新作ドール nana の制作記録 

7年ぶりの新作です




<つくりたいと思う気持ち>

 7年ぶりにオリジナル球体関節人形をつくったという話になります。
 リメイクばかりの7年間でしたが、久しぶりに「つくりたい」という気持ちが表になった結果です。

 

 こちらは個展で展示した状態です。この時点では97%ぐらいの完成度でした。

 

nana
 オリジナル球体関節人形 主材料は軽量粘土のプルミエ、56cm、391g、9頭身のすらりとしたボディが特徴で、モデルは特にありません。造形は自分の
感覚だけで行っています。





<型取りと型抜き>
 次の個展にに向けて、大物をひとつつくることにしました。自分自身では7年ぶりになる、粘土製のオリジナル球体関節人形です。
 これまでに35体の人形をつくり、その2倍ぐらいのリメイクを行って、完成させた人形は100に近いと思う。

 最近は旧作品の人形のリメイクばかりになっていたのも、昔つくった人形の欠点と、こうしたらもっと良くなるという解決方法が見えてきたからです。自分としては、
かわいそうな人形を放置しておくというのは、許せないことだった。
 それも一段落して、さて新たなチャレンジも必要なかなと、最近ずっと思っていました。

 

akane
 オリジナル球体関節人形 石塑粘土 56cm 2018
 こちらは8年前につくったオリジナル球体関節人形です。人それぞれ好みはあると思うけど、今でも欠点らしきものはなく、リメイクなどはしていません。
 基本的には、粘土で作った16のパーツに色を塗って仕上げて、テンションゴムでつなぎ、そしてグラスアイやウイッグを装着して完成させる。口では簡単な
ことだけど、完成度の高いものを作り上げるには、知識や経験がかなり必要になる。

 作り方にはいろいろあるのですが、その代表的なものをいくつか紹介します。おそらくはこういうことをしている人、知っている人はかなり少数だと思うので。

制作方法A 固定関節の人形から作る
 発泡スチロールを芯にして、その上に粘土を盛り、まずは固定関節の人形をつくります。作り上げたところで関節部分でこの人形を切断し、発泡スチロールの
芯を取り除く。そのあと関節部分を整形して、テンションゴムでつなぎ、一体化させる。
 もっともベーシックな方法、但し手間もかかります。(下手すると半年)



制作方法B 内型を使う方法
 人形の設計図から、一回り小さな内型をまずはつくます。



 この内型を取り囲むように粘土をかぶせ、ある程度乾いたところで内型から外して成型する。
 内型は繰り返し使用可能なので、同じタイプの人形をいくつも作るには効率が良い。自分も最初の10体ぐらいは内型の方法でつくりました。



制作方法C 外型を使う方法
 自分が盛んに人形を作るようになった頃は、 Volks の SD(スーパードルフィー)が全盛の時代で、自分もつくった人形をイベントなどで販売することにしました。
ただやはり内型を使っても制作には時間がかかる。もっと簡単で早く、たくさんの人形を作ることができないかということで、今度は外型を使うようになりました。

 

 まずは当時自分でもよくできているとたなと思っていた人形を分解し、テンションゴムの穴を塞いで原型としました。 (このときは、ちょっと悲しかった)
 そしてこれをもとにシリコンの型をつくります。あとはこの内側に粘土を詰めて合わせてパーツをつくってゆく。
 完成品に最も近い形状なので、仕上げにかかる時間は大幅に短縮できます。(最短で3週間)

 但し作る人形の体型がほぼ同じになって変化がなくなるので、違うタイプの人形をつくるのであれば、その後の作業で工夫を加える必要がある。
 ちなみに粘土の人形でシリコンの型を使うのはレアだと思う。吸水性のある石膏などを使うのが普通だと思います。
 このころはフィギュアなども成形していて、たまたま手元にあった型取り剤がシリコンだったというだけの話です。別にそれで困ったことはないのだけど。





 ここから先は自分の工夫です。粘土ですべてを作ろうとするのは潔いかもしれませんが、転倒などのトラブルがあったとき、破損するのは多くの場合に
指先です。普通は金属の芯を入れるのだけど、ヒビは簡単に入ってしまいます。
 そこで自分は手足と肘の二重関節については、途中からレジンキャスとしてパーツをつくることにしました。以降、トラブルはないです。

 あと特に上半身の軽量化も大事、頭の重い人形だと、転倒したときに鼻や耳などが破損することが多いです。
 ちなみに外型に加え、テンションゴムを通す穴を抜く型を別につくって、すべてのパーツをレジンキャストすれば、何ら市販のドールと変わらない人形が
できあがることになります。




 箱を整理していたら、昔のパーツの残りが出てきました。
 股、膝下、肘から下(以上は粘土)とハンドパーツ(レジン)、これらは少し加工すれば使えそう。ヘッドパーツもあったけど、厚みがあって重い。先ほどの話では
ないですが、軽い方が良いので、こちらはつくりなおすことにします。





 ちなみに球体関節人形を作る方法は、人によって様々のようです。まとまった資料としては、左から「はじめて作る球体関節人形(アイミ 制作方法B)」、
「吉田式(吉田 良 制作方法A)」、「吉田式Ⅱ(吉田 良 制作方法C)」があります。
 こちらは現在も入手可能です。すべてを一からやり始めるのは無謀なので一読することをお勧めします。
 なお、「はじめて作る球体関節人形」にはキャストドール編もあるので、大量に同じものをつくるつもりなら、こちらが参考になります。おそらくはこの4冊で、
手作りの人形の基本的な作り方は理解できると思う。


1  シリコンの型の修正を行います。つくるのは肘と
 膝の2カ所です。

 さて、さっそく型に粘土を詰めて制作開始と行きたいところですが、まずは型の修正を行います
 型自体の完成度は高く、やや細めに作られているので変化もつけやすいのですが、不満な点が1つあった。それは肘の二重関節の小さなパーツで、やや
大きめにできています。
 この際、一回り小さくしようと思って、あらためて肘関節をつくり、久しぶりにシリコンで型取りしました。(中画像)
 そして後で思った。こんな簡単なパーツならわざわざシリコン使うこともなかった。

 今回はやれることはやるつもりでいるので、膝も二重関節にします。
 膝の二重関節のシリコン型もないので、こちらもつくります。但しこちらは100均で売っていた型取り粘土を使う。先日リメイクを完了させたオリジナル球体関節人形
yuri の膝パーツを外してモールドをコピーした。これならあっという間で効果もほぼ同じです。(右画像)

