yuri



<ヘッドリメイクの集大成>

 ここのところずっと古い人形のリメイクばかりしてきて、そこからなんとなく人形そのものの見方とか、作り方、そしていったい何が魅力的に
見えるのかが、少しだけ分かってきたような気がします。
 今回は12年前に制作した yuri というオリジナルの球体関節人形のリメイクを行うのですが、これを自分としては、ヘッドリメイクの集大成として、
仕上げたいと思っています。
 こちらがその完成画像です。








yuri  ( 石塑粘土 58cm 2011制作  2013に1回目のリメイク )





<リメイク前>


 

 こちらはリメイク前の画像です。
 すでに14年前の作品ではあるけど、いちばん頑張ってつくっていた頃の作品で、ボディに関して言えば、この手の人形としてはかなり完成度は高いと思う。
制作は2011年、その後2013年にいったんリメイクしたものの、そのままスポットを当てることもなく、押し入れで眠ってきました。



 1/3スケールの球体関節人形で身長は58cm、自分の制作したものとしては22体目で、いちばん頑張って作っていた頃のものです。ボディについては自分の
つくるスタンダードな形式で、今見ても大きな問題はない。



 問題はやはりヘッドの部分で、今一つ輝くものがない。
 早速、いろいろな角度から写真に撮ってモニターで確認をします。人間の目はまずは「本能的な目」で人形を見てしまうので、これを「理性的な目」で見るために、
撮影という1段階を加えます。



<ヘッドリメイク開始>
 この人形を制作した2011年頃、自分は青や青緑といったグラスアイの色合いが好きで、自分のつくる人形にもこれらのグラスアイを多く組み込んでいました。
 ところが肌の色はピンク色に近いものなので、青や青緑は補色に近い関係で必ずしも相性が良いとは言えない。多くは顔つきが人工的な、あるいは異星人のような
印象になってしまいます。

 ブラウン系のものにすると、肌と同系色でずっと落ち着いた感じになる。
 多くの場合、人形には大きめのアイを入れるのが普通なのですが、そうすると別な問題が出てきます。このように正面から光をあてているときには良いのですが、
少しでも光線が傾くとグラスアイの奥まで光が届かなくなってしまう。
 瞳が輝かないというのは大問題で、人形が魅力的に見えないです。

 今回はあえて人間と同じようなバランスで小さ目のグラスアイを選ぶこと、そうすれば虹彩自体が前に出てきて光が入りやすくなる。
 このような人形はある意味自然で良いのですが、地味で目立たない人形になりやすい傾向もある。今回はその点に注意してリメイクをすすめてゆきたいと考えています。

 



 いろいろ試してみて、今回はこれまでよりやや小さめのグレー系のものに変更することにしました。(最後の画像)
 ヘッドリメイクはこの段階で写真に撮り、PCのモニター上でじっくりと観察するところからスタートです。
 最初は顔の左右の違いに着目しながら修正することを考えます。



 目を比較します。見栄えは向かって右側の方が良い。右側に合わせるようにして、左側の上瞼のアイラインを整えます。(A)
 また下側の瞼の開き具合も左側の方が小さいので削って広げます。(B)
 唇の端の下がり方に違いがあるので、左側を削って下げます。(C)



 修正を実行したところです。左右の違いが小さくなったのがお分かりかと思います。
 違和感というものは、それが大きいほど目につきやすいものです。だから大きな違和感を取り除いて初めて、その下のレベルの問題点に気づく。

 今度は左目の形の方がきれいに整っているように見えます。向かって右目の目頭の切れ込みを伸ばし(D)、目尻側のアイホールに瞬間接着パテを
盛って形を整えます。(E)
 唇が左右対称になっていないので、右側に瞬間接着パテを盛って縮小する。(F)
 鼻が左右対象になっていないので、左側を削る。(G)

 同時にいくつもの修正を行うと、失敗したときに何が悪かったのか整理がつかなくなるので、必要に応じてPCでシミュレーションをします。
 自分は特別にAIとか使うわけでなく、GIMPというフリーのグラフィックアプリでこれを行います。「範囲指定」「にじみ」「スタンプで描画」この3つの操作が
できれば特に問題はないです。



 上の画像はそのシミュレーションの結果です。



 シミュレーションで修正の方向性が正しいと確認できたら、実際に作業を行います。上の画像は修正作業後に撮影したものです。
 目や唇の色は落ちてしまったので、次はMr.カラーでこれを補います。このために自分は人形の基本色をMr. カラーのNo.111と同色に調整しています。
こういうときにさっとNo.111を塗れば色は簡単にリセットできます。



