miho









<17年前のドールをリメイクする>

 17年前に制作したオリジナル球体関節人形をリメイクします。
 私がオリジナルの球体関節人形をつくり始めたのは17年前のこと。当時は創作球体関節人形のブームやVOLKSからスーパードルフィー(SD)が発売されて、
人形イベントには全国から何万人も集まるような状況でした。
 当時はいわゆる人形作家たちがTVや雑誌等で紹介されることも多かったです。



 もう今ではそんなことがあっただなんて信じられないような状況ですが。
 まずは全体を眺め、次にはばらばらにしてみて、どのような手順で修正するのかを考えます。

 

 首関節の中心位置のずれを修正しながら、接続面を作り直してゆきます。この際、上下の凹凸の関係はこれまでと逆にします。
 関節を中心とした第1段階の修正点は次の通り。
A 首関節の中心位置の修正と形状の変更(上の説明)、それに加えてヘッドパーツを上下2分割にして、アイを交換可能にする。
B 一体でつくられていた胴体を分割して腰関節をつくる。
C 肘を二重関節にする。
D 膝関節を回転楕円体に改める。
E 肩の関節を大きくする。
F 股関節を大きくする。
G 手足のパーツをつくりかえる。

 まずはボディラインを整え、あとで関節をつくるという方法もあるのですが、自分は関節づくりからスタートします。
 ボディラインを先行させてつくっても、いざ関節を組み込んだらイメージと違ってしまったみたいなことはよくある。だったら、ボディラインを意識しながら関節をつくり込んで
いった方が良いと考えています。



 首関節には縦方向のテンションゴムが収束するところなので、まずはここをきっちりと作りあげることが必要です。
 自分の場合には極力テンションゴムの通る穴は小さくしています。接触面が大きくなることで摩擦が増し、さらには摩耗も防ぐことができる。またホールを縦長に
して上下と左右を交差するようにしているのも工夫で、ポージングの安定感が増します。
 首側の凸の部分はいちばん力が加わるところなので、辺縁部分をエポキシパテで補強しています。



 ヘッドパーツは上下2分割にしてネオジムマグネットで接続します。中央のM字型のアルミ線はテンョンゴムの受けになる部分です。
 軽量化のため、ヘッドパーツの粘土の厚みはだいたい5mm程度になるように削りを入れました。

 

 一体だった胴体は腰部分で切断、更に腰関節をつくりやすくするために上下それぞれを2分割しました。
 粘土を渦巻き状に貼り付けて行って関節面をつくります。(縄文式土器をつくるイメージ)
 あとは少しずつ盛りと削りをいれて仕上げます。最後は関節同士をこすり合わせ、強く当たって光沢を持った部分にやすりで磨きを入れる。言葉では簡単だけど、
けっこう手間のかかる工程です。
 使っているの粘土はラドールプレミックスとプルミエを1:1で混合したものです。きめ細かさではラドール(代表的な人形用粘土)なんだけど、軽さや強度ではラドール
プレミックスやプルミエの方が勝る。
 自分の場合、最終的には表面をクリアーラッカーでコーティングするつもりなのできめ細かさは不要です。
 そういうことで、だんだん最も軽量なプルミエの配分が多くなってきています。



 関節面に開ける穴は縦長のホール形状で、関節面で上下と左右に交差させます。



 こちらは股関節です。これまでよりも一回り大きく修正しました。



 膝関節は球体でなく回転楕円体の形状です。左右から潰すような感じにすると、不必要に回転しなくなります。



 粘土で作ったジョイントパーツを追加して、肘は二重関節にしました。これで肘関節の自由度は格段に大きくなります。
 この形式で膝関節も二重関節にすることはできるのだけど、決してきれいなラインにはならないので自分は行いません。実用上、膝関節は90°ぐらいまで曲がれば
十分だと思う。(正座させたい場面はほとんどない)