 今回の人形の名前は仮の名ですが、nana にしておきます。
 何も日本テレのアニメとか、スケートの高木菜那さんから取ったのではなく、volks の初代SD nana から取ったものです。(当時64,800円だったかな? 今も持ってる)
 人気人形作家 恋月姫さんのつくる人形に似ていて、こんな可愛い人形が一般人にも簡単に入手できるようになったんだと、当時は本当に感激した覚えがある。
 そしてこの世界に自分は引き込まれた。
 今回は原点に戻るつもりで、nana としたいと考えています。





 こちらは12年前につくった nanami という人形です。ちょっと古い作品なのですが、この人形についてははまだリメイクしたことがないです。この人形を
つくったときには、天から何かが降りてきたみたいな感じで、不思議なぐらいにするするっと完成してしまったのを覚えている。



2 粘土を型に詰めて、型抜きをします。使用するのは
 人形用の軽量粘土です。

 人形制作で使われる粘土にはいくつかあるのですが、代表的なのがパジコのラドール、ラドールプレミックス、プルミエといったところです。
 最もベーシックなのがラドールでのびが良く、乾燥による収縮も少ない(3%程度)、但し柔らかくやや重いので、作家さんの間では軽量粘土のプルミエ
(上の画像)を混ぜて使用されるようになり、それが市販化されたのがラドールプレミックスです。

 自分の場合には型抜きすること、そして強度を求めることから、ラドールプレミックスに更にプルミエを混ぜて使うようになっていました。
 ただ今回は極限まで軽量化したいと考えているので、新規に型抜きするパーツは、ほぼ100%プルミエでやってみようと思っています。プルミエの長所は
軽く強度があること、そして短所は収縮が大きいことです。(6%)

 基本は粘土を適量型に押し込める、そして乾燥させるです。
 足のパーツですが、指先の部分だけはエポキシ粘土で整形するというハイブリッドにしてみました。手足の指というのは破損しやすいので、強度を高める
ための工夫です。
 制作本には「粘土の中心に金属の芯を入れる」という方法が紹介されているけれど、こちらの方が断然強度は高いです。


 一般にシリコンの型は熱に弱く、レジンを流し込むとその発熱によって堅くもろくなってしまいます。でもレジンとは違い粘土は化学反応して固まるわけでは
ないので半永久的に型は使用できます。

 テンションゴムが通るパーツは2分割して型抜きします。
 プルミエは強度が高いので、3mmの厚さがあれば大丈夫です。但し型には癖があって、経験上「この部分は削ることが多いな」というところは5mmぐらいに厚く
、「盛り直すことが多いな」というところは2mm以下にして、その後の修正をやりやすくしておきます。

 自然乾燥でも良いのですが、効率よくやるなら扇風機を当てます。ときどき表面を押さえては内側への収縮を防ぎます。(中画像)
 表面が乾いたぐらいのときに、ゼリー状の瞬間接着剤を断面に塗って上下を接着させます。(右画像) あとは乾燥するのを待ちます。



 全20パーツが取り出せました。いよいよ始まったという感じです。
 ちなみにこの段階で重さを量ったら、20パーツの合計が292gでした。これまでにつくったなかで最も軽い人形が475g、このあとゴムやウイッグなどの重さが
加わるのだけど、最終目標としては400g以下にしたい。軽ければ転倒したときの破損の可能性は小さくなります。



 次は軽くはみ出したバリを削り取る。そしてこのままでは簡単に壊れてしまうので、人形製作用の粘土「プルミエに」に木工ボンドと少量の水を加えて練った、
接着用粘土を隙間に埋め込んでゆきます。

 さてご覧になってお分かりのように、シリコン型+粘土の組み合わせだと、パーツに収縮や歪みが出やすく、レジンやビスクのようにきちっとした形状では
仕上がりません。
 だからたとえ同じ型を使っても同じ人形はできないです。「だいたい同じ形のものができる」という感じです。
 これは欠点と言えば欠点なのですが、その分、型抜きした後の修正や加工によって、それぞれの人形に個性を持たせて完成させることができます。その
流れについては、今後の展開のなかでお話しします。

 極端な話ですが、市販の人形を型取りして外型を作り、それから粘土を型抜きしたら、かなりの時短でオリジナルドールができると思う。たとえばSDやDDの
洋服を着せることのできるオリジナルドールを作ってみたいのなら、おそらくはこれがいちばん早い。
 一応言っておくと、もしここで粘土でなく、レジンを流し込んでそれを販売したらアウトです。  





<関節をつくる>
 次に行うのは球体関節の部分を、正確な球面に整える作業です。

3 基本的に凹凸のある2つのパーツをこすり合わせて、
 関節部分を仕上げてゆきます。

 外型から出したばかりの状態は、かなりの歪みを持っている。そこでどうするかというと、関節部分をぐりぐりと様々な方向からこすりつけます。すると出っ
張っているところは、摩擦によって磨かれてつるつるになり、何も当たっていないところは、粘土の地がそのままになる。
 出ているところに布やすりをかけ、当たっていないところには薄く粘土を盛る。
 これを根気よく何度もやれば、そのうちきれいな球面になるというわけ、とっても原始的です。

 なぜ先に関節部分を整えるかというと、関節が造形上の制約になるからです。どんなに美しいボディラインをイメージしても、そのラインでつくって、自立
しなかったり、ちゃんと関節が曲がらなければ、球体関節人形としては不十分なものになってしまいます。
 だから自分の場合には、ちゃんとした関節部分をまずはつくり、その制約の中で造形してゆくという方法をとっています。
 もちろん世に中には「形から入って関節を作る」という人もいますが、自分の場合には遊べる人形であることを大切にしているので、こういう選択になりました。

 ヘッドは上下分割式です。この段階でネオジムマグネットを埋め込みました。(右画像)
 創作人形は多くの場合、固定式のドールアイだったり描き目だったりするのですが、自由度を上げるために、自分はアイを交換式にしています。同じ理由で
ヘアーも接着でなく、市販のウイッグを使うようにしています。
 「遊べる」ってことは大切です。



 上半身が整ったととのったところです。頭頂から股関節の上部まで24cm。


 腕の部分は細かいので、関節磨きも少し面倒です。こすり合わせてからリューターを使って磨く。砥石も最初は金属、なだらかになったらゴムを使います。


 足のパーツを整えるのですが、ここで一手間かけます。
 盛ってボディラインを整えるのが基本ですが、最初から盛ることが予想できる所については、下処理をしておきます。画像で+3などと書いてあるのは、ここに
粘土を後々3mmの粘土を盛るということです。

 基本的に各パーツは3mmの厚さを持っているので、その部分は最終的に6mmの厚さになる。軽量化のためには薄い方が良いので、パーツを割って、裏側から
薄く削ります。
 プルミエは強度があるので、1.5mmぐらいまで削りこんでも大丈夫です。

