eye4工房番外編

シュナの旅



<知名度は低いけれど、宮崎駿氏の初期の名作>

 宮崎駿氏がナウシカの製作と並行して描いたという、「シュナの旅」という作品をジオラマにしました。発表はアニメ版のナウシカよりも古く、
もう36年も前の作品になります。
 はるか昔、あるいは遠い未来を描いたとても素敵なお話です。今でも皆さんに読んでいただきたい名作コミックだと思っています。
 アニメ化されていないので知名度は低めだと思うけど、とっても素敵な話で今でも単行本が発売され続けています。

 

 ジオラマ化したのは画像右側のシーンで、エンディングに近い、ちょっと感動的な場面です。









 神人の土地から持ち帰った麦をシュナ自らが育て、テアの元を訪れた場面です。心が熱くなるところです。




<まずは主役のフィギュアから>
 フィギュアについては全くのゼロからつくりあげるというのもアリですが、ベースとして使えそうなものがあれば手間は省けます。



 そしてストックしていたジャンクパーツから選んだのはこちらです。
 左二つは「天空の城ラピュタ」のパズーとシータ、作り始めたものの、あまりにも模型として出来が良くないので放置していたものです。右は「逮捕しちゃうぞ」
の夏美さん、放置した理由も同じです。
 これだったら全く別のものに作り替えても惜しくはないという感じです。

1 まずはばらばらに切断し、次に真鍮線でつなぎ合
 わせながら、エポキシパテで接続面を埋めてゆく。
2 不要な部分はリューターでカットし、パテなどで細
 かな形を整えてゆきます。





 おおまかな形が出来上がったところです。塗装が難しくなるので、ある程度作業がすすんでから手の部分を接着するつもりです。


3 衣服は布を巻き付けて表現します。しわなどは
 瞬間接着剤で固定する。
4 塗装可能になったところから、挿絵を参考にして
 色つけてゆきます。

 寝ている妹の方は手足をカットして適当にパテで接続・成形したら、2日ほどで出来上がった。
 とっても荒い作業ですが、これで大丈夫。というのも毛布でほとんどが隠れてしまうからです。


   5 毛布をティッシュペーパーからつくります。
   

 毛布はティッシュペーパーをマッドジェルメディウムで固め、Mr.カラーで着色したもの。
 少しつやが出てしまったので、この後つや消しクリアーでトップコートしました。


6 3体揃ったところで、位置関係やポーズを確認し、
 腕の角度、顔の向きを確定します。
7 あとはパテ盛りと削りを交互に入れて、少しずる形
 を整えてゆきます。

 主人公2体は少し丁寧に作業をすすめます。衣類は衣類らしく仕上げるために着色したさらしを巻いて、瞬間接着剤でしわなどを表現しつつ
固定する。そのあとタミヤパテを溶剤で溶かして伸ばしながら形を整えてゆきます。
 下半身の工作が終わったところでポーズをつけてゆきます。


8 人間用のチークやシャドウを使って、メイクを施し
 ます。これが終わったら筆入れをする。
9 テアの髪飾りは着色した伸ばしランナーと黄色い
 糸からつくりました。

 メイクの方ですが、まずは肌の部分をMr.カラー No.111 キャラクターフレッシュで着色の後、Mr.カラーGX No.113 つや消しクリアーを吹き付けます。
そのあとは例によって人間用のチークやシャドウを使って顔やボディのメイクを行います。
 1回ではあまり色がのらないので、つや消しクリアーを何度なく吹き付けては色を重ねます。

 それが終わったら「シュナの旅」の挿絵を参考にしてあとは目や口を描きます。
 まずはきっちりと上瞼のラインを書き入れて、これを基準線として他の部分に色をおいてゆきます。失敗したところはデザインナイフで慎重にかき取る。
 テアの髪飾りも忘れずに作ります。こういう目を惹きやすいところは、より実物に近い感じのものでつくった方がリアリティーが増します。



 とりあえずメインキャラクター二体の完成です。まあなんとか及第点といったところでしょうか。
 実はアニメ顔って少々苦手です。平面で描かれたものを立体で表現するのは難しい、もう少し笑顔らしい笑顔にしたいなあ。