 ということで修正の第1段階は3週間ほどで終了しました。



<ボディラインを整える>

 ボディを組み立て直しました。ここからいよいよボディラインをつくりなおしてゆきます。



 しばらくこの状態で観察し、写真撮影もしてみる。冷静に見ているつもりでも「主観」は必ず入り込んでくるので、「客観的」に見るために撮影するというのは絶対に必要
だと思います。
 この正面画像からは特に大きな問題はない。あえて言うのなら、今自分がつくっているドールに比べると首と頭が少し大きいかなという程度です。(A)



 側面から見たときには少し問題を感じる。ボディがやや反りすぎな感じがある。首の付け根の部分を少し削り(B)、腰の部分の湾曲を少なくしたい(C)。
 ほかにも問題を感じるところはあるけど、全体を一度に修正しようとすると「基準」が分からなくなって方向性がぶれる。だから必ず修正は隣接しない3から4か所ぐらいに
とどめています。
 さて目についた問題点に手を加える一方で、全体のボディラインを整えるということも考えています。作業としてはこちらの方が難しいし、それなりの経験も必要です。



 さて上の画像で黄色でひかれたラインをフィールドラインと呼んでいます。これは空間上での拡大縮小のイメージを表現したもので自分自身が考案したアイディアです。
 この場合、いわゆる自分の考える標準的なボディラインに対して、現状では頭の方が大きく下半身がやや縮小されたイメージがあるということです。
 そもそも標準的なボディラインというのは何かということですが、この人形をつくった当時は volks のスーパードルフィー(SD)に影響されていた時期で、頭の中にはその
ボディラインが標準的なものとしてまずは入ってきた。そして次には素敵なドルフィードリーム(DD)の洋服も着せたいと思うようになって、最終的にはSDとDDの中間的な
ラインが自分としては最初の標準となったのだと思います。

 その後はいろいろな人形を見たり、あるいはグラビアアイドルの写真とかを参考にしてゆくうちに、現行の手足がやや長め、メリハリのあるボディ、小顔といった特徴を持つ
ボディが標準として自分のイメージする空間に出来上がっていったという感じかな。

 きっと人形やフィギュアをつくる人には、おのずと自分の「標準」があるはずだし、それがまだ出来上がっていないという初心者の方々の場合には、お気に入りの人形や
フィギュアをお手本として作品を作り始めるのではないかと思います。
 おそらくは作品づくりにおいて、自分の理想とするものがあるということ、あるいは何を手本として選ぶのかということは、最も大切なポイントだろうと考えます。



 上の画像をPCに取り込んで、GIMPというアプリケーションで顔を少し小さめに、そして下半身をやや大きめにした画像をつくってみました。
 これだけでも全体的に洗練されたイメージになると思います。全体的な修正の方向性を明確にして、その方向が誤りでないことを確認するにはやっておいた方が良い作業です。

 

 この画像から追加の修正として、腰から太ももにかけてややボリュームをUPするという作業を行うことにしました。(D)
 具体的に人形のボディにA~Dの修正点を書き込みます。
 +3とあればここに粘土3mmほど盛る、ー3は3mm削るということです。



 削りは良いとして、粘土をそのままのせてもコーティングしてあるボディにはなじまない。だからここには下地塗料を事前に塗ります。レシピはモデリングペーストに0~5%
ほどのジェッソを加え、リキテックスのアンブリーチドチタニウムとライトポートレイトピンクで着色、更にこれに少量の水を加えて筆で塗りやすくしています。
 ジェッソは食いつきと下地の隠ぺい効果があるので初期の作業には多めに加えます。一方でやすりでの磨き作業はやりにくくなるので、後半の肌の仕上げには加えません。



 第1段階の作業は終了です。
 このあとまたしばらく観察し写真に撮る。必要に応じてシミュレーションしてみる。自分の場合には実際の作業時間よりも、人形を見ている時間の方が長いかもしれません。

 