 人生2回目の膝の二重関節です。この形状を整えるのに3日かかりました。ぐらつきは単関節に比べても大きくはない。
 この膝関節パーツは特殊な形状をしていて、特定の方向にしか動かないようになっています。難しく言うと回転楕円体を2つつなげたような形状です。





<テンションゴムでつなげる>
 さて現状では全部で20のパーツが出そろったところで、次はこれをつなぎ合わせてゆくことになります。
 もともと球体関節人形は、人形を可動させて遊べるようにしたおもちゃだったわけで、そのために球状の関節を作り、テンションゴムでつなげた。ジュモーなどの
ビスクドールはその完成形といっても良いでしょう。
 ただ現在の人工関節に比べると、安定感やポージングの自由度は明らかに劣っていて、樹脂製のドールではあえて球体関節を必要としないのが現実だと思う。



 さて球体関節人形の基本中の基本です。上の画像は以前にリメイクした ayana というオリジナルドールです。
 白く引かれたラインがテンションゴムの通り道になっています。ヘッドからラインを垂らし、首下の部分を始点として両足までテンションゴムでつなげる。また両手も
胴体上部を経由してテンションゴムでつなげる。
 基本的にはこの2系統で全20パーツをつなげます。

4 テンションゴムでつなぐための取り付ける金具を
 パーツに取り付けます。

 テンションゴムの終点となる手足には、手作りのCカン(2mm径)を取り付けます。その左側に移っているのはパーツ側に取り付けるアルミの軸です。
 手足のパーツに軸を埋め込み、伸縮しない太めの糸でCカンとつなぐ。(中画像)
 こちらは始点となるヘッド部分です。こちらは最もテンションのかかるところなので、2.5mm径の太めのアルミ線でSカンをつくり、その受けとしてMカンを
ヘッド下部に埋め込む。(右画像)





 横から見て、軸線(テンションゴムの通るライン)を鉛筆で引く、頂点は首関節の頂点で下端は腰関節の頂点となる。

5 テンションゴムの通る穴を開けます。基本的に
 一直線上に見通せることが大切です。

 左画像はSカンから太めのラインを導体上部に引き込む。そのための穴を開けたところです。ここにテンションのすべてがかかるので、自分は摩耗を
抑えるためにも開口部はエポキシパテで補強しています。
 左画像はは腰関節です。左が導体下部、右が導体上部になります。
 ちゃんと先ほどの軸線が一直線になっていれば、穴を開けて見たとき、首関節から股関節の開口部まで見通せるはずなので確認します。

 さて多くの場合、従来の球体関節人形の開口部は「円形」だったのですが、自分は「交差する十字」で可動範囲を制限しています。
 この腰関節で言えば、下部パーツで左右の可動域を、上部パーツで前後の可動域を調整し、ポージングの安定性を増そうと自分は考えています。


 股関節です。赤の印はテンションゴムの降りてくる場所です。どこまで足を広げるかで、開口部の大きさは変わってきます。今その確認を行っているところです。
(左画像)
 膝の二重関節は今回で2回目、工夫したのは手にしている膝パーツです。通常このパーツは膝下と同じ動きをして、5mm引き上げると膝下パーツから独立して
動かすことができる。回転楕円体を2つつなげたような形状で、少し時間をかけて磨き出しました。
 通常の単関節だと可動域は85°ぐらい、この関節の場合には135°までOK、見栄えは良くなくなるけど正座も可能です。



 テンションゴムでつなぎます。テンションゴムの通る軸線が一直線上にあれば必ず立ちます。今回は正しい手順で製作しているので「立たないかも知れない
」という不安は正直なところなかった。
 そして立つと言うことは、「現在のところはバランス良く仕上がっているよ」という合図なわけで、これで安心して次の作業に進めるということになります。



 テンションゴムを通す穴は必要最小限の大きさにしてあるので、ちゃんと調整すれば曲がるところはきちんと曲がり、曲がってはいけないところは曲がらない。
だから上の画像のように、背骨のアーチも保持できます。





<ボディラインを整える>
、腕から先のパーツにもテンションゴムを通して人形のかたちにしました。一見して細身ではあるけれど、バランスの取れたボディラインに仕上がっている。

6 関節部分の調整とできてしまった段差などの修正
 を行います。

 今回久々に取り組んだ膝の二重関節ですが、裏側にくぼみを入れたことで、更に膝部分を引き出したときの安定感が増しました。(A)
 次は関節部分の造形的な問題です。まずは正面から見て調整を行います。
 左右の肩の部分を比較すると、左右でその幅に違いがある(左肩の方が広い)。そこで右肩を外に引き出す、(B)
 腰部分に上下パーツの段差があるので、これを守成する。(C)
 おへそが右に寄りすぎ。(D)

 右画像は修正プランを練って、直接人形に書き出したところです。ー1は1mm削る、+2mmは粘土を2mm盛るという意味です。


 盛るのはともかくとして、削るというのはやはり危険です。3mmの厚さがあるので、1mmは削っても良いはずなのですが、時々削りすぎて穴が開くことがある。
 このときの対応ですが、まずは水を含んだ筆で穴の周囲を湿らせる。これを何度か繰り返すと粘土自体が柔らかくなるので、これを指で上から押さえてくぼませる。
あとは薄く伸ばした粘土に木工ボンドを塗って、上から密着させてやれば良い。このやり方を知らないと大騒ぎしちゃうだろうなあ。



 修正の第一段階が終わってすっきりしました。この「違和感がない」というのがとっても大切なことです。
 人形らしい形にはなっているし、これでポージングも十分に可能なので、人形としてはほぼ完成したと考える人も多いかも知れませんが、まだまだ完成までは
遠いです。

 さて今回の像形状の特徴について、自分のイメージをざっとお話しすると、基本的には8.5頭身の小顔で、すらっとした運動能力の高い女性をイメージしながら
造形作業をすすめます。たとえて言うなら柴咲コウさんとか綾瀬はるかさんあたりかな。

7 粘土の盛りと削りを繰り返して、イメージした容姿
 やボディラインに近づけます。

 まずは大きな傷を埋めて形を整えます。作業としては少し柔らかめに練った粘土を盛り、カッターと布ヤスリで平坦にしてゆくだけのこと。
 お顔の方もきれいになりました。(右画像)

         

 いよいよ「人形としての造形」が始まる。まずは直立させてバランスを見る。
 最初の段階で修正したのは太ももに粘土を盛ってボリュームを出すこと、膝関節のつながりが良くないのでラインを整えることです(左画像)。

