eye4工房番外編
巨神兵
<いままた風の谷のナウシカの世界を表現する>
風の谷のナウシカが作品として発表されてから40年以上が過ぎたというのに、まだまだ自分などはどっぷりとその世界に
はまり込んだままです。それだけこの作品には、奥深い永遠のテーマがあるのだと思います。


手のひらにナウシカがいる。
激しい戦いのなかに生まれた、僅かな語らいの時間。もちろん劇場版のアニメにこのようなシーンはないし、コミック版にも描かれてはいない。
でもナウシカというキャラクターなら、きっとこういうシーンがあっても不自然ではないと思う。



ナウシカは、40年の時を経てまだまだ新しい展開を考えることのできるキャラクターです
<手>
さてたくさんの作品をつくるとなると、効率を考える必要がある。
自分の場合には「あるものは買う」「利用できるものは利用する」というのが流れで、お金がかかりすぎるもの以外は市販品を作品内に組み込みます。そして
いろいろ探して検討して、どうしようもなくて、最後は「つくる」という判断になります。

さて今回の作品に必要な者の一つが「手」なのですが、通販サイトをうろうろしていたら、このような品物を見つけました。(712円 TEMU)
本当は実物大を探していたのですが、こちらは手首から中指の指先までが13cmと一回り小さい。それでもお値段が手頃だったので購入してみました。
本体は壁に取り付けて、鍵やアクセサリーをひっかけておくというものらしいのですが、ややオカルトっぽい仕上げがイメージに近い。
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1 購入した手の手首の角度を調整し、表面の起伏を
整えてゆきます。 |
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イメージしているシーンでは、手首が手のひら側に曲がっていると都合が悪いので、いったん切断して手の甲側に曲げ直す。実際には中写真のように白いマーカー
に示されたラインで切断し、更にピンクで示したように三角カットを入れて、手の甲側から手のひら側に移して固定しました。固定には瞬間接着剤とエポキシパテを利用
しています。
そして切断面付近にジェッソを塗り、隙間や段差のある部分に造形用粘土を盛ります。そして爪楊枝で失われたモールドを修復します。

細かく見ると、モールドが中途半端なところもあるので、全体的に修正を加えてゆくことにしました。
結果として、かなりイメージに近いものができあがりました。
<顔>
さて次は「顔」です。ずっと利用できるものを探していたのだけど利用できるものが見つからなかった。ということで「つくる」という最終的な判断に至りました。

イメージをスケッチしました。これが実際上の設計図になります。
ちなみにアニメ版では、たった1体だけが不完全な状態で生まれて、あっという間に死んでしまいますが、全7冊の単行本のなかでは更に大活躍することになります。
おそらくは遺伝子操作とクローン技術を駆使して誕生したこの巨神兵を、自分は今回少し好意的に描いてみたいと思っています。
スケッチ自体は単行本を元に描いていますが、これがなかなか難しい。ページによって顔かたちが微妙に違うし、牙の数も違う。しかもナウシカと比較したときの大きさ
までまちまちで、何が本当なのか良く分からない。
といことで最終的には自分のやりやすい容姿と大きさでまとめることにしました。
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1 角材とスチレンボードを組み合わせて、まずは
概形ドをつくります。 |
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本体そのものは、入手しやすい2cm厚のスタイロフォームを適当な大きさに切って積み重ねる形で整形してゆきます。なかは空洞です。資源の無駄はもったいないので。
接着剤は発泡スチロール用を用います。接着から2時間程度の時間をおいて、カッターで大まかな形を切り出します。
続いて下顎をつくる。結局は見えなくなりそうなので、口腔内はあまり手を入れない。

こうやって形になってくると、自分の持っていたイメージが更に膨らんでくる。この作品は戦闘中の一コマではあるけど、ドロドロとした感じではなく、少し清らかで美しい
シーンでまとめた方が良いかなと思う。
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3 同じくスタイロフォームを使って、肩から背中を、
整形してゆきます。 |
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肩と背中にある突起をつくります。まずはスタイロフォームでざっくりと整形します。
これを取り付けてから、全体を布ヤスリで磨き、できてしまった隙間はモデリングペーストで埋めます。
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4 下顎をつくり、牙を粘土で整形して取り付けてゆき
ます。 |
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、爪楊枝に人形造形用の粘土ラドールプレミックスを盛り付けて牙を作りました。そして牙を本体に差し込んで固定します。やっと巨神兵らしくなってきました。