 主役の二人は良いとして、問題なのはヤックル(劇中に登場するヤギの仲間)です。こちらを一からつくり始めると大変なことになる、さてどうするか?
あちこち探したけど製品化されたものなどはない。そりゃそうだ、架空の生き物でしかもスケール1/20限定だなんて、そんなものあるわけがない。



 微かな可能性を求めて近所で、いちばん売り場面積の大きなダイソーに行って見た。
 すると、おもちゃ売り場でこんなもの見つけた。トナカイのおもちゃでもちろん110円、偶然にもスケールはほぼ1/20。
 すごいな、最近の100均の充実ぶりには目を見張るものがある。このほかにもいろんな動物が揃っていたし、パウダーやスポンジ素材、ファイバー類
などのジオラマ素材もたくさんある

10 角は使えないので早速切り落とし、金属線を軸に
 してエポキシパテで角をつくりました。
11 角を取り付けた後、型抜きした跡やつなぎ目を
 瞬間接着パテとリューターで整えてゆく。

   12 コミックを参考に塗装します。
   

 1日2時間、2日間の作業でここまで仕上がりました。自分で言うのも何だけど上出来です。




<ベースボードをつくる>
 登場人物が出そろったところで構図を考えます。
 こちらはエンディングで出てくる納屋の中の1シーンです。納屋そのものを表現するのは大げさすぎなので、今回は炉(小さな移動式の竈)を中心に、
その光が届く範囲を再現してみることにしました。

   13 画像の真ん中に炉を置くような感じで、構図を検討します。
   

 形はあえて少し歪んだ感じの円です。光が届く範囲というと、このぐらいかなと思う。これも演出の一つ。


   14 ヒートガンで地面に起伏をつけます。 
   

 地面がまっ平らということはありえないので、ヒートガンで人やヤックルが何度も通り過ぎるようなところを溶かして凹ませる。
このとき元の高さを維持したいところはモデリングペーストで保護しておきます


15 モデリングペーストで形を整えてから、質感のある
 塗装を行ってゆきます。

 ヒートガンの作業終了後はモデリングペーストで表面をならし、アクリル絵の具で下塗りします。下塗りなので絵の具は100均で売っているものを
使いました。
 そしてこの絵の具が乾いてしまう前に、今回はペット用のトイレ砂と繊維状のジオラマパウダー(枯草色)を混ぜたものをぱらぱらと撒いてゆきます。
 あとはこれが乾燥したところで、タンを少量混ぜたMr.カラーGX No.113 つや消しクリアーを吹き付けて粒子を固定します。




 もうこれだけで家畜用の乾草の混じった地面の感じが簡単に再現できます。
 このシーンというのは、納屋の中のとっても狭い空間なんだけど、その外側に広大な宇宙の広がりのようなものを自分は感じました。それが
このジオラマでうまく再現できるといいな。


16  もともとの地面の部分を一回り大きくした楕円形
 の土台を追加しました。
17 枠は黒で着色、柵の部分も上の方は黒を吹き付
 けて暗くする。

 一回り大きい黒い土台を追加しました。この黒い土台能分は絵画で言えば額縁にあたる部分で、「ここから先は光が届かないので見えないよ」
ということを自分としては強調したいわけです。
 背後にはヤックルを囲む柵をつくって取り付けました。
 基本はウッドブラウンで塗装してあるのですが、ご覧の通り上の方に行くにしたがって暗い色合いにしてある。こういう感じで、竈に近いところは明確で
詳細に、遠ざかるにしたがって暗く大まかにというのが、今回のジオラマづくりの構想の柱です。 



 お話としてはエンディングに近いところの感動的なシーンの一つです。
 納屋の中では明り取りと暖房のための小さな竈が一つ、これがあたりを照らしている。今回はこの竈のまわりの小さな範囲を明確に、それ以外は
暗く目立たぬように再現するというのが方向性です。

18 LEDを埋め込んむためにベースボードを加工
 します。
19 コミックを参考に、竈周辺に置く細かなアイテム
 をつくります。

  LEDの白い光はそぐわないので、クリアーオレンジを塗りました。ただ部屋を暗くしてLEDを点灯させ続けるというのは、鑑賞方法としては現実的
ではないので、竈はあくまでも補助光です。


