダードサイズが20cm×25cm程度なので、精米所とその周辺をつくり込むには1/72スケール
ぐらいがちょうど良いです。


   1 画像を見ながらレイアウトを考えます。
   

 配置を決めながら、どういう印象的なシーンを演出するかを想像する。もしかしたらここがいちばん楽しい時かもしれない。

12  100均で買ってきた角材を組み合わせてベース
  の枠をつくります。そしてその上に厚紙を貼る。
3 PC上の画像を参考にしながら、ボード上にレイアウト
 をしてゆきます。
4 あとはこの上に1cm~0.3cm厚のスチレンボードを
 貼って高低差をつくります。、



 この竹松農民組合精米所は、その昔、この水路に設置された水車を動力源にしていたのではないかと推測したのは、水路には水車の海鮮を妨げないよう
にする窪みがつけられていたから。忘れずにこの窪みを表現します。





 次は水路の側面を表現します。大きな水路はコンクリート製の板の組み合わせ(A)、そして手前の細い水路は石積みになっている(B)。

5 厚紙を細かく切ってケント紙に貼り、コンクリート塀
 を表現します。
6 石垣に使われている石は、エポキシパテを細かく
 切って丸めたもので再現します。、

 厚紙を3mm×6mmの大きさに切って、ケント紙の上にボンドで貼り付けてゆきます。(これがAの側面になる)
 ジオラマづくりには「律速段階」とも言える工程があるのですが、多分今回はここがそうです。単調な作業で1日かかりました。
 石積み部分ですが、最初は砂利を使おうと思ったのですが、なかなかイメージぴったりの砂利は多くない。そこでエポキシパテを練って作ることにしました。

   9 コンクリートの壁や石垣を固定します。
   

 紙粘土に木工ボンドと黒いアクリル絵の具を混ぜたものをつくり、これをBの側面に塗る。そのあとエポキシパテでつくった石を張りつけて、石積みの出来上がり。




 水路やそのまわりの起伏が出来上がりました。



<植物の表現>
 地形が出来上がったので、今回は地面部分を仕上げてゆきます。
 地面と言ってもそこには質感の差異があるので、ただ塗っただけではリアルに仕上がりません。各部分でどのような処理をしてゆくのかを検討します。



A 水路の底  砂を混ぜた下塗り剤で処理、そして着色、その後に透明な水の元を塗って水の流れを表現します。
B 土の部分  砂を混ぜた下塗り剤で処理、さらにその上に砂を撒く。
C アスファルト  砂を混ぜた下塗り剤で処理、そして着色。
D 荒いコンクリート  砂を混ぜた下塗り剤で処理、更にその上に砂を撒く。そして着色。
E 普通のコンクリート  つや消しのライトグレーで着色。

10 モデリングペーストに砂を混ぜた塗料で水路の底
 を塗っています。
11 コンクリートやアスファルトと地面では若干の
 高低差があるのでケント紙で表現します。
12 地面部分には砂を撒いて、そのざらつきを再現し
 ます。

 砂を混ぜた下塗り剤を使うと、艶消し剤では出せないざらっとした感じになります。下塗り剤はモデリングペーストに2倍量の砂を加え、筆で塗ることが
できる程度に水を加えたものです。もちろん荒れた感じは砂の混ぜ方で変わります。
 今回はこれを茶色っぽいグレーに着色して、あとあとの作業をやりやすくしました。なお加える砂ですが100均で売っているペット用のトイレ砂がいちばん
使いやすいです。
 アスファルト部分は着色の跡に風化した感じがあった方が良いと思い、最後に乾いた部分をつや消しのライトグレーでドライブラシして仕上げました。
 土の部分は下塗り剤が乾く前に更に上から砂を撒く。こうすると土の起伏のようなものまで再現できます。(もっともざらつきが大きい) 全体が仕上がったら、
追加で砂を撒いたところには水で薄めた木工ボンドの液を筆で染み込ませると良いでしょう。そうすることでポロポロ落ちてしまうということがなくなります。
 このとき少量の水性アクリルを混ぜてやると色合いのコントロールもできます。