さて表面がこのままでは全然リアルでないので、粘土を使ってシワや血管、肌の荒れた感じなどを表現してゆきます。使用するのは例によってTEMUで売っていた
造形用粘土です。(中国語なので製品名は読めません)
スタイロフォームから剥がれ落ちないように、木工ボンドと少量の水を混ぜ込みます。
粘土を盛り付けたあとは、こうやってシワなど表現するのですが、すべて手作業でこれを行うので作業スピードは当然ダウンします。
粘土を盛って薄くのばし、漫画を参考にして質感を出しながら仕上げてゆきます。使う道具は60°カッター(へらの代わり)と固めの筆(掃くようにこすると、筆跡がシワに見える)です。

3日かけて形になってきた。
このアングルが良いね。

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5 巨神兵の塗装に入ります。まずは全体として、グリ
ーン系の下塗りをします。 |
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「風の谷のナウシカ」は基本的に空想の世界の話なので、絶対的なリアルというものは存在しないのだけど、作品としての説得力のようなものは必要です。だから
アニメを見たり、原作のコミックを参考にしたりするのだけど、往々にして事物が統一されていないことがあります。
色も同じで黒っぽいけど、それが赤、茶色、紫、様々な色をシーンによって帯びているように見える。次の作業はこの色つけからスタートです。
まずは下地塗料を作ります。白のジェッソをベースにしてグリーンとブラックのアクリル塗料で色をつけてゆきます。つくったのは緑を帯びたニュートラルグレーと
いった感じです。旧ドイツ軍の軍服の色に近いかな。
下塗りは一手間ですが、右画像のように上から赤系の塗料を塗ったとき、最初のグリーン系の塗装効いて、色に深みを持たせることができます。
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6 赤系の塗料で上塗りをします。変化をつけるために、 少しずつ明るい色に変えてドライブラシします。
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次に上塗りの塗料に更にピンクを加えて、固めの筆で荒くこするように塗る。表現としては難しいのだけど、意識としては肌の溝の部分には塗らず全体の70%
ぐらいに色を置く感じかな。次は更に塗料にホワイトとタンを加え、これをぼかし筆でドライブラシしてゆきます。このように塗料の色合いを少しずつ明るくして、
それを重ねてゆきます。
またこの段階で全体の雰囲気をつかむために目の塗装を行います。
輪郭部分にはグリーン系の下地塗料、瞳そのものには薄い茶系の塗料を塗ってから、本来の色合いであるイエローを塗る。イエローと体表の紫は補色の関係に
あるので、ひときわ瞳が目立つ結果になります。
瞳はこのあとUVレジンでコーティングしてから、軽くクリアーオレンジを中央に吹き付けて変化を出しました。

眉間に赤いポイントと2つの穴を開ければ、自分のイメージした巨神兵ができあがります。今回の塗装にあたっては、蒸気機関車のような重厚感を特に
意識しました。
なお今回は水辺でのシーンをイメージしていることもあって、最後に高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーを吹き付けて、少し濡れた感じにまとめてみました。