 あとはポーズを少しずつ変えながら、調整を加えてゆきます。基本的に細身で作っているので、粘土を盛るという作業が中心になります。
 太ももに連動してヒップラインを丸く整える、それにつながるように太もも裏側のラインを修正する(中画像)。

 腹部に丸みを持たせる、膝関節上部の形状を変更、すね部分を少しとがらせる(右画像)。

      

 肩を少しなで肩に治す、肩から上腕部のラインを修正、二の腕部分をやや細くする(左画像)。
 バストを丸く整える、腹部を丸くする、足首を細くして関節の形状を整える(右画像)。
 これらの作業は同時に行うのでなく、1つずつ順次行ってその結果を確認してから、次の修正に入ります。いっぺんに複数箇所の修正を行って失敗したとき、
その原因が分からなくなるのを防ぐためです。
 そして例によって時折写真に撮って、客観的な目で進行状況を見直すのも大切です。







ここでちょっとだけフィールドラインの話
 現在、7年ぶりに新作の球体関節人形を作っているわけですが、一つ前の解説については、「どうしてそうすることで、人形が一つの作品として整ってゆくのか、
その理由がよく分からない」という感想をお持ちになった方も多いと思う。
 可愛い人形や美しいフィギュアが作りたくても作れない人は多いわけで、自分も昔はそうだった。
 自分の運営するサイトをご覧いただければ分かるように、初期のころは全然ダメで、ようやすサイトにぎりぎり画像をUPできるようになるまで1年以上かかっています。

 次のお話は少し難しいけど、人形やフィギュアを作っている人には少しぐらいはヒントになるかも知れません。
 人形やフィギュアなどの立体造形をつくるとき、誰かにモデルをお願いしたり、あるいは画像などから立体をイメージするのが、古くからのスタンダードな方法ではあった
のだけど、自分はモデルも使わないし、写真も基本的に見ません。

 次はその理論的な解説です。自分は完全なる理系人間なので、骨格となる部分は論理的に物事を考えています。けっして「それは感性の問題だから」とは言いません。
 人形造形の骨格部分については、「構想」「特徴」「バランス」の3つだと自分は考えています。



 まずは「構想」についてです。
 こちらは少し前にリメイクをした ryou というドールの作業中の画像です。
 横に引かれている黄色い線は、空間の拡大と縮小を示すもので、自分はこれをフィールドラインと呼んでいます。これは人間の体形や標準的な人形と比較して、この
人形のボディラインが何がどのような特徴を持っているかを表現する自分のアイディアです。

 このドールの場合には手足が長く、下半身もボリュームをもって作られている。そしてその状況を左右に付け加えられた黄色いフィールドラインがあらわしているという
わけです。
 この人形は当初アンドロイドをイメージして制作したもので、外型を使ってパーツは型抜きしています。ただ制作にあたっては骨盤の幅を広げ、膝下のパーツを通常よりも
2.5cmほど延長しています。



 こちらはずっと以前に制作した aimi という手作り人形の未塗装状態の画像です。自分のつくるドールとしてはスタンダードなボディラインを持っています。
 自分のドールはファッション誌に出てくるような整った体型を理想としてつくっています。イベントなどに出ていた時にはリアル系と言われることも多々ありました。
 そのうえで市販のOFを着せることができるようにしたいと思ったので、結果として8等身でスーパードルフィーをやや細身にしたようなボディラインになっています。
ただドールの世界では圧倒的にヘッドは大きめにつくるのが主流で、たとえばSDあたりから比較すると、ヘッドが一回りから二回り小さいです。



 そこで画像編集アプリ(GIMP)で頭部だけ10%ほど拡大し、画像的にボディにとりつけてみたのが上の画像です。
 横に引かれたフィールドラインは、首から上の部分だけをちょっと大きくしたことを意味しています。頭部を10%拡大すると割合としてSDの小顔ヘッドサイズになるの
ですが、ちょっと上が重すぎる感じで、バランスはむしろ悪くなります。



 今度は頭部を基準として足下に向けて10%連続的に縮小してみました。足が短くなって安定し、頭の重い感じはなくなりました。一方で足が短くなって子供っぽく、
かわいい感じが出てきます。このボディバランスはありだと思います。ウエストはやや細めだけど、スーパードルフィーこのあたりに近いように思います。

 つまりポイントになるのはフィールドラインは連続させるべきもので、頭だけとか、お尻だけとか、一ヶ所だけ拡大したり縮小するとおかしく見えるということです。
 基本的には、このフィールドラインが自分の人形制作の構想の骨格になっていて、いわば設計図のようなものです。逆に下に向かってフィールドラインを発散させれば、
手足が長く大人っぽくなる。中央部分をわずかに膨らませたら、ぽっちゃり体型になるし、肩幅を広げたら男性的な感じになります。





 現在制作中の nana の現状です。 極端ではないけれど、筋肉質の下半身を与えて、手足はやや長い。だからフィールドラインは上に向かって少しだけ収束している。



 さてこちらも nana なのですが、先ほど紹介したGIMPで頭部に向かって、5%ほどスムースに画像を縮小しています。  こうするとフィールドライン調整の効果は
なくなって、よくある人形の体型になります。
 目立っているのは、通常の人形と比べて、DDほどではないけれどウエストが絞られていること、胸が大きいこと、そして少しなで肩で、女性らしいラインを持って
いることです。

 これは自分が人形に埋め込んだ「特徴」といえるもので、フィールドラインを外したときに見えてくる。
 カメラとPCは、自分にとっては人形制作に欠かせないものです。






<顔の造形>



 こちらは asumi 、数年前にリメイクを完了したものです。あどけない表情で、だぼっとした洋服が似合う。

 古くから人形はバランスとして、頭を大きく、さらに顔のパーツのなかでは目を大きくして作られてきました。その理由は簡単で、そうすることで幼児に近い
バランスになるからです。多くの人間はそれを「可愛い」と感じるような本能的な目を持っている。
 でも鼻や口が大きな人形とというのはあまり見ない。その理由は先ほどのフィールドラインに関係がある。
 目を大きくすると言うのはフィールドラインが上に向かって発散すると言うこと。もしここで鼻や口まで大きくしたら、フィールドラインが首のところで切れて
しまって、顔だけが大きな人形になってしまうということです。



8 フィールドラインやレベルラインを意識しながら、
 顔の造形をすすめます。

 さてフィールドラインが上に向かって発散するということは、実は水平線が湾曲するということでもある。
 左画像の下の水色の線はレベルラインと言って、水平を表す線です。フィールドラインが傾いている関係で、それに直交するレベルラインはやや上に凸の形状を
持ちます。
 たとえば眉毛を横に伸ばすといったときには、眉毛は少し湾曲させて外側に向かって垂らすことになります。人形の目がやや垂れぎみになっているのが、より自然に
見えるのは、このような理由からです