 今回の作業を終えたところです。
 左右の違いに着目しながら修正してゆくだけで、これだけ自然な感じで顔形が整います。グラスアイの交換と1mmに満たない修正を何カ所か加えただけで、
見かけはすでに別の人形のようになっています。

 人形の顔つきというのは、ものすごく微妙なバランスで決まるものなのですが、それは良くも悪くも、それを見る人間がヒトと同様に、人形を「本能的な目」で
見ているからです。
 本来、人間の本能的な目は、ヒトの目鼻口のわずかな形状の違いから、その人物を特定したり、感情的なものまで推測することができる能力を持っています。
 だから人形作りは、自分の持つ本能的な目を理解して、それを理性的なものに置き換え表現しなくちゃいけない。そこが難しい。

 第一段階の修正は
左右の違いに着目しながら正面形を修正してゆくということ、これがすべての基本になる。





 昔作った人形は、強度を上げるために粘土をたくさん使っていました。多くの場合にはボディの軽量化と関節部分の調整が必要になるのだけど、今回はそこまで
重くないし、関節にも問題はないので、ヘッドのみの修正に集中します。
 ちなみに0.64kgというのは、一般的な1/3スケールのドールが1.4kgから2.0kg程度であることを考えれば、かなり軽く仕上がっています。
 軽ければテンションゴムを強く張る必要がなくなるし、ポージングもやりやすくなります。



 さて正面から見ての修正は終わりましたが、もちろんそれだけでは不十分です。立体としてみたときに問題があるかどうかを見極めるときには、まずは正面を向けて
みて、そこから左右上下にゆっくりと動かしながら確認をしてゆきます。そうすると顔の造形の奥行きが感じられる。



 正面から見ると問題を感じなかったけど、ゆっくりと左右に動かし続けたときに2カ所違和感を感じるところがあった。向かって左の小鼻の上少しボリュームがありすぎること(H)、
そして向かって右側の目の瞼が厚すぎて、アイが奥に行ってしまっていることです。(I)



 小鼻の上はリューターを入れたら簡単に修正できるけど、瞼の厚みの調整はちょっと難しい。まずは頭部を取り外して、瞼そのものの厚みを確認します。
 思った通りで左瞼の外側が厚くて2mmぐらいもある。
 1/3スケールだと瞼の厚みは1mmぐらいがベスト、レジンであれば1mmまで削るのは簡単だけど、粘土でできたヘッドだと、慎重な作業が要求されます。



 H,Iの2つの修正を終えたところです。塗装の落ちたところは、Mr.カラーのNo.111を必要最小限の分量を塗っています。
 睫がなくなったのと、アイの光軸が少しずれていることで、見栄えは悪くなったけど、これはあとで修正します。

 今度は再び正面から見て違和感を感じるところを修正します。このあたりは本当にいたちごっこみたいなものなのだけど、避けて通れない。すべては微妙な
バランスで成り立っています。
 向かって右側の小鼻がほんのわずかに大きい。(J)
 鼻のトップがとがりすぎているので丸みを持たせる。(K)
 下唇の右側が少し薄いので厚くする。(L)
 このあたりが主だったところです。微妙なところなので、PCでシミュレーションして修正の方向性が正しいと確認できたら、実際に作業を行います。



 削りのあと、必要に応じて瞬間接着パテを盛って整えたところです。



 2巡目の形状の修正によって塗装の落ちてしまったところは、次の手順で塗装し直します。
1 Mr.カラーのNo.111をベースにした塗料で色を吹きつける。
2 GX113つや消しクリアーを吹きつける。
3 人間用のチークを使って、微妙な色合いを整える。
 必要に応じて2と3は繰り返します。

4 アサヒペンの高耐久ラッカースプレーつや消しクリアを何度か塗って透明層をつくる。
 今回は塗装面積が小さいので、スプレー缶からエアブラシに移して吹き付けました。これで肌に透明感が出ます。
5 スポンジヤスリで磨いて、更に平滑にする。(上の画像)
6 GX114を吹き付けてつやを整える。



 睫を取り付け直します。画像にあるように瞼の裏側を少しだけ削って、その部分に睫を取り付けます。
 裏側に貼り付けると、その分アイが奥まったところに行ってしまって、せっかく1mmまで瞼を薄くした意味がなくなってしまいます。



 何がどう良くなったかは分かりにくいですが、間違いなく一歩前進です。
 ほんのわずかの修正の積み重ねが大きな変化につながると信じるしかないです。

 立体としてみたときに問題があるかどうかを見極めるときには、まずは正面を向けてみて、そこから左右上下にゆっくりと動かしながら確認をしてゆきます。そうすると
顔の造形の奥行きが感じられる。この
立体感を感じながら修正するというのが第二段階です。