<ナウシカ>
今度はいよいよ主役のナウシカにとりかかります。

1/20スケールのナウシカについては、現在でも3種類のプラモが入手可能で、今回はツクダオリジナルの「カイに載るナウシカ」を使用します。パッケージに
記されたお値段は900円です。(絶版)
ツクダオリジナルがこの世界から手を引いた後、この模型を引きついだのはバンダイで、こちらは最近になって金型を新しいものに取り替えて、引き続き
販売中です。
風の谷のナウシカの劇場版が公開されたのが1984年、その原作となる宮崎駿氏の作品がアニメージュへの連載されたのはそれから更に3年ぐらい前からと
いうことで、もうすでにこの作品自体は半世紀近い歴史を持つことになる。
今考えてみても、このアニメは画期的でした。アニメと言えば、当時はまだ子供向けの単なる娯楽映画の域を出なかったものが、ナウシカのヒットによって、
大人がのめり込める作品が一気に世界中にひろまった感があります。
前回の個展の時、「カイに乗るナウシカ」のジオラマを展示していたら、たまたま旅行でやってきたアメリカの初老の男性が、しげしげと作品を眺め、何枚もの
写真に収めていったのを思い出します。
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7 ナウシカはポーズを変更するので、基本的に関節
部分で分割するところから作業開始です。 |
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このプラモ自体も40年の歴史があるので、お世辞にも良いできとはいえません。金型も荒れているし、パーツのあわせにも苦労する。それでも新金型のものより、
自分はナウシカ自身の表情がこちらの方が好きです。
いろいろ考えた末、カイの上に座っている姿から立ち姿へと、大幅にポーズを変更することにしました。
基本的には、ほぼすべてのパーツを関節部分で切断し、エポキシパテでつなぎ合わせる。できた段差などはタミヤパテを薄め液で伸ばしながら埋めてゆきます。
モールドの甘いところや、微妙なカーブの調整はデザインナイフとリューターで行います。これをやらないと全体にぼてっとした感じになっちゃう。

もう原型がどのようなポーズだったか分からないですね。
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8 フィギュアの塗装を行います、基本的にまずは
肌の部分から始めます。 |
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「顔はこちらの方が好き」と言いましたが、問題がないわけではない。右上瞼のモールドが欠けている。(A) 鼻が少し曲がっている。(B) 口が左に寄りすぎ。(C)
等々の問題があったので修正します。これらを修正し、あとはホワイトサーフェーサーを吹きつけて耐水ペーパーで磨き直しました。(左画像)
このあとMr.カラーのNo.111を基本色として塗った後、人間用のチークを使い、模型用の細めの綿棒を使い色をつけてゆきます。1回ではうっすらと色がのるだけ
なので、何度となく GX113 を吹き付けて色を重ねてゆきます。
陰影部分は、パーマネントマットバーニッシュに、少量アクリル絵の具を溶け込ませて筆で描いています。(中画像)
あとはめがね式のルーペを用いながら眉や瞳を描いてゆく。そして最後にMrカラーのGX113つや消しクリアーを吹き付けて定着させます。(右画像)

こちらが修正を完了したところです。
1/35だと難しい修正も、1/20だと諦めなければなんとかなる。
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9 全身の塗装を行います。色合いは設定された色
よりもやや濃いめにしました。 |
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ウミガメのマークは神経を使う、これがちゃんと描けていないと、ナウシカにならない。
自分は基本的につやと質感のコントロールは最後に行います。その方が効率が良い。ちなみに衣服はフラットベース粗めを追加したGX113、その他の場所は
GX113、金属は半つや消し、ガラス部分はクリアーといった具合です。

あと色合いについてはメーカー指定のものとはかなり変えてあります。しっとり感のある、落ち着いた感じに仕上げたかったので、「風の谷のナウシカ」の単行本などを
参考にしながら、かなり暗め、重めの色設定をしました。
本体の塗装が終わったところで、付属品を取り付けます。
陰影を補う必要があるところは、パーマネントマットバーニッシュとアクリル絵の具で表現します。
<ベースボード>
今回のジオラマは劇中に登場したものではなく、自分自身がイメージした水辺でのシーンです。登場するのは巨神兵とナウシカだけ、シンプルなんだけど、個々に少しだけ
演出を加えます。
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10 ベースボードを組み上げて、透明レジンを流し込み、
水辺を表現します。 |
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次はベースボードの制作に取りかかります。水面自体は透明レジンで再現することになるので、今回は暑さ1cmの合板や角材を使って頑丈につくります。
31cm×31cmの底面積でも、深さ1cmに相当する透明レジンを流し込めば、重量1kgを軽く超えるので、ベースボードに強度は必要です。
中画像は完成したベースボードに取り付けをする巨神兵の位置決めをしているところです。
想定したシーンを正確に再現するには、この位置決めが重要なので、何度となく確認を行いました。
ベースボード表面は基本的に青緑色に塗ります。
太陽光線は紫、藍、青、緑の順に水に吸収される。従って浅ければ青みがあり、深くなれば緑色を帯びることになります。今回は巨神兵の胸から下の部分が
沈んでいるという設定なので、青緑に黒を少々雑ぜて、かなり深い感じの色合いに調整します。(右画像)
このとき巨神兵の周辺は、巨神兵自体の作る影によって水は更に暗くなるはず。だから巨神兵周辺は更に一段明度を下げて塗りました。(A)
続いて透明レジンを流し込むための枠を作ります。まずは両面テープでポリプロピレンシート(PPシート)を周囲に取り付けます。合わせて角の部分はPPテープで
つなぎ、更に木枠にPPテープで上から押さえます。(B)
次はUVレジンで隙間埋めの作業をします。天板とPPシート、天板と巨神兵の隙間を埋めるように少量のUVレジンを流し込んで硬化させます。これでレジンの漏れの
恐れはほぼなくなる。 (C)
あとは説明書に従って2液混合型の透明レジンを流し込みます。このとき下地に塗った青緑色と同じ色合いになるよう、レジン液を着色します。
流し込みは2回に分けて行います。今回は深さ1cm以内で済ませるつもりなので、最初の流し込みは3~4mm程度にします。確かに使う量が多くなればリアルにはなる
のだけど、その分、ものすごくお金がかかるので、このあたりが良いバランスかと。
流し込みは何度やっても緊張する。失敗したら、そこですべてがおしまいだから。
レジン液が固まるまでは、埃がかぶらぬよう上から布をそっとかけて、放置しておきます。
1回目の流し込みが終わったら、微修正します。
巨神兵と天板の接合部分が透けて見えるのはよろしくないので、彩度を下げた青緑のアクリル絵の具を、希釈液に溶いて塗ります。(D 希釈したので画像は白っぽい
ですが、乾けば暗い青緑色に戻ります)
また変化をつけるために、もやもやっとした線を書き入れる。(E)

これらを何回か繰り返して、水の深みや動きを感じるように調整します。
そして2回目の流し込みを行う。
縁の部分はPPシートで枠をつくって、レジンが流れ出ないようにしていました。レジンはPPシートにはくっつかないので取り外すことはできますが、強力な両面テープの
糊が木枠の方に残ってしまう。ここは100均で購入したシールはがしを何度かスプレーして時間をおき、拭き取るのが良いでしょう。
表面張力の関係で縁の部分は平らにならない、ここはカッターなどで削りを入れ、金ヤスリで磨きます。(中画像)
削り跡はKATOのさざ波を塗って目立たなくします。そしてベースの木枠をチャコールグレーで着色すれば基本的な工作は完了です
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11 水面上に、ドライフラワーと紙からつくったスイレン
を配置します。 |
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少しだけアクセントとして植物表現を加えることにしました。
まずはドライフラワーの下処理をします。高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーを瓶に取り、ここにMr.カラーの薄め液を加える。そしてここにドライフラワーを
つけて乾かします。これでドライフラワーの耐久性が増して、劣化が防げます。
ここで注意ですが、水性のトップコート剤を使って同じことをやろうとすると、ドライフラワーは変形して使えなくなります。(花が閉じてしまう)
次は着色した紙を葉っぱの形をしたパンチで打ち出します。
あとは適当な位置に花と葉っぱを貼り付ける。
これで沼からゆっくりと上がってくる巨神兵という感じになります。
<完成画像>

巨神兵
激しい戦いの中、ひとときの静けさを取り戻したときに交わされる巨神兵との語らいのシーンです。(1/20スケール) ジブリ関連はこれで10作目になります。
ナウシカというと激しい戦闘シーンも多いのですが、どちらかというと自分はこういった少し落ち着いた場面を描くことが多いです。

激しい戦いのなかに生まれた、僅かな語らいの時間。もちろん劇場版のアニメにこのようなシーンはないし、コミック版にも描かれてはいない。
でもナウシカというキャラクターなら、きっとこういうシーンがあっても不自然ではないと思う。

ナウシカは、40年の時を経てまだまだ新しい展開を考えることのできるキャラクターだと思う。
風の谷のナウシカは、繰り返される悲惨な戦争と、それでも戦いをやめない人類の愚かさを描いているとみることもできます。ただそれで全編が貫かれているわけでは
なく、そこに少しばかりの救いや希望と行ったものがちりばめられている。
自分はそういったものをピックアップしているつもりです。そして今年もまた、きっと何かつくると思う。
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