 特徴として「大人っぽい」「キリリとした感じ」を与えたいと考えた。
 まずは中画像のように表面を整えたあとで、PC上でシミュレーションします。そのまま実行して失敗したりすると時間の無駄になるので、面倒でもやっておいた方が
良い。
 修正結果が右画像です。フィールドラインの拡散は少なめにして、目を少し小さく僅かにつり上がらせる。連動して鼻も少し細くなる。

      

 ではこれを実際の修正に移します。
 第一段階は 左右の違いに着目しながら正面形を修正 してゆくことで、これで正面から見たときの容姿がある程度整います。事前に決めたプランに従って、まずは
鼻を細く仕上げます。(A)
 頬のボリュームに左右で違いがあるので向かって左側を削ります。(B)
 下唇が左右対称になっていないので整える。(C)
 右画像がこれを実行したところです。

      

 正面から見て最初は修正をしますが、もちろんそれだけでは不十分です。立体としてみたときに問題があるかどうかを見極めるときには、まずは正面を向けてみて、
そこから左右上下にゆっくりと動かしながら確認をしてゆきます。そうすると顔の造形の奥行きが感じられる。
 この 立体感を感じながら修正するというのが第二段階です。
 額の出っ張りが大きいので削る。(D)
 目頭側にくぼみをつける、(E)
 唇を少し厚くして形を整える。(F)
 顎を少しだけ前方に出す。(G)

      

 三段階目は再度フィールドラインのアイディアを使います。
 今回は人形的な造形でなく、リアルな方向に持って行こうと考えています。こちらのヘッドも外型から抜き出したものですが、元々が人形用の型なので、下方の口や
顎と言った部分はより大きめにする必要がある。ということで、フィールドラインは上に発散する形でなく、内側の平行線に近くなるはず。
 結果として、口から下、顎の部分を少し延長して形を整えてみました。

 こうやって説明はしているのだけど、今ひとつピンとこない人はいると思う。結果として白い粘土の状態では、なかなかリアルに見えてこないと思います。
 ここは慣れがものを言うところ、造形力は手先の器用さではなく、観察力と想像力によるところが大きいです。





<下地作りと微修正>
 制作は順調にすすんでいて、人形としての造形は80%が完了しています。ここで表面仕上げをするために、いったんボディをばらばらにします。

9 粘土と布ヤスリで表面を平坦化します。最後はウエ
 ットティッシュで毛羽立ちを押さえます。

 ボディラインが整ったとは言うけれど、左画像のように斜めから光を当ててやると、かなり表面が荒れていて、このままでは塗装作業に入ることはできません。
 そこで凹んでいるところに、水で柔らかく練った粘土をこすりつけるように盛り、乾いたところで100番ぐらいの布ヤスリをかけて平坦にする。この作業を何度も
繰り返します。
 布ヤスリをかけると、細かな傷がつくし、粘土に含まれる繊維質の成分が毛羽立つ。

 これを整えるにはウエットティッシュを使います。軽く磨いてやると表面の毛羽立ちが収まって、傷部分が埋まります。もしも傷そのものが大きければ少量の
粘土をウエットティッシュにとって塗ってやると良いです。
 注意点としては、あまり力を入れすぎないこと。水分を含んだ粘土は弱いため、溶けて剥がれ落ちてしまうことがあります。一発で仕上げようと思わず、少しずつ
繰り返すのがこつです。
 右画像が作業を終えて、すっきりと仕上がったところです。



10 鉄のビスやネオジムが具ネットでマグネット仕様
 に整えます。

 表面が整ったところで、鉄のビスやボールを体の10カ所ほどに埋め込みます。こうすればマグネットピアスなどが簡単に取り付けられるようになります。
 注意事項としては、埋め込むビスはクリアラッカーなどで処理をしておくこと、そうしないと次の作業の中で錆が出てくることがある。
 首裏には少し大きめのネオジムマグネットを埋め込みます。
 こうすれば鉄製のポールや金具などがあれば、ドールスタンドなしに安定して立たせることができます。自分はジオラマ仕立てで人形を展示することが
あるけれど、このような仕様は結構便利です

 樹脂製の人形なら、跡は軽く色をのせてトップコートすればおしまいなのですが、手作り人形だとここから先が長いです。道のりとしてはほぼ半分といった
ところです。

11 モデリングペーストをベースにした下地塗料を
 塗って、表面を強固にそしてなめらかに整えます。

 次の作業は下地塗装です。下地塗装というと「色をつける」ことのように聞こえてしまいますが、どちらかというと造形作業の最終段階といった感じです。
 目的としては微妙なボディラインの調整、平滑化、そして表面強度を高めることといった感じです。

 下地塗料の主成分はモデリングペーストで、これにアクリル絵の具で色をつける。色をつける目的は塗装でなく、この塗料がどの程度の厚さで表面に
のっているかを把握するためです。
 人形にこれを塗るためには水を加える必要がありますが、分離しやすいのでここに10%程度のジェッソを加えます。

 モデリングペーストは「盛り上げ剤」として様々なメーカーから発売されていますが、自分としてはリキテックスをおすすめします。大理石の粉末が多く
含まれていて、乾燥すると強度が出て切削することができます。
 中画像で右側のものは安価なのですが、樹脂成分が多くて肉やセしやすく、乾燥したときに弾力性が残る。工芸用でなく絵画用として使った方が良い
ように思います。

 造形に使ったプルミエという粘土は軽量で強度もあるのですが、水にはやはり弱い。だから下地塗料にも注意が必要です。1回目はウエットティッシュに
とって、強くこすらず上から押しつけるようにして塗ります。
 さもないと表面の粘土が溶けて、せっかくの造形が台無しになります。
 モデリングペーストは乾燥すると耐水性を持つので、2回目以降は多少力を加えても大丈夫です。  

         

 微妙なところは指に取って塗り込んだりすることもあります。(左画像)
 中画像は下地塗料を2回ほど塗り込んだところです。表面が平滑になると、更に細かな傷が見えたり、細かな造形上の不備が見つかることが多々あります。
 モデリングペーストを含む下地塗料は切削することができるので、たとえば小さな傷やくぼみがあったら、ここに下地塗料を厚く塗って、乾燥したところで
布ヤスリ(240番)をかけると、きれいになります。

 下地塗料を何度か塗ると表面強度が高まり、微細な切削も可能になります。(右画像) この段階で指先や耳、鼻などの加工を行うと良いでしょう。
 1週間かけて各パーツの下地を整えました。この段階での進捗状況は65%といったところかな、まだまだ人形の出来をとやかく言う段階ではないです。