20 牧草の表現を行います。天然の草を使う場合には
 樹脂を浸み込ませて乾燥させます。

 枯れた牧草の表現をします。こういうとき一種類だと単調になってしまうので、いくつかを混ぜるのが基本です。
 上の画像で左側の2種類は手芸用のドライフラワー、3番目は「使えるな」と思って前日食べたトウモロコシのヒゲをとっておいたもの、最後は
市販のジオラマ用のファイバーです。
 ジオラマ用のファイバー以外は天然素材なので、時間が経過するとボロボロになってしまう可能性が高い。そこで今回は水で薄めたリキテックスの
マッドジェルメディウムにいったん浸して乾かしたものを使います。
 ここは艶消しトップコートを吹き付けたり、模型用のカラーで着色したり、ケースバイケースで対応しています。要するに樹脂を染み込ませるのが大切。


   21 牧草を液体のりで固定してゆきます。
   

 牧草の固定にはKATOのジオラマスプレーを使います。現時点ではこれがいちばん使いやすいのですが、正直言ってまわりがべたべたになるので
あまり使いたくない。必ず床面をシートで覆い、またスプレー使用後は中性洗剤でノズル部分を洗っておかないと、次回使用不能になります。
 上の画像は途中経過です。スプレーと牧草の素を撒くということを繰り返して形を整えます。

 このままでも十分に雰囲気は出ているけれど、まだ何か不足気味な感じがします。




   22 更に農具や小物類を追加してゆきます。
    

 コミックをひととおり見直しながら小物類を追加します。
 最初につくったのは大きな壺、竈の暖を受ける布、薪、急須と湯呑。竈本体等々です。こういうもののキットはないから、すべて手作りになります。
それでもまだ密度が足りないような気がして、鍬とスキ、薪を細かくする小さな鉈、じゃがいも等々を更に追加しました。



<完成画像>

 宮崎駿監督が描いた「シュナの旅」という作品の1シーンを、1/24スケールのジオラマ作品にしてみました。



 「シュナの旅」は「風の谷のナウシカ」の製作と並行して描かれたというコミックで、発表はアニメ版のナウシカよりも古く、もう36年も前の作品になります。
 はるか昔、あるいは遠い未来を描いたとても素敵なお話です。今でも皆さんに読んでいただきたい名作コミックだと思っています。
 調べたらハードカバーの英語版が昨年発売されたというから、本当に息の長い作品です。



 メインのフィギュア2体は「天空の城ラピュタ」のパズーとシータ、眠っているのは「逮捕しちゃうぞ」の夏美さん、いずれももともとのフィギュアの出来が
今ひとつだったので、ずっとジャンクパーツの箱に眠っていたものです。
 これにあちこち手を加えて「シュナの旅」の主役のシュナ、テアとその妹に仕上げてみました。
 後ろのヤックルはジブリのアニメにたびたび出てくる架空の生き物です。こちらは100均で売っていたトナカイに手を加えています。



 ジオラマベースとこのほか壺や農具といった小物類はすべて手作りしています。
 狭い納屋の中の限られたスペースの中、小さな竈を囲んでくつろぐ。貧しく厳しい生活の中での一瞬の和みみたいなものを再現したつもりです。



 こちらのシーンはエンディングに近いちょっと感動的なシーンを再現したのですが、これから「シュナの旅」を読んでみたいという人もいるかもしれないので、
これ以上の詳細はお伝えしません。
 印象としては、暗黒の世界の中で少なくともこの小さな納屋の一角だけは幸せに包まれている、そういう感じです。

 あらためてコミックを読み返します。顔の造形までは似せられなかったけどは近い感じにはなっているかな。
「あ! 大変だ。テアが麦を握っていない。」
 最後の最後で忘れ物に気づきました。今からつくって握らせることにします。



 竈にはLEDが仕組んであるので、照明を落としてやるとこういう写真も撮れます。
 コミックの感じからは離れますが、このシーンは竈の明かりしかない場面なので、こちらの方がリアリティーはあるかもしれません。



2023.07
camera: Panasonic DMC-LX7  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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