eye4工房番外編

秘境駅の謎



<飯田線「小和田駅」にヒントを得て>

 旅行やお散歩に出かけると、印象深い景色があって、その情景をジオラマにしたくなることがよくあります。今回の作品もその一つで、
秘境駅で知られる飯田線の「小和田駅」がそのヒントになっています。






小和田駅
 飯田線ではいちばん有名な秘境駅「小和田駅」です。ダム建設とともに周辺にあった30戸の民家が沈み、この駅を利用する近隣の方々はほとんど
いなくなったみたいです。最も近い集落まで1時間、徒歩で林道まで出るまでに1時間と、外界から隔絶されているような駅です。
 以前はこの駅につながる道もあったのですが、橋が落ちてしまってからは完全に隔離されてしまいました。

 




 駅の下と天竜川沿いに3台のミゼットが今も放置されたままです。
 以前はこの小和田駅を1/150スケールで再現してみようなんてことを、ちょっと考えたこともあった。でもこの朽ち果てたミゼットまでは再現できない。だとすると
ジオラマとしての意味も半分ぐらいなくなってしまいます。



 朽ち果てた車は、多くのモデラーがチャレンジしているテーマなので、自分でもそろそろやってみようかと考えた。ミゼットでも良いけど、1/32スケールしかなくて
少しやりづらい、そこでこちらの SUBARU 360 (1/24)の登場です。
 SUBARU 360 は国民車と呼ばれるほど人気のあった乗用車で、最初のマイカーはこれだったって人も多い。このプラモはヤングSSというスポーツタイプで、この
ほかにもコンバーチブルだなんて車種も発売されていました。





<スバル360>
 一瞬オープントップのコンバーチブルにしても良いかなと思ったのだけど、屋根や窓がないと車はすぐに内部から傷む。



 結果としてコンバーチブルは諦めて屋根はそのままつける。
 壊す部分としては、エンジンルーム(A)とフロントの荷室部分(B)のカバー、そして左側のドア1枚(C)の3カ所。ここがダメージを受けて少し外れているのを再現しようと思う。



1 壊れているという前提で、あちこちを加工してゆき
 ます。まずはエンジンルームから。

 ドリルで穴を開けてニッパーでこじ開け、あとはやすりできれいに磨く。フロントの荷室も同じように加工します。

2 左側のドアを外して、できた隙間を埋め、ヒンジなど
 をつくります。

 左ドアを切削、断面がむき出しになるので、エポキシパテで形状を整える。ネット上には何枚かの実車の写真がUPされていたので、それを参考にさせていただきました。
 すべてを再現することは不可能なので、目につくところ、この後の汚し塗装でごまかせないところを選んで細部を加工します。



 とりあえず最初の段階の工作が終わったところです。

 もう小和田駅に行ってから5年ぐらいたつのだけど、あのミゼットたちは、今はどのような姿形をしているのだろうかと、ふと思った。
 飯田線の小和田駅は秘境駅として有名なので、訪れる人もそれなりにいる。そしてネット上ではミゼットの画像もUPされていて、まだまだ形は残っているようです。

3 室内を制作します。部分的に隙間などをあけて、
 のぞき込めるようにします。

 室内については、ほぼ説明書通りに組み立てと着色を行います。
 いつも思うのだけど、小スケールの自動車のプラモデルって、どんなに室内をきれいにつくっても、透明パーツの窓を取り付けると、外からはあんまり見えなくなってしまう。
 そこで今回は左ドアを外して、窓ガラスが割れてしまった状態として再現することにしました。こうしておけば中が少し見えるし、後でここから汚し塗装をしたり、様々な
アイテムを追加することもできます。



 まずは使うパーツと使わないパーツを分ける、ナンバープレートはいらないし、細かな金属パーツも朽ちた状態なので不要かもしれない。
 その上でまずは全体をクリームイエローで塗装する。(A)  メッキパーツを取り付ける。(B) さびついてボロボロになった部分を表現する。(C)
 デカールを貼る、乾燥したらデカールを保護するトップコートを行う。(D) クリアパーツの取り付けと塗装を行う。(E) 錆付いた部分の塗装を行う。(F)
 雨だれや錆の流れた跡などを表現する。(G) 埃をかぶった感じを表現する。(H)
 少なくともこれだけの工程が必要で、その順序は変えることができない。