 ヘッド以外の部分については、そのまま本塗装に入っていってもそれほど問題はないのですが、ヘッドに関して言えば、更にもう少し細かなところを詰めてゆく
必要があります。

12 ヘッド部分は下地塗料を塗りながら、更にもう
 一段階造形作業をすすめます。

 基本的には最初の造形作業を、もう一段階細かくして行います。
 やはり最初は正面形を整える。ほんの僅かですが頬の膨らみが左右で違う。(A) 鼻筋がほんのわずか向かって左に傾いている。(B)

 動物の持つ視覚的な認識能力はものすごく高くて、ペンギンだなんて何万羽もいる営巣地の中で、自分の子供を見つけ出す。人間だって、ほんのわずかな
顔の筋肉の動きから、その人の心情を察することまでできる。
 人形作りにこれを当てはめると、問題のある人形を見たとき、まずは具体的には説明できないけど、何か違和感を感じる。そしてよくよく眺めたり写真に撮ったり
して、ようやくその原因となる問題点に気づく。

 人間は人形をまずは本能的な目で見て、あとでそれを理性的なものに置き換えてゆくんだろうと思います。
 そして面倒なのは、すべての問題が最初に全部見える訳ではないということ。問題点を1つ解決すると、さらにもう一段階微細な問題点を見つけ出す。そしてまた
これを解決すると、更にその次という感じで、だんだんと完成度は上がってゆく感じです。

 右画像は問題点A.Bを修正したところです。前の画像と比べても、違いがほとんどないと見えるかも知れない。「ほんの少しだけ違和感がなくなった」そういう
修正の繰り返しになります。

      

 次は上下左右に動かしながら、再び立体的な視点から修正を加えます。自分の目には目頭側の彫りが浅く(C)、逆に目尻側は後方に引かれて、後方に流れている
ように見えました(D)

      

 C,Dを修正した後、やはりここもフィールドラインの確認をします。
 1巡目の作業で終了しているはずですが、やはりまだほんの少し頭頂部に向かって、全体が大きく膨らんでいるような傾向がある。部分的に削りを入れて修正します。

         

 2巡目の修正が終わったところで、アイホールを削り、仮のアイを入れる。ウイッグをかぶせると人形らしくなってきた。(左画像)

 そして3巡目の修正に入ります。朝起きて、最初にこのヘッドを眺めたときに課題に気づくことは多い。そして「こうした方が良いかも」というアイディアが見つかると、
実際に手を加える。
 こんな感じで3巡目の修正は2週間続いた。(右画像)
 細かなことはここに書いても意味がないような気がするので書きません。





mirai
 ラドールプレミックスとプルミエの混合粘土 55cm 2017
 こちらは8年前に制作したオリジナルの球体関節人形 mirai です。



 金髪でブルーのアイというのが人形の世界では一つのトレンドで、自分自身もかなり引っ張られていたと思う。そしてやはりドールアイも大きめのものを入れている。
「人形は目を大きめにする」というのが常識だったかもしれない。

 今回の途中経過の画像は、仮のアイとウイッグではあるけれど、そのままスタンダードにブラウン系でまとめてみようと思う。
 そして表情もあくまでもニュートラル、目立つような要素はどこにもない人形で、どこまでやれるか試してみたいと思っています。





<本塗装>
 個展まであと6日という時期、年始は自由に時間が取れないこともあって、結構厳しくなってきました。この時点で完成度は69%ほど、かなりギリギリです。



 これが3巡目の修正を終え、下地塗装が完了したところです。
 軽く眉毛や唇を描いているけど、これは途中経過を確認するためのものです。プラモで言えば組み立てが終わって、サーフェーサーを吹き付けたところです。
ここから塗装が始まります。

13 アクリル絵の具とジェッソをベースにし他塗料を、
 まずはまんべんなく塗ってゆきます。

 ジェッソをベースにして、リキテックスのアンブリーチドチタニウムとライトポートレートピンクを少しずつ混ぜ込んでゆく。レシピとしては、 94:4:2ぐらいかな、
あくまでも感覚的なものだけど。
 あとあとMr.カラーで補修することなどを考えて、水性アクリルはMr.カラーのNo.111 キャラクターフレッシュに近い色に調整しています。
 刷毛目が出ない程度に水で薄めて、筆先でさっと塗るのがポイントです。



 3回通り塗ったところで変化をつけます。この塗料に僅かなオレンジを雑ぜて、関節部分や指先、そして膝やお尻など、赤みを帯びた部分に塗ります。
但し、あからさまに「赤い」感じにしては失敗で、よく見ないと分からない程度が自然で良いです。
 本塗装が終わると、やっと人形らしくなる





<コーティング>

14 高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーを吹き
 付けて表面のコーティングを行います。

 ここから先は「透明層」を作る作業に入ります。具体的にはトップコートを10回以上行って、肌の質感を出す作業です。
 まずは関節部分のみを仕上げる。10回の吹きつけを行うと、場所によっては1mmほど厚みを増すことがあります。もちろんそれでは関節が動かなくなる。
そこで関節面にまずは吹きつけを行って、適度な可動性を残して終わりにします。吹きつけ回数は、だいたい2回から3回と行ったところです。
 吹き付けるのはアサヒペンの「高耐久ラッカースプレーつや消しクリアー」の1択です。
 以前は自動車の塗装にも使われるウレタンクリアーを使っていましたが、扱いが難しいし、高価、更には塗料自体が半年ぐらいしか持ちゃないという保存性の
悪さもある。1年に5~6体も作っていた時代は良かったんだけど、さすがに今は使えない。

 問題なのは埃の混入で、透明であるが故に目立つ、だから見つけたら乾くのを待って取り除きます。(中画像)
 関節が整ったらパーツを細いゴムでつなぎます。これで関節部分には塗料がつかなくなります。(右画像)



 あとはまんべんなく吹き付ける。厚塗りは塗料のタレが起きるので避けます。
 吹きつけ6回ぐらいが一つの目安で、このあたりで透明窓の厚さは平均0.3mmぐらいになっていると思う。見た目にも肌に似た透明感が出てきます。
一方で凹んだところには塗料がたまるので、ここでデザインナイフでモールドを強調し、ディテールアップさせます。そして極薄のクリアーオレンジなどを
耳や指先などに吹き付けてゆくとリアルな感じに仕上がります。

 この透明層をつくって肌の質感を高める塗装は、何年か人形作りを続けてきて、自分がたどり着いたオリジナルのものです。まだまだ先は続くのですが、
効果は間違いなくあるのでぜひ試してほしいと思う。もちろん粘土だけでなく、樹脂製の人形でも効果があります。 