 まだ植物を生やしていないし、水も流れていない。でもこれだけでけっこうリアルな感じになります。



<草木の再現>
 ここから地表の草木を再現する工程に入ります。田舎の裏道といった感じのところなので、道端や水路には様々な種類の雑草、そして民家を取り囲む垣根も
あったりする。

  

 こういったものを再現するには、やはり鉄道模型で使われる様々な素材が役に立ちます。
 但しそれらのいくつかは、できれば使いたくないものもある。たとえば細かく刻んだスポンジ素材のもの。針金でつくった枝に接着して樹に見立てたりするのだけど、
実際にこういう感じの植物は実在せず、鉄道模型の世界において「このスポンジは木の枝に生えた葉っぱですよ」というお約束のようなものでしかない。
 だから自分はできるだけ葉っぱ1枚一枚が感じ取れるようなものに置き換えます。



 植物表現のプランです。
A 水路の壁面には苔が付着していますが、これは鉄道模型のパウダー3種(濃緑、緑、黄緑)を混合して表現します。
B 水路の底にはAと同じ素材を使って水草を表現し、KATOの「さざ波」を上塗りして水の流れをつくります。
C 道路わきの瀬尾の低い雑草などは、AのパウダーにNOCHのファイバー状の素材を混ぜ、スタティックアプリケーターでこの繊維を立たせて表現します。
 また背の高い雑草は素材を組み合わせてつくることにします。
D 垣根は green stuff world の製品にちょうど良いものがあるのでこれを活用します。


   13 A,Bの作業を終え、スタティックアプリケーターで背の低い雑草を立たせました。
    

 スタティックアプリケーターは静電気を発生させる装置で、amazonでは4000円ぐらい、Aliexpressで直輸入すると2500円ぐらいで入手できます。


   14 鉄道模型用の素材などを使って背の高い草や垣根を表現します。
   

 背の高い雑草は、細かな枝のあるドライフラワーからつくります、まずはこのドライフラワーを緑色に着色してつや消しクリアーで全体をコーティングします。
(これをやらないと、将来的にはボロボロになる)
 そのうえで軽く水で薄めた木工ボンドを塗り、上からNOCHの葉っぱ素材をぱらぱらとふりかける。
 Cの作業が終わるとこんな感じになります。写真と同じとは言いませんが、まあ何となく「こんな感じの草むらがあっても良いかな」といったレベルですかね。




 画像ではそのほか使えそうなものを、手持ちのなかから選んで追加してます。
 1/35あたりに比べるとまだまだ荒いけど、1/72スケールということを考えれば、許される範囲だと思います



<建物とフィギュアの追加>
 地面ができあがったので、ここに細かなアイテムを追加してゆきます。

   15 電柱とフェンスをつくりました。
    

 電柱は2本、木製の小さなものとコンクリート製の大きなもの。どちらも直径2mmのプラ棒にエポキシパテを巻いて転がしながら形を整えていった。これが一番簡単で
きれいに仕上がる。あと大きな方にはプラ棒のステーと真鍮線のラダーを追加した。
 フェンスは伸ばしランナーを瞬間接着剤で組み立てたもの。
 これらはけっこう細かな作業なので、ここまで組み上げるのに3日かかったりする。

 次に作るのは精米所本隊の建物です。



 構造自体は難しくはないのだけど、問題はブロックらしい質感とか、微妙な塗り分けだと思う。

16 基本的には写真をもとにしてプラペーパーを切り、
 これを組み立てて作りあげます。
17 写真も縮小してプリントアウトし、これをプラペー
 パーに張り付けて模様をつくります。
18 屋根は厚紙でフレームをつくり、この上にケント紙
 を貼って表現します。


  19 組み立てて着色、そのあとで雨どいや配電盤
    などを追加します。
   





 細かなところに手を入れたら、ぐっと見栄えが良くなりました。
 最終的に追加したのはアルミサッシ、雨どい、配電盤、ポスト、さりげなく置かれたコンクリート板やロープなどです。