 さて第三段階目のの修正です。左右に引かれた白い線は自分がフィールドラインと名付けたものです。空間的な拡大縮小を意味しています。どういうことかというと、
多くの場合には人形は目が大きく作られ、バランスとして口はずっと小さく作られることの方が多いです。つまり空間として上が大きく、下に向かって収束する感じです。
それをイメージする助けとしてこのフィールドラインというアイディアを思いつきました。

 それに対して下のピンク色の線はレベルラインと言って、水平を表す線です。フィールドラインが傾いている関係で、それに直交するレベルラインはやや上に凸の形状を
持ちます。人形の目を、人間よりもやや垂れたように表現した方が、より自然に見えるのは、このような理由からです。

 人形の周辺は空間として歪んでいると自分は考えています。
 但しここで言っていることは、人形だけに当てはまることで、人間やリアルなブロンズ像などには当てはまりません。難しいとは思いますが、興味のある方はドールメイクの
フィールドライン編をご覧下さい。



 ちなみに一つ前の画像をGIMPというフリーのアプリで、下に向かって少し拡大したのが上の画像です。口が大きくなって人間的なバランスになります。



 1つ前の画像から分かることは、鼻の下方がやや大きくひろがっているということ、ここは下に向かって細くした方が見栄えが良いと思った。(M)
 そして口は向かって右側をやや下げたい、ここはレベルラインに従ってやや垂らした方がより自然です。(N)



 このプランをGIMPでシミュレーションします。このあたりは微妙なので、事前のシミレーションはしておいた方が良いでしょう。結果はご覧の通りで、
よりすっきりしたと思う。



 プランに沿って、鼻の下方に削りを入れて細くしてゆきます。

 

 次は瞬間接着パテを盛って、口の形を整えます。同時に鼻にできた傷も瞬間接着パテで埋めます。

  ここで本日の秘密兵器です。細かな部分の曲線を整えるのは結構難しい。自分が使っているのはカーボンのスティックで、その先端にクッション性のある
両面テープを貼り、小さく切った耐水ペーパーを貼り付けて磨いてゆきます。細かな局面にもよく馴染みます。



 あとは、唇にはMr.カラーのNo.112、肌には暫定的にMr.カラーのNo.111を軽く塗ってから、GX113つや消しクリアーを吹きつけ、人間賞のチークで色を整えます。
このあたりはいつものこと。



 さてここまでで顔のパーツ全体のバランスが整いました。ここから先は
顔の輪郭を整えてゆきます。これが4段階目になります。パーツに歪みのある段階では、
輪郭自体に歪みがあっても気づきません。1つ修正するとまた次の一つが見えてくるという感じです。



 まずは軽くお湯パーマでウイッグの形を整えました。これが顔かたちを決める最も基本的な作業です。同時にグラスアイに光が入りやすくするための微調整を、
ここですると良いでしょう。(上の画像)
 ヘッドをやや上方に向けて観察すると、向かって左側の頬のボリュームが足りない感じです。(P)
 だだこれだけを修正してバランスを崩すだけなので、連動して唇の左端を伸ばし(O)、下唇の形も整える。(Q)

 

 連動して修正する場合には、PCの画面上でシミュレーションを行った方が良いです。
 これがその出力結果で、見栄えがまた少し良くなりました。



 プランに沿って瞬間接着パテを盛って頬の形を整え、Mr.カラーのNo.111を塗る。そしてGX113つや消しクリアーを吹きつけ、人間賞のチークで色を整えます。



 形状の修正はこの4段階で終わりなので、ここで肌の質感をUPさせます。
 アサヒペンの高耐久ラッカースプレーつや消しクリアを、エアガンに取ってから吹き付けます。これで表面が保護され、肌に透明感がでてきます。
 3回ほど吹き付けたら、400番ぐらいの耐水ペーパーで軽く磨く。これを2回ほど繰り返します。
 細かな部分は、カーボンのスティックの先端にクッション性のある両面テープを貼り、小さく切った耐水ペーパーを貼り付けて磨いてゆきます。



 これがその結果です。また少しだけ見栄えが良くなった。
 次はシミュレーションして、どのように化粧をしてゆくのか検討します。人間だったら、失敗してもクレンジングクリームでやり直せば良いけれど、これを人形で
やっちゃうと、てけてかになっちゃいます。だからシミュレーションです。



 頬にもう少し赤みを加え、上瞼にほんの少しシャドウを入れるという方向性を確認しました。
 軽くメイクしたところです。あくまでもナチュラルに仕上げるのが自分のやり方です。