15 透明窓がある程度できたところで、細かなディテール
 UPの作業を行います。

 高耐久ラッカースプレーつや消しクリアーの吹きつけを6回行ったところです。このあたりで透明層の厚さは平均0.3mmぐらいになっているはずで、見た目にも
肌に似た透明感が出てきます。
 この6回というのが一つの目安で、ここから先は次の段階に入ります。凹んだところには塗料がたまるので、まずはここでデザインナイフでモールドを強調し、
ディテールアップさせます。
 顔などの細かな凹凸のあるところは磨きにくい。こういうところはカーボンスティックに耐水ペーパーを両面テープで張り付けて磨いてゆく。(中画像)
 続いて唇や鼻腔、アイホールなどに赤みを入れてゆく。ラッカー系の塗料だと修正がやりにくいので、ここは水性アクリルをメディウムで薄めて少しずつ色付けを
します。時間がないからと、濃い塗料で塗るのは厳禁です。(右画像)

         

 指先や指の間などにも赤みを入れ、爪も描く。ここは水性塗料だとやりにくいのでMr.カラーのお世話になります。

 ここから先も自分の開発した肌の仕上げになります。現時点で透明層が概ね0.3mmほど、ここから少しずつMr.カラーを吹き付けながら、更に透明層の厚みを
増します。
 まずはMr.カラーのクリアーブルーを極めて薄くしたものを、パーツの表面にめらめら(*)と細く吹き付けてゆきます。中画像はクリアーブルー吹き付け完了後の
お尻の部分です。写真に撮ってしまうと分からない、肉眼でじっと見るとかろうじて分かる程度です。

 肌の色はオレンジ系ですが、なぜ補色であるブルーを吹き付けるかというと、ここには2つの理由があります。
 一つは静脈を連想するような肌の仕上がりになることです。血液の流れを再現すると俄然、肌が本物っぽくなる。もう一つは補色であるブルーを下地に入れる
ことで色に深みが増すことです。
 補色や黒を下塗りするというのは、古くから絵画の世界で行われていた技法の一つで、実際に著名な人形作家さんのなかにもいったん全身を緑色にするという
人はいます。

 次に高耐久ラッカーの吹き付けを3回行って、更に透明層を厚くする。
 そして今度はクリアーレッドに少量のオレンジを混ぜたものを、まためらめらと吹き付けます。こちらは動脈の表現という感じになります。右画像はその作業を完了
したところです。こちらも撮影してしまうと良く分からない。でもそのぐらいのレベルで吹き付けるのが最も自然です。

*)めらめら


 上の画像はめらめら塗装の練習と調整をしているところですが、よく見ないと分からないぐらいです。
 (例えていうなら第二次世界大戦中の夜間戦闘機に施された迷彩模様に近い)

   

、最後にコーティングを完成させて肌を落ち着かせると、その効果が表れます。
 ほかにも膝や指先など、毛細血管の集まるところには多めにクリアーレッドを吹き付けます。そのうえで更に高耐久ラッカースプレーの吹き付けを
何度か行ってコーティングは終了です。

 ちなみに高耐久ラッカースプレー「つや消しクリアー」を商品名として名乗っているのですが、実際にはかなりつやありの仕上げになるので、最後に
Mr.カラーのGX114を吹き付けてつやを整えます。
 何層かに分けてコーティングとクリアー系の塗装を繰り返しているので、肌に似た質感と深みがあります。結構リアルな仕上がりになるのですが、
やっぱり画像からはそれが伝わりにくい。

 あとずっとこの仮のウイッグで具合を見ていたのですが、あまりこのドールには似合っていません。



 あらためてウイッグとアイを選びなおして入れてみた。
 がらっと見栄えが変わった。これならいけると思いました。あと個展まで3日だけど、多分間に合う。




<最終調整と撮影テスト>
 各パーツが完成して、あとはテンションゴムを通してつなぎ、あとはヘッドのメイクを残すのみの段階です。

16 ヘッド部分のメイクと最後の微修正を行います。
 シミュレーションは必ず行います。

 最後に残された調整は各パーツの端っこの調整と、人間で言うところのお化粧なのですが、このDOLLの場合には、特に大きな問題もないので、ほぼ
すっぴんで勝負したいところです。
 最後の調整は次のような感じかな。
A 眉毛の輪郭を整え、目頭をややあげる。
B 口の端をやや上げ気味にして締める。
C 口腔内のラインを明確にして濃くする。
 1mmに満たない調整なので、結果をPCでシミュレーションします。少し生き生きとして、引き締まった感じになります。(中画像) 不安があるとき、結果が
よく見えないときにはシミュレーションは欠かせません。
 修正プランの方向が正しいことを確認したので、これを実行に移します。(右画像) 問題はない、ないのですが少しだけアイの輝きが滲んでいる感じが
します。

         

 今回はぴったりなグラスアイが見つからなかったので、プラスチックアイを使っています、このプラスチックアイは正確な半球状になっておらず、左側のように
ややとがった感じになっている。これがアイの輝きが滲む原因になっているのは明らかなので、右側のように磨き直しました。(左画像)
 これで輝きが一点にまとまった。人形の見かけはこのキャッチライト次第で、かなり変わります。(中画像)

 上下分割式のヘッドパーツに、ドール名と作者名を記したプレートを取り付けます。
 名前は予定通り nana、volks の初代SDから名前はいただきました。自分の人形制作はこの volks の nana というドールを見たところからスタートしたと言っても
良い。当時とても人気があった恋月姫さんの創作球体関節人形に似た魅力があって、自分でも人形を作りたいと思うようになりました。
 自分にとっては、7年ぶりの新作にふさわしい名前だと思います。
 ちなみに本家の volks では、初代の nana、そして2代目の kira がリバイバル発売されているみたいです。自分もこの2体のオーナーでした。





<完成画像>
 ボディをテンションゴムでつなぎ、頬と目尻に僅かなチークを入れてとりあえずの寛成です。
 とりあえずのというのは、これから最低2週間ぐらいは時々眺め、そして気づいたところがあれば手を加えるという、微修正の段階に入るからです。



 まずはこちらが全身画像です。自分のつくるドールの特徴は小顔な8.5等身が標準で、今回はバランスとして更に小さく9.0等身に近いと思う。ウイッグの
頭周は15cm程度で、少し大きめの1/6スケールドールのウイッグがぴったりと合う。
 あとはスリム、もともとはタイトにつくられたDDやSDの洋服でも、そのまま着せられるというのをウリにしていたのですが、だんだんと造形的にもこちらの
方が美しいと思うようになりました。
 そしてもう一つが軽量であること、シリコンの型から粘土のパーツを抜き出した段階では重さ280g、その後のコーティングや塗装、テンションゴムやウイッグの
追加で重くはなったけど、最終的には391gにおさまりました。