 あとはこういった作業を2度三度と繰り返して、理想のラインに近づけてゆきます。



<顔の造形>


 

 j左はボディラインの修正をする前、右が修正後です。
 今回は腰回りをボリュームアップしたことと、足を延長したことで、リメイク後は自分の目には標準的なフィールドラインに改まりました。人形自体のイメージは
13歳ぐらいから、年齢を2つ加えて15歳ぐらいに成長した感じかな。



 今回はパーツの内側を削って薄くしたたため、重さを600gから470gに軽量化することに成功しました。(これもまた時間のかかった理由の一つ)
 また関節の精度も上がっているので、以前よりポーズが崩れなくなっています。ポージングの自由度や安定性は、様々なシーンので写真撮影をするときにも
何かと有利です。
 さあボディの方はこれでOK。



 こちらは塗装する前のヘッドの状態です。
 さてここで先ほどのフィールドラインの話の続きです。ボディの延長という意味ではヘッドのフィールドラインもストレートが標準なのですが、もともとわずかに大きめだった
頭部の特徴を残して、あえて子供っぽい感じに仕上げようと考えた。

 そのためには、先ほど述べたようにフィールドラインを明確に上に発散するようなラインにあらためれば良いわけで、具体的にはヘッドの上部にある顔のパーツは大きめに、
下の方のパーツは小さめに修正を施すという感じです。

 

 具体的には、今回は両目の間隔を広げ、鼻の下方と唇を小さめに加工しました。



 全体としてあともう一つのポイントになるのがフィールドラインに直交するラインで、いわゆる水平線にあたるもの。これを自分はレベルラインと呼んでいます。
 上にフィールドラインが発散すれば、緑色で引かれたようにレベルラインは上が凸になるように湾曲する。こちらも意識しながら作業をすすめます。



 以上の修正AからEを行ったところです。画像で肌は素の状態のままです。



<下地を整える>



A くぼみやキズの部分を粘土で埋めてゆく。
B モデリングペーストをベースにして、リキテックスのアンブリーチドチタニウム、ライトポートレイトピンクをおおむね 97:2:1ぐらいの割合で調色した下地塗料をつくり、これを全体に塗ってゆく。(上の画像)
C 荒れている部分に布やすりをかける。(100番から260番、作業がすすむにつれて少しずつ細かくしてゆく)
D 表面がけば立つので、上から濡れた布で磨く
 以上AからDを、表面が平坦になるまで繰り返します。
 作業としてはこんな感じです。

 

 きちんと作業を行えばつるつるに仕上がります。
 2週間ぐらいはこんなことをずっとやってました。これは創作活動というより単純作業の繰り返しみたいなもので、今の自分にとっては正直あまり楽しくない、やっぱり飽きちゃう。



 下地塗料を塗ると表面が固くなるので、細かな工作がしやすくなります。
 ある程度整ったところでアイホールや二重瞼、鼻孔などの形を整えます。



<塗装とコーティング>

 詳細は省きますが、下の表にあるような工程で塗装作業をすすめます。

 

 高耐久ラッカーは透明層をつくるために吹き付けるもので、これによって肌の透明感が出てくる。
 途中のクリアーレッドとクリアーブルーは血液の流れを表現するもので、これによって生きているような肌の質感が生まれます。

 

 最後に行うのはウレタン塗料による仕上げのコーティングです。
 この最終的なコーティングを行う理由は2つあって、まずは塗装面がとても強く薬品に侵されにくいことです。(自動車の塗装にも用いられる) その結果としてこのあとラッカー系
塗料によるメイクに失敗しても、薄め液で拭き取ったりすることもできます。2つ目は他の塗料には見られないほどのきめ細やかなつや消し効果が得られるという点があります。

 一方でウレタンクリアーにはデメリットも多数あります。
 まずは塗料自体の値段がやや高めであること、そして保存性が高くないことです。(夏場に常温保存すると1ヶ月ももたない)
あとは化学反応を起こして硬化させているので、のんびりと吹き付け作業を行っていると、次第に吹き付けづらくなり、ついにはノズルが詰まってしまいます。毎回のエアブラシの清掃は必須です。