   4 タイヤに加工を加えて、パンクした状態にします。
    

 問題点が少しあった。タイヤを持ったら、少しだけべたつく感じがあった。
 これは要注意で加水分解が始まっている可能性がある。ゴムはプラスチックに比べると劣化が早く進む。紫外線はもちろん水分や塩分も苦手なので、ここは念のために
パーマネント マット バーニッシュでトップコートしておきます。
 4本のタイヤのうちの2本はパンクさせる。カッターで一部を切断し、その上にTAMIYAパテで盛り上げ加工します。

 

 あとはクリームイエローの基本塗装を行い、メッキパーツを取り付けます。良い感じに壊れたかな。

5 デザインナイフやリューターで塗装の落ちを表現
 します。

 すでに壊れた感じに加工してありますが、壊れて朽ちた感じにするには、当然の更に汚し塗装や錆加工が必要になってきます。
 錆びて塗装がめくれてしまった感じを出すためには、デザインナイフで直接ボディに切り込みを入れます。画像からは分かりにくいですが、塗料を入れた段階で効果が
出てきます。
 このあたりは、情景師アラーキーの「凄い! ジオラマ」という解説書あたりが参考になります。(アスペクト 2178円)
 メッキパーツはデザインナイフだとやりにくいので、自分はリューターを使って表面を荒らします。  

7 Mr.カラーの鑑底色をベースにした塗料で赤さびを
 表現します。

 この段階でデカールを貼り、それを保護するためにMr.カラーのGX113つや消しクリアーでトップコートします。またクリアパーツの取り付けも、このタイミング以外にはない。
 このあたりの手順は慎重に考えてやります。間違うと面倒です。その後でMr.カラーの鑑底色で錆びた感じを表現しました。下処理してあるので効果抜群です。(左画像)

 ただこれだけだと、まだまだリアルな感じにはほど遠い。そこで水性アクリルで墨入れしています。
 その墨入れ塗料で錆塗装した部分にも、ちょんちょんと薄めて色を落としてやると、錆が深く入った部分が表現できてリアルになります。(右画像)



 これが終わったら、墨入れ塗料を更に薄めて上から下に塗り、雨だれを表現します。
 次はパステルを使います。カッターでパステルを何色か削り、鑑底色よりやや明るめのパウダーをつくります。これは乾いた部分の錆や、塗装が薄くなって表面に錆が
浮いてきた状態を表現するためです。
 あとは綿棒にパウダーを取って、表面がこすれやすいような場所に錆を落とします。
 また錆の色も雨だれするので、パウダーをMr.カラーの薄め液に溶いて、極細筆で上から下に塗ってゆきます。
 そして最後に色を定着させるために、Mr.カラーのGX113つや消しクリアーを全体に吹き付けたら作業は完了です。





<ベースボードを作る>
 次はこのスバル360をどのような背景に置くのかを考えます。

 

 結果、ご覧のように駅に向かう階段の下をステージとして用意し、脇に道祖神や石仏などを置くという演出を加えることにしました。(左画像)
 スケッチをもとにして、次は平面図をつくります。(右画像) 特にルールはないのだけど、自分がいつも気にしているのは、主役をぽつんと真ん中に置かないこと、
いわゆる「日の丸構図」というやつで、工夫がなくつまらない。(A) あとは小さな作品の場合には斜めに配置して、遠近法的な奥行きを出す。(B) 全体のバランスを
取るために小物類を配置するという具合です。今回の場合には道祖神や石仏、階段などがそれにあたります。(C)

8 角材やスチレンボードを使って、ベースボードの基本的な形を作ります。

 配置が決まったら、100均で売っている直角を出す治具などを使って角材を組むところからスタートです。最初に正確な直角を出すというのはとても大切で、コーナーには
必ず補強材を入れます。(左画像)
 20cm四方の枠ができあがったところで、5mm厚のスチレンボードを貼って地面やコンクリートの壁を作ります。素材の候補としては合板やプラ板などの選択肢も
あるのだけど、上に載せるものが重くなければスチレンボードは安価で使いやすいし、完成すれば強度も出ます。(中画像)
 階段は2cm厚のスタイロフォームで形を作る。コンクリートの壁ですが、爪楊枝で水抜き穴を開け、縦横に軽くけがいて、コンクリートの分割ラインを表現しました。
細かいところだけど、こういうところがジオラマの説得力になります。(右画像)