 これがどれだけ軽いかというと、標準的なSDが1.5kg、DDが900gなのでそれよりずっと軽く、幼SDの 350gよりちょっと重いだけです。
 これだけ軽ければ、左手にこの人形を持って、右手で撮影するなんてことも簡単にできます。



「この事典で完成度は97%、感覚的なものですが、完成度96%を超えたら、自分としては公開しても良いレベルだと昔から思っています。
 一見しては特に問題がないように見えますが、上の画像のように床に白いサテンの布を置いて人形を寝かせてみると、まだまだ手を加えるべきことが
あると気づきました。
 正面から光が当たると、7・3分けのウイッグの頂点部分に、ベージュのウイッグのベースがかすかに見えている。同じように右耳の上にもウイッグの縁が
見えています。(白い矢印)
 通常の上からの光では問題はないけれど、シーンによってはこれが気になる画像も得られてしまう可能性があります。



 裸の状態で個展に展示するのはちょっとかわいそうなので、洋服を選びます。



 ウイッグの欠点は修正可能ですが、準備に時間もないので、ヘアーアクセサリーを取り付けて押さえることで隠してしまうことにしました。



 さてあと一つ、どうしても目がそちらに行ってしまうのは、ヘッドと首の間にできる段差です。球体関節人形では共通した弱点なのですが、リアルになれば
なるほど、この部分が気になってしまいます。
 ここはポージングで対応が可能です。個展当日は左側の髪を前面に持ってきて隠すことにします。
 状況によっては、この部分に光が届かないような状況をつくって、撮影するなんてこともあります。

 ウイッグの欠点は後ほど直すものとして、まだまだ詰めるべき所はあるように思う。特に調整したはずのアイが今ひとつ馴染んでいない気がする。ブラウン系
の色合いは自然で良いのだけど、髪の色との関係で今ひとつ存在感がない。
 とりあえず形は整った、でもまだなんかやれることがありそうな気がする、それが完成度97%の領域です。
 今回の個展では時間の関係で、このままエントランスに展示させていただきました。






 個展のあと手持ちのアイのなかから、最も似合いそうなものを選び直して撮影テストに向かいました。 撮影場所は平塚にある、いつもの花菜ガーデンです。
梅や菜の花が咲き始め、春の訪れを予感させる時期です。



 撮影して分かったことは、撮影時に肌の部分が明るすぎて、白トビ(真っ白で階調がなくなること)しやすいこと。これは軽くチークなどで色をのせてやれば
済みそうです。
 そしてアイの交換は結果として悪くなかった。完成度はまた少し上がったとそのときは思った。
 でもしばらくしてブラウンのアイだったときのミステリアスな感じが失われ、そして人形然としたパープル系のアイの使用は、最初に自分がやろうとしたこととは、
ちょっと違ってきてしまったことにも気づいた。

17 最後の微修正と、アイの交換を行います。終わり
 は近い。

 まだまだ微調整は続きます。
 その日は何も気づかなくても、次の日、あるいは光の具合が少し変わると、「こうした方がもっと良くなる」ということに気づいてしまう。内容的にはごくわずかな
凹凸をに気づいて平坦にしたり、顔のパーツの歪みを調整したりという感じです。
 左画像は唇の右端を少しだけ上げ加減に調整しているところです。右画像はアイホールの形状を瞬間接着パテで修正しているところです。左右の違いに着目して、
より良い方に合わせるというのは、微調整の基本かな。
 その他諸々の微細な修正を何度も繰り返す。どこをどういじったかを書いても意味がないのであとは省略です。



 さて、完成度が上がってくると、再びアイの色が気になりだした。
 全体がリアルな方向に近づくと、パープルのグラスアイはやはり人形そのもので、どうしても「生命感」に欠ける。そこで再びブラウン系のプラスチックアイ
に戻します。このアイはプラスチックながら、最初に「合う」と直感的に思ったものです。

 問題はどうやってこのアイを輝かせるかです。一般に人形の世界では、一回り大きなアイを選び、アイホールを大きくして輝かせるという手法がとられて
きました。これも西洋から伝わったビスクドールの影響が大きいです。
 今もレジン製のSDほか、多くの人形が大きめなヘッド、大きなグラスアイでまとめられています。

 画像からは良く分からないと思うけど、この人形は1/3スケールではあるけれど9等身の小顔ヘッドで、頭部の縦の長さは7cm、頭周は15cmで、1/4スケールの
ドールよりも小さいです。
 今回の人形はリアル優先で小顔ヘッドと小さめなアイでまとめています。
 その分、瞳に光は入りにくいのですが、この状況を唯一改善する方法があって、それは瞼を薄くすることです。特に上まぶたが厚いと光は瞳に入りにくい。
そこでギリギリの1mmの厚さまでリューターで削る。



 少し瞳が明るくなってブラウンというよりは、少し彩度の低いイエロー系にみえてきた。
 前回の撮影では、顔色が明るすぎて白トビしやすいことが分かっていたので、特に顔の中央部分を中心にピンク系のチークを入れます。これで更に瞳のイエローが
引き立ちます。
 これで完成度は98%ぐらいになったかな。





 再度の撮影テストです。真冬ということで、今回は厚手のコートなど着せてみました。
 北風がつよくて、あたりが乾ききっていいました。



 戻したブラウン系のアイがやはり正解で、今度は人形にしっくりきていると思う。
 南向きの壁の前でひなたぼっこ。やっぱりね、瞳がキャッチライトしたとき、人形はいちばん輝いて見える。

 この画像を見て、もうこれで「完成」と言って良いかなと思いました。
 もしかしたら、実際には完成度99%で、手を加えるべき残りの1%が今の自分には見えていないだけなのかもしれない。そういう可能性は十分あるだろうし、
実際に結果として人形を手直しすることだってあると思う。

 でもそれは、更に人形を成長させられる可能性を見つけたってことで、むしろ喜ぶべきことでしょう。
 ではこれにて7年ぶりにオリジナル球体関節人形を制作したって話は、めでたく終了させていただきます。
 ただ最後の画像がコートを着て、もこもこの状態なので、今度は少し暖かい日に、薄手の洋服を着せて撮影に行きたいと思っています。



2026.02

camera: Panasonic DMC-GX8 M.ZUIKO DIGITAL 12-50mm / graphic tool: SILKYPIX Developer Studio Pro.7 + GIMP 3.0


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