 駐車スペースに置くのはBMWの isetta 、1/72スケールの市販ミニカーを使います。
 ただ、ぴかぴかの新車でなく、よれよれした感じにした方が、このシーンに合いそうです。情景師アラーキーの本などを参考にしてよれよれした感じに仕上げてゆきます。
がしかし、そのテクニックを完璧に真似るのは無理なので、雰囲気だけ参考にさせていただきました。

   20 isettaに汚し塗装を加えます。
   

1 パステルを削って錆の色をつくり、それを溶剤を含んだ筆にとってこすりつける。(赤錆の表現)
2 プラカラーで土の色をつくり、艶消し材を混ぜてタイヤや車体下方にドライブラシする。(土汚れの表現)
3 全体にタンに艶消し材を混ぜたものを薄く吹き付ける。(埃や塗装の劣化の表現)
 上はこの作業を終えたところです。まだまだ荒い感じですが、10円玉の上に乗るぐらいの小さな車体なので、今回はこのぐらいでご勘弁を。


   21 フィギュアの組み立てと塗装を行います。
    

 今回使用するフィギュアは2体、いずれもプラーザ―のHO用(1/87)のホワイトフギュアです。
 もともとは水着姿だったのですが、パテ盛りと削りで左の女の子は人形を抱えたワンピース姿に、右の女性は更に膝の角度を変えて少し腰の曲がったおばあさんに
変身させます。
 あとは全体のバランスを見ながらフィギュアと isetta を配置し、細部に手を加えれば完成です。



<完成画像>
 かねてより制作を続けていた「竹松農民組合精米所」のジオラマが完成しました。







 この風景は神奈川県の南足柄市に実在する場所です。昔からの住宅街のなかの、水路の合流するところにあります。南足柄は足柄峠の麓にあって、とても水が
豊かで、あちこちから湧水が流れ出すようなところです。
 このジオラマのスケールは1/72、ベースの大きさは25cm×20cmです。



 

 これが実際の風景です。
 まあ何というか、また別にどうってことのない風景をつくってしまいました。ただ自分には何か感じるものがあった。





 配置したフィギュアはプライザーのホワイトフィギュアです。HO用の1/87スケールなのでやや小さ目ですが、小柄な日本人ならスケール的には合います。
 もともとは水着姿だったのですが、パテなどで成形し直してティアードつきのワンピース姿に変えてみました。右手には人形を抱えているといった感じです。
身長は1cmちょっとです。



 こちらは割烹着姿のおばあちゃんに変身させてみました。

 

 精米所自体はスチレンペーパーとケント紙で自作しています。看板その他、部分的に実際の写真をプリンターで出力したものを用いています。





 脇に駐車してあるのは、ホンウェルの isetta 。戦後間もないころに製造されたミニカーなので、少々の汚れ塗装をしています。





 実際の水路はこんな感じです。精米所は本当にそのぎりぎりのところに立っている。
 見た瞬間に、ここには昔水車小屋があったに違いないと思いました。

 今はもう精米所など必要なく、スーパーで精米された米を買うのが当たり前、そして米農家でさえも、JAに行って精米するのがむしろ普通です。
 それなのになぜここに精米所が残っているのか?
 もしかしたら色々な人がここを訪れ、精米はもちろん、洗濯や洗い物などをしていたような地域の交流の場だったのかもしれません。だからこそ大切な場所として
今もここにある。








 
おばあちゃんが精米所の前を通りかかると、ワンピースを着た女の子が人形を抱えて立っていた。
 
そういえば昔、ここにお人形を持ってきて友達と遊んだことがあったなあ。
 
それはまるで、自分の子供の頃を見ているような気がしました。

 想像力を働かせたら、こんなストーリーが出来上がってしまいました。
 外の人には分からないけれど、この場所には長い歴史があって、地域の人にとっては思い出の場所なんだろうな、そう思います。



 なお、この話には続編があります。
 現在その作品の制作を開始しました。



2022.08
camera: CASIO EXLIM EX-ZR4100  & Canon PowerShot G9X Mk.2  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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