 コーティングが終わってパーツをテンションゴムでつなぎます。
 ちゃんとつくれば自立するのは当たり前、以前に比べるとすらっとした感じにボディラインに変わりました。



<メイクします>




 まずは茶色の仮のグラスアイを入れ、そのあと必要最小限の眉毛を描き入れました。この眉毛の入れ方ですがレベルラインに従って、やや垂れた感じにすると
子供っぽい感じが出ます。
 仮のアイを入れてはありますが、このアイよりもっと似合うものがある可能性は十分にあります。また顔の上方は「大きめに仕上げる」という方向性があるので、
やや大きめのアイを検討しても良いかなと思いました。
 こういうとき、以前はたくさんのドールアイを手元において、交換しながら比較検討していたのですが今はやってないです。せいぜいが3つぐらい。
 ドールアイをたくさん準備して比較検討するのは時間もお金もかかります。

 昔ドールブームだった頃は、たとえばヤフオクなどではたくさんのグラスアイが出品され、1組300円ぐらいから入手が可能でした。ブームが去った今はそれが1000円、
中国の通販サイトでも800円、使えるかどうかわからないアイにそれほどお金はかけられません。
 今は「これは使えるかも」と思ったものを見つけたときに、たまに買う程度です。それでも3000円以上もするようなアイには手が出ません。


 それではどうするかというと、画像からアイの部分だけを切り抜いてほんの少し拡大したものを元画像に貼り付ける。このとき色合いも好みのものに変えてみるという作業を
PC上で行います。
 上の画像は最初の画像からアイを15%拡大し、色をライトブラウンからグレーに変えたもの。作業はGIMPというフリーのアプリケーションを長年使ってます。やり方を覚えれば、
こちらの方が圧倒的に簡単に比較検討ができます。
 そして少し大きめのグレーのアイをストックから探します。

 候補は2つ出てきた。がしかしどちらも虹彩が奥まったところにあって、光が仮のアイより入りにくい。これはリアル系ドールの小顔ヘッドでは良くあること、自分の場合も
大口径のアイとの相性はあまり良くないです。
 ただ仮のアイもそれほど似合っていないわけではないので、当面はこのまま作業をすすめることにします。



 メイクに入るためのプランを練ります。ここもまずは必要最小限の部分からです。
 最初の作業は3つです。太く眉毛を太くする(A)、上瞼のアイラインを描く(B)、唇に色を乗せる(C)。



 これも直接作品に対して行うわけではなく、PC上でシミュレーションします。
 ここも使うのはGIMPです。GIMPはフリーのアプリケーションではありますが、機能が豊富で使いやすい。自分は創作活動の様々な場面で使用していて、もはや必不可欠な存在です。
 シミュレーション上の画像をもとにして、それを実際の作品上に展開する。



 そしてそれを実際に作業した結果です。必ず画像で確認をします。
 肉眼での観察は見落としが多いです。画像にすることでより客観的に観察することができます。



 2回目の修正に入ります。もちろんこちらもまずはPC上で行います。
A 眉毛がまだ少し細く少しその位置も高いので、その下方に色を追加して修正します。
B 右側の眉毛がやや短いので、目頭側に延長します。
C 頬や鼻の頭の部分に更に赤みを加える。
D 口の両サイドに締まりがないので、少し吊り上げるように色を加えます。
E 唇の色が暗く感じるので、口元部分に明るい色を乗せる。



 プランをもとにPC上で結果を確認します。



 こちらは実際に作業した結果です。



 作業3巡目です。
 全体として良く仕上がってきたのですが、立体感が欲しい感じがすることと、そして実際の生き生きとした感じの肌の表現を求めて更にメイクプランを練ります。
A 下瞼側に赤みを加えます。
B 眉毛を心持ち太くする。
C 目頭側にブルー系のチークを入れる。
D 目尻側に部ラインのチークを入れる。
E 口の部分の溝に濃いめの塗料を入れて口元のラインを明確にする。
F 顎の部分に赤みを入れる。



 このシミュレーションを行ったのがこちらの画像です。
 それほど多きな変化ではないけれど、全体としてリアリティーが増したような変化があるように思う。



 こちらはそれらのプランをもとにして作業を行った後のリアルな画像です。
 目尻側のブラウンのチーク(シャドウ)は目の輪郭を強調して目を大きくする効果があるのに対して、目頭側のブルーのチークは肌の質感を高める効果がある。
 人間の場合、太陽の光を浴びると日焼けしますが、光の当たりにくい部分はメラニン色素が少なく色白になる。すると静脈の存在が分かりやすくなって、少しだけ青みを
感じるようになる。今回はそれを積極的に表現しようとして、このように目頭や耳の下首筋などにブルー系のチークを入れてみました。
 赤みを追加したことの効果もあって、リアルで立体感のある仕上がりになりました。



 完成まであともう少しです。
 メイクが完了したらMr.カラーのNo113,114つや消しクリアーを使って表面の保護と紫外線対策を行います(A)。
 そのうえで唇や眼のふちの部分にクリアーを入れて輝かせます(B)。



 まつ毛は下側は極細の筆で描き入れ(C)、上側はアイラッシュで仕上げる。(D)
 描き入れるのはけっこう難しいので持っている筆の中で最も調子のよいものを使い、何度か練習するとよいと思う。
 またアイラッシュなのですが、通常は瞼の裏側に張り付けるようですが、自分の場合には下側の縁そのものに張り付けています。これは少しでもグラスアイを前方に
置きたいためです。
 瞼自体の厚みも1.5mmぐらいの極薄に仕上げているのですが、これもグラスアイを手前において外光を取り入れやすくするためです。
 せっかくのグラスアイもキャッチライトしないと、その価値は半減してしまう。やはり光り輝くアイは入れ目タイプのドールの魅力の一つだと思う。



 さて最後の調整はウイッグです。
 こちらはヘッドをボディに取り付けたところです。先ほどの画像では良い感じに仕上がっていたのですが、ボディに取り付けると少し違和感を感じるようになる。これは
多分に首関節の関係があると思っています。
 リアルにドールを仕上げれば仕上げるほど、関節そのものの存在に違和感を感じるようになるのは仕方ないところです。特にこの首の部分は顔に近いこともあって影響も大きい。

 対応方法は2つあって、まずはウイッグで隠してしまうこと、もう一つは完全に隠せないまでも髪で影をつくって目立たなくすることです。
 だから自分の場合にはショートヘアのウイッグは基本使えない、もしショートヘアにしたいのならウイッグは使わず、髪を張り付ける方法でちゃんともみあげ部分まで再現しなくては
いけないと思う。
 でもそうするとウイッグを選ぶという変化をさせることができなくなるので、自分はいつも肩より長いウイッグを使っています。



 これはシルバーのロングを使い、髪で首筋を隠した例です。
 これなら違和感なく受け入れられると思う。



 こちらは内巻きのミディアムヘアーを被せたところです。ロングヘアーというのは外に連れ出したとき整えるのが手間なので、基本こちらを使用することにします。
 ただ内巻きが強すぎて目の部分が影になってしまうこと、胸元にまでヘアーが入り込んでしまうことの2点は修正したほうがよいでしょう。



 ということでお湯パーマです。
 自分の場合にはコーヒーを入れるときに使うポットで作業します。(お湯が細く出て作業しやすい)
 修正点は2つで、まずは額に垂れているヘアーを上に持ち上げること(E)。裾の部分はややストレートに修正(F)。あとは少々カットして完成です。



 仕上がりはこちらです。
 18年前にこのレベルで人形を作ることができていたら、少しだけ自分の生き方も変わっていたかもしれないです。
 完成が近づくにつれ、人形自体の成長を感じるとともに、自分自身もこの18年間でちょっとだけ成長したんだろうなあと感じているところです。









miho オリジナル球体関節人形 55cm 2006 mod.2023
 主材料はラドールプレミックス、その他ウイッグ、グラスアイなど。塗装はリキテックス、Mr.カラーなどで着色した後に高耐久ラッカー及びウレタンでコーティング。



 こちらがリメイク前の状況です。
 ボディの基本的な造形はまあまあだったんだけど、関節の仕上がり具合や、顔の仕上げなどはあまり上手でない。球体関節人形としては2作目、1年近くかけて一生懸命
つくったんだけどね。
 やっぱり当時は知識や経験も乏しく、volks のスーパードルフィーをモデルにしてつくるのが精いっぱいだった。



<着付けします>

 ボディが完成したら、裸のまま置いておくのも可愛そうなのでちゃんと着付けしてあげる。やっと最終段階にたどりついた。
 でも自分の場合には、このあと様々なシーンの中で撮影したり、ジオラマの中に主役として置いたりするので、ここから先がいよいよ本番という感じでもある。
 洋服のストックはおそらく何百とあるので、選択肢には困りません。

 

 画像のように、まずはスポーティーな感じでまとめてみた。ボディラインがきっちりと出る volks の DD用のものとは相性が良いかもしれない。
 がしかしです。自分としては快活な感じの女の子のイメージでつくったわけではないので、ちょっと違うななどと思ったりする。
 ただ人によってはこれが似合ってるという人もいるでしょう。
 人間も含めて似合う似合わないは、その80%が自分は主観だと思います。それは思い込みと言っても良いかもしれません。街の中を歩いている人を見て、「その服は似合っていない」
と思うことはあっても、おそらく着ている本人は「自分に似合っている」と思っているに違いないです。

 

 こちらはちょっと大人っぽいニットのワンピースです。
 自分では大人っぽい感じの子にしようと思って人形はつくってはいないので、最初から自分の目には似合わないように見えると思ってはいた。それでも着せてみたけど
やっぱりだめ。
 しかもこちらはもともと SD用のもので、ややスリムなこの人形では少しだぶついて見えてしまう。腰から上のボディラインがきれいに出ておらず、このワンピースを着せる
ことで人形の良さが消えてしまって、違和感すら感じる。

 この違和感というのは好き嫌いの次元とは異なっていて、人形の良さを奪ってしまう。
 自分的には着せる洋服は違和感さえ感じなければ、あとは好みで良いと思う。
 だいたいファッションの世界は、その人間に似合う似合わないで動いているわけではなくて、流行っているいない、時代にあっているいない、あるいは年齢的なもの、そういう
様々な流れ中で個々が選ぶもの。そこに絶対的なものはないように思います。
 30年後におばあちゃんが地雷系のファッションで巣鴨あたりを普通に歩いていることだってあるでしょう。

 

 自分は普通の優しい女の子をイメージしたので、こういうエプロンドレスはどうかなと思った。ボディラインは隠れてしまうけど、これはこれで良いと思います。
 当たり前のことですが、人形というのは表情を変えることはできません。
 人形作家さんの多くは表情を持っているお人形をつくる人が多いけど、自分のように写真に撮ったりジオラマの主役にするという目的でつくっていると、先行して表情を
持たせると後がやりにくい。
 だから基本的にニュートラルな表情につくっています。
 表情がニュートラルであれば演出によって、微かに笑っているようにも悲しんでいるようにも見えます。
 そして洋服選びもこの演出の一つです。

 

 現在この人形の展示用背景として、バス停のシーンを制作しているのだけど、そのシーンに似合うものを選んでみた。
 清楚な感じで、夏休みにたとえば横浜方面に出かける感じです。



<微修正>

 

 リメイクが完了したよとお伝えしたオリジナル球体関節人形の miho ですが、実は個展のときに少し気づいたところがあって、また手を加えました。
個展ではこんな感じで、山北町に実在するバス停を背景にして展示しました。

 でも何か冴えない。
 まず難しいのは美術館の照明で、影ができるだけできないように、ともかくフラットな照明だということ。
 だから逆に人形の場合には立体感がなさすぎて平坦に見えてしまうし、グラスアイがキャッチライトしないので、瞳に輝きがない。 そして問題は他にもあった。
 写真に撮ってみて気づいたのはウイッグの位置が3mmほど下がっていた。ヘアーというのは顔かたちを決める要素の一つで、人間と同様に見栄えが変わってしまいます。
 ただこれだけのことなのだけど、影が額に落ちて顔の輪郭が変わってしまう。髪やウイッグというのは顔かたちを決める大切な要素だということにあらためて気づきました。



 そこであらためてウイッグの位置を調整し、必要最小限だったメイクをやり直したのがこちらの画像です。
メイクのポイントは頬と鼻の頭の部分に赤みを入れたこと、目尻や頬の下部にシャドウを入れて立体感を出したとろかな。これで多少なりともフラットな照明にも対応できたし、
また少しベッピンさんになったかも。






 現時点では満足、miho についてはこれにて本当の完成としたいと思います。
 今回も長々とリメイクを続けてやっとゴールした感じですが、また気になるところが出てくれば、またきっとリメイクすると思います。
 リメイクは永遠です。おかげで新作は3年間もつくっていません。

 人形というのは製作するのはもちろんのこと、評価という点でもなかなか難しいものがある。
 というのも人それぞれで興味志向が全く異なっていて、ブライスがいちばんという人もいれば、昔ながらの雛人形が良い、あるいはビスクドールこそがベストという人もいるでしょう。
 その人その人で「大好きな人形」というものに違いがある。

 自分のつくるドールはかなりリアルな方向に振ってあると思う。リアル系のレジンキャストフィギュアの方向性に近いかもしれません。
 だったら「もっとダイナミックなボディに仕上げたら」とか、「もっと表情を持たせたら」みたいな声が、実は聞こえたりすることも過去にありました。

 でもたとえばこのボディでバストをあと2cm、太ももだとあと1cmボリュームアップしてしまうと市販のSDやDDの洋服が着せられなくなってしまいます。
 自分の造る人形のボディラインはSDとDDの中間的なものを基本としていて、良くも悪くもその上限を超えないように造形をしています。一度それを無視して大きなバストのお人形を
つくったけど、着せられる服がほとんどなくて、結局遊んであげられなかった。

 要するにSDやDDと互換性のある着せ替え人形なわけです。
 もっと「表情をつけたら」という声も聴いたけど、あくまでもニュートラルな表情にこだわります。ニュートラルだからこそ様々なシーンに似合う。
 明るく晴れ渡った空の下、悲し気な表情のお人形を置いても合わない。一見無表情に見えても、晴れた日の草原のシーンでは微かに笑っているように見える、それが良い。

 雨の日、折れた傘を背景にして写真に撮ったとき、少し悲し気に見えてしまう。そういうのが自分の理想です。
 人形からどういう表情が感じ取れるかというのは、多分に見る者の心理状態や置かれた環境に左右されると思います。ある意味、人形は見る者の心を映す鏡です。



 この人形の場合には様々な表情が「隠れている」可能性があると思う。
 そういう意味で自分としてはよくできたなと思っています。
 これで人形としては完成したわけだけど、でもまだ作品として完成したわけじゃないです。服を着せてそれにふさわしい風景の中で撮影する。あるいは思い描いた空間をつくり、
そこに置いてみる(ジオラマ)。そこまでやって自分の作品は完成します。



2023.09
camera: Panasonic Lumix DMC-LX7  /  graphic tool: GIMP 2.8 + Ichikawa Daisy Collage 10



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