9 手すりや道祖神などのアイテムを追加して、駅下
 の雰囲気作りをします。

 階段の手すりは2mm径のプラパイプに1mm径のプラ棒を差し込んで作りました。道祖神と石仏は造形用の粘土でつくったのだけど、大きさが2cmに満たないので、
風化した感じを出して良しとしました。



 すべてを配置したところです。これで背景を塗っておしまいにすることはできるのだけど、それでは当たり前すぎる。ここから細かな演出をどれだけ加えられるかが、
こういう破壊系・廃墟系の作品作りでのポイントになります。







10 隙間埋めをしてから、グレー系の基本塗装を行い
 ます。

 まずはベースボードの補強をかねて、ジオラマの側面や背面の隙間にモデリングペーストを詰めてゆきます。こういう作業はなぜか「60°カッター」がぴったり、ペインティング
ナイフよりも小回りがきく。
 次はコンクリートの壁とアスファルトの地面を表現するのですが、塗料としてはジェッソに少量の黒を混ぜたものを使います。このときしっかりと混ぜきらないで、あえてムラを
残すのが良い。



 この下地塗料を壁には筆で縦使いして塗る。あえてムラを残したので自然な雨だれの感じが出ます。
 通常、アスファルトはコンクリートよりやや濃いめの色合いなので、少しずつ黒を追加しながら、上からたたくようにして塗ってゆきます。そして完全に乾く前に「インスタントセメント」
薄く撒いて、土汚れした質感を出します。
 1時間ほどの作業ですが、簡単にそれらしきリアルさを持った壁と地面ができあがります。

11 雨だれやほこり汚れ、そして錆びた感じなどの
 汚し塗装を追加します。

 左画像は今回の秘密兵器です。こちらはアクリル絵の具の希釈に使う溶剤です。様々なメーカーから出ていますが100mlで500円ほど、自分はTEMUの割引を使って、通常の
半額ぐらいで入手しました。
 どういう効果があるかというと、通常はアクリル絵の具を水で希釈すると、下地にはじかれたりムラができたりする。ところがこれを使うとはじかれることなく、伸びよく薄く塗ることが
できます。あえて水性のプラカラーなど使うことなく、100均の絵の具で事が済むのがありがたい。
 チャコールグレーのアクリル絵の具を、このメディウムでまずは30倍ぐらいに薄めます。少量の水で更に薄めることもできます。
 細筆で雨だれや配水管から出た汚れた水の流れた跡を描き、またぼかし筆にとって、とんとんと軽くたたいてシミ汚れを表現する。



 もっと荒れた感じでも良いと思い、地面部分にはパーマネントマットバーニッシュを粗く塗って、上からインスタントセメントを撒く。同じ要領で道祖神と石仏にも土汚れを加えました。
 所々に小石を置いて接着する。手すりに赤さびを追加し、パステルとMr.カラーの薄め液にとって、錆の流れた跡を表現します。
 そして最後にMr.カラーのGX113つや消しクリアーを吹き付けて、インスタントセメントやパステルを固定すれば、ありがちな廃墟的地面と壁が仕上がります。







<植物表現を行います>
 さてこのままでもジオラマとして成立しないことはないのだけど、参考にした小和田駅は川の流れる谷にあって、全体にじめっとした感じがあります。当然それなりの
植物表現が必要になります。  

12 植物表現を行います。基本的には下層から、
 そして背の低いものからという順番です。

 まずはストックの中から枯れ枝木の枝を選んで配置します。谷にあるので上から枯れた木の枝も落ちてくる。これだけでもかなりイメージが変わってくる。この段階で subaru 360
の位置決めを行います。次に植物表現を行うので、やるなら今です。「車体の下に緑がいっぱい」というのではさすがにおかしい。
 最初の植物表現はコケです。コケ表現を行いたいところに、接着剤としてパーマネントマットバーニッシュを塗り、そこにジオラマパウダーを3種類ほど混ぜたものを撒きます。
 この場合、接着剤として木工ボンドは使いません。水で薄めて塗ると、テカリが出て水がしみ出しているように見えるからです。



 全体にコケ表現を行ってみました。水分が多く含まれているところを中心にパウダーを撒いているのがお分かりいただけると思う。 

13 変化をつけるために、枯れ枝などを雑ぜてゆき
 ます。

 もう少しリアルにしたいなと思って、オランダドラーフラワーを持ち出してきた。これをまずは細かく切り刻む。そして再びパーマネントマットバーニッシュで地面部分に
固定してゆきます。



 細かな植物表現が終わったところで、全体に高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーを吹き付けて、パウダーや枯れ枝類を固着、安定させます。これでポロポロと落ちる
こともなくなって、一安心です。

14 次に大きな植物の配置をしてゆきます。基本的
 には100均あたりで入手できるものを使います。

 左画像は大きな植物を配置すべく、そのアイテムを選んでいるところです。自分は100均などで販売されている塩ビの植物を、かなり大量にストックしているのですが、
まずはそのなかから使えそうなものを選びます。

 選んだものは最初に中性洗剤で洗って乾かす。乾燥したところで高耐久ラッカースプレーつや消しクリアを吹きつけ、そのあとMr.カラーで軽く着色します。(中画像)
 この植物の取り付けの前に、市販されている着色されたスポンジを適当に地面に貼り付けておきます。(右画像) このスポンジはとてもリアルな植物とはとても言えませんが、
単なる「地面の目隠し」なので問題はないです。最後はほとんど見えなくなります。



 植物表現を一巡させたところです。隙間だらけで、雰囲気が出ているとはとても言い切れない。



 二巡させたところです。植物の量は2倍になったのですが、見かけは密度が2割ぐらい増した感じにしかなりません。これが植物表現のつらいところで、本当にリアルな感じに
するには、かなり高密度にする必要がある。
 ある30cm×45cmのジオラマで、植物表現だけで3ヶ月かかったこともあります。



 ここで並行して他の作業もすすめます。
 subaru 360 にコケを生やします。つるつるではやはり背景に馴染まない。一体感を出すには必要な作業です。

15 細かなアイテムを追加です。コップと赤いコスモス
 そして「古輪蛇駅」の駅名表示です。

 コスモスの花はWAKO のペーパークラフト、コップは透明なチューブをカットしてUVレジンを流し込んだものです。
 小和田駅にも歩いて10分ぐらいの所にも社があって、いろいろなお供えがしてありました。そんなことを思い出して、こういったものを作ってみました。



 植物表現については「小和田駅レベル」にはなっているのだけど、まだまだコケがもふもふしていた方が良いと思い、緑色のコースターフを追加します。

 

 そのうえで subaru 360 を取り付けます。
 背景とのバランスをとり、一体化させる目的で subaru 360 の方にも更にコケを生やしてゆきます。だんだんと緑に包まれるような雰囲気になってきました。

 プリンターでつくった駅名表示ですが、「小和田駅」から雰囲気をいただいているだけなので「古輪蛇駅」としました。でも見る人が見れば、これで気づくと思う。
 逆に言うと小和田駅を知らない人には、このジオラマは今ひとつピンとこないかもしれない。





<完成画像>















 こちらの画像は見てもらうことを意識して、ライティングに工夫をしています。具体的には室内灯に加えてスポットライトを一つ追加しています。こうすることでより印象的な画になる。
 ここは深い谷間の駅で、スポット的に木漏れ日が差し込んでいるイメージです。






 こちらは間近に迫った個展に展示する予定の作品なのですが、正直なところ、一見してはとても地味な作品なので、ジオラマに興味のない人なら、素通りしていって
しまいそうな感じです。
 だからこそ「見せ方の工夫」が必要になる。そこでこの写真をプリントして作品のそばに置き「引き留め役」となってもらおうと考えています。

 そしてジオラマをこうやって撮影してみると、この画そのものがまた一つの画像作品として成立していることが分かります。
 この作品については、かなりの相乗効果が期待できると思っています。
 おそらくは、最初は単なる朽ちた subaru 360 と思っていた人も、作品をよくよく覗き込むことで、これが秘境駅を演出した情景であることが理解できるでしょう。
 そして「なんでここに車が放置されたままになったのか」を考えるはずです。「ここに車を止めて、帰ってこなかったと言うことか?」

 しかもここは廃駅ではなく、「ちゃんと利用している人のいる現役の駅である」ということに気づく。でなければ道祖神に花が捧げらているわけがない。
 では「いったいどういう人がこの駅を利用しているのか」、今度はその人物像を想像するに違いない。
 ここは謎多き秘境の駅。個展ではこのトラップにはまる人がたくさん出てきて欲しいな。



2025.12

camera: Panasonic DMC-GX8 M.ZUIKO DIGITAL 12-50mm / graphic tool: SILKYPIX Developer Studio Pro.7 + GIMP 3.0


サイトのトップページにとびます