 でもこのHPやブログを見て「参考になる」って人はいるのかな? なんかえらくマニアックで狭いところをつついているような気がするんだけど。



 さてここから先が最後の段階になります。最後は何をするかというと、
顔のパーツの端っこを整える という作業になります。該当するのはおもに目や眉、口の端っこ
部分で、微妙な表情をつけることもできる。もちろん最もデリケートな調整になります。
 朝起きてはこの人形の顔を見て、ここをこうしたら良くなるみたいなアイディアが浮かんだりすると、それをPC上でシミュレーションするのがしばらくの日課だった。
 1つ前の画像とこの画像を比べると、ほんのわずか印象が違う。
 どこを変えたかというと、両目の目頭を内側に0.5mmぐらい内側に寄せ、唇は1mmほど両サイドに延長、更にやや上向きにして、微笑んでいるかのように整えた。



 決まったなと思ったら、これを実行に移す。
 こちらが実際の人形に手を加えた結果です。



 次は眉毛が気になり始めた。いろいろ検討してシミュレーションを繰り返す目頭側を少し延長して、目尻側を下げ気味にする。そのうえで全体を太めに描き直した。
 そしてこのプランを実行に移した結果がこちらです。

 今回は5回に分けてヘッドのリメイクについてレポートしてきたけど、印象という意味では今回が一番大きく変化しているかもしれない。
 顔のパーツの、それも端っこの僅かな変更は、微細ではあっても、ものすごく影響が大きいです。
 市販のドールをリメイクする人は少なからずいると思うけど、パーツの端っこに着目して、試しにシミュレーションしてみるのが良いと思います。





<関節の調整>
 これで完成と言いたいところですが、ちょっとだけボディの方にも手を加える必要がありそうなことに気づきました。



 自立させて写真を撮ったのだけど、微妙に体幹にブレがある。あとさわったときに、今ひとつポージングが決まらない。
 さっそくその原因を調べるために、ばらばらにしてみる。



 これはボディの下半分を、腰から股関節に向かって見ているところです。テンションゴムがこの隙間をとおって、最後は足首に届く。dollが基本的なポーズをとったとき、
この腰関節のホールから、太もも、膝下、順にまっすぐと視線がとおって、最後は足首のホールに届かなくてはいけない。
 でも次に太もものパーツをつなげてみたら、さっそく視線が遮られてしまった。
 調べたらこの下半身のパーツに開けたホールの位置と形状が良くないらしい。ここはデザインナイフで削って修正します。

 

 あとこのdollに関してこ言えば、自分のつくったものとしては唯一、膝を二重関節にしています。
 でも粘土で二重関節をきちっと作るのは難しい。しかも可動範囲もあまり大きくならないので、以降はすべて自分は単関節にしています。実際、それでも90°
の可動は確保できるので問題はない。
 単関節に変更することも考えたけど、ここは瞬間接着パテで関節部分を調整して、遊びを極力小さくして対応しました。



 あとはテンションゴムを少し太くして、ポージングの安定感を高める。
 そのためテンションゴムをかける足首のCカンを大きめのものに変えました。



 ちゃんと調整すれば、仰向けにしてもこの通りです。





<おわりに>
 この人形をつくったのは2011年、西暦2000年前後に盛り上がった創作人形のブームが終わりつつある時代でした。
 イベントに自分のつくった人形を出しても、なかなか買い手がつかず、ヤフオクに出品した最後の作品の落札価格は4万円にも届かなかった。労働対価で考えれば、
これは時給200円にもならないので、もう人形を売るのはやめました。






 そして今、姿形は違うけれども、今ではこういう球体関節人形が海外通販サイトでは2万円ぐらいで売られている。もちろん手作りでなく、レジンキャストされたものでは
あるけれど、洋服付きでそこそこ可愛かったりする。人形の好きな人の、おそらくは95%ぐらいは満足できると思う。
 こういう状況だと、かつてあった創作人形のブームなど、もうやってこないような気がする。生き残るのは芸術性の高い人形や、ビスクドールなどのコレクションアイテムに
なりそうなものだけだろうな。

 ではなぜ自分がそれでも手作りにこだわるかというと、きっとそれは、つくることの面白さや、人形制作を極めたいという願望からだと思う。
 これまでしばらく過去作品のリメイクばかりしてきたけど、またもう一歩前進できるような気がしてきた。  ということで、このあとは6年ぶりに新作をつくろうと思っています。

2025.10

camera: Panasonic DMC-GX8 M.ZUIKO DIGITAL 12-50mm / graphic tool: SILKYPIX Developer Studio Pro.7 + GIMP 